シリーズ初のボーカル曲として話題を呼び、トレイラーやTVCMで使用された『スーパーマリオ オデッセイ』のメインテーマ「Jump Up, Super Star!」は、軽やかなメロディと女性ボーカルによるジャズとして構成され、聴くたびに「早く遊びたい!」とワクワクさせられた人も少なくないだろう。このように、「ゲームミュージック」はゲームそのものの体験を高めるだけでなく、ゲームの外にあっても人の心を動かす力とゲームそのものを記憶に結びつける存在である。

ゲームに存在する“音”とは、もともとはプレイヤーの操作ミスやステージ間の切り替え、ショット音などに代表される効果音のみだった。だが、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテイメント)が1980年に発売したアーケードゲーム『ラリーX』で、初めて「ゲーム中でもBGMが止まらずに鳴り響く」という方式が採用され、ゲームの面白さを増す要素のひとつになった。それから4年後の1984年、テクノポップユニット・YMOの細野晴臣によるプロデュースの下、『ゼビウス』『ディグダグ』『リブルラブル』のBGMを収録した『ビデオ・ゲーム・ミュージック』が世界初のゲームミュージックサウンドトラックとしてアルファレコードから発売され、音楽ジャンルとしての「ゲームミュージック」が確立された。

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80年代、基板上に搭載された抵抗器の切り替えから、最大同時音数3音+1ノイズ出力の音源チップ「AY-3-8910」によるPSG音源(※)の登場によって、ゲームミュージックは黎明期を迎える。ヤマハの「YM2610」などに代表されるFM音源(※)やPCM音源(※)、CD音源とほぼ変わりない音を出すことが可能な内蔵音源やCD-DAへと移り変わり、容量の制限から解放された。ロックやテクノ、そしてオーケストラといった既存のジャンルと相違ないサウンドを鳴らすようになり、ゲームをよりダイナミックに演出するほかにも、環境音として役割を担うようになる。

※PSG音源: PC-6001mkII(NEC)やFM-7(富士通)といったホビーパソコンにも搭載されていた。ファミコン音源(pAPU)には三角波が追加されているために同時発音数が4音+1ノイズとなったが、少しでも音数を増やすべく「VRC6(コナミ)」や「Namco 106(ナムコ)」など、カートリッジに独自の拡張音源を採用する例も見られた。
※FM音源:ヤマハのシンセサイザー「DX-7」に搭載されたことで名を広め、アーケードゲーム基板のほかにもパチンコ・パチスロ、携帯電話にも採用されていた。同時発声音が格段に増えたため、ゲームミュージックをさらに豪華なものへと昇華させた。
※PCM音源: 8音同時発音可能な「SPC700」がスーパーファミコンに搭載される以前にもファミコンやアーケードゲームにも使われていたが、90年代から容量や性能が増したことにより、FM音源では再現しづらい音源を実際にサンプリングして鳴らすことで表現としての音楽がよりゴージャスに広がった。

さまざまなサウンドコンポーザーたちの手で彩られたゲームミュージックは、単に「ピコピコ」と形容されなくなる。90年代初頭には「ZUNTATA(タイトー)」「矩形波倶楽部(コナミ)」「ゲーマデリック(データイースト)」といった社内のサウンドチームや、外部からプロの演奏家を招いた「S.S.T BAND(セガ)」などが実際の楽器を用いてゲームミュージックを演奏・披露するライブやイベントが行なわれるようになった。2000年代を経た2017年現在、ゲーム内のゲームミュージックは、もはや現実世界に存在するさまざまなジャンルの楽曲と変わりなく挿入されるようになった。では過去に生まれたゲームミュージック、あるいは当時の「ピコピコ音」はどうなったかというと、前者については近年オーケストラによる演奏でのイベントやコンサートが脚光を浴びつつある。

ゲームミュージックのオーケストラ化といえば、すぎやまこういち氏自身による「交響組曲『ドラゴンクエスト』シリーズがアレンジ版サウンドトラックとして知られている。ゲームミュージックの演奏で有名な新日本フィルハーモニー交響楽団や東京シティ・フィル以外にも、各自治体の文化振興財団や教育委員会などがコンサートの主催をすることも多い。都市公演ではチケットが完売するまでの早さから、追加公演をするケースもあるほどの勢いをいまだに保っている。

『ドラクエ』以外では、2006年に 年代やジャンルを問わずさまざまなゲームミュージックをオーケストラ楽団が奏でる「PRESS START」が発足した。発起人は有限会社ソラの代表取締役兼ゲームデザイナーである桜井政博氏と、作曲家の植松伸夫氏、ゲームシナリオライターとしても知られる野島一成氏ら。東京(神奈川)フィルハーモニー交響楽団やプロのミュージシャンによる演奏、各ゲーム作曲者のゲスト出演など、豪華な内容をもとに年一回のペースで開催されていたが、2015年の開催を最後に休止となっており、再演を望む声も高い。

国内外の作曲家やオーケストラ・合唱団と連携してオーケストラコンサートを制作するアイムビレッジ主催の「Game Symphony Japan」は、『ペルソナ』20周年や『真・女神転生』25周年を記念したコンサートを積極的に開催。そのほか『ゼルダの伝説』30周年や『星のカービィ』25周年など、ファミコンから続くゲームがそれぞれ節目を迎えていることに合わせたものも開かれている。今年11月2日の『電撃GAME MUSIC LIVE』では、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテイメント)の『源平討魔伝』『ワンダーモモ』『ワルキューレの伝説』などを作曲者自らがバンドや弦楽四重奏としてアレンジを施すなど、主催プロモーターによって異なるアプローチを仕掛けている。

また、近年ではコンポーザー自身がCDの手売りやミニトークイベントを行う「東京ゲーム音楽ショー」や、株式会社ノイジークロークの坂本英城氏が主導するコンサートと講演会を組み合わせた「ゲームタクト」の開催など、TwitterやFacebookといったSNSの登場によって身近な存在になったサウンドコンポーザーと直接会って交流を深める機会も多く、サインや写真を求めるファンで多くの賑わいを見せている。

一方で、ファミコン(PSG音源)やゲームボーイ(波形メモリ音源)に代表される「ピコピコとしたゲームミュージックらしい音楽」は、「ChipTune(チップチューン)」というジャンルを築き、個人・同人問わずに活動の場を広げている。この「チップチューン」という言葉と概念をもたらした第一人者のHally氏や、『迷宮組曲』『スターソルジャー』といったハドソンのBGMを多く手がけた国本剛章氏、YouTubeやニコニコ動画などの動画投稿サイトで知られるサカモト教授などが参加したコンピレーションアルバム『8BIT MUSIC POWER』は、ファミコンの実機や互換機で再生可能なカートリッジ形式で販売されたことと併せて話題となったのも記憶に新しい。

限りある容量の下、80年代~90年代のゲームクリエイターたちの創意工夫やアイディアの機転によって面白さや魅力を伝えたのは、聴覚要素であるBGMがあったからこそグラフィックやルールと相まって、我々は名作として記憶している。

大脳辺縁系の一部である海馬は、聴いた音や音楽をその場の空気・感情と含めて記憶として定着させるという。かつてコントローラーに手に汗を握りながらアクションゲームやRPGを遊んだ記憶がオーケストラでの演奏で甦ることは、大人になったからこそ思い出されるノスタルジーである。だが「チップチューン」に代表される「ピコピコ音」は、いまや一ジャンルとして新たな表現方法を取り入れたことで、懐かしさと新鮮さを織り交ぜて楽しませている。聴き馴染みのある音楽がひとたび流れた瞬間、目を瞑っていても瞼の裏にはゲーム画面がパッと思い浮かぶほど親和性の高いゲームミュージックのこれからは、BGMだけに留まることなく芸術作品としての可能性を広げていくことだろう。

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