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2016年。もうすぐ終わろうとしているこの年は、e-Sportsにとってまちがいなく大きな記念碑、あるいは転換点になったといえるだろう。ゲームをプレイするだけでなく「他人のゲームプレイを見る」という行為が利益を生み出し、大きな市場に発展するうねりの中で、ゲームファンは何をどう楽しんだらよいのだろうか。本稿では『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』とその周辺のe-Sports界で今年起こった大きな動きをピックアップする。

 

プロスポーツクラブが続々とe-Sportsに参入

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画像:Report: Timeline – Sports clubs in esports – The Esports Observer より

今年は多くのプロスポーツクラブが続々とe-Sportsに参入した。4クラブが参入した昨年と比較しても、今年は10月までに13のクラブがe-Sports部門を設立し、選手との契約をもって参入を果たしている。

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まずアメリカでは今年9月、プロバスケットボールリーグ「NBA」参加クラブ「フィラデルフィア・セブンティシクサーズ」がe-Sports参入を発表した。e-Sports部門として北米の古株ゲーミング組織「Team Dignitas」を傘下とし、『LoL』チームとしてNA LCS参加中のプロチーム「Apex Gaming」をも獲得。これら2組織は運営を統合することとなった。

トルコでもプロサッカークラブ「フェネルバフチェSK」「ガラタサライSK」が『LoL』チームを擁立してe-Sports部門の設立を発表。オーストラリアでは10月に、複数のスポーツチームへの投資で知られる金融投資会社Guinevere Capitalが、オーストラリアの『LoL』プロチーム組織「Dire Wolves」の所有権を購入したと伝えられている。

ヨーロッパでは、バレンシアCFマンチェスター・シティFC、スポルティングCPといった名門サッカークラブが次々に『FIFA』プロ選手と契約。『ハースストーン』や『Rocket League』『LoL』といったタイトルのチームを抱えるクラブも続々と出てきている。中でも最大のニュースとしては10月初め、フランスの一部リーグに所属するプロサッカークラブ「パリ・サンジェルマンFC(PSG)」が、オンラインメディアカンパニー「Webedia」との提携をもってe-Sports参入を発表したことが挙げられる。Webedia社はすでにフランスのプロゲーミング組織「Millemium」を傘下に収めているため、提携によりMilleniumの持つe-Sportsチームに「PSG eSports」の名を冠してブランディングするものと思われた。しかし10月20日、PSGは2名の『FIFA』プレイヤーと契約し、またEU CS(『LoL』ヨーロッパ二部リーグ)参加チームである「Team Huma」を獲得したと発表。さらに、フランスの名門ゲーミング組織「Fnatic」の『LoL』チームで選手として長らく活動し、今期での引退を表明していたBora “YellOwStaR” Kim氏がe-Sports部門のトップに就任するとも発表した。PSG eSportsは発表から積極的な動きを続けており、今月に入ってから韓国人選手2名を含む『LoL』チームのメンバーを発表した。PSGの参入は今年最大の動きであり、今後の動向が注目される。

 

e-Sports投資が過熱、高騰してゆく選手年俸

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世界大会準決勝会場前のFaker選手。彼が『LoL』プロシーンで最も価値の高い選手であることを疑う者はいない。画像出典:Riot esports Flickr

アメリカでe-Sports参入に意欲的なのは、プロバスケットボールリーグ「NBA」周りの投資家たちだ。『LoL』シーンではすでに2016年初頭より、元NBA選手がプロリーグ参加チームを買い取って新規チームを立ち上げる動きが続いていた。昨年末に著名な元NBA選手Rick Fox氏は「Echo Fox」を、NBAチーム「サクラメント・キングス」の共同所有者2人は「NRG e-Sports」をそれぞれ獲得し、現在もプロゲーミングチーム運営を続けている。

今年9月、投資家集団「aXiomatic」がNA LCS参加プロチーム「Team Liquid」と提携、チームの運営権を獲得したとの発表が行われた。「aXiomatic」は実業家のPeter Guber氏とTed Leonsis氏が率いる投資家集団で、元NBA選手のマジック・ジョンソン氏も名を連ねている。Peter Guber氏はNBAチーム「ゴールデンステート・ウォリアーズ」のオーナーのひとりであり、マジック・ジョンソン氏とともにMLBチーム「ロサンゼルス・ドジャース」のオーナーも務めている人物。Ted Leonsis氏もNBAチーム「ワシントン・ウィザーズ」の筆頭オーナーであり、NBAやMLBといった北米プロスポーツシーンに縁の深い投資家集団がe-Sportsに参入した格好だ。

こうした中で最近、『LoL』公式世界大会を二連覇したチーム「SK Telecom T1」に所属するスター、Faker選手の年俸額がリークしたとの報道があった。それによればFaker選手にSKTがオファーした金額は30億ウォン(約2.9億円)。世界トップのミッドレーナーの年俸はさすがに桁が違うが、中国リーグ「LPL」のキャスターであるJoker氏によれば、地域ごとの選手年俸額は現在、もっとも高い地域が北米、次に韓国、その次に中国という順になっているとのこと。北米シーンは前述したように昨年末ごろから投資家の参入が相次いでおり、それにともなっての伸びだ。韓国では一部のトップチームが選手に莫大な投資を行っており、必要なコストを支払える法人が最強地域を支えている事情をうかがわせる。

 

地域間に広がる「e-Sports格差」。国ごとに異なる事情

『LoL』選手への年俸額トップ3位とされた中国だが、2017年からは大きな地殻変動が起こりそうだ。L.ACE(LoL Association of China E-sports)がオフシーズン中の11月に発表した内容によれば、来年からは外国人選手が中国で『LoL』プロ活動を行う場合、Zビザ(就労ビザ)もしくはMビザ(商業活動ビザ)が必須になるとのこと。中国プロリーグでは地理的に近い韓国出身の選手たちが活躍していたものの、就労ビザ取得の難しさからほとんどが旅行用ビザで滞在していることは、今年8月に報じられている。これにより外国人選手の中国プロリーグ参戦の敷居は相当高くなった。今年まで活躍していた韓国人選手が中国チームより相次いで脱退し、ビザ手続きにかかる時間からか、来シーズン開幕前月となる今月に入ってからようやく外国人選手の正式加入が伝えられている状況だ。

e-Sportsのトップ地域から目を転じると、シーンが未発達の地域でも今年は大きな変化があった。CIS地域のe-Sports選手はこれまで『DotA』『CS:GO』といったタイトルでの活躍が知られてきたが、今年の『LoL』世界大会ではIWCQを勝ち抜いて出場したチーム「Albus NoX Luna」が、ワイルドカード地域初の準々決勝進出を達成。結果としてロシアでも『LoL』プロシーンが大きな注目を集めるようになった。世界大会後の11月下旬に開催された地域大会「2016 LCL Open Cup」には、世界中からも熱い視線が注がれた。

バルセロナで12月上旬に行われた「IWC All-Star」優勝の東南アジアオールスターチーム。逆境にもかかわらず大きな成果を上げた。画像出典:Riot esports Flickr
バルセロナで12月上旬に行われた「IWC All-Star」優勝の東南アジアオールスターチーム。逆境にもかかわらず大きな成果を上げた。画像出典:Riot esports Flickr

躍進する地域がある一方で、凋落する地域もある。東南アジア地域の『LoL』シーンは、2015年より台湾・香港・マカオのチームが参加する中華圏のリーグ「LMS」と、タイ・フィリピン・シンガポール・ベトナム・インドネシアといった国々から構成される東南アジア地域リーグ「GPL」の2つに分けられて運営されてきた。LMSは規模こそ小さいが2012年の世界大会覇者Taipei Assassinsを育んだ場所でもあり、プロシーンは活発で『LoL』そのものの人気も大きい。一方でGPLは、2016年以降シーンの縮小が進んでいる。今年からは、世界大会と同様の「グループステージ」「ノックアウトステージ」の2段階から成る短期トーナメントに形態が変わっており、欧米のLCSのように半期2ヶ月を戦い抜くような形式ではなくなってしまっている。さらに、2017シーズンからはGPLというリーグはなくなり、各国でそれぞれのリーグ・トーナメントが開催される見込みであるとの報道もある。こうした過程を受け、すでにGPL地域のチームたちには大きな影響が出始めている。タイから昨年の世界大会に出場した「Bangkok Titans」は、その実績を買ってくれる新たなスポンサー等が現れず解散という結末を迎えた。ベトナムの有力チーム「Saigon Jokers」も、実質的な解散が発表されている。

e-Sportsの発展に立ちはだかる問題として、国ごとに異なる法律や文化の関与は大きい。北米ではプロゲーマーや配信者といった存在がポピュラーであり、e-Sports市場規模はヨーロッパの2倍と言われている。そのヨーロッパではe-Sportsの一般認知度は上がりつつあるものの、昨今の国際テロ犯罪の増加によるビザ取得問題などもあり、プロスポーツクラブが参入することで権威付けが行われている過渡期ととらえることができるだろう。東南アジアの状況は、e-Sportsの権威付けやブランディングが上手く行かなかった結果といえるかもしれない。

 

スポーツか? ゲームのプロモーションか? プロリーグ関係者の不満が爆発

『LoL』開発運営元にして欧米の公式プロリーグをも運営する「Riot Games」と、その公式プロリーグでの競技に参加するプロチームという二者の間に、シーンから得られる利益配分について大きな議論が巻き起こったのは今年8月と記憶に新しい。昨今注目を浴び続け市場規模が拡大し続けているe-Sportsタイトルのひとつとして、『LoL』でも多くの投資家によるプロチームへの投資が行われている。その結果として、人件費をはじめとするコストが増大し、資金的に貧弱なプロチームにも多くの負担がかかることとなった。しかし現状としては、プロシーンを通じて大きな利益を上げているはずのRiot Gamesからそういったチームへの利益還元は依然として少ないままだ。『LoL』競技シーンはあくまでゲームに付随するプロモーションであって、既存プレイヤーへのさらなる楽しみの提供であるという姿勢を崩さないRiot Games。だが『LoL』プロシーンは大きく発展し、「Riot Games」と「プレイヤー(ファン)」の二者が利益をやり取りする状況ではなく、そこに「プロチーム」という別枠の関係者が登場する規模になってしまっているのだ。

こうした中で迎えた来シーズン開始前月となる12月。欧米の公式リーグでは来シーズンでのシステム変更が公式発表された。北米公式リーグ「NA LCS」についての変更には、総賞金額の増額や降格圏チーム数の減少、チームが収益を得られる配信コンテンツの強化、試合スケジュールおよび配信についての見直しといった点が盛り込まれている。この中で最大の変更点は、「第三者機関による規定違反時の裁定の導入」だろう。処罰が必要なトラブル等が起こった際、裁判外紛争解決手続機関JAMSが間に入って妥当な裁定を下すこととなる。これまでこうしたトラブルはRiot Gamesが裁定を下してきており、不公平で外部からの透明性に欠けるとの批判が大きかった。夏の騒動後の11月にリークされたRiot Gamesとプロチームオーナーたちのやり取りの中では、他にも様々な提案や交渉があったようだが、当面の大きな問題については解決への一歩を歩み出したと見ていいだろう。

ヨーロッパ公式リーグ「EU LCS」の変更では、NA LCS同様の変更点が書かれているものの、「グループドラフト制の導入」が大きく掲げられている。これは大まかに言うと10の参加チームを2つのグループに分けて対戦させるシステムで、プレイオフや入れ替え戦にもこのグループの割り振りが影響する。また、試合日程についても変更が予告されている。EU/NA LCSのレギュラーシーズンは両方の配信を見ている層がいるということから、EUが木・金曜、NAが土・日曜という開催スケジュールになっていたが、EU側が平日開催であることを批判する向きもあった。2017シーズンからはEU LCSの開催曜日は木・金・土曜となり、日曜に追加の試合が行われる週もあるとのこと。こうしたシステム変更から、欧州および北米シーンそれぞれの独立性がこれから強まっていくのかもしれない。

さらに今月半ばの公式発表によると、LCSをはじめとするプロリーグ配信での収益構造変革を推し進めるため、Riot Gamesは「BAMTech」と提携を行った。BAMTechは北米メジャーリーグのメディア部門の子会社であり、従来のスポーツについて多くの配信ノウハウを持っている。現在までのさまざまな情報を総合すると、来シーズンである2017年からすぐに大きなシステム変更が行われるわけではなく、まずは調査を行ってからということではある。プロシーン運営・プロチーム・ファンの三者間に現在存在している問題をひとつひとつ解決しつつも、Riot Gamesが市場とシーンのさらなる発展を望んでいるのはまちがいない。

 

終わりに──ラブ&リスペクト

ゲームはどこまで行っても娯楽だ。不要と切り捨てられてしまうこともあるだろう。しかしそれでも娯楽が社会に存在しているのは楽しいから、その楽しさに価値を感じる人間がいるから。

個人的に、この数年でe-Sportsにもさまざまな関わり方があることを肌で感じている。基本にいるのは、楽しみの土台であるゲームを作る人と、ファンとしてゲームを楽しむプレイヤーだ。しかしそれだけでなく、ゲームを楽しみつつも生計を立てるために真剣に取り組むプロプレイヤーや、彼らの真剣な競技を日々の娯楽として受け取り楽しむ観戦ファンたちもいる。プロシーンに目を転じれば、舞台で脚光を浴びる選手たちだけでなく、裏方でそれを支えるスタッフたちも。さらには、ゲームそのものやプロプレイヤーたちから自分たちが受け取った楽しさを表現し伝えていこうとする二次創作者たちや、プレイの巧みさだけでないゲーム周縁の楽しみを伝える配信者たちも存在している。他にももっともっといろいろな関係者がいるだろう。挙げればキリがない。

そこにあるのは一体何だろうか──それは愛だ。愛の対象はゲームそのものだったり、特定の(プロ)プレイヤーだったり、もっと大きなものだったり、個人によってさまざまだろう。その愛をムダにしないために何が必要かといえば、リスペクトだ。娯楽を愛する人が敬意を持つことで、全てはポジティブに回っていくはずだ。むろんネガティブな問題も起こるだろう。でも私が尊敬するRiot Gamesの人々は、くじけずに問題解決への手段を探し、実行し続けることをやめない。愛するゲームと、娯楽のために。ラブ&リスペクトがあれば、『LoL』だけでなくe-Sportsの未来はきっと切り拓ける。関係者全員の心の中にそれがあると信じて、まだ見ぬ新しいページをめくりたいと思う。

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Sawako Yamaguchi
雑食性のライトゲーマー。幼少の頃からテレビゲームに親しむが、プレイの腕前は下の下。一時期国内外のTRPGに親しんでいたこともあり、あらゆるゲームは人を楽しませるだけでなく、そのものが出発点となって人と人を結びつけ、新しい物語を作る力を持っていると信じている。2012年から始めた『League of Legends』について、個人ブログやTwitterにて日本語で情報発信を続けている。

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