『Risk of Rain』にみる「コンパクトさ」の魅力

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Risk of Rain』はじつに楽しい作品です。2Dアクションとして良し、(ランダム性に業前で挑む)ローグライクとして好し、マルチプレイパーティーゲームとして佳し。ものの1時間も触れば魅力が伝わる快作と言い切って過言ではないでしょう。ゲームの詳細については弊誌 UnFreeMan のインプレッションをご覧ください。

さて、では本作の中核にあたるものは何でしょうか。十人十色の愛情表現があるかもしれません。そして私は「コンパクトさ」にあるとみました。 『Risk of Rain』は徹頭徹尾スリムで身軽なのです。無論、虚弱体質ではありません。虚飾を排した細身の筋肉質です。要点は3つ。

 


1ゲームのスパン

 

見上げるほどにうず高い積みゲーの山は、高度に発達したゲーマーにとっては苦痛となりません。「こんなに選択肢がある! 今日(あるいは今)はどれをプレイしよう!」と歓喜の戸惑いを連続させてくれる幸福の一つです。

しかしながら逆にとらえると「同じゲームばかりプレイする苦痛」が発生するということでもあります。自分の意志で切り上げることが不可能だとは言い切りませんが、創り手により定められた規定のボリュームを消化しきりたくなるのもまたゲーマーの悲しい性。

『Risk of Rain』は20世紀の伝統的なアーケードゲームに近い時間感覚とプレイ感覚を持っています。1ゲームは普通にプレイしたら1時間足らず、道中で死んだ場 合は10分そこそこで終わるケースすらあります。いわゆる面クリア型のアクションゲームとしてはまさしく適量です。もちろんと表現すべきはわかりません が、エンドレスに遊ぶこともできます。

スキマ時間を埋めるようにゲームをプレイしたいわけではない、主体的にゲームに挑みたい、だけれども数時間も拘束されるのは身体的・精神的につら い……。そんなニーズを汲んだか否かはともかく、本作はコンパクトに遊ぶことを許してくれるのです。何十時間もダラダラと続き、どこで区切ればいいのか判 然としないビッグタイトルが散見されるこのご時世。このようなスパンは一服の清涼剤として機能します。

50時間かけてキャンペーンをクリアしたゲームは2度と起動しないかもしれませんが、『Risk of Rain』はたまに触りたくなります。そういう気分にさせてくれる気軽さを持ちあわせているのです。

 


少ないBGM

 

ゲームのサウンドトラックに少なからず思い入れのある私は、昨今のボリューミーすぎる傾向を好ましく感じていません。3枚組のゲームサントラは20年前からあります。ですが、それは一般化してしかるべき正答では絶対にありえません。

個人的見解ですが(と予防線を張っておきます)ゲーム音楽は1作50曲を超えたあたりから急激に個別の印象が薄まっていきます。例外はなくもありま せんが確実に少数派です。「この曲がある」ではなく「こんな曲もあったな」になってしまう、それが楽曲数の多すぎるゲームです。

ゲーム音楽はゲームとのかみ合いが第一義です。ゆえに、プレイ中にさえマッチしていれば問題ないという考え方もありうるでしょう。現に、環境音楽的な鳴らし方・手法はずいぶんと一般化しました。

それでもなお、私はゲームミュージックを聞くときにゲームの追体験をしたいと考えつづけています。曲を聞いた瞬間に思い浮かぶ情景、シーン、自ら創りあげたドラマチックな展開。それらと紐づけたいのです。

『Risk of Rain』のサウンドトラックに収録されているのは17曲(ボーナストラック含む)。根底にある洋ゲー的なアンビエントに”ゲームらしい”旋律の数々、起 伏のある曲調。聴けばステージとキャラクターを思い出し、静かな場所では思わず鼻歌を歌う。かつて誰しもがコンシューマーハードで通った道程を本作はト レースさせてくれます。

 


動く簡素な絵

 

もはや語るまでもなく、本作は一枚だけスクリーンショットを切り出すと限界まで質素な絵となります。そうした見方をすると不当な低評価につながりかねません。そう、不当です。

『Risk of Rain』の絵作りは「躍動感」に終始しています。歩く、ジャンプする、攻撃する。アクションゲームに求められるあらゆる演出から細かいこだわりが伝わ り、そしてそれはプレイヤーの快感へ直結します。動かすだけで気持ちいいドット絵というのは今日び絶滅危惧種に近い存在です。

何でもかんでも動けばいい・アニメーションを増やせばいいというものでもありません。そもそも冷静にカウントすれば本作の絵はさほど多い部類に入らないでしょう。しかし重要なのはそこではありません。動かし方と見せ方です。

映像作品の分野でしばしばみられるアプローチに「少ない工程でいかにして価値を付加するか」があります。『Risk of Rain』はその域に達しました。意識的にしろ無意識的にしろ、プレイヤーはどこを見るのか。古典的なドットグラフィックスをいかに動かせば迫力が出るの か。それでいて視認性を阻害しないのか。

とかく派手にすればよろしい・ゲームプレイなど二の次だとでもいわんばかりの装飾過多が散見されるなか、本作は簡にして要を得るを地で行く絵作りに成功しています。

 


ゲーマーが本当に必要だったもの

 

技術の進歩はとどまるところを知らず、ゲーム製作のアイデアは蓄積はされど破棄は滅多にされません。而して重厚長大的ゲームがメインストリームになるのは道理です。

ルールは複雑化し、グラフィックは精緻になり、サウンドは豪奢になり、プレイ時間は長くなり、マネタイズは効率化されます。すべてが肥大化はせずと も、たいていはどれかが大きくなるものです。集金システムだけが強大化したような最悪のケースですらいまだ邪悪と認知されきっていないくらいなのですか ら、この流れは止めようがありません。

『Risk of Rain』は、少なくとも上述の要素については確実にコンパクトにおさめきっています。人によっては簡潔すぎるように感じられるかもしれません。しかし、 それは昨今まれに見る快適さを生み出しました。ゲームを浴びるほどプレイし”飽き”の時間帯に突入してしまっている者ほどその居心地の良さを痛感すること でしょう。

こういうのでいいのです、こういうので。

 

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