ニコ動の実況プレイでゲーム売上が伸びたという実話

2000年代はじめに登場し、またたく間に日本のインターネットカルチャーを席巻してきたニコニコ動画。その強大なる影響力・集客力を活かさない手はないと、いまでは幾多のゲーム会社が、公式のプロモーション動画を配信したりバナーを掲載したりと、ニコニコ動画を「宣伝の場」として活用しています。

その一方で、ユーザーが個人でアップロードする非公式なゲーム動画も、ニコニコ動画には数多く存在します。なかでも、動画の配信者と視聴者がインタラクティブな関係を結ぶことのできる”実況プレイ”は、ポピュラーな動画スタイルのひとつとして確固たる地位を築いてきました。しかし、そうした権利的にグレーである動画コンテンツは、ゲーム業界人にとってある種タブーのようなものであるため、非公式動画の功罪――とくに良い面――に関して表立って述べるゲーム制作者はそう多くはありません。

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筆者は2013年までディレクターとしてゲーム会社に務め、現在もゲーム業界に身を置いている者ですが、本稿ではあえてその”タブー”に触れてみようかと思います。今回お話しするのは、ずばり「実況プレイによってゲームの売上が急増したエピソード」です。

 


テレビゲームの”実況プレイ”とは?

説明不要かもしれませんが、実況プレイとは読んで字のごとく、ゲームをプレイしつつあれこれと実況をし、ゲームの映像・音声とともに自分の実況ボイスも一緒に収録して作るゲーム動画のことです。視聴者にとっては、ゲームの映像のみならず、実況者の言葉や、コメント機能をつうじた実況者とのやりとりが楽しめる、まさに一石二鳥の動画というわけです。

ゲーム制作者の視点からいっても、実況プレイはプレイヤーの反応がじかにわかる貴重な資料となります。プレイヤーがどの部分を楽しんでくれているのか、どのギミックでストレスをためるのか、どの程度の難易度になるといきづまってしまうのかなどを、生の声を聞きつつ知られる機会はそうめったにありません。

 


功罪の「罪」の部分

しかし当然のことながら、実況プレイも含めたゲーム動画には著作権の問題がついてまわります。ゲームの権利者から許諾をえることなくゲーム動画をアップロードする行為は、実況の有無にかかわらず理屈のうえでは著作権法違反です。巌のごとく法の遵守を重んじる人にしてみれば、なにを堂々と他人様の権利を蹂躙しているのだ、となるでしょう。

筆者自身も、自分がかかわったゲームの実況動画を視聴しておおいに参考にしていますが、「どこどこの誰々」と、みずからの素性をあかしたうえで実況プレイの賛否を問われれば「けしからんですよね」と”棒読みで”答えざるをえません。

また、後述もしますが、実況プレイを批判する材料として「ネタバレ」問題も存在します。ゲーム動画をアップロードされたらゲームのストーリーを白日のもとにさらされてしまうため、ポテンシャルユーザーの購買意欲をそぐことになる。機会損失だ、と。

 


功罪の「功」の部分

 

一方、そのような非難の声に対して、実況プレイの支持者からよく返ってくる反論があります。それは、実況プレイはゲームの「宣伝」になっている、というもの。そのゲームに関心のなかった人たちや存在すら知らなかった人たちに広めているのだから、むしろゲーム制作者は実況者に感謝すべきだ。そんな意見すら目にすることもあります。

実況プレイは宣伝になる、などと豪語されると、多くの人は憤慨するかもしれません。「盗人猛々しい」、「うぬぼれるな」、「素人の動画に宣伝効果などない」と。

しかしながら筆者は、実況プレイの宣伝効果はけっしてあなどれない、むしろ確実に宣伝効果はある、と、そう考えさせられる貴重な体験をしたのです。

 


ゲームの販売数推移

 

数値は架空のものです
数値は架空のものです

 

筆者の具体的なエピソードを語る前に、まず、ゲームの販売数が発売後どのような推移をたどっていくかについて説明します。一般的には、ゲームの販売数は上掲のような右肩さがりのグラフとなります。

ゲームの売上は"露出"におおきく左右される
ゲームの売上は”露出”におおきく左右される

マーケティング施策を集中して打っていく初月が、もっともゲームの販売数が多い時期です。そして、たいてい翌月には急降下し、発売から数か月も経過したころには、人気タイトルでもないかぎり1週間に数十本からせいぜい数百本程度の販売数に落ち着きます。

コンソールゲームではなくオンラインタイトルの場合でも、サービスイン直後にもっともユーザーが集まるというのはおおむね変わらないようです。が、オンラインタイトルではゲームの運営を続けつつ新規ユーザーの獲得に向けたキャンペーンをつねにおこなっていくため、売上グラフの形は上記とは少々異なるでしょう。

また、コンソールタイトルであっても期間限定の割引セールなどをおこなうと、発売後数か月以上経過していたとしてもその期間のみ売上が復活するケースがままあります。これは、価格がさがってお買い得になることそのものよりも、露出が増えることのほうが要因としては強いと思われます。

先日、Steamで毎年恒例のサマーセールが実施されていました。ご存知のとおり、セール対象となるタイトルは告知ページで大々的に宣伝されます。そのようにユーザーの目に触れる機会が増えれば、必然的にゲームの購入者数も増えるというわけです。

そういったセール以外では、よほどのことがないかぎり、たとえ一時的にでも販売数がのびる要因は存外少ないものです。しかし冒頭で言及した”実況プレイ”は、この「よほどのこと」のひとつになりうる力を秘めていると思われるのです。

 


実況プレイがもたらした販売数の急増

 

2013年に、筆者はゲームディレクターとして1本のタイトルを世に出しました。タイトル名は伏せておきますが、『ゼルダの伝説』ライクの謎解きアクションである、とだけ申しあげておきます。ただ、『ゼルダの伝説』との共通点はあくまでジャンルのみであり、知名度も売上も『ゼルダの伝説』とは雲泥の差がありました。初月と翌月こそまずまずの売上を達成したものの、3か月目からはほとんど購入されることはありませんでした。

それでも、毎週マーケティング部門から販売数のレポートが届くのですが、発売から4か月ほど経過したある特定の週のみ販売数が急増するといった現象がおきました。それまでは、1週間にせいぜい数十本程度しか売れなかったのが、その週だけ数百本――つまり普段の「10倍」ほどの販売数をたたきだしたのです。

集計の間違いではないことを確認した筆者は、どこかのゲームメディアにでもとりあげられたのかと思い、Yahoo!の”リアルタイム検索”でタイトル名を入力してみました。すると検索結果の画面では、似たような内容のツイートが大量に目に飛びこんできたのです。要約するとこうです。

“ニコ動で[配信者名]さんが実況してるあのゲームおもしろそう、やってみたい”

そう。販売数急増の正体は、とあるかたがニコニコ動画に実況プレイをアップロードしたことにより視聴者たちがこぞってゲームを購入した、という現象だったのです。その実況プレイはエンディングまで収録しているので複数のパートに分かれていましたが、どのパートも再生数・コメント数ともに非常に多く、いわゆる「人気実況主」に分類される人物でした。

その動画が投稿される前にも、ゲーム雑誌で臨時のレビューを書いていただいたり、ハードメーカーの販促用チラシにゲーム情報を掲載していただいたりしたのですが、それでも目にみえて数字が伸びることはありませんでした。つまり、すくなくともそのタイトルにかぎっていえば、偶然そのゲームに目をつけた人気実況者による実況プレイは、雑誌記事や販促チラシといった公式のマーケティング活動よりもはるかに宣伝効果があったのです。

 


ニコニコユーザーの一体感

 

先述のとおり、そのゲームは『ゼルダの伝説』風のアクションゲームで、謎解きの要素がふんだんに盛りこまれている作品でした。そのため、実況プレイがアップロードされることにより、謎解きの部分はある程度「ネタバレ」されてしまったわけです。が、それにもかかわらず視聴者の方々がゲームを購入したのは、いったいどういう動機からなのでしょう?

視聴者たちの大量のコメント
視聴者たちの大量のコメント

おそらく「好きな実況者が遊んでいるゲームを自分もプレイしてみたい」や「ゲームを購入したほかの視聴者たちと同じ体験を共有したい」といったモチベーションがあるのではないでしょうか。筆者なども、仲の良い友人があるゲームを楽しそうに遊んでいたら、無条件でそのゲームに興味をいだきますし、多少内容を把握していたとしてもそのゲームが欲しくなります。ニコニコ動画のような”一体感”が強い場所では、そうした購買意欲の連鎖がおこりやすいのだろうと推測します。

たった一度の例ではあるものの、そのような体験から筆者は、実況プレイには宣伝効果がたしかにあるのだろうという結論にいたったのです。莫大な予算をかけられるAAAタイトルならいざしらず、100~200万円程度、あるいはそれ以下の宣伝費でやりくりせざるをえないような小規模タイトルの場合、制作者と縁もゆかりもないゲーム実況者が救世主となる、ということもありえなくはないでしょう。

 


いちおうクギを刺しておくと

 

ここまでごらんいただくと、筆者が実況プレイを礼賛している、または、どんどん実況動画をアップロードしろと言っているようにみえるかもしれません。が、かならずしもそうではないことを断っておきます。

すくなくとも現状ではゲーム動画を無許可でアップロードする行為が著作権の侵害となることは動かしがたい事実ですし、すべてのゲーム開発者がファン活動に寛容であるとはかぎりません。非公式動画に対して厳しいポリシーを持つゲーム会社ないしゲームプロデューサーもすくなからず存在します。動画の削除要請があった場合、のちのちおおきな問題に発展せぬよう速やかに削除に応じるのが無難です。

つけくわえると、ゲームのジャンルによっては、実況動画が負の効果をもたらす可能性も否定できません。たとえばビジュアルノベルのようなストーリー性が強くプレイヤーの操作スキルが介入する余地がほとんどない作品の場合、視聴者のなかで動画を観ただけでそのゲームが完結してしまい、「もう買う必要はないな」と、まさに機会損失を引きおこすこともありうるのです。実況プレイの効果はケース・バイ・ケースである、という点は肝に銘じておく必要があるでしょう。

 


ゲームをやろう、とうながす心

 

最後に、トリビアをひとつ。日本では実況プレイをはじめとするゲーム動画に「~をやってみた」や「~をプレイしてみた」といったタイトルがよくつけられますが、英語の場合は「Let’s play ~」というタイトルが多いです。頭文字をとって”LP”と略されることもしばしばあります。

このように「レッツ・プレイ」、「~をやろうぜ」と視聴者にゲームプレイをうながしていけば、そして権利者(と法律)がゲーム実況とそれを取りまく厳然たる事実を受けとめ適応すれば。実況者とゲーム製作側はウィン・ウィンの関係になり、両者の共存共栄へとつながることでしょう。

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Takumi Nango
ゲーム会社でローカライズ業務に従事しています。ローカライザーは舞台演劇でいうところの"黒子"のような立ち位置。あえてその黒子にスポットをあて、新旧問わずおもしろいローカライズ例を紹介していきたいと考えております。 オールタイムベストゲームはSFC『かまいたちの夜』。サウンドとテキストのみでも深い没入感を生みだせることを実証した名作です。舞台のモデルとなった長野県のペンションには、聖地巡礼としてこれまで数回宿泊しています。 東京都在住。本業のかたわらボードゲームのルールを英訳したり、米国人ゲーマーが執筆した書籍を和訳・出版したりもしています。その際は、おもに「羽無エラー(はねなしえらー)」のペンネームを使用。

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