観客の9割が女性ファン、e-Sports先進国・韓国におけるファン文化の実態に迫る

決勝戦は体育館などを借りて行われるのが普通(LoL Champions Korea Summer 2015)

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スポットライトを浴びながら、大きなステージの上で真剣勝負を繰り広げるプロゲーマー。そして、巨大スクリーンに映し出されたゲーム画面に熱狂する大勢の観客たち―――。

このような光景は、今や海の向こうの遠い世界の話ではありません。最近は日本国内でも、規模の大きなe-Sportsの大会が頻繁に行われるようになってきています。これまで日本ではなかなか理解されにくかった「ゲームを観戦する」という文化も、一部の若者たちを中心に徐々に浸透してきていると言えるのではないでしょうか。

優勝カップを受け取ったSK Telecom T1のメンバー(LoL Champions Korea Summer 2015)

一見すると海外と同じように発展し始めている日本のe-Sports界ですが、他の先進国と比較すると異なる部分もあります。たとえばその1つが「女性ファン層」。10年以上前から韓国のe-Sportsファンに混ざってプロゲーマーの追っかけをしていた私としては、いまだに日本より韓国のほうに「居心地の良さ」を感じているという事実があります。なぜ日本で生まれ育った生粋の日本人である私が、韓国のe-Sports界にこれほどまで魅力を感じているか、それは私が「女性」であることも含まれているのです。

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■試合会場に飛び交う黄色い声、圧倒的に多い女性ファン

ひいきチームの勝利を祈る女性ファンたち(SK Planet SC2 Proleague 2012)

日本と韓国のe-Sports大会の会場の様子を比べたときに、一番大きな違いは間違いなく「客層」でしょう。なぜなら韓国では、観客の9割が女性ファンということも珍しくないからです。私がかつてプロゲーマーの追っかけをしていたのは『StarCraft: Brood War(SCBW)』の時代でしたが、当時も観客はまさに女性だらけ。だからこそ私もなんの抵抗感もなく会場に足を運んでいましたし、同じ選手や同じチームが好きな同性の友達と一緒に、キャーキャー言いながら試合を観戦したものです。

会場は選手を応援するために集まった女性ファンでいっぱい(2016 LoL KeSPA CUP)

時は流れ2017年現在、韓国で一番人気のe-Sportsタイトルは『League of Legends(LoL)』。昨年11月に「KeSPA CUP」という大会を取材してきましたが、やはりそのときも観客のほとんどが女性でした。もちろん選手もファンも世代交代されてはいるものの、雰囲気は当時のそれとなんら変わりなかったのです。ちなみにその2か月前に韓国で取材した『StarCraft』シリーズの大会は、だいたい6対4ぐらいの割合で男性のほうがやや多い印象でした。種目によって差はあるものの、韓国では多くの女性がe-Sports観戦を楽しんでいるのです。

最前列に座っている選手の写真を撮る女性ファンたち(2016 SC2 StarLeague Season2)

ところで、K-POP事情に詳しい人なら「大砲ヌナ」と言う言葉を耳にしたことがあるかもしれません。これは大砲のように大きなレンズのついたカメラで写真を撮る「ヌナ=お姉さん」ファンのことで、こういった女性ファンをe-Sports大会でもよく見かけます。韓国でもプロゲーマーはアイドルではないといった批判もあり賛否両論なのですが、個人的にはいろいろな楽しみ方があって良いのではないかなと思っています。 実際に韓国の女性ファンたちは、プロゲーマーのルックスだけでなく、選手としての実力にもきちんと注目しています。強さは人気の一番のポイントなのです。

 

■チームのSNSや放送局の番組、ウェブメディアの記事も女性ファン向けが多数

LoLチームのファンミーティングの告知(画像出典:KT Rolster公式フェイスブック)

チームのSNSを見ても、出場する大会や個人配信の告知よりゲーミングハウスや大会控室での様子など選手の素顔を公開するような画像が圧倒的に多く、ゲームプレイに関する情報をメインとはしていないことが分かります。そしてどのチームもよくやっているのが、選手の誕生日やデビュー何周年などの記念日をお祝いする内容。さらに、スペシャルイベントの告知にはハートマークがちりばめられているなど、可愛いつくりのものが多いのも特徴です。これらはすべて、ターゲットが女性ファンであることを物語っていると言えるでしょう。

ベスト16の組み合わせを選手自ら決めるトーク番組(2015 Global SC2 League Season3 CodeS)

放送局がインターネットで公開している動画も、インタビューや試合の舞台裏など選手個人にフォーカスしたものが多く制作されています。また、ウェブメディアも試合終了後にはかならず選手インタビューを掲載しますし、それ以外にも特定の選手にフォーカスしたスペシャルインタビューを頻繁に実施しています。そこにはゲーム内容のこと以外にも、選手のパーソナリティーに触れる内容がたくさん盛り込まれているのです。そもそもケーブルテレビにe-Sports 専門チャンネルがあって24時間ゲームに関する放送が流されていたり、e-Sports専門ウェブメディアがあってさまざまなe-Sportsタイトルを網羅したりしている時点で日本よりはるかに進んでいるのですが、ここではそれはひとまず置いておきましょう。

もちろん男性ファンもこういったものを楽しんでいる人は一定数いますが、女性ファンの大部分は選手の実力はもちろんパーソナリティーにも魅力を感じてファンになっている場合が多いのです。そのため、そういった部分を楽しんでもらえるような工夫が各所に施されているのが韓国e-Sports界における「ファン文化」の大きな特徴と言えます。

 

■バリエーションに富んださまざまな応援グッズ

スティックバルーンやフラッグを振って選手を応援(2016 Global SC2 League Season2 CodeS)

ところで、スポーツの応援に欠かせないのが「応援グッズ」です。韓国のe-Sports界でも、これまでさまざまな応援グッズを目にしてきました。大会会場にはあらかじめ座席にバルーンやうちわ、チームロゴ入りのボードなどが置かれていることが多く、こういったものは大会主催者またはチームが用意し無料で配布しています。それ以外にも大きな垂れ幕を会場に掲げたり、チームスタッフが応援団を結成して大きなフラッグを振ったり太鼓などの鳴り物を使用したりなど、大会主催者やチームで準備するものは豪華なものが多いのが特徴と言えるでしょう。

Samsung Galaxyの私設ファンクラブが制作した布の応援ボード(2016 SC2 StarLeague Season2)
ファンが個人的に制作したSKT T1選手の似顔絵ビームプレート(2016 LoL KeSPA CUP)

さらにファンの情熱を感じるのは、私設ファンクラブで準備する場合です。チームのロゴや選手のIDが入ったオリジナルグッズを事前に作成し、共同購入したり無料で配布したりしています。とにかく熱狂的なファンが多いので、手の込んだものが圧倒的に多いのが特徴です。個人的に用意する場合は、「応援ボード」が一般的です。カッティングシートなどを駆使して作られた手の込んだ力作もありますが、最近はスマートフォンの電光パネルアプリを利用するファンもいます。

会場に設置された応援ボード作成エリア(2016 Global SC2 League Season2 CodeS)
「生まれ変わってもROXを愛してる」と書かれた応援ボード(2016 LoL KeSPA CUP)

しかし圧倒的に多いのは、ファンが会場に来てから書いた「手書き」の応援ボード。韓国では、大会会場に「応援ボード作成エリア」がかならず設置されています。テーブルの上に厚紙とカラフルなペンがいくつも用意されており、多くのファンが試合開始前にこの場所で、思い思いに応援メッセージを書くのです。

それらの応援グッズを使って一生懸命応援している観客を、放送局のカメラマンがしっかりと映像にとらえます。ちょうど野球場やサッカー場のオーロラビジョンに観客席が映し出されるのを想像してもらえれば分かりやすいかと思います。自分の応援グッズを映してもらおうとカメラに向かってアピールしているファンを何度も見たことがありますし、実際に私も「日本から来ました」というボードを掲げて日本人アピールをしたことが何度かあります。韓国e-Sports界では、こういった「ファン文化」を受け入れる体制が整っているのです。

 

■韓国ならではの応援方式と応援文化

真ん中から左がSKT T1応援席、右がKT応援席、どちらが優勢か一目で分かる(LoL Champions Korea Summer 2015)

単純でありながら大きな影響力をおよぼしているのが、会場の「座席の配置」。韓国のe-Sports大会を訪れると、かならず左右の競技席どちらにどのチーム・選手が座るのかが案内されています。これは、応援しているチーム・選手の競技席と同じ側で観戦できるようにという大会主催者側の配慮です。つまり真ん中から右半分、左半分で応援するファン層が分かれるのです。野球やサッカーでも、同じチームを応援する人たちが同じエリアに固まって座るのは当たり前になっていますよね。会場でファンが一体となって応援できる環境が、しっかり整えられているのです。

StarCraft: Brood War時代のMBC GAME HEROのファンミーティング (2010-2011 SCBW Shinhan Bank Proleague)

それから韓国におけるオフライン大会観戦の醍醐味のひとつに、「ファンミーティング」があります。簡単に言うと、試合終了後に選手たちがファンとの交流を行うものです。基本的に、勝利したチーム・選手のみが行います。敗北すると簡単に挨拶だけして帰ってしまいます。しかも暗い顔で謝罪の言葉を述べて、そそくさと会場を後にする選手も少なくありません。そのため会場を訪れるファンは、勝利の喜びに包まれた笑顔の選手とのファンミーティングを夢見ながら試合を観戦し、必死でチームや選手を応援しています。

LoLチームKONGDOO MONSTERのファンミーティング(2016 LoL KeSPA CUP)

ファンミーティングに備え、ファンはあらかじめ手紙やプレゼント、差し入れなどを用意します。そしてファンミーティングの時間になると、選手に直接手渡しすることができます。代わりに選手たちは、サインや2ショット写真などに応じてくれます。少人数の場合は、比較的長めに会話をしてもらえることもあります。常連になればなるほど顔や名前を覚えてもらえる確率も高くなるので、ファンは一生懸命試合会場に足を運ぶのです。

SC2のByuN選手のファンミーティングは男性ファンでいっぱい(2016 Global SC2 League Season2 CodeS)

このファンミーティング、かつては女性ファンのためのものというイメージだったんですが、先に触れた昨年9月の『StarCraft』シリーズの取材を通じてそのイメージががらりと変わりました。というのも、ファンミーティングに参加する男性ファンがかなり多かったからなんです。現在の『StarCraft』シリーズのファンは、比較的男性の比率が多くなっているということも影響しているのかもしれません。やっぱり憧れの選手から直接いろいろな話を聞けるのは貴重ですし、2ショット写真を撮ったりサインがもらえたりしたらファンとしては最高ですよね。

 

■日本にも少しずつ芽生え始めたファン文化

代々木体育館で行われた日本のLoLリーグ決勝戦の様子(LJL 2016 Spring Split Final)

そもそも日本のe-Sports界全体を見ると、特定のチームや選手を応援するファン自体がまだまだ少ないという印象です。自分には到底できないようなスーパープレイが見たいという「ゲーム観戦」―――たとえるならゲームセンターでひときわ上手い人のプレイを後ろから見るような―――そんな感覚で観戦している人が多いのかもしれません。とはいえ少なくとも私がライターとして、また通訳として関わっている『LoL』の国内プロリーグ「LJL」では、徐々に韓国と近い形に変化してきているのを肌で感じています。特定のチームを応援するためのパブリックビューイングを実施したり、音声チャットに同じチームのファン同士が集まって応援しながら観戦したりしているという話も何度か耳にしました。 さらに最新の情報では、4月に行われるLJL決勝戦において応援チームサイドの座席が選択可能になったとのこと。日本は今まさに、「ファン文化」が形成されようとしている段階なのかもしれません。

しかしながら、韓国と違って日本は男性ファンが圧倒的に多いのが現状です。日本にも少しずつ女性のe-Sportsファンが増えてきている気がしますが、個人的には女性がe-Sportsを楽しみやすい環境が整っているのは今でも韓国のほうだと思っています。韓国e-Sports界に興味がある人は、ぜひ現地へ行ってその「ファン文化」を肌で感じてみてもらいたいです。もちろん世界的に見ても韓国は非常にまれなケースだと思うので、かならずしも日本がそれを目指す必要はないと思いますが、私はe-Sportsを楽しんでいるひとりの女性として、日本にも女性ファンが増えることを切に願ってやまないのです。

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