『Crypt of the NecroDancer』 “到達”したインディーゲーム

 

[訂正のお知らせ]

記事初出時、ヘッドラインのゲーム名に誤りがありました。正しくは 『Crypt of the NecroDancer』 です。大変失礼いたしました。

 


『Crypt of the NecroDancer』(以下『クリプト』)は、カナダはバンクーバー在住のRyan Clark氏によるインディーゲームスタジオBrace Yourself Gamesの作品だ。Steamでは早期アクセスあつかいですでに販売されている。価格は本体のみが14.99ドル/サントラ付きが24.99ドル。

 


去年のTGSを振り返る

 

昨年の東京ゲームショウへは、弊誌の前身にあたるGamers Geographicの面々で取材にあたった。インディーブースを4人でくまなくチェックし、結論は「クリプト"一択"だろう」。1年前の時点で、おどろくべき魅力を放っていた。

ガワを作りこんだだけ、あまりにも未完成、なにかのパクり……。インディーといえばそんな有象無象もまぎれこみがちだ。しかし、『クリプト』は間違いなくゴールの見えたベータ版としてその場に君臨していた。さわった瞬間に面白さと楽しさを理解できる、そんなゲームは今日び(残念ながら)ほとんどない。ある意味では、本作は昨年のTGSの段階で"完成"していたのだ。

 

 


ローグライクとリズムアクションの融合

 

『クリプト』の根幹部分はいわゆるローグライクタイプのゲームシステムである。ターンごとにプレイヤーと敵キャラすべてが移動・攻撃などする。ポイントは、ターン経過がバックグラウンドミュージックと連動しているところにある。プレイヤーはリズムをきざみながらキャラを操作すすることになる。

精確に(といっても判定はかなりヌルめだが)コンボをつなげば獲得コインに倍率がかけられるため冒険を一気に有利に運べるのだ。ステージにもよるがコンボを放棄していたらまともにショップで買い物はできない。

ローグライクといえば、限界まで重い1ターンをひとつずついかにして消化してゆくか、それが一般的なコアである。考える時間はいくらでもあたえられる。だが『クリプト』にそんな猶予は存在しない。ダンジョン突入から一切止まることなく流れ続けるBGMは、容赦なくターンを経過させてゆく。なにも考えず手を止めたならば、敵に攻撃される・攻撃チャンスを逃す・コンボがとぎれる・BGM終了とともに強制的に次フロアへたたき落とされる等、ペナルティを多角的にこうむることになる。

 

画面下部の心臓にマーカーが来た瞬間に方向キーを入力。判定はかなり甘め。
画面下部の心臓にマーカーが来た瞬間に方向キーを入力。判定はかなり甘め。

 


最初に救済ありき

 

ゲームのメインディッシュにあたる"ZONE"の攻略には救済措置がもうけられている。ダンジョンで手に入るダイヤモンドを通貨に、装備のアンロックやキャラの強化ができるのだ。ただしそのすべてがダンジョン突入直後から使えるわけではない。HPやコイン倍率の強化は永続的だ。しかし買ったアイテムは、あくまでもダンジョン内で出現するようになるだけだ。ドロップするかは潜ってみないとわからない。"ツモ"に左右される点では、既存のローグライクとなんら変わりはないのだ。

だが、とにかく序盤はダイヤモンド集めに集中し、さまざまなグッズを購入することで攻略が楽になることはたしかだ。だから最初は雑なプレイでもかまわないから特攻し、キャラ強化に努めるほうがいいだろう。しかるのちに悠々とボスのねぐらまで到達すればよいのだ……とはいえZONE 3の段階で「アンロックうんぬんより技と運」になるのだが。

 

ダイヤモンドでアイテムを解禁してゆく。これをやらないとZONE3あたりの難度は跳ねあがる。
ダイヤモンドでアイテムを解禁してゆく。これをやらないとZONE3あたりの難度は跳ねあがる。

 


たたきつけられる挑戦状

 

そんなアイテム持ち込みみたいな無粋なマネを! ローグといえば裸一貫スタート! 一期一会! 死んだらスカンピン! なハードコア層のニーズも、本作はくみあげている。取得した強化アイテムがいっさい反映されないHARDCORE MODEが用意されているほか、デイリーダンジョンもある(12時間おきにプレイ可能)。

さらに、スコアを競う要素まである。スコアはじつに単純で、所持金で判定される。そして所持金を増やすにはコンボを維持した状態で敵を倒し続けなければならない。こう言葉で表現するとシンプルきわまるが、その実は奥深い。

ここまで説明しておいて恐縮だが、じつは本作は「クリアするだけならば」べつに音ゲー部分に気をつかう必要はあまりない。たしかにコンボ切れによるコインの低減や、それにともないショップで指をくわえるシチュエーションは発生する。だが、そもそもこのゲームの死因の半分以上があせりによる操作ミスなのだ。

 

どんなにツモがよくてもプレイヤーがそれを生かせなければそれまで。よくあることだ。
どんなにツモがよくてもプレイヤーがそれを生かせなければそれまで。よくあることだ。

 

こちらを発見し次第一直線に突っこんでくる敵はそれほどいない。どちらかというと、規則的にテリトリーを動く種のほうが多いくらいだ。だから、どこが安全圏なのか冷静に分析・認識してしまえば、ほとんどのシチュエーションは恐るるにたらない。ほぼすべての敵は弱い。真正面から殴りあって負けることなどほとんどない。そう、敗因はいつもプレイヤー側にある。「音楽にあわせなければ」という焦燥感がミスを生み、死につながる。

しかしスコアをねらうとなると話は180度変わってくる。つねにBGMを意識しながら、それでいてこちらが攻撃されたり圧倒的に不利になったりしない状況をリアルタイムで模索するゲームとなる。ゲームスピードが一気に上がるのだ。

そう。ここにおいて『クリプト』はローグライクでも音ゲーでもなくなる。早指しチェスのような、画面全体を瞬間的に俯瞰して把握し最善手を(もちろんリズミカルに)さすゲームになるのだ。この挑戦状は個性的な味わいを持つといえよう。

よく「ジャンルxとジャンルyをまぜました」というタイトルはみかける。だが悪魔合体の結果、より上位の存在を生み出すことは稀だ。他方『クリプト』はそれに成功している。本作のジャンルを「ローグライク・リズムアクション」で説明するのはもったいないし不足だ。

 

飽きた? 簡単? じゃあハードコアでスコアアタックとタイムアタックをどうぞ。
飽きた? 簡単? じゃあハードコアでスコアアタックとタイムアタックをどうぞ。

 

 


音ゲーサウンドではない。ゲーム音楽だ

 

『クリプト』はリズムアクションなのだから、音楽は「カッコよくて当然」だ。だが本作はすでに述べたとおり音ゲーではない。

ゲームと強固に連動してこそゲームミュージックだ。そして、本作のBGMはまごうことなきゲームミュージックだ。本作の曲は世界観を牽引している。一曲一曲がダンジョンのフロアに設定されており、プレイすればするほどその体験はメロディと紐づけられてゆく。真のゲーム音楽とは、ゲーム体験なくしてありえない。それを端的に、かつ短時間で理解させてくれるのが『クリプト』だ。

無論趣味趣向はあろうが、本作の音楽はとにかくかっこよく、それでいてメリハリがあるのだ。曲を聞いた瞬間「あ、これはあそこのZONEのあの階の曲だな」とわかる。そのような、シーンとサウンド、言い換えれば視覚と聴覚のマッチングは、ゲーム開発が大規模化すればするほど精緻には創りこみづらくなるだろう。その点、『クリプト』はインディーであるメリットを存分に生かしているといえる。また、ゲーム自体がリプレイ性が高く、かつコンパクトであることもゲームミュージックを評価するにあたって加点要素だ。

あえて問題点をあげるとすれば、一部の曲のノートにズレが感じられたことだ(具体的にはZONE3-2と3-3)。私の耳が狂っているだけかもしれないが、どうにもリズムに乗りきれなかった。難しいステージこそノリにノッってプレイしたい、その期待は少々裏切られた。だが、繰り返すが私自身に原因があるかもしれないし、そもそも意図的に拍をとりづらくしているだけかもしれない。

 

 

 


ホスピタリティ、よし

 

『クリプト』はあまねくゲームに求められるホスピタリティを具備している。オプションで「この調整はできないのか?」がないのだ。アーリーアクセス扱いの作品で、このように思わせてくれた作品はほぼない。

ゲーム部分でいうと、まずディスプレイとサウンドのキャリブレーションから始まる。各プレイ環境に依存してプレイフィールが損なわれないようにしようという発想は、いまでこそめずらしくはない。だがそれは大手の作品の話だ。独立系開発でありながらここまでおもてなしの心をもちあわせたケースははたしていくつあろう。

「音ゲーなし」モードもある。キャラを変更すれば、一般的なローグライクのように遊ぶこともできる。ちなみに未実装のキャラはまだまだあるようだ。いかにして遊びの幅を広げるのか、じつに楽しみだ。

BGMも任意のMP3データに変更できる。気分転換に自分の好きな楽曲でプレイするのも一興だろう。ただし、短い曲だとあっという間に時間切れになる(=難度が急上昇する)ので注意。なお、ファイル名に全角文字が入っているとクライアントがクラッシュする。これはご愛嬌というものだ。

 

ターン制モード。本編に慣れてからやると、やたらキビキビ動くおじさんの違和感を楽しめる。
ターン制モード。本編に慣れてからやると、やたらキビキビ動くおじさんの違和感を楽しめる。

 


完成が待ち遠しい

 

本稿を執筆したを8月12日時点では、ZONE3までしかプレイできず(4面が待ち遠しい)、上述のとおりキャラも2種類しか選べない。なるほどアーリーアクセスというわけだ。

だがしかし。「ゲームの完成」とはいったいなんなのか。この定義を議論し始めると一気に脱線するのでここでは割愛するが、とにかく『クリプト』はすでに"完成"している。未実装ダンジョンやキャラなど瑣末な事柄だ。ゲームの骨子が確立している……その重要性をいまさら説くまでもあるまい。

『Crypt of the NecroDancer』はインディーゲームの歴史に名を残すべきタイトルだ。あらゆる点において"到達"している。だからこそ、最後に本作最大の功績を指摘したい。それは、「15ドルで売った」こと。インディーゲームとしては一般的か、やや高いくらいの価格設定だ。しかし本作は本編にあたるZONEのクリアだけならば(いまのところ)5時間たらずで終わる。物足りないだろうか? ボリューム不足を感じるだろうか? それは違う。この値段は正義だ。

ここのところゲームの異常なまでの安売りが目立つ。商業としては当然の施策なのかもしれない。だが文化として、芸術としてはどうなのか。答は単一ではない。だが、ダンピングめいた価格競争のはてに残るのは大資本と小ざかしいビジネスだけだ。

いや、『クリプト』はまだ安い。サントラを買ってもまだ安い。つぎのアップデートが有料だといわれても、私は疑問を感じない。というより感じるべきでない。本作の価値は2000円や3000円ではないからだ。これほどまでのゲームを提供してくれたカナダのRyan Clark氏へ向けて財布の紐をゆるめる準備が私にはある。

 

まだまだ楽しみたい。
まだまだ楽しみたい。