『Hyper Light Drifter』レビュー 想像力で駆動する世界創造のエンジン

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『Hyper Light Drifter』はハイファイ世代のピクセルアートが想像力の翼をもたらす2DアクションRPGだ。宮崎駿フィルムを想起する雰囲気の世界を、『Diablo』のハイテンポ戦闘でかけぬけ、『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』のように探索する、16bit機世代が夢見たゲームである。それらキーワードに反応するプレイヤー層を想定し、最初から難度が高いので、ゼルダオマージュに飽いたゲーマーも満足できよう。コンプ要素もクリア時間以上を要し、満腹になるまで堪能できる。

hyper-light-drifter-review-001本作の話題には、その「難しさ」が必ずあがる。アクションゲームの難度もそうだが、ストーリーがずばぬけて難解だ。ゲーム紹介に「主人公は病気の治療法をもとめて古代遺跡を探索する」とあるが、ゲーム中の演出は隠喩に満ちあふれており、本当にそれが病気なのか疑わしい。本作の見どころは、それらの考察に要する想像力をきたえる仕掛けにある。ピクセルアート。聞き手を信頼した背景。カタルシスと感動のセットを条件つけるレベルデザイン。それらが想像をかきたて、物語の最後のピースをかたちづくるのだ。

一度しか楽しめない「ネタバレ禁止」ものではないが、プレイヤーの初体験に重きをおく作風に配慮し、本稿は、その想像力をきたえる仕掛けの紹介にとどめておく。PS4・Xbox One版を待つプレイヤーは存分に期待されたし。そうした期待が、本作を味わう重要なスパイスとなろう。

 
hyper-light-drifter-review-002Hyper Light Drifter
開発元: Heart Machine
価格: 19.99ドル
発売日: 2016年3月31日
プラットフォーム: PC(Windows/Mac/Linux)、PS4・Xbox One(2016年予定)

2014年発売予定の本作は、約2年もの発売延期を経て完成した。その周辺情報と、開発者の意気込みについて、弊誌ニュースにとりあげているので一読されたし。

ジャンルは見下ろし視点の2Dアクションゲーム。フォロー元のゼルダシリーズと同じだ。プレイヤーは剣と銃、そしてダッシュを駆使し、敵の猛攻をかいくぐりながらダンジョンを探索する。途中、敵をすべて倒すまで閉じ込められるモンスタールームや、剣や銃でスイッチを押すギミックがあり、最深部では手ごわいボスが行く手を阻む。オーソドックスなゼルダオマージュである。

ダンジョンは2層構造。地表の古代遺跡と、地下の古代文明。地下への入口は地表のそれとリンクしている。主人公の位置は正確に表示されないので、ダンジョンの形状とマップを照らし合わせ、根気強く探索されたし。
ダンジョンは2層構造。地表の古代遺跡と、地下の古代文明。地下への入口は地表のそれとリンクしている。主人公の位置は正確に表示されないので、ダンジョンの形状とマップを照らし合わせ、根気強く探索されたし。

銃・剣・ダッシュの使い分け例。敵の攻撃モーションはわかりやすいが、その行動ルーチンは手ごわい。
銃・剣・ダッシュの使い分け例。敵の攻撃モーションはわかりやすいが、その行動ルーチンは手ごわい。
攻撃は剣と銃だ。剣撃するとエネルギーがたまり銃撃できるようになる。剣は攻撃判定が大きく複数の敵を同時に攻撃できるものの、動きが制限され、これに頼ると敵の攻撃を回避できない。銃は剣よりも長いが退き撃ちできず、判定が小さいので遠距離狙撃は難しい。優秀だが穴のある2種類の攻撃が、敵へ近寄るスタイルを推奨する。当然、これは敵の手が届くことを意味するので、敵の攻撃モーションを見てダッシュで回避しなくてはならない。この攻めと避けのメリハリに、低いライフ上限と敵の個性があいまり、積極的でスリルある戦闘に仕上がっている。

アクションゲームに慣れ親しんだゲーマー向けの難度で、不得手なものにはかなり厳しい。しかし、部屋ごとにセーブポイントがあり、ライフ回復アイテムの出現も多い。プレイヤーのミスを罰するための難度ではないので安心されたし。また、探索で剣技、銃、ダッシュ強化を手にできる点が救済処置として機能する。モンスタールームやボス戦で行き詰まってしまうなら、別のエリアを探索し、強化してから挑めばよい。そうした探索の魅力は、美しいピクセルアートが保証している。

 

「ハイファイ世代のピクセルアート」

現代のインディゲームで人気の映像スタイルは、ドットのひとつひとつが視認できる低解像度を模したドット絵だ。これは単に、映像技術競争の回避策だけでなく、アート性もかねることが多い。特に、8bit・16bit機にあった色数制限を課したものはピクセルアートと称され、単なる低解像度と一線を画した扱いにある。本稿では以降「ドット絵」と記述する。

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ゲーム機のスペック向上による美麗なポリゴン映像。Unity・Unreal Engineなど3Dゲームエンジンの普及。先の、統合開発環境で導入できるアセット。こうしたゲーム技術でドット絵のコストは相対的に高くなった。それでもドット絵の人気が根強いのは、大きく分けてふたつの演出手法があるためだ。

JRPG『勇者30』はアートワークで8bit機世代のRPGを想起させながら、それらのお約束といえるレベル上げやストーリーを高速化したギャップが魅力だ。ハイレゾ用のカートゥーンタッチもあるが、ファミコン世代のゲーマーなら、ドット絵の女神さまのほうが可愛く見えるだろう。
JRPG『勇者30』はアートワークで8bit機世代のRPGを想起させながら、それらのお約束といえるレベル上げやストーリーを高速化したギャップが魅力だ。ハイレゾ用のカートゥーンタッチもあるが、ファミコン世代のゲーマーなら、ドット絵の女神さまのほうが可愛く見えるだろう。
ひとつは、過去のゲームを想起し、そのノスタルジーを演出に用いる手法である。古今、積極的に用いられる手法であり、枚挙にいとまがないため割愛する。ゲームの世界をテーマとした映画「シュガーラッシュ」をその代表例にあげておく。

もうひとつが、ローファイ(低再現度)を逆手にとり、プレイヤーに想像の余地を残す手法だ。本作は解像度以外の面でハイファイ(高再現度)品質を用い、想像を喚起させ情景をつくりあげた。効果音や光源処理、セールスポイントの「アニメーション」が、開発者が口にするとおり世界に命を吹き込んでいる。

そういったローファイとハイファイの合わせ技だけでなく、アクションパートにも想像をかきたてる仕掛けがある。背景にかくれた隠し通路や、ダッシュでギリギリ渡れる足場、といった隠し部屋の探索がそれだ。ライフ回復や主人公強化など実益があり、想像がプレイングを助けている。想像と実益が、ゲームとプレイヤーの相互作用と一致し、目にするもの以上のものが存在する空想の世界をつくりあげる。

ゲーム開始直後のチュートリアルより。画面左のようになんらかの目印があり、それにそって進むと画面右のような隠し通路が明らかとなる。カメラワークが徹底しており、その隠し通路を踏んではじめて画面がスクロールするのだ。「このゲームは隠し通路を探すゲームです」とはじめからしめしている。
ゲーム開始直後のチュートリアルより。画面左のようになんらかの目印があり、それにそって進むと画面右のような隠し通路が明らかとなる。カメラワークが徹底しており、その隠し通路を踏んではじめて画面がスクロールするのだ。「このゲームは隠し通路を探すゲームです」とはじめからしめしている。

 

「言語に頼らない物語体験」

『Hyper Light Drifter』はローファイな映像をハイファイな演出で補完し、プレイヤーの想像をうながした。想像力は最高のゲームエンジンであるが、適切に「消費」されねば暴走し、空想した世界を破壊する危険な代物でもある。本作はそのはけ口を世界と物語に用意した。明確な説明を避けた数々の隠喩で、受け手に世界創造の一端を担わせたのだ。

海外製ゲームで気になるのは「日本語があるかどうか」だ。残念ながら本作に日本語はない。しかし安心してほしい。日本語どころか英語も、そのほかの言語も存在しない。重要人物の会話はすべてヴィジュアルによる表意形式だ。数枚の絵でその土地の歴史が語られ、その読み取りは受け手であるプレイヤーに一任してある。ここで、前章にあげた仕掛けで喚起した想像がそそぎこまれることとなる。

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そうした受け手への一任は会話やイベントシーンだけではない。ダンジョンや敵の造形にも含まれている。世界を破壊した巨人の亡きがらや、コケがむすほど時が流れた古代遺跡、そして地下の超科学文明が、沈黙しつつも過去を雄弁に語りかける。また、現代と古代のあいだに、原住民の勢力争いといった陰惨な歴史もあり、これが物語の始点・終点を大きく揺さぶる。そうした世界と物語の解釈には個人差があり、目にできないものを見る遊びの魅力となる。

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こうして、アートワークで喚起した想像力は、のこらず空想世界の解釈にそそぎこまれる。物語の聞き手=プレイヤーの能力を信頼しつつも、語り手=開発者はコミュニケーションの責任を放棄していない。『ゼビウス』における小説「ファードラウトサーガ」のような、ゲームを補完する物語が、ゲーム中に断片として存在する。それらをみつける鍵「想像力」の源泉は感動だ。本作はこの感動を、アクションパートでうみだした。

 

「期待という香辛料」

本作のアートワークや語り手の手口は、とても高い品質ではあるが、めずらしいものではない。そうした見るゲーム・読むゲームは、ポイントクリックアドベンチャーとして確固たる地位を築いている。最近発売された『Samorost 3』が好例だ。それらと比較し、本作には決定的な違いがある。ゼルダオマージュの中でも特記に値する高難度が、世界の謎に迫るのを拒むかのように立ちふさがるのだ。

部屋の入り口やモンスタールームの手前にはセーブポイントがあり、主人公が死ぬと自動でロードされる。スピーディなリトライでやる気が途切れず、難度に懲罰的な意図を感じない。
部屋の入り口やモンスタールームの手前にはセーブポイントがあり、主人公が死ぬと自動でロードされる。スピーディなリトライでやる気が途切れず、難度に懲罰的な意図を感じない。
死亡時の巻き戻しがなく、手軽さとやり応えを両立したレベルデザインは、『Halo3』の難度レジェンダリーを想起する。幼少のころからアクションゲームを遊んできたプレイヤーでも、気を引き締めて挑まねばならない。筆者もその口で、ゼルダオマージュには少々飽いていたが、本作の、目の覚めるような難度に幾度も尻尾を巻いた。初めてのボス戦は一呼吸の合間に殺され、「負けるイベントなのでは?」と勘ぐったほどだ。

こうした難関をのりこえカタルシスに浸るところで、本作は報酬を用意している。余韻が覚めやらぬうちに、息を飲む光景が目の前に広がるのだ。アクションパートのカタルシスで感受性を高めておいてから、アートワークで心を揺さぶり想像をかきたてる。この構成を数度体験すると、難関=先の感動という条件付けが完成し、期待にはやる心を抑えることはできなくなるだろう。

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頻繁にあるセーブポイント・回復アイテムのおかげで苦痛こそ少ないものの、アクションを不得手とするゲーマーのやる気を折りかねない難度だ。ある程度の救済処置はあるが、上達するしかない。戦闘だけでなく探索の難度も高く、筆者はコンプ要素の収集で数回折れた。だが、本作は困難の先に必ず感動を用意している。その期待が、再度挑戦しようと奮い立たせる。この行程を通じ、つくりこみへの信頼が高まると、開発者がプレイヤーのやりこみを信じてくれたことを感じ取れるだろう。厳しさの中の愛が、過ぎ去った感動の再現を超えた、プレイに値するオマージュに昇華している。

 

「語るな。されど黙すことなかれ」

『Hyper Light Drifter』は想像力で駆動する創造のエンジンが、力強いプレイ動機をうみだすゼルダオマージュだ。ローファイな映像とハイファイな演出が、魅力あふれる空想の世界をプレイヤーの心に創造する。聞き手の想像力を信頼した語りすぎない背景は、そうした空想をすべて受け入れ、プレイヤーをダンジョン探索へと駆り立てる。そこに立ちふさがる苦痛すれすれの難関は、カタルシスと感動が約束されており、焦がれるような期待がプレイヤーの心を支え続ける。その3サイクルが回転し、物語に欠けた最後のピースをつくりあげるのだ。

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オープニングからメタファーが織りなす難解な物語だが、想像力でそれらをむすびつけ、行間を読むことで、主人公の冒険が完結する。だが気をつけてほしい。その物語はプレイヤーの心の中にある最後のピースで完成するのだ。そして、その想像力の結晶は、ゲーム中に体験する「言葉にしたくなる感動」によってのみ育つ。これが、本稿でプレイ時間をはじめとする具体的な話を避けた理由だ。本作のプレイ体験は、語りすぎず受け手側の想像力を信頼することで成立している。

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本作に小手先だけの新要素は存在しない。開発元Heart MachineがKickstarterで告知したのは、全く非常識なことであり、それで十分なのだ。『Diablo』と『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』の良い部分を融合した現代的なゲームシステムで、宮崎駿フィルムを想起する雰囲気の世界を探索する、8bit~16bit全盛期へのリスペクトをつめこんだ2Dアクションゲーム。一切の誇張なく、彼らはそれを完遂した。

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