『AI War』 3000体 vs. 50000体のロールプレイングゲーム


AI War』はユニークな宇宙リアルタイムストラテジーだ。開発・販売はArcen Games。2009年10月21日発売。プラットフォームはPC(Windows Mac Linux)。価格は全DLC付きで17ドル

しかしその価値、すなわちユニークさは凡庸なユーザーインターフェース(以下 UI)に足を引っぱられている。ゲーム概要と合致したUIになれば、秘めたポテンシャルを発揮できるだろう。ただし開発者はすでに改善の意思をしめしているので期待できる。

多くの「ユニーク」は数年経てば古びてしまう。ゆえにユニークと評価されつづけるゲームは少ない。一方本作は発売から今日まで約6年間ものあいだサポートを継続しており、2014年8月18日に6本目のゲーム拡張DLC『Destroyer of Worlds』をリリースした。メーカー公式発表によると2014年7月14日に売上は累計130万ドルへ達した(DLCふくむ)。ちなみに、これだけの期間にわたり同一作品の改善に腐心し、続編開発の形にしていないという点でもユニークとしてかまわないだろう。

人気の秘密はシングルプレイへの特化にある。

 


特化したプレイ体験

 

本作はシングルプレイのメリットを生かしている。大きくわけて2つある。非対称ゲーム設計と、ゲームの一時停止を前提とした情報量。これが、すべての物事が同時に進行する「リアルタイムロールプレイングゲーム」というプレイ体験を生みだした。

本作のストーリーは非対称ゲーム設計を象徴している。AIが反乱し人類が滅亡寸前までおいこまれたところから本作は始まる。プレイヤーは人類軍、コンピュータープレイヤーはAI軍を操作する。人類はAIから星系や技術を奪取して軍を拡大し、AI本拠地を撃破する。一方、AIは人類の行動を罰するだけで積極的に人類を滅ぼそうとしない。AIはRPGのモンスターさながら、倒されるために存在する。

ゲームの一時停止は膨大な情報をとりあつかう複雑なゲームプレイを可能にした。操作する星系は最大120個。ユニットは100種類以上におよび、攻撃ユニットはゲーム開始10分で200体を越える。終盤では1500体~3000体までふくれあがる。さらには操作不能の友好種族や、経験値で強化しアビリティを使用するヒーローユニットもある。これをむかえうつAI軍の総数は5万体を超える(公式トレイラー参照)。この情報量は一時停止ができない対戦ゲームに不向きだろう。だが、本作をRPGとして解釈した場合、豊富なクエスト・武器・仲間などのいわゆる"ボリューム"とあわせて歓迎される要素たりうる。

 

左下の大きな船が宇宙船。まわりにいるケシ粒が戦闘艇。 それぞれにステータスや攻撃倍率など説明がある。一時停止のおかげでじっくり読める。
左下の大きな船が宇宙船。まわりにいるケシ粒が戦闘艇。それぞれにステータスや攻撃倍率など説明がある。一時停止のおかげでじっくり読める。

 

クリアに10時間~15時間要することから、人間同士の対戦ゲームを前提としたRTSではなく、やはりRPGと考えればおさまりがよい。名作『ドラゴンクエスト』にたとえれば、プレイヤーは勇者、AIは竜王にあたる。竜王軍は勇者の不注意を罰するために存在し、レベル1の勇者を殺すためにラダトーム城まで出向かない。やられ役は"AI"が担当し、人間プレイヤーは勇者の楽しみに没頭できる。本作のユニークなプレイ体験とは、4X-RTSの手法を用いたRPGである。これはシングルプレイに特化することで生まれた。

 

AIがあたえる罰は容赦ないが公平だ。AIは領土内の戦闘で発生したユニット残骸を回収し、報復艦隊(WAVE)を人類星系におくる。攻撃する星系や到着時間、WAVEの内容はわかるので対処する時間はある。WAVEが強いゲーム後半では懺悔する時間となる。
AIがあたえる罰は容赦ないが公平だ。AIは領土内の戦闘で発生したユニット残骸を回収し、報復艦隊(WAVE)を人類星系におくる。攻撃する星系や到着時間、WAVEの内容はわかるので対処する時間はある。WAVEが強いゲーム後半では懺悔する時間となる。

 


RPGのやりこみプレイを内包

 

一部のRPGはストーリーをうたい文句とする。『AI War』にそれはなく、正反対であるとすらよべる(その点だけ切り出せばRPG"らしく"ないかもしれない)。どちらかといえば、リアルタイムアタックをはじめとする攻略プレイにおいてこそ秘められた価値は発揮される。しかし、いわゆる「やりこみプレイ」は当然ながらゲームの全容を把握してようやくなしえるものだ。敷居は低くない。だが、その敷居を乗りこえたプレイヤーには攻略ルートを計画する楽しみというご褒美が待っている。

 

戦闘艇・宇宙船あわせて約1000機の人類軍艦隊。これでもAI軍とくらべちっぽけなもので、考えなしにぶつけると溶けるようになくなる。
戦闘艇・宇宙船あわせて約1000機の人類軍艦隊。これでもAI軍とくらべちっぽけなもので、考えなしにぶつけると溶けるようになくなる。

 

  • タイムアタック
    人類星系・中立星系が隣にあるAI星系は、時間経過で防衛ユニットが増える。高レベルユニット星系の周囲をとり、対処せずに放置すると星系の攻略は不可能となる。
  • 攻略ルートの最適化
    AI星系を陥落させるごとにAIの注意をひき、AIが人類星系におくるWAVEが強くなる。余分な星系攻略は防ぎきれないWAVEをもたらす。
  • 低レベルクリア
    AI軍が持つ強力な防衛ユニットを倒すにはユニット相性と相乗効果が欠かせない。数をぶつけるだけでは消耗し不利となる。

 

AI軍ははじめから強力なユニットを持つ。Fortressは高い攻撃力・耐久力を兼ねそなえた要塞だ。しかし、装甲タイプPolycrystalには攻撃力が1%に減衰する。相性を考慮し無駄な損失をおさえるべし。
AI軍ははじめから強力なユニットを持つ。Fortressは高い攻撃力・耐久力を兼ねそなえた要塞だ。しかし、装甲タイプPolycrystalには攻撃力が1%に減衰する。相性を考慮し無駄な損失をおさえるべし。

 

RPGからストーリーを切り離せば何が残るか。本作は答えのひとつである。AIは遅延行為にペナルティをあたえる。ペナルティをさけるため遅延行為をなくせば何が残るか? それはやりこみ・攻略の悦楽だ。ランダム生成されたマップはフリーシナリオシステムとしてはたらき中毒性をもたらしている。

 


最大の敵は不完全なUI、しかし希望はある

 

本作は「シングルプレイに特化したリアルタイムRPG」という、ユニークな作品性を持つ。しかし残念なことに、その妙味をうまく伝えるUIとはいいがたい。あげればきりがないので、先に紹介した要素についての不満点にしぼる。

  • ゲームの一時停止が前提のゲーム設計にもかかわらず、画面内に一時停止、早送り、スローの操作ボタンがない。キーボードのPauseボタンを必要とする。一時停止の頻度を考えればスペースバーが妥当だろう。
  • ギャラクシーマップの使い勝手が悪い。マウスオーバー中の星系しか情報を表示しないため、近隣星系の概要を一望できず、攻略ルートを決めるのがわずらわしい。各星系の重要ユニットを常に表示すればルート探索は楽になっただろう。

 

ギャラクシーマップのUIについて。左下の星系情報で、重要ユニットや希少資源などのアイコンが並んでいる。星系全体でこの重要情報を常に表示しないため、短期記憶をためされて不快感がつのる。
ギャラクシーマップのUIについて。左下の星系情報で、重要ユニットや希少資源などのアイコンが並んでいる。星系全体でこの重要情報を常に表示しないため、短期記憶をためされて不快感がつのる。

 

先に述べた「ゲームの全容を把握する」難度の高さも欠点としてあげられる。チュートリアルをプレイし、低い難度でクリアしてはじめてスタートラインに立てる。本作の醍醐味「RPGの攻略プレイ」に到達するまでに時間がかかりすぎる。せめて初見の重要ユニットに遭遇するたびイラスト付きの紹介文を出すなどの配慮があれば、より強くプレイヤーを牽引できただろう。

不出来なUIだが、代替品や上位互換がないユニークなプレイ体験は、なかば魔力じみており一度知ってしまうとあらがえない。RPGの攻略が好きなゲーマーや、普通のRTSに飽いたゲーマーなら、本作のとりこになるだろう。もし興味をお持ちになったのなら公式wikiが攻略の助けとなるのでさきに一読をすることをおすすめする。

無償アップデートも続いており、冒頭で述べたように開発者がUIを改善する意思をみせているので、本作にはまだ進化の可能性はある。今からでもやりこみは報われるだろう。

ちなみに、ゲーム拡張DLCふくめ総計6時間弱のサウンドトラックは、宇宙ストラテジーの"悪しき伝統"といえるアンビエントではない。メロディラインがしっかりしているため、どちらかといえばイージーリスニングに適している。