稀代のインディータイトル『ラ・ムラーナ』にみる“ガチ”の本質

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インディー系ゲームにさほど興味はなくとも、『LA-MULANA』 の名前を聞いたことのあるゲーマーは多いことでしょう。独立系開発タイトルでありながらWiiウェアとしてリリースされたほか、日本では初となる Steam Greenlight 通過作品でもあります。また、多言語対応にあたり国内向けダウンロード販売プラットフォーム PLAYISM を擁する Active Gaming Media が尽力したことも特筆すべきでしょう。

今配信されているものがアレンジ版であること、元ネタが MSX『ガリウスの迷宮』であること、海外向け配信についてたびたび揉めたことなど、伝説めいたものも含む様々な逸話がファンの間では共有されています。ここではそういったトリビアはひとまず置いておきましょう。

 

地獄の入口。
地獄の入口。

 

『LA-MULANA』はその難度の高さがしばしば指摘され、そして評価につながっています。また、公式自ら”ガチACT 遺跡探検考古学アクションゲーム”と銘名することからもその「ガチ性」が垣間見えます。

では、なにが「ガチ」なのか。どこが難しいのか。これは意外に伝えられていないように感じます。そこで、『LA-MULANA』の面白さとガチさを いくつかに分解してみましょう。スクリーンショットと PV を一目見れば2Dスクロールタイプのアクションゲームであることはすぐに分かります。しかし、その本質は奥深いものです。

 


Metroidvaniaなのか? – 少し違う

 

探索型『ドラキュラ』シリーズや『メトロイド』と類似点の多い作品は”Metroidvania”と呼ばれることがあります。『LA- MULANA』も同スタイルを採用していると評しても差し支えないでしょう。しかし、一般的な Metroidvania 系タイトルと本作が一線を画する大きな理由があります。それは「殺しにかかってくる」点です。

デファクトスタンダードを築いた『月下の夜想曲』を含めたほとんどの Metroidvania は「紆余曲折あれどクリアすることはできる」調整に着地させてあります。一方の『LA-MULANA』は、「できる限りプレイヤーからクリアを遠ざける」 というほぼ真逆のスタンスです。

よくある「単純に難度を上げてしまえばよい」といった思考停止ではありません。頑張ればどんなレベルのゲーマーでもクリアできるでしょう。が、その ハードルはまったく低くありません。インディーゲームでありながら公式から攻略本(デジタル)が配信されていること、そしてそれを読むことを推奨されてい ることからうかがい知れます。

つまり、Metroidvania を期待して買うと背筋が凍るような体験をするハメになるということです。一般的なそれからは逸脱しています。開発陣は MSX で育ったクリエイターで占められていることを忘れてはなりません。丁寧に導線を辿っていって適当にアクションをこなせばエンディングを拝める、『LA- MULANA』はそんな作品ではないのです。

 

 


アクションゲームとしてのガチ – 適温の熱湯

 

『LA-MULANA』が2Dアクションゲームとして難しいか?と聞かれたら筆者は即答で No と答えます。

まず 2DACT かかる難度の概念は『Super Meat Boy』あたりに端を発するいわゆる「死にゲー」の台頭で再定義されています。そういった作品においては、ゲームスピードを上げた結果、例えばかつてのテ ンポでは無茶だと解釈されたようなギリジャンでもすんなりとプレイヤーに受け入れられるでしょう。環境がゲーマーを教育し、難しさを体感するためのハード ルが上がっています。

他方、本作は死にゲーではありません。やたらスピーディーなリスポーンではなくきちんと Game Over 演出がありますし、そこら中に即死する針が敷き詰められているわけでもありません。

ただし、標準的な Metroidvania と比べるとかなり難しいことには間違いありません。ボス戦ではパターンを構築するまで繰り返しコンティニューするハメになるでしょうし、ここぞとばかりに 攻撃してくるダメージトラップも多数あります。そして半ば絶望的なギリジャンもきちんと用意されています。

つまり一言で表現するならば『LA-MULANA』は「ゲームに慣れた人間が直感的に予想する難度を上回ってきている」ということ。繰り返しプレイ することできちんと倒せるようになる(であろう)ボスをはじめ、要所を押さえた・きちんとした難しさ。それが『LA-MULANA』のアクションにおける ガチです。

付け加えると、アクションゲームとしての根幹部分の完成度の高さがそれを実現しています。ジャンプの挙動や攻撃のモーションなど、2DACT のコアとなる部分が独特な要素も織り交ぜつつ構築されており、またゲーム側もそれを考慮したレベルデザインとなっています。不自由さから発生する快楽、そ してその枷が外されるカタルシス。古典的ゲームにある楽しさの源泉がそこにあります。また、パターンを組み立てる過程は後述の思考性を含んでいるともいえ るでしょう。

 

考えて倒す。
考えて倒す。

 

 


パズルゲームとしてのガチ – 精神力と思考力を削ってプレイ

 

ここが最大のポイントです。誤解を恐れずにいえば、『LA-MULANA』はアクションとしてではなくパズル・思考ゲームとして難しいのです。そもそも、このゲームで頭を使わされることになるとプレイ前に思うでしょうか? そう直感で読み取れる人は少数派でしょう。

インディーゲームを触るような層は、上述の通りある程度までならアクションには訓練されています。タイミングよく順番にボタンを押すことならば可能でしょう。しかし、思考することとなれば話は別です。

パズルゲーム、考えるゲーム。インディーでは少なくないジャンルです。コンシューマでも『逆転裁判』シリーズや『ダンガンロンパ』シリーズなど有名タイトルは複数あります。それらをプレイしていればちょっとくらい教育されそうなものです。

残念ながら『LA-MULANA』にはそれでは太刀打ちできません。それくらい異質です。『TRICK×LOGIC』を鼻歌交じりに解けたような鬼才ならともかく、凡夫には本作は巨大な怪物的謎解きゲームとして映るでしょう。

求められるのは、観察力・分析力・推察力。比較的たやすいアクション部分をこなしながら、ひたすら考えることを要求されます。結果的にアクションも難しくなります。知性に欠いた某刑事でなくとも、多くの人間は同時に2つのことは考えられません。

本作では背景のオブジェクト一つ一つ、ほんの僅かな違和感を手がかりに答を導き出すことはザラ。ただのフレーバーテキストに読めなくもない文章にす らクリティカルなヒントが秘められていたりします。フラグが立った音なんてほとんど鳴りません。一度重要な情報を見逃してしまえば、広大なマップをブル ドーザー作戦するはめに陥ります。

ゲームとしてのバックアップは存在し、各所に散りばめられたメッセージはすべて保存することができます。しかし、それもゲーム内での制約つきです(パッシブの Buff 効果として枠を喰う)。なかなか情け容赦ありません。

 

なお、よく言われる即死トラップはこの一要素に過ぎません。血眼になりながらゲーム画面を分析する目的が罠かフラグか、それだけの違いです。本気でプレイしていればどうということはありません……という思考の間隙を突いてくる即死トラップももちろん設置されています。

(これはヤバいって)見たらわかるだろ!
(これはヤバいって)見たらわかるだろ!

 

見た目はアクション、実質アクション、でも中核は思考パズル。それが『LA-MULANA』のゲームとしてのガチであり、本質です。クリアできないと嘆く/嘆いた人のほとんど(筆者含む)は思考部分でつまずいたことでしょう。

『LA-MULANA』は訓練されたゲーマーをおびき寄せ殺しにかかる誘蛾灯なのです。

 

解読せよ。
解読せよ。

 


設定としてのガチ – ゲームの土台

 

必死に各地の碑文やメッセージを紐解けばわかるように、本作は背景や物語などの裏方設定がじつに細かく創りこまれています。それとなく世界観を類推 させるたぐいのものではなく、文章量もかなりのボリュームに及びます。きっちり謎解きしていかなければ、そう、攻略だけガン見しながらトレースしていった ら「で、このラスボスって誰なの?」になること間違いなしです。

奥深い LA-MULANA ワールドとあわせて挙げたいのがグラフィックスとサウンド。まずグラフィックスは見ての通りなのですが、勘所を心得たモーション群は20世紀のゲーマーた ちを満足させるに足る躍動感を獲得しています。ムチをひっぱたくモーションと SE だけで思わずずっと攻撃ボタンを連打してしまう、そんな症状が出るあなたはきっとたくさんゲームをプレイしています。

また、ゲームミュージックに目がない筆者としてはそのBGMも見逃せない要素です。使い回しを徹底的に排除しながらも、ゲーム自体のループ性(よう するに何度も死ぬこと)とあわさり印象に残るメロディで満たされています。地表のBGM「Mr. Explorer」は言うに及ばず、マップの構造上ハブとなる地点で流れる「Moon Light Dance」あたりは強く耳に残っています。サウンドトラックは Bandcamp で配信中、だいたい15ドルくらい。

 

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まとめ

 

『LA-MULANA』は面白いのか?は愚問です。YES でなければこのような文章を書き連ねる理由はありません。

レトロでありながらモダン、平易でありながら難解、楽しくも苦痛。二律背反的な、いわば「いかにもゲーム」なゲームらしさを秘めた快作です。どちら かの軸だけを求める人にはもしかすると合わないかもしれません。人を選ぶことは確かです。ただ、もし”選ばれる”ことができたなら、公式の主張する50時 間といわず、もっとディープなラ・ムラーナ遺跡へ迷い込むことができるでしょう。

余談ではありますが、本作は先に述べたとおり Steam Greenlight 通過作品です。最近セールされていた折に Greenlight タイトルをいくつか購入したほか複数のタイトルを吟味してみました。結論は、「やはりLA-MULANAは規格外だ」。なぜこんな完成されたゲームがわざ わざ Greenlight 送りなんかになったのか?といった疑問はさておき、雑と評するしかないタイトルも入り乱れる中ひときわ輝いている本作を手にとってみるのはいかがでしょ う。舌に合えば天国、合わなければ攻略本をお買い上げください。

 

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