E3カンファレンスのインディーシーン、Microsoftとパリティ


これを読めば最先端のインディーゲームニュース1週間分がまるまるわかるかもしれない週刊連載、Indie of the Week。第35回目となるのは2014年6月第3週(6月16日から6月22日)。なお6月第2週にはロサンゼルスにて世界最大級のゲーム見本市E3 2014が開催され、2Dアクション『Limbo』の開発元として知られるPlaydeadの新作がついにお披露目されるなど、インディーゲームシーンもにぎわっていました。

 

 

PlayStation 4で攻勢をかけるソニーの豪華なラインナップや、Microsoftのインディーゲーム支援プログラムID@Xboxなど、家庭用コンソールを中心に大きな展開を昨年見せたインディーゲーム。今年のインディーは昨年のE3を超える盛り上がりとまでは断言しきれないものの、ソニーとMicrosoftのカンファレンスではそれぞれショーケースや新作の発表に時間が割かれ、昨年に引き続き一定の存在感を示しました。

Microsoftのカンファレンスでは以前より開発中であるとつたえられていたPlaydeadの最新作が『Inside』として発表されました。デンマークのスタジオPlaydeadは、2010年に白黒のモノクログラフィックのみを描く2Dアクション『Limbo』を生みだし、『Braid』とともにインディーシーンの存在感を示したスタジオです。現時点で『Inside』はトレイラーの公開のみにとどまっていますが、今作でも『Limbo』のように世界観を無機質に"静"で描くスタイルを受け継いだ作品となることを予感させてくれます。

話は変わりE3 2014が終わった翌週、ひそかに注目を集めたタイトルが『Outlast』です。同作はカナダのスタジオRed Barrelsが開発した一人称視点のサバイバルホラーアクションタイトル。すでにPC/PlayStation 4向けにリリースされ良好な評価を獲得していました。未発表であった同作のXbox One版が海外の公式マーケットプレイスに登録され、翌日にもMajor NelsonことXbox LIVEディレクターHarry Laryb氏のサイトにて正式にローンチが発表されました。

これがなぜ重要なニュースであるかというと、MicrosoftがXboxにて推進してきた「パリティ」の例外になっている点。パリティとは全プラットフォームにて同時リリースしなければならない、つまりはXboxでリリースするゲームはそれ以外のプラットフォームで先行発売してはならないという契約です。国内ではファミ通のインタビューを受けたMicrosoft Game StudiosヘッドのPhil Spencer(フィル・スペンサー)氏が今年3月、ロンチパリティにかんしてデベロッパーと話しあいをしつつも継続していくとの姿勢をみせたていました。その結果か、はやくもパリティが適用されないインディータイトルが登場したこととなります。Microsoftがパリティを完全に撤廃したのかどうかは不明ですが、とくに大手ではないインディーデベロッパーにとっては今後『Outlast』が前例となり、他プラットフォームで販売したタイトルをXboxで後発リリースするということが可能になるかもしれません。

E3 2014と第3週のインディーニュースはここまで。今週も筆者が独自の嗜好フィルターを通して注目したインディーゲームたちを紹介してゆきましょう。

 


カバーシューティング in 2Dアクション

 

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タイトル: 『Not a Hero
ジャンル: 2Dカバーシューティング
開発: Roll7
発売: 2015年初頭

E3 2014のソニーカンファレンスではなんと"漢パブリッシャー"(益荒猛男的マインドを持つパブリッシャーの意)Devolver Digital特集が設けられ、『Hotline Miami 2: Wrong Number』といった魅力的なインディータイトルのラインナップが披露されました。そのなかで筆者がもっともひかれたのが『Not a Hero』です。スケート2Dアクション『Oli Oli』を手がけたRoll7スタジオの最新作である同作は、もはやお腹一杯を通りこして最近はあまりみかけなくすらなったカバーシューターへ、2Dアクションにつぎこんでみたという意欲作。ステージ上には敵味方問わず身を隠すことができるカバーポジションが配置されており、プレイヤーはカバーアクションとスライディングによる高速移動を駆使し、弾丸のリロードタイミングにも気をつけつつ敵兵たちを倒していきます。2Dならではのステージ全体を見渡したうえでの戦略性と、スライディングで可能となるスピーディーなカバーポジションへの移行が魅力的なタイトルです。

(参考: GameSpotによるプレイ映像

 


ヒーロー以外から見る戦争アドベンチャー

 

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タイトル: 『Sunset
ジャンル: 一人称視点アドベンチャー
開発: Tale of Tales
発売: 2015年3月

死にゆく老婆がモノクロ世界でただ墓地を歩くだけの『The Graveyard』や、赤ずきんちゃんの物語の雛形を通して6人の少女の内情を探っていく『The Path』に、戯曲「サロメ」をモチーフにした『Fatale』。とにかくミステリアスで難解なタイトルを特徴とするベルギーのスタジオTale of Talesが、先週よりKickstarterにてアドベンチャーゲーム『Sunset』のKickstarterキャンペーンを開始しています。アーティスティックな作品を手がけてきた同スタジオが「もし戦争ゲームを作ったら、けどプレイするのが英雄ではなかったら?」との問いかけで始まる本作は、1980年代初頭の暴力革命が勃発している架空の南アフリカを舞台とした一人称視点のアドベンチャーゲーム。プレイヤーはAngela Burnesという名のハウスキーパーとなり、毎週日が落ちる1時間前にGabriel Ortegaなる人物の高級マンションの一室にて仕事を進めていくこととなります。ヒーローではなくただの一般人から見た戦争をテーマとしており、相変わらずTale of Talesらしいひねくれたタイトルとなると期待できそうです。『Sunset』のKickstarterにおけるクラウドファンディングキャンペーンは現地時間7月18日まで、目標金額は2万5000ドルですでに初期ゴールを突破しています。

 


VGXの王者が堂々再登場

 

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タイトル: 『No Man's Sky
ジャンル: 自動生成ワールドゲーム
開発: Hello Games
発売: 未定

すでに昨年末のゲームイベントVGXにてホットなタイトルの1つとして大々的に取り上げられていた作品です。今年のE3 2014ではPlayStation 4の発売がついに決まったので、いまこそあらためてとりあげましょう。発足から現代版『エキサイトバイク』こと『Joe Danger』シリーズを開発してきたHello Gamesのタイトル『No Man's Sky』。今回も詳細な情報は出なかったものの最新トレイラーが公開され、ジェネレートされていく広大なワールドの規模がうかがえました。同作はワールドを他のプレイヤーたちととにフリーダムに進んでいくことが可能な「宇宙探索ゲーム」とでもよぶべき内容で、数種類の地形と生態系で構成される惑星自体が自動生成され広大な宇宙が展開されていく点や、大気圏突入などのシーンすらもシームレスである点が特徴です。E3 2014のソニーカンファレンスにて披露されたトレイラーでは宇宙戦闘機に搭乗して他の搭乗機を撃ちおとすミッション要素も披露されました。昨年イギリスの暴風雨によりスタジオが水没するという大被害にあったHello Gamesですが、開発は順調に進んでいるようです。

 


ターンベースでタクティカルに有り金を頂戴しろ

 

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タイトル: 『The Masterplan
ジャンル: 強盗ターンベースストラテジー
開発: Shark Punch
発売: 2014年冬

「Heist(強盗)」の発音を聞けばPCゲーマーやSteamユーザーならば協力プレイ型FPS『Payday』の名が真っ先に出てきますが、同じくHeistを題材にした『The Masterplan』が先週Steam Greenlightに登録されました。新興スタジオShark Punchが手がける同作は、2D見下ろし視点で犯罪グループの一味を操作し有り金を頂いてしまおうというタクティカルターンベースストラテジー。より正確には、リアルタイム進行のゲームをプレイヤーが任意でポーズすることができるシステムが採用されています。手描きによる味のあるアートや、ゲームの舞台となる1970年代を意識したビジュアルとサウンド。しかし最大の特徴はトレイラーから確認できる様々な能力を持ったキャラクターたちで、車両盗みの"Pinky B."や鍵開けのプロ"Slick Jones"、変装の名人"Brandon"に武器の専門家"Stella"と個性的な面々が並んでいます。能力が大きく異なる犯罪一味のメンバーたちがどのように協力し計画(Masterplan)を遂行するのか。ほかにも『The Materplan』では、静かにことを進めるのか銃撃戦をおっ始めて派手にいくのかといったプレイヤーによる戦略の選択や、市民を人質に取ったり電源を切ったりといった要素も用意されています。

 


今週のピックアップ『Sunset』

 

花を愛撫するリズムゲーム『Luxuria Superbia』など抽象的な精神世界を描く作品が多いベルギーのスタジオTale of Talesですが、今作『Sunset』は「架空」としつつも1972年の南アフリカが舞台です。中産階級のブルジョワジーたちにより長く続いてきた社会構造が、自由と革命の近代的思想を備える反権威主義と衝突する……共産主義の脅威を恐れたアメリカ政府は、暴力的な独裁政権を支持し民主主義的に選ばれた政府の転覆を狙っている……。『Sunset』はおとぎの国の物語ではなく、フェミニズムと黒人の権利の自由解放を目指して社会的緊張が増加し、多くの公人が殺害されていく現実さながらの凄惨な世界におけるストーリーを描きます。

ゲームプレイ自体は一人称視点による探索ゲームであり、パズルや戦闘のまったくないストーリードリヴン、90分から6時間のプレイ幅、プレイヤーによって物語の展開が大きく変化する、ようするにいつものTale of Talesのスタイルを採用している『Senset』。しかし現実的な世界観と、日が落ちるまでの1時間のあいだ働くハウスキーパーを描くという特異な設定は、今までの同スタジオ作品以上に注目を集めるかもしれません。

 


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。