チョコボ屋コスプレ衣装制作記

 

4月26日にニコニコ超会議3で『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』(以下『14』)のコスプレコンテストが開催されニコニコ生放送で中継される――そう聞いたのは3月21日でした。募集要項には抽選制とあり、ニックネーム・コスチュームの詳細・アピールコメント・最後に過去のコスプレ写真を確認できるURLなどを入力するメールフォームがありました。駄目でもともと、当選したら幸運とばかりに送信ボタンを押した時、私の長い1か月が始まったのです。

 

すべてのはじまり。
すべてのはじまり。

 


ネタ枠を狙ったキャラ選び

 

ターゲットはこちら。 右側の方です。
ターゲットはこちら。

右側の方です。

三十路の女性が普通のコスプレをしてニコニコ生放送に出ているのを観ても誰も楽しくない。では思いっきりネタに走ったほうがウケをとれるのではないか。ならば、どうせなら思いっきり目立つ上に誰もが見たことのあるキャラにしよう。そういった思案の先に今回私がたどりついたのは『14』のNPC、「チョコボ屋」でした。

チョコボ屋は各街に配置され、レンタルチョコボの受付を担当します。プレイヤーにとっては馴染み深いシンボルキャラです。特徴的なチョコボの頭を模したチョコボマスクをかぶり、簡素な黄色のワンピースにチョコボのアップリケが入った茶色の前掛けをつけた何とも目立つキャラクター。チョコボワンピースはもしかしたら似たようなものが売っているかもしれませんが、ヘルメットと前掛けは市販していません。ならば全部自作するのみと決めて製作にはいりました。

 

 

 


当選、そして迫る納期

 

舞台はここ。 相手にとって不足なし。
舞台はここ。

相手にとって不足なし。

エオルゼアにログインもせずがむしゃらにチョコボヘルメットを作っていた4月9日、それはやって来ました。『14』公式Twitterアカウントからの「ただいま選考の結果を送りました」とのお知らせにさっそくメーラーを開いた私は、そこに"当選"のニ文字を見ました。どうしても自分の目が信じられず何度見直したかわかりません。たしかに当選でした。

イベント開催日まであと17日。当選を知った瞬間、それはけっして破ることがゆるされない鉄の納期となりました。ここから約1週間、夫の理解と協力を得つつ「衣装修羅場」を繰り広げることになります。4月23日夜に衣装が完成するまで気が休まる暇はありませんでした。

 

 

 

 


チョコボマスク製作概略

 

まずは苦手な工作からということで、今回のチョコボ屋製作ではほとんどの時間をチョコボマスクに費やしました。ゲーム内でのスクリーンショットを眺めたのち、素材を吟味して材料を集めていきます。買い出しにいくこともあれば、通販を利用することもありました。

軽作業用帽子を土台にし、園芸用の鉢底ネットで骨組みを作り、その上からソフトボードを接着、曲面部分の不足はその上にエポレジンプロを盛って補強し、最後にアクリル絵の具をエアブラシ塗装しました。ざっくりと説明すればこうなりますが、実際工程はそれなりに煩雑です。

 

先に完成品をお見せしましょう、こちらです。
先に完成品をお見せしましょう、こちらです。

 


チョコボマスク材料

 

この場所に立つために必要だったもの。
この場所に立つために必要だったもの。

さて、ワンオフしかもキワモノなコスプレグッズを作るのにいくらかかるのか? という点に興味をお持ちになる方がどれだけいらっしゃるかはさておき、明細はおおむね以下のとおりです(すでに手元にあった素材を使った部位もあるため、厳密な数値ではありません)。かっこ内は購入した場所。

軽作業用帽子(ホームセンター): 1500円
鉢底ネット(100円均一ショップ): 300円
コーヨーソフトボード2mm(オカダヤ、通販): 600円
エポレジンプロ(通販): 1900円
濃い茶色の合皮(手芸用品店): 400円
黒の合皮(手芸用品店): 400円
金の合皮(手芸用品店): 400円
茶色の本皮(手芸洋品店): 1000円
紫色のビーズ(手芸用品店): 400円
白いジェッソ(模型ショップ): 400円
茶色のアクリル絵の具(模型ショップ): 300円
黄色のアクリル絵の具(模型ショップ): 300円
G10ボンド(ホームセンター): 800円
G17ボンド(ホームセンター): 800円
グルースティック(手芸用品店、100円均一ショップ): 400円

しめて約1万円。まあ、趣味としてはそれほど高額な部類には入らないでしょう。

マスクの材料の大半はホームセンターおよび手芸用品店や模型ショップおよび100円均一ショップでてにはいります。他方、エポレジンプロとコーヨーソフトボードは通信販売が楽です。

 


いざチョコボ頭

 

中身。 グルーガンとガムテープを使い、 作業帽に針底ネットを固定します。
中身。

グルーガンとガムテープを使い、

作業帽に針底ネットを固定します。

このマスクは、大きなくちばしが前に張り出している一方で後部には何の造形もないため、前に重心がきます。そのまま着想するとどうしてもずり落ちてしまいます。そこで、頭にしっかり固定することが課題となりました。帽子を作ってもよかったのですが、そこまでの時間と技術がなかったため、土台を買ってきて装飾することに決定。

しかし、土台候補のヘルメットをホームセンターでかぶってみるたところ、重量が許容範囲外であることに気づきます。考えあぐねているうちに、似たような形状でプラスチックの薄い軽作業用帽子を発見しました。これはとても軽い上ヘルメットより安く、おあつらえ向きのアイテムです。すぐにレジへ向かいました。

材料がそろったら後はひたすら組み立てていきます。鉢底ネットをハサミで切り、ガムテープで仮止めしながらくちばしの曲面を作っていきました。形に満足できたらネットの交差部分をグルーガンで接着。強度が不安な部分は後からG10ボンドで補強します。

骨組みが出来上がったら、くちばし部分を左右に分けた形でソフトボードを2パーツ切り出します。鉢底ネットとソフトボードの両方にG10ボンドを塗って、指先につかなくなるまで10分くらい放置した後に貼り合わせます。最初は軽くのせる感じであたりをつけます。この状態ならすぐはがせますのでゆがみがでないよう調整し、指で強く押さえて固定します。

黒い骨組みの上に白い皮がのった状態になったら、エポレジンプロで肉付け作業です。エポレジンプロ、初めて扱う素材。これはエポキシパテの一種で、乾燥後に切削・研磨とアクリル絵の具での塗装ができ、ソフトボードとの相性がいいと聞いていました。評判通りしっかり食いつきました。

主剤と硬化剤をよく混ぜると硬化が始まります。紙粘土と同じ要領で、水でのばして加工できるため難しいことはありません。手についたエポレジンプロは水で簡単に落とせるため後処理も簡単でした。あえて短所をあげるとすれば、二剤混入から硬化までの作業時間が30分とやや短い所くらいでしたが、事前に作業イメージを固めておいて手早くすませば問題ありません。とうもろこしのような不思議な香りのエポレジンプロ、少々高いですが扱いやすいので造型におすすめです。

ヘルメット本体後部にG10ポンドで 濃茶色の合否を圧着させます。
ヘルメット本体後部にG10ポンドで

濃茶色の合否を圧着させます。

エポレジンプロを乾燥させたら、細かい装飾を施す前に塗装します。そのままアクリル絵の具を塗ると、ソフトボードの部分とエポレジンプロの部分で質感が違ってしまうため、まずアクリル絵の具用の下地剤、ジェッソを塗りました。ジェッソにほんの少しだけ水を垂らし、ざくざくと筆塗りし乾かします。ジェッソが乾いたら黄色いアクリル絵の具でムラが出ないよう、くちばし全体を筆で塗ります。

くちばし本体の乾燥を待っている間に装飾部分を作ります。まず、ヘルメットの後ろ半分にG10ボンドで濃い茶色の合皮を貼りました。次に後部を彩る大きな羽根飾り。ソフトボード二枚の間に針金を仕込んで貼り合わせ、羽根の曲線を出せるように工夫しました。ジェッソを塗り、その上に黄色いアクリル絵の具でエアブラシ着色してから茶色でグラデーション塗装を施します。同じ手順で数枚羽根を作りました。羽根をヘルメットに接着するとチョコボヘルメットの形が大体決まってきます。

くちばしの左右についた革飾りは、まず茶色の本皮を切り抜いたものにビーズの飾りを糸で縫いつけて、しかるのちにライオンボードを金色に塗装した丸い飾りを接着しました。

最後に目と目の周りの装飾と鼻孔を作ります。目の大きさで印象がずいぶんと変わるため、慎重にスケールを考えます。サークルカッターで黒の合皮を切り抜いてGクリアーボンドでヘルメット本体へ接着しました。左右のバランスを見つつ金の合皮で目の周りの装飾を、黒の合皮でまつげと鼻孔も貼り付けてヘルメットの完成です。

 

 

すべての飾り付けをおえて完成。 玄関にかざるもよし。
すべての飾り付けをおえて完成。

玄関にかざるもよし。

 


チョコボ屋スモック縫製

 

縫うと同時に端部をカットしてくれる ステキなミシン、それがロックミシン。
縫うと同時に端部をカットしてくれる

ステキなミシン、それがロックミシン。

チョコボヘルメットの製作を終えたら、残りは衣装です。チョコボ屋のスモックは黄色い大きめの半袖ワンピースに茶色の前掛けというシンプルな構成ですので、ワンピースの型紙を購入し自分のサイズに合わせて改造しました。改造といっても胸やウェストをだぼっとしたラインに合わせて大きめにしたり裾を広げたりといった程度なので比較的簡単に進められました。

型紙ができたら生地にのせ、要所を待ち針でとめて固定しながら洋裁用ペンで線を引いていきます。今回使用したのはアムンゼン。すとんとしたラインが出やすくポリエステル100%でしわになりにくい生地です。描いたラインより大きめに裁ちバサミで切っていきます。かなり適当にザクザク切ってしまっても大丈夫です。

次に裁断したパーツの端処理をします。ロックミシンで縫い代線の上を縫っていけば端処理と裁断を一緒にしてくれるので、ロックミシンを手放せません。後は普通の直線縫いミシンに移動して、肩や脇線を縫い、脇ファスナーを付ければ作業完了。ワンピースを縫うのは本当に簡単です。

ギザールの野菜も忘れずに。
ギザールの野菜も忘れずに。

 


ステージにて

そうして迎えた4月26日、いよいよ当日です。コスプレコンテストの生放送が始まりエントリーナンバー順に一人ずつステージに上がっていきます。私は5人目、舞台袖で前の皆さんを見つめながら意外にも落ち着いて出番を待っていました。

 

「エントリーナンバー5番、しじまさんどうぞ」

 

かぶったヘルメットがずり落ちないよう押さえつつ、ゆっくりステージ中央へ上がりポーズを取ります。下しか見えないコスチュームのため観客の目が気にならないことが救いです。

 

chokoboya12

 

「その衣装のアピールポイントは?」
「チョコボの靴です」

 

靴が見えるように足を上げたりしていると、続いて吉田プロデューサーからの質問がとんできました。

 

「前は見えるんですか?」
「見えません!」

 

完璧だったかもしれません。

 

心配していた自分の出番も終わり、あとは他の参加者の方を間近で見られるという貴重な時間帯です。今回はこの日来ていたコスプレイヤーさん全員が登壇し、14人の中から3人が入賞者として選ばれました。

サウンドディレクター祖堅さんの「おもしろかったで賞」には、この日いちばん人目を引いたであろうデモンズブロックが選ばれました。喜びのあまりステップで一周したところ転んでしまいうっかり中身(?)が見えてしまったハプニングでは会場が笑いに包まれました。

リードUIアーティスト兼ウェブコンテンツアーティスト皆川裕史さんの「よくできていたで賞」にはナイトAFの悠樹巫子さん。歴戦の勇士の趣を出すため表面にウェザリング塗装の施された重々しいホーリーシールドの裏には、吉田プロデューサーのサインが金色に光っていました。

最後の「これぞエオルゼアで賞」に吉田直樹プロデューサー・ディレクターが選んだのは黒魔導士の戦記装備をまとっためぐのじさんでした。ちょうど1か月前に実装されたばかりの最新装備をいち早く作成したことにくわえ、アピールタイムに同じく実装されて間もない紳士の舞を踊りきった事が高く評価されました。これぞエオルゼアのファッションリーダー、新しい装備を期限までに仕上げる苦労は人一倍だったでしょう。

戦士、詩人AF、ミコッテ種族装備、ララフェルセーラーシャツ、チョコボ屋、詩人神話装備、全員が並ぶとそのレベルの高さに否が応でも目を奪われます。

 

chokoboya13

 

最後に、『14』仕様USBメモリカードを参加賞としていただきました。なかには14人全員での集合写真と、最初に撮った個人写真が入っています。オリジナルの記念品はやはり嬉しいものです。ちなみに、形状が特殊だったためどうやって使うのかコスプレイヤー全員がわからず、スタッフさんに質問するといった一幕もありました。

 


コスプレステージのすすめ

 

chokoboya07

人生初のコスプレステージは「前が見えないから恥ずかしくない」という謎の安心感とともに幕をおろしました。つまり、恥ずかしがり屋だけどステージに上がりたい、そんなコスプレイヤーさんにはネタ系のかぶり物コスをおすすめできるということでもあります。大丈夫、私でもできました。一歩踏み出す勇気を持って挑戦すれば、新しい世界が開けます。マスクを装備してコスプレステージ、いかがですか。