『Guild of Dungeoneering』レビュー 冒険者をあやして育てる手のひらサイズのダンジョンクロール

 

ダンジョンクロール『Guild of Dungeoneering』のスマートフォン版が2016年7月21日に発売した。ダンジョンクロールはハックアンドスラッシュ(以下、ハクスラ)の一種で、戦闘と成長を繰り返しダンジョンを踏破する人気ジャンルだ。本作はターン制カードゲームで、言うことを聞かない冒険者のためにダンジョンを作る独自のパズル要素が光る。手描きのゆるいイラスト、キュートなキャラクターとモンスター、そして吟遊詩人の叙事詩。これらが和みと弾みをもたらし冒険者の無謀を喜劇に仕立てている。

その実、ゲーム設計は強固である。ダンジョンクロールの戦闘と成長を描いたデッキ構築型ゲームだ。成長に具体的な実感が、ドロップアイテムの吟味に楽しいジレンマがある。プレイに「真剣さ」を要する手ごわい難度と、新たな冒険者や装備のアンロックでプレイアビリティも高い。スマートフォンのプレイ環境が、1プレイ約10分のダンジョンクロールという本作の魅力を引き出した。

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Guild of Dungeoneering』スマートフォン版
開発元: Gambrinous
販売元: Versus Evil
発売日: 2016年7月21日
価格: 3.99ドル
プラットフォーム: Android/iOS

PC版は2015年7月14日発売。価格は14.99ドル、拡張DLCは4.99ドル。独創的なゲーム設計で海外メディアの評判も上々だ。スマートフォン版は一部レイアウトをのぞきPC版と同等の内容である。Google Play上のバージョン表記はv0.6.6だが、公式ツイートではv1.2とあるので安心されたし。なお、本稿スクリーンショットはスマートフォン版とする。

左: PC版の戦闘画面。右: Android版。ケータイサイズの画面にあわせ、カードの大きさやライフ表記を変更した。
左: PC版の戦闘画面。右: Android版。ケータイサイズの画面にあわせ、カードの大きさやライフ表記を変更した。

冒険者をあやして育てるダンジョンマスター

冒険者ギルド「Guild of Dungeoneering」はダンジョン攻略を生業とする集団だ。ダンジョンを攻略し、報酬でギルドを増築し、新たなダンジョンに挑戦する。ゲーム進行にギルド運営の要素はなく、得た報酬でキャラクターや装備品をアンロックするだけのシンプルなものだ。

ターン図解。プレイヤーは5枚の手札から最大3枚使いダンジョンを作る。ターン終了時、冒険者は自分の意志で動く。つぎに当てたい敵をプレイヤーが設計でき、強い装備が見つからないまま強い敵と鉢合わせする不運がない。
ターン図解。プレイヤーは5枚の手札から最大3枚使いダンジョンを作る。ターン終了時、冒険者は自分の意志で動く。つぎに当てたい敵をプレイヤーが設計でき、強い装備が見つからないまま強い敵と鉢合わせする不運がない。

ゲームプレイの中心であるダンジョン攻略は一風変わっている。プレイヤーは冒険者を操作できない。彼らの頭の中は名声しかなく、モンスターと財宝のにおいを嗅ぎつけて直進する。そんな無謀な蛮勇を助けるべく、プレイヤーは1ターンごとに5枚の手札から最大3枚使いダンジョンを作るのだ。通路カードでボスまでの道筋を作り、モンスターカードで冒険者を育て、時には財宝カードでおびき寄せる。冒険者側のプレイヤーがダンジョンマスターになる視点の変化にとまどうが、彼らの欲望を理解すれば、簡単に誘導できる単純なやつらに愛着がわく。

冒険者の行動パターンは次の通り。①自分よりひとつレベルが高い敵に向かう。②高レベルの財宝に向かう。こんな考え方では長生きできそうにないが、蛮勇も勇者の一面だ。
冒険者の行動パターンは次の通り。①自分よりひとつレベルが高い敵に向かう。②高レベルの財宝に向かう。こんな考え方では長生きできそうにないが、蛮勇も勇者の一面だ。

上記の独創的なゲーム設計を引き立てるのが、手描きでゆるいアートワークだ。冒険者もモンスターもデフォルメされ、かわいらしく、子供のような見た目である。また、アイルランド民謡をアレンジしたメインテーマにのせて歌う吟遊詩人の叙事詩もキャッチーだ。彼らの生死を他人事のように印象づける。そうしたアートワークで、キャラクターを直接操作できない不快感を「言うことを聞かせる」パズルゲームに仕立て上げた。

https://youtu.be/qkAEI5UBcm4

同ジャンル従来作との違いは、プレイヤーはダンジョン探索する側ではなく、させる側となった点にある。これにより成功を確約し、探索そのものを省略した。ハクスラの醍醐味である戦闘・成長を前面に出しつつも、冒険者を強化しつつ目的達成を目指すパズルゲームを追加し、要素の不足は感じない。1ダンジョン約10分ながらもプレイ体験は濃厚だ。

確かなダンジョン工学

『Guild of Dungeoneering』のタイトルに筆者はダブルミーニングを読み取った。ひとつはプレイヤーがダンジョンを作る点で本作と類似するボードゲーム『Dungeoneer』へのリスペクト。もうひとつは、ダンジョンとエンジニアリング(工学)の韻を踏んだ自負だ。前章で述べたパズル要素に、ブラウザゲーム『Card Hunter』を想起するカードバトルを組み込んだ。ダンジョン攻略のカタルシスと、デッキ構築型ゲームの勝利が一致し、達成感を充足する。これをゲーム設計から生み出した手腕は見事である。

戦闘はプレイヤーが操作する。物理・魔法の攻防に、手札の増減、防御不可や先制攻撃といった属性やもある。カード名「目をつぶったままパンチ」や、冒険者の表情、頭にかぶった鍋ヘルメットなど、気付くと楽しい小ネタが多い。
戦闘はプレイヤーが操作する。物理・魔法の攻防に、手札の増減、防御不可や先制攻撃といった属性やもある。カード名「目をつぶったままパンチ」や、冒険者の表情、頭にかぶった鍋ヘルメットなど、気付くと楽しい小ネタが多い。

上記のカードバトルは戦闘・成長に該当する。戦闘は冒険者とモンスターの1対1だ。モンスターは自分の山札から1枚引き、それをターンの行動とする。対してプレイヤーは自分の山札から引いた手札の中から1枚出す。お互いのカードで物理・魔法を攻防し、敵のライフをすべて減らせば勝利となる。トレーディングカードゲーム同様、山札はデッキであり、強いカードを加えると勝利に近づく。

装備は頭・右手・左手・胴体の4つ。保管枠はない。交換時は得るカードと失うカードが表示される。困ったときは、高レベル+高レアリティのアイテムを選ぼう。
装備は頭・右手・左手・胴体の4つ。保管枠はない。交換時は得るカードと失うカードが表示される。困ったときは、高レベル+高レアリティのアイテムを選ぼう。

本作はそのデッキ強化をダンジョンクロールの成長とした。戦闘後入手するドロップアイテムを装備すると、冒険者のスキルレベルが上がり、それに対応したカードがデッキに加わる。スキルレベルが高いほど便利で強いカードを得る。スキルの種類を増やせばデッキ内の平均カードパワーが増える。この仕組みで、デッキ構築型ゲームの核である「プレイ中のデッキ強化」をハクスラと一致させた。

『Card Hunter』のステータス画面。こちらは装備品=カードセットで、高レベル・高レアリティの装備で固めればデッキが強くなる。本作に興味を持ったゲーマーはこちらも試してほしい。基本無料ブラウザゲームの中では特出した出来だ。TRPG「カードハンター」を遊ぶナードたちというメタフィクション(俺たちのメルヴィン兄貴)はTRPGファンに刺さる。
『Card Hunter』のステータス画面。こちらは装備品=カードセットで、高レベル・高レアリティの装備で固めればデッキが強くなる。本作に興味を持ったゲーマーはこちらも試してほしい。基本無料ブラウザゲームの中では特出した出来だ。TRPG「カードハンター」を遊ぶナードたちというメタフィクション(俺たちのメルヴィン兄貴)はTRPGファンに刺さる。

それを更に色濃くしたのが、冒険者の成長リセットだ。ダンジョンごとにレベルと装備がリセットされ、プレイヤーにデッキ構築型ゲームの真剣なプレイを求めている。ここに、前章で紹介したパズル要素が加わる点も見逃せない。モンスターの弱点を突いてデッキを構築するもよし。苦手なタイプの敵を配置しないのも手だ。ダンジョン作成と戦闘・成長が連動した豊かなプレイ体験が、本作のダンジョンを満たしている。

スマートフォン版の強化点

『Guild of Dungeoneering』はダンジョンクロールとデッキ構築型ゲームの魅力を濃縮しつつ、その両者にないプレイフィールを持つ独創的なゲームだ。お気に入りのキャラクターを育成しつづける楽しみはないが、プレイに真剣さを要する難度で中だるみがない。『Diablo 3』におけるレジェンダリーガチャのような幸運集めと違った中毒性がある。

しかし、その育成要素の不採用で、序盤の冒険者が置物になってしまった。無用ならまだしも、ダンジョンに挑む冒険者の選択時に邪魔となるのは減点だ。また、最終エリアはアンロックした冒険者とダンジョンの難度が拮抗し、不運に翻弄されると徒労感が大きい。こうしたエンドコンテンツの不足が目立ち、PC版の価格は割高感がある。

左: タダで手に入る最初の冒険者。右: ギルドを増築して得た冒険者。初期カードと比較するとキャラクターの強さが明白にちがう。ダンジョン攻略で特技や欠点が増えるものの、プラスの影響は微々たるもので育成要素は無いに等しい。この初期カードを強化・交換できれば、彼らが置物にならずに済んだ。
左: タダで手に入る最初の冒険者。右: ギルドを増築して得た冒険者。初期カードと比較するとキャラクターの強さが明白にちがう。ダンジョン攻略で特技や欠点が増えるものの、プラスの影響は微々たるもので育成要素は無いに等しい。この初期カードを強化・交換できれば、彼らが置物にならずに済んだ。

スマートフォン版で強化された点はそこだ。可搬性が高く場所を選ばずプレイでき、1プレイ約10分のダンジョンクロール&デッキ構築型ゲームという本作の中核を強調した。カードゲームゆえタッチパネルのUIと相性がよい。また、価格改定もエンドコンテンツのサイズと釣合いがとれている。ゲーム内容に変化はないが、プレイ環境の変化でネガティヴな印象を打ち消すことに成功した。

本作はスマートフォンでもダンジョンクロールしたい筋金入りの冒険者におすすめの、愉快で手ごわいカードゲームだ。手のひらサイズで片手間に遊べるが、ハードコアなプレイ体験で夢中になれる。時間を忘れて没頭したあと、テーマソングで余韻に浸る、プレイアビリティの迷宮(ダンジョン)に挑戦されたし。

チンピラひとりしかいなかった無名ギルドが、多数の冒険者をかかえた一流ギルドになるのは感慨を覚える。ダンジョンは有限でクリア後のオマケはないが、最初からやり直して違うタイプの冒険者を使えばよいだろう。本作のダンジョンはいつでも真剣なプレイヤーに応えてくれる。
チンピラひとりしかいなかった無名ギルドが、多数の冒険者をかかえた一流ギルドになるのは感慨を覚える。ダンジョンは有限でクリア後のオマケはないが、最初からやり直して違うタイプの冒険者を使えばよいだろう。本作のダンジョンはいつでも真剣なプレイヤーに応えてくれる。