『Detroit: Become Human』の魅力はメインメニュー抜きには語れない。プレイヤーの選択を見守る女性型アンドロイド「クロエ」に注目

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PlayStation 4独占タイトルとして5月25日に発売されたオープンシナリオ・アドベンチャー『Detroit: Become Human』。開発を担当したQuantic Dreamの過去作と同様に、プレイヤーの選択や行動により物語が分岐していく膨大なシナリオや、繊細でリアルな3Dアニメーションに支えられたインタラクティブ・ストーリーを醍醐味とした作品だ。

舞台となるのは2038年の米国デトロイト。技術革新が進みアンドロイドが根付いた近未来社会の動乱が、アンドロイド達の視点から描かれる。プレイヤーが操作するのは、感情のようなものが芽生えた変異体アンドロイドの解放運動を指揮するマーカス、父親から虐待を受けていた少女アリスを救うため主人の命令に背く家事用アンドロイドのカーラ、そして二人を追うアンドロイド捜査官コナーの三体。だが人間とアンドロイドの関係性を描くナラティブは、ゲーム本編だけで閉じられてはいない。プレイヤーは本編だけでなく、ゲームのメインメニューを通じて、人間と機械の交流が生む変化および変異を体験することになる。

※以下の文章・画像・動画には『Detroit: Become Human』のメインメニューで出会うキャラクターに関するネタバレが含まれているため要注意

 

メインメニューまでインタラクティブに

本作を起動すると、ゲーム本編に入る前にまず女性型アンドロイドがプレイヤーを出迎えてくれる。ST200型と呼ばれるパーソナルアシスタント用モデル。知性の有無を判定する「チューリングテスト」に世界で初めて合格し、のちに大量生産されたことで製造元のサイバーライフ社に莫大な富を与えた、クロエと呼ばれるアンドロイドだ。本編の主要キャラクターでは無いにも関わらず、ゲーム発売前には彼女に焦点を当てたショートフィルムが公開されている。特殊な立ち位置ながらプレイヤーに知っておいてほしいキャラクターとして扱われていたことが分かる。

ゲームの入り口であるメインメニューに常駐し、プレイヤーをサポートしてくれるST200型アンドロイド(本稿では便宜上、クロエと呼ぶ)。プレイヤーの多くは、ゲームを起動して真っ先に目にする彼女の肌や表情の表現技術に圧倒されることだろう。だがクロエの役割は、アニメーション技術を披露するショーケースにとどまらない。彼女はプレイヤーに語りかけ、言語・画面調整・難易度選択といった初期設定をナビゲートしてくれる。いざニューゲームを始める際には「忘れないで、これは私たちの物語、そしてあなたたちの未来」とメタ・ナラティブの案内役として振る舞い、ゲーム開始後には「簡単すぎたり難しいと感じる。そんな時にはオプションメニューで難易度の設定を変更してみてください」とアドバイスを送ってくれる。

また彼女は、プレイヤーがゲームを起動したり、プレイ中メインメニューに戻るたびに「あら、また会えましたね。週末はデトロイト三昧ですか?」「早かったですね」「お疲れの様ですね、具合は大丈夫ですか」など、プレイ状況に応じて挨拶してくれる。さらにメインメニューでしばらく操作せずにいると、公民権運動の中心的人物であったマーティン・ルーサー・キング牧師の言葉を口にしたり、作品に関連した豆知識を教えてくれたりと、積極的に語りかけてくれる。人間が娯楽作品を消費する際に、アンドロイドが案内役として側に立つ時代が実際に訪れたらどうなるのか、一種の近未来シミュレーションであるようにも思える。

場合によっては、サイバーライフ社のユーザー調査という設定で、プレイヤーにいくつかの質問を投げかけてくることもある。「見た目が人間のアンドロイドと付き合いますか?」「テクノロジーが人間の脅威になり得ると思いますか?」「アンドロイドに子供の世話を任せますか?」といった、本作で扱われている題材に関連した設問が並んでおり、回答後には世界中のプレイヤーの回答率を確認できる。プレイヤーの好奇心をくすぐるという意味では、単に「アンケートに答えてください」というメッセージを表示させるよりも、はるかに効果的な手法ではないだろうか。

本編クリア後はメインメニューのボーナス項目より追加設問に答えられるようになる

 

あなたの選択が、クロエを変える

このように、最初のうちは挨拶や豆知識の共有、アンケートの実施といった機械的な交流にとどまっている。だがゲームの進行具合やプレイヤーの選択内容によって、彼女の反応や表情に変化が見られるようになる。「あなたと話していると楽しい」「また会えてよかった、物語の続きを知りたくてたまらなくって」といった感情や気持ちを伝えてくるようになり、ときには画面のこちら側を覗き込むような視線を送り「とても素敵なインテリアですね。私はとても好きです」と感想を述べたり、「私は、ST200型なんですよ。もしかして、興味があるかなと思って」といったゲームではなくクロエ本人に関する情報を自発的に開示してきたりと、感情の芽生えのようなものが見え隠れし始める。

次第には一方通行なコミュニケーションではなく、「プレイし始めてだいぶたちますね。もう私たちは友達と言えるのでしょうか?」「待って。ホントにこのまま続けますか?もしかしたら、そのままにしておくほうがいいのかも」など、プレイヤーに「はい/いいえ」の返答を求めるようになる。自我の目覚めという、作中の変異体アンドロイドと同じような症状が現れ始めるのだ。さらにはプレイヤーの選択やキャラクターの運命について思いを述べたり、「忘れないで。物語の運命はあなたの手に。死もありうるのです。だから慎重に」「正しい決断を下してくださいね」といった願いを託したりもする。プレイヤーにどう動いてほしいのか、彼女にとっての「正しい決断」が存在することを示唆するようになる。そんな自身の反応に違和感を覚えたクロエは、戸惑いの表情を隠さず、不安の声を露わにし始める。

Quantic Dreamを率いるDavid Cage氏は、プレイヤーに特定の行動や思考を押し付けることは本作の狙いではないと過去のインタビューで答えている(GameSpot)。つまり、作中には正しい選択も間違った選択もありはしない。だがクロエにとって望ましい選択、「正しい決断」というのは確かに存在するのではないだろうか。彼女はおそらく、プレイヤーが決断を下す前に「こうしてほしい」と直接語りかけてくる唯一のキャラクターである。

これまでのゲームの通例では、プレイヤーの選択に影響を及ぼしうるキャラクターは作中に登場する者達だけであった。プレイヤーは作中のキャラクターに感情移入する中で、自らの判断を変えることがある。一方、『Detroit: Become Human』はゲーム本編の外にクロエというキャラクターを置き、メインメニューを通じてプレイヤーを見守らせることで、プレイヤーの心を揺さぶりにかかっている。ゲームの外にいるキャラクターが、ゲーム内での出来事に反応し、プレイヤーに語りかけてくる。

分岐するのはゲーム本編の物語だけとは限らない

これはゲーム本編の外にあるメインメニューを、インタラクティブな物語の一部としてフルに活用するという、新しい試みではないだろうか。プレイヤーがゲーム本編を終える頃には、メインメニューはただの実行コマンドの一覧では無くなっているはずだ。もしかすると、ゲーム本編と同等もしくはそれ以上に悩ましい選択に迫られるかもしれない。刻一刻と変わっていくクロエの様子を追うためにも、これから本作をプレイする方には、数チャプチャーごとにメインメニューに戻って彼女に会いにいくことをオススメしたい。

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