時間の無駄と父親としての責任と懐かしい文句 – MOTHER2 at 30 その6

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たまに名言らしき言葉があるものの、ほとんどどうでもいい愚痴ばかり口にするグラハム・アーサーは、英語版AUTOMATONの編集ライターである。真面目に『EarthBound』(『MOTHER2』)を遊んでいるのかわからなくなってきたが、今日もまたやりこみプレイを続ける。

 

MOTHER2 at 30 その6

「時間」というのはおかしなもんだ。科学的に存在証明のほぼないもの(「神様」とか「個人の領域」と同様)にしては、我々人間どもはかなり執着してしまうよね。学校を卒業するまでのあいだ、仕事に出てもいいという歳になるまでのあいだ、スヌープドッグが推薦しているようなジュースを飲める歳になるまでのあいだなど、「時間」を使っていろいろなことを計算する。上司に「もう帰っていいよ」と言われる時間まで、パソコンの前に座って仕事や暇つぶししたりするし、テレビでつまらない再現ドラマを見る前に番組の長さを確認するし。ビデオゲームの「良い」か「悪い」を、最後までどれだけ時間がかかるかで判断する人も多い。1時間以内?30時間以上?当然、ゲームの良さ/悪さをそれだけで正確に判断することはできない(ストーリー、グラフィックス、可愛さなどもあるじゃない)のだが、やっぱり「時間」っていろんな意味ですごいなと思う。

ウィンターズでジェフのストーリーに切り替わった時、これからは物凄く時間かかってしまうだろうなあと思い込んでいた。なぜかというと、綺麗なお姉ちゃんをホテルの一室まで追いかけていったポーラとネスはゾンビに襲われてしまった(今考えるとこういったようなシーンが含まれてるのに、90年代のアメリカによくリリースできたなあとちょっとびっくり)ため、ジェフに助けを求めることになったから。全然違うところにいるジェフには主人公がまだ入れない店が見える。その店の商品の価格が高すぎて現段階で買えるわけがないし、店に入ることさえもできない。それを見たプレイヤーに「ええ、いいなあ、すんげー欲しい、これ……」と思わせて、欲望を刺激するための仕組みだと思う。糸井さんに「ほら、こんなにいいモノがこんだけ揃ってるよ!でも買わせねーよ!うわっはっはっはっは!」とチョッカイ出されてるようにしか思えない。ありがとう、糸井さん。やる気なくすよ……。

画像参照: EarthBound Wiki
画像参照: EarthBound Wiki

しかし、どこかのクリエイティブ(または「ヒマ」)なプレイヤーが素晴らしい(または「面倒くさい」)攻略を考えたらしい。時間をいっぱいかけて少しずつお金を稼いでゴヂラバットを手に入れる方法が見つかったと。私もこれにちょっと挑戦してみようかなと考えていたので、次女と一緒に朝早く起きて(午前4時に勝手に無理やり起こされて)覚悟してチャレンジに挑んだ。

この戦略を考えた人は初めてやろうとした時、ちゃんとできるようになるまで何時間もかかっただろうし、無駄な動きもいっぱいあったはず。小さな人間2匹の責任者として「あるゲームのごく一部のために何時間もかける」というのはなかなかできないので、挑み始めた時はかなり心配していたが、ジェフがゴヂラバットを手にした頃には外はまだまだ暗かった。

画像参照: EarthBound Wiki
画像参照: EarthBound Wiki

で、その努力は報われたのか。正直なところわからない。ウィンターズにいた残りの時間は特に何もいやなことが起こらなかったし、とにかくシーモンスターに乗ってみたのと、父親との全く無感情な再会ぐらいしかなかった。ジェフの馬鹿野郎が事故で壊してしまった「スカイウォーカー」に乗ってスリードへと戻ってみんなとまた合流。信じられないほど強化した武器を装備したネスはもう強烈すぎてどの敵キャラもまともに相手にならない。でもゴヂラバットを持ったって、ネスが馬鹿みたいにパワーアップしても他のメンバーは相変わらずだ。ジェフはPSI能力がないし銃で敵を撃ってもだいたい外れてしまう。ポーラはYouTubeに投稿した『江南スタイル』なみにヒットを喰らう。バトルが終わってジェフとポーラの二人が天使状態となって現れるたびに、私とそいつらの間の距離がまた少し伸びてしまう気がする。ネスにとってはすごく良くても、ジェフとポーラはただの落ちこぼれにしか見えなくなってきたのでちょっとかわいそうに思えてきた。こうやって友達との関係に破裂が生じるのであれば、あのゴヂラバットを頑張って手にする価値は本当にあったのかな。

ブリック・ロードのダンジョン探索にはいい点もあった。後から行けるようになるところを見つけたし。ジェフもレベルアップができたし(まだまだ足りないけど)。一番面白かったのは、じつはゲーム内の出来事とかではなくて、突然部屋に入ってきて画面を見た妻が「何これ?猿?」と聞いてきあたら、「うん、猿だよ。バルーンモンキーっていうんだ。俺はガムを持ってるからっていつも付いてくるんだけど、メス猿を見かけるとあっちに行っちゃう」と説明したら、しばらく変な顔されてから無言で去っていった。なんだか面白かった。

『MOTHER2』の世界にこれだけ慣れてくると、初めて見る人からするとかなりわけのわからないゲームに見えることをいつ忘れてしまう。とくに普段からゲームをあまり触らない人からしたら余計そう思うはず。昔からある「ゲームはオタクとヒキコモリがやるもの」というステレオタイプはだんだんなくなりつつあるものの、未だに「ガキもしくはハードコアなオタクの趣味」だと思い込んでいる人がいる。でも『MOTHER2』にはRPG的な要素もユーモアもとにかくシュールな部分も割合良く混ざっていて、どんな人でも楽しく面白く遊ぶことができる仕組みになっているところが素晴らしい。

例えば、うちの妻は今まで私が『ポータル』や『リンクの冒険』などのゲームをやっているところを何度も見てるのだが、イーグルランドに辿り着いた時の妻の「完全にわけがわからなくなってきたぞ」という表情は『MOTHER2』でしか見ることができない。世界観やキャラクターなど、何もかもが独特で面白いゲームなのに、ニンテンドーはもともと「気持ち悪い系」ではなく「可愛くてへんてこりん」という感じのアピールをしていれば欧米でももっと売れたんじゃないかと思う。それに公式続編のために12年間もプレイヤー達を待たせないで『EarthBound 64』を最後まで頑張って開発を終わらせていればまたもっと売れるようなタイトルになったはず。

まあ、10数年前の出来事に対する愚痴はもういいので、次に辿り着く予定の「サターンバレー」とそのなかに含まれるさらにワケの解らないものを楽しみにしよう。温泉やゴミ箱、何もせずに時間を潰したりすることなど、夢にまで見た楽園だ。しかも一つのマップに収まる楽園なのだ。やったー!

 

[翻訳 James R. Mountain]

[校正 AUTOMATON編集部]

MOTHER2 at 30」は、グローバル版AUTOMATONに掲載された「EarthBound at 30」を和訳したものです。雰囲気が伝わるよう、一部の過激な言葉はあえて原文に近いものにしてあります。

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