『LUFTRAUSERS』 魅力的な手触りと簡素すぎるスコア周り


Luftrausers』はオランダを拠点とするVlambeerが開発したアーケード型進行のシューティングゲームだ。プラットフォームはPC(Steamなど)/PS3。定価は9.99ドル。

Vlambeerは『Super Crate Box』、『Ridiculous Fishing』とすでにヒット作を繰り出してきたスタジオだけあって、開発段階の体験版から期待が高い作品であった。完成作のセールスも良好で、すでに一定の評価を勝ちとったように思える。

内容は極めてシンプル。明らかにオーバーテクノロジーな戦闘機”Rauser”を操作して、迫り来る敵機や戦艦を撃墜していく。操作は非常にシンプルで上左右による機体操作とショットボタンのみ。自機の耐久力は攻撃をくらったり、海中や雲海に突入したりすることで低下するが、ショットを撃たなければ自動的に回復するシステムだ。

一見すると全方位STGのようだが、後述するように操作感に癖があり、フライトコンバットシムの現代的な解釈ともいえなくない。ステージ制ではないため、クリアという概念はない。よって、プレイヤーの目的はRauserのパーツのアンロックして、ひたすらハイスコアを更新することだ。

 

このシンプルさはキーボードでプレイするのに相応しい。

 

 


新しい革袋に盛られた古い酒

 

ミニマルなドット絵とカラーリング、単純明快なゲームメカニック、一見して古き良きアーケードゲームを彷彿させる本作。しかし、実際には非常にモダンなゲームデザインの思想が感じられる。

真っ先に指摘されるべきはリスタートの圧倒的な手軽さ。もとよりキャラメイクなどと無縁なSTGは、ボタンを押せばすぐに開始できるが、本作はリザルト画面から上を2度押すだけで再挑戦が可能だ。リスタート時のストレスは皆無であり、プレイヤーは自然にスコアアタックの魅力にハマっていく。

次はアイテムアンロックと豊富なミッション。自機はWEAPON、BODY、ENGINEのそれぞれ5つのパーツを組み合わせることで構成が可能。これらのパーツはゲームの進行に応じてアンロックしていくため、始めたばかりのプレイヤーにもモチベーションを与えてくれる。さらに特定の条件によってアンロックされるミッションは、100以上というかなりのボリュームだ。

これらの特徴はスマートフォンやF2Pのゲームによくみられるものであり、シンプルなゲームのライフサイクルを延ばすための常套手段といえよう。そして、これらのデザインはおおむね成功しており、「どうせすぐに飽きるのではないか」と懐疑的であった筆者自身のプレイ時間もけっして短くはない。ワンプレイ1分に満たないゲームということを前提にすると、これはまんまとハマってしまったとでもいうべき事態だ。

 

3パーツを組み合わせて機体を構成。
3パーツを組み合わせて機体を構成。

 


重力と戯れる一点突破型の面白さ

 

このようなモダンなコーティングをはぎ取れば、本作の最大の魅力は個性的な操作感、それ一点にある。

一般的なSTGとは異なり、本作は垂直方向に重力の概念がある。そのため自機の操作はプレイヤーの入力に常に追随するのではなく、自機の加速度と重力によって決定される。上の入力によって自機は前方に加速、左右の入力によって旋回するわけだが、最初は思うように操れない。

この操作感はSTGというより、むしろ原始的なフライトシュミレーターのような手触りだ。移動操作の正確な入力よりも、自機の慣性を読み取ってリアルタイムに微調整していく。操作に慣れると、宙返りして敵機の背後を取ったり、急旋回による敵編隊を巻くことが可能となり。これらのマニューバーを活かしたドッグファイトが本作一番の華となる。

 

海上スレスレでターンするといった芸当が可能。
海上スレスレでターンするといった芸当が可能。

 

また加速度を含めた機体の挙動は、Rauserのパーツの組み合わせによって変化する。高スピードで大空を駆けまわる機体からホバリングによって空中静止が可能な機体まで、組み合わせによって複数の操作感が体験できる。そして、ホーミングミサイルやレーザーといった武器も、これらの挙動にふさわしいものを選択する必要がある。

実際にすべてのパーツをアンロックして、ほとんどの機体構成を試してみた。どれも一長一短があり、極端に強い弱いといった構成はない(最後にアンロックされるネタパーツは除く)。そのためプレイヤーは純粋に機体ごとの操作感を味わいながら、ハイスコアを目指していくことができる。今風のアンロックシステムによってオブラートに包みながらも、芯にあるのはピュアなスコアアタックのスピリッツだ。それを担保するがごとく、本作は操作感という一点において、十分に飽きない作りを実現している。さすがのVlambeerだ。

 

レーザーはくるくるブン回せ。
レーザーはくるくるブン回せ。

 

この一点突破の魅力が災いして、前作『Ridiculous Fishing』に引き続き、彼らは本作においてもクローンゲームの出現に悩まされている。ただ皮肉なことかもしれないが、Vlambeerの「パクられゲー」を作る才能は、彼らのゲームが常に独創的でわかりやすいアイデアを持っていることの証左である。もっとも本作は『Ridiculous Fishing』以上に操作性のチューニングがその魅力のコアにある。結果としてうわべだけを模倣したクローンゲームのクオリティは惨憺たるものであった(比較のために失った300円がものすごく惜しく感じられる)。

 


大味なスコアシステム

 

では機体構成によってプレイスタイルも大きく異なってくるかといえば、残念ながらそうとはいえなかった。それぞれの手触り自体は違うものの、どの機体でも似たり寄ったりのプレイスタイルになる。その原因はあきらかにスコアシステムにある。

筆者の持論からいうと、STGにおけるスコアシステムはプレイヤーに美しいゲームプレイを提供する役割がある。『斑鳩』のスコアシステムがすぐれているのは、ただショットを連打することによって敵を撃墜していくのではなく、白と黒の色にしたがって撃ちわけることにより、幾何学的に美しいパターンが成立することだ。結果、スコアシステムを明確に理解していない人にも、上級者のプレイの上手さが伝わるのだ。『斑鳩』ほどにスタイリッシュではなくても、怒首領蜂シリーズのコンボシステムも上級者とそうでないもののプレイをはっきりとしめしてくれる。

それに比べると本作はまじめにスコアを追求しようとすればするほど、地味なプレイパターンが仕上がってくる。本作では連続して敵機を撃破するとコンボ数が加算、そのコンボ数に撃破時の素点を掛けあわせることでスコアが決定される。コンボ数は最大20であり、いかに最大コンボの状態で多くの敵を撃破するかが勝負となってくる。

 

コンボMAX状態で粘るのがすべて。
コンボMAX状態で粘るのがすべて。

 

シンプルでわかりやすいのは良いとしても、これでは結局のところ長く生き残れば生き残るほど点数は加算されていく。高得点を狙うために特別なプレイスタイルは必要ない。出来るかぎりコンボをつないで、生き残るのみである。結果として上級者と初心者のゲームプレイの差がスコアによって明示されないのだ。

実際にYouTubeなどでハイスコア動画をいくつか探してみたが、正直、ハッとするようなプレイはまったく見当たらなかった。スコアの高さはほぼプレイ動画の長さと比例しており、どのプレイヤーも地道にねばっているだけだ。ハイスコアラーでも自機の組みあわせの多様性が失われない部分は良いのだが。

 


シューターには食い足りない

 

もちろんスコアシステムひとつをとって『Luftrausers』を凡作として片付けてしまうわけではない。上述したとおり、本作の操作感はそれだけでも十分に魅力的だし、ビジュアルはスタイリッシュでエレクトロハウ戦争映画のサントラとも言うべき音楽もユニークだ。ロゴやポスターもクールで、ときおり流れるカットシーンも架空の第二次世界大戦といった雰囲気をうまく伝えている。

だが、その他の完成度が高いだけにスコアシステムの単調さを非常に惜しい。実際にちょっとしたアイデアを付けくわえるだけでも、よりスリリングなゲームプレイがありえたのではないか。たとえば、特定の敵は倒すことで高得点を得るかわりに最大コンボを強制的中断するといったシステムなんかはどうだろう。最大コンボの状態を維持するだけではなく、スコア精算のタイミングをプレイヤーに与えるだけでもプレイにメリハリが付くのではないか。

またスコアシステムを補完するように100以上のミッションが用意されている。特定の機体を3体撃破、攻撃を絶やさずに30体撃破といった内容であり、機体構成によってクリアのしやすさは多少は変わってくる。しかしながら、プレイスタイルに与える影響はわずかであり、適当にプレイしていてもアンロックできるものがほとんだ。

機体ごとに感じられる手触りは良いが、それを活かすべきスコアシステムが用意されていない。筆者を含め、国産のSTGに親しんできたプレイヤーはそういった印象を受けとるのではないだろうか。

 

サイケなカラーパレットもある。
サイケなカラーパレットもある。