PC版『エスカトス』レビュー 80年代から現代まで30分で駆け抜けるSTGの教科書

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PC版『エスカトス』はXbox 360版の忠実な移植だ。Xbox 360版の特典は別売だが、その価値はゆるがない。シューティングゲーム(以下、STG)に明るいゲーマーは評判を耳にしたことがあろう。スピーディ&ハイテンポなゲーム展開にマッチした、疾走感あふれるメロディアスなBGM。80年代を想起するアートワークながら、古臭さを感じない派手な画面演出。撃って壊す・避けてふせぐを内包した簡単な操作に、高難度の攻略を助けるレベルデザイン。それらを実現した細部にわたる配慮は職人の伝統芸だ。PC版の登場で匠の技を手にする機会が増えたのは喜ばしい。本稿はゲームレビューのあとにPC版の動作環境を紹介する。

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エスカトス
開発: Qute Corporation
プラットフォーム: PC(Windows)/Xbox 360
価格: 1480円(PC版)/6480円(Xbox 360版)
発売日: 2015年9月19日(PC版)/2011年4月7日(Xbox 360版)

本作はひたすら敵を撃破する縦スクロールSTGである。操作系はレバー+2ボタン(+2種類の操作補助ボタン)。2種類のショットと敵弾をふせぐシールドを使い分ける。ステージは全26エリアで、各エリアは数回のWAVE(敵編隊)で構成。WAVE突破でエリアがすすみ、最終ボス撃破でゲームクリアとなる。1エリア1分前後、クリアまで約30分とハイテンポだ。

進撃する自機を迎え撃つべく包囲網を築く敵機編隊。『スペースインベーダー』のオマージュ。
進撃する自機を迎え撃つべく包囲網を築く敵機編隊。『スペースインベーダー』のオマージュ。

見栄えのテーマはずばり「懐かしさ」。UFOや地上絵といった、古代文明と宇宙人の関係を描いたアートワークはわかりやすい例だろう。他にも、前世紀のSTGを想起するレベルデザインや演出もある。ただし、それらが懐古趣味なゲーマーだけに向けたものとならぬよう、レトロ要素をオマージュにとどめてある。古参兵には過去へのリスペクトに、新兵には初めての体験になるよう現代ゲーム技術でアレンジを加えた。故きを温ねて新しきを知る、文字どおりの温故知新である。

全行程30分と記したが、万人が初日にゲームクリアできるものではない。そこに至るまでの上達をプレイ体験の肝とするアーケードライクな難度、いわゆる人を選ぶゲームだ。メーカーはこれを多くのゲーマーに受け入れてもらえるようふたつの工夫をほどこした。公式サイトのキャッチコピー、“80年代テイストが懐かしい爽快感あふれる縦スクロールSTG!”に要約したその仕組みと効果を、ゲームモード「オリジナル」を通じて紹介する。なお、他のゲームモード「アドバンスド」「タイムアタック」については後述とする。

 

80年代のレベルデザイン

自機の被弾判定はかなり小さい。ここは現代風のつくりだ。
自機の被弾判定はかなり小さい。ここは現代風のつくりだ。

ひとつ目の工夫は「レベルデザイン」だ。経験を生かす場面が数多くあり、武装を使い分ける意欲が結果につながりやすい。敵の攻撃も、すでに登場したパターンのアレンジを徹底しており、攻略の手掛かりをつかみやすい。難度の段階を細かくわけ、プレイ意欲を断絶する壁を取りのぞいた。

敵の大軍に立ち向かう自機の武装を記す。前方攻撃・斜め攻撃の2種類あるショットは押しっぱなしで超連射。自機死亡で威力がさがることはない。たいていの小型機は1発で、中型機は数秒撃ち込めば破壊できる。ボタン同時押しで自機前面に展開するシールドは、敵弾はおろかレーザーもふせぐ。このシールド自身も高い攻撃力をもち、敵機のパターンにあわせ近接武器として使えば敵撃破が容易になる。

その近接攻撃をはじめ、強力な武装を使い分ける場面が細かくもうけてある。WAVE全滅ボーナスはこれを実感しやすい。生存優先のプレイとくらべて難しいが、達成すると得点倍率があがる。また、敵を一定数撃破すると1UPアイテムが出現するため、撃ちもらしが少ないほど残機がはやく増える。これは生き残る・撃破するの2段階難度としてはたらき、消化試合をなくすとともに、経験を生かして残機を得る機会も生む。

画像左よりフロント・ワイドショット、シールド。ワイドは威力が低く、正面に隙があり射程も短いが、面で攻撃でき小型機の群れに強い。シールドは時限・耐久性でフロントショットよりも攻撃力が若干高い。
画像左よりフロント・ワイドショット、シールド。ワイドは威力が低く、正面に隙があり射程も短いが、面で攻撃でき小型機の群れに強い。シールドは時限・耐久性でフロントショットよりも攻撃力が若干高い。

プレイ全体の難度上昇も、段階を意識したものだ。ここで用いた手法は特記に値する。容量制限が厳しい時代のゲーム技術「敵の使い回し」を、レトロ調の演出としただけでなく、レベルデザインにも採用したのだ。本作は新種の強敵を次々と投入するのではなく、敵機や攻撃の量を増やして難度をあげた。同じ敵パターンの応用課題がつづくつくりだ。基本解答の精度をあげれば突破でき、攻略の手掛かりをつかみやすい。ゲーム開始時に選択する全体の難度も同様で、イージーがノーマル以降のリハーサルとして機能する。

エリア5までの動画を撮影した。左より難度イージー・ノーマル・ハード。どの難度も敵の移動パターンは同じだ。また、敵弾の数は増えるが攻撃のタイプは似たものであり、あらたな攻撃を追加することはない。余談だが、難度とともに得点倍率の上限もあがり、スコアを意識したプレイを楽しめる。

武装を使い分ける応用課題のみのレベルデザインは、撃てば応えるフラットな難度上昇をもたらした。本作の真価はそれを80年代から発掘した点にある。前世紀の技術をあえて導入するにあたり、レトロ調という建前はうってつけだろう。敵パターンのオマージュが、当時を経験していないプレイヤーをそだてる課題として機能する点もあげておく。それら計算高い構想が、高難度ゲームを楽しませる配慮の根底にある。

敵パターンのオマージュについて。画像左・中央のコンビネーション攻撃は、表示できる画像の大きさに制限があったころを想起する。最終面に近くなると画像右のように難度も攻撃パターンも現代風となる。
敵パターンのオマージュについて。画像左・中央のコンビネーション攻撃は、表示できる画像の大きさに制限があったころを想起する。最終面に近くなると画像右のように難度も攻撃パターンも現代風となる。

 

爽快感の正体

ふたつ目の工夫は「爽快感」だ。キャッチコピーにあるとおり、本作のもうひとつのテーマでもある。ステージ演出や効果音・BGMだけでなく、プレイヤー操作に対する敵の反応でも演出した。プレイヤーに撃つ行為をうながし、前章で紹介したフラットな難度上昇とあわさることで「少し難しいエリア」へと導きつづける。その終着点はラスボス撃破、すなわち高難度ゲームの制覇だ。

はじき飛ぶ敵機。自機ショットの重みをもたらすと共に、はじき飛ばない中型機の重量感も演出する。
はじき飛ぶ敵機。自機ショットの重みをもたらすと共に、はじき飛ばない中型機の重量感も演出する。

画面前方から大量に押し寄せる敵小型機はショット1発で破壊でき、攻撃すればどこかで爆発する。1発で破壊できない敵の一部はショットの衝撃で後方にはじきとぶ。こういった敵の応答は行動と結果の信頼をはぐくみ自機操作を肯定する。敵の無反応をできるかぎり減らしたのが爽快感の正体だ。

その爽快感が無責任なプレイヤー賞賛にならぬよう、興奮をあおり心の態勢をととのえさせるステージ演出も用意した。物語の概要は「UFOの大群から地球を守るべく、戦闘機で迎え撃つ」だ。言葉はなく、敵の殲滅あるのみ。画面スクロールに身をゆだね地球の未来を切り開いてゆけばよい。難度上昇を印象づけるべく、戦場は派手なカメラワークで変化し、さながらジェットコースターのようだ。ラスボス撃破までの約30分、時間を忘れて集中できる。

ゲーム前半の展開。都市防衛から上空、遺跡、大気圏突破を経て、戦場は宇宙へ移る。これらの場面転換はシームレスで、自機が戦闘機のSTGのみ許された速度演出を余すところなく発揮した。
ゲーム前半の展開。都市防衛から上空、遺跡、大気圏突破を経て、戦場は宇宙へ移る。これらの場面転換はシームレスで、自機が戦闘機のSTGのみ許された速度演出を余すところなく発揮した。

ここにBGMが加わることで、上記の爽快感とステージ演出をまとめた点も見逃せない。作曲はゲーム曲制作に定評あるスーパースィープ所属の安井洋介氏。耳に残るメロディラインが爽快感を引き立て、ゲーム展開にあわせた曲調が演出を印象づける。戦闘機(本作の自機)の歩調にあわせた行進曲は、疾走感でゲームのテンポを引き締めた。BGMを通じて世界観の構築にもたずさわり、プレイ体験を補完している。

本作は1エリア1分前後の構成で、難度は刻々と上昇する。これを自機操作の肯定でモチベーションを保ちつつ、ジェットコースターのような展開で印象づけ、疾走感あるBGMでテンポを引き締めた。これらはカタルシスの前段階に必要な抑圧状態から、懲罰や我慢くらべといったストレスが必要以上にならないよう緩和している。爽快感で負の印象を打ち消すことにより、高難度ゲームの醍醐味、課題と克服を通じた上達の実感を純化した。

 

80年代STGが見た夢のつづき

「アドバンスド」の最強パワーアップ。ワイドショットが画面端に到達し弾数も増えた。だが、左端のシールド残量は30%しかない。敵攻略の高い精度を問うつくりだ。
「アドバンスド」の最強パワーアップ。ワイドショットが画面端に到達し弾数も増えた。だが、左端のシールド残量は30%しかない。敵攻略の高い精度を問うつくりだ。

『エスカトス』は高難度STGの教科書だ。80年代から現代水準へ上昇する難度を、爽快感で一気に流し込むことにより、たった30分間に30年分の「人類と弾幕の戦い」を凝縮した。この歴史こそが、シューターと呼ばれる古来のゲーマーが持つ最高の教科書だ。それを今日からはじめる新兵でも手にできるよう、細かな配慮がつみかさねてある。匠の技ここに極まれり。先日発売したPC版『雷電IV: OverKill』や、STGメーカーとして名高いケイブのSteam参戦など、PCでの高難度STGブームが高まる今こそ、STGに興味をもつすべてのゲーマーに本作を強く勧める。

ここで購入を迷う方のために上記以外のゲームモード2種類を紹介する。「アドバンスド」はパワーアップ要素がありシールドが弱い。自力で敵弾を回避する分、敵機をよりはやく撃破できる仕組みだ。WAVE構成はオリジナルと同じだが、強力なパワーアップと勲章回収の要素で80年代後半のSTGとして遊べる。「タイムアタック」は時間制で、ボスを撃破すると残りタイムが増える。残機は無制限なので、難度イージーをクリアしたあとはこれに挑むとよい。また、それらゲームモード以外にも、リプレイをうながす要素はある。Steam実績と別に、総ゲームの合計得点でプレイヤーレベルを獲得でき、残機数・コンティニュー回数などオプション設定が可能となる。他のプレイヤーのリプレイも再生できるようになり、攻略情報を外部に頼らずともよいので安心されたし。

『ジャッジメントシルバーソード』のスコア画面。80年代のSTGメーカー「コンパイル」への賛辞。
『ジャッジメントシルバーソード』のスコア画面。80年代のSTGメーカー「コンパイル」への賛辞。

ここで視点を変え、本作にこめられたもうひとつの意図を明らかにしよう。もしも「レトロ要素をふんだんに取り入れた現代のゲーム」ではなく、80年代に現代ゲーム技術があったなら。すなわち、80年代STGが見た夢のゲームであったなら。本作はその夢のひとつである。開発スタッフの中核M-KAI氏は、ワンダースワン用STG『ジャッジメントシルバーソード』を通じ、「今は亡きコンパイルにささぐ」というメッセージで80年代にリスペクトをしめした。その精神をもって過去作をベースにさらなる配慮を加えたのが、「ジャッジメントシルバーソード3」=本作『エスカトス』だ。古来シューターも、そして90年代以降からのシューターも、この夢のつづきを楽しんでほしい。

 

動作環境

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最後に、PC版で気になる動作環境について。「対応コントローラ」「フレームレート測定」「Xbox 360版との移植度」の3点を記す。

 

対応コントローラ

○ PS3用リアルアーケードPro3
○ Xbox 360用有線パッド
○ Xbox 360版DOA4同梱ジョイスティック
PS3用SIXAXISワイヤレスコントローラはUSB接続すると充電モードとなりWindowsでは使えない。有志作成のドライバで動作可能の報告もあるが、ドライバ依存のため本稿では取り扱わない。なお、キーコンフィグのアイコンはXbox 360用パッドのものである。

 

フレームレート測定

フルスクリーン・解像度1920×1080・画面効果すべてON
AMD FX-8350 + Radeon HD 7850
60fps。
Lenovo Y50(Intel Core i7-4710HQ + NVIDIA GeForce GTX 860M)
60fps。
Intel Core i7-4710HQ(Intel HD Graphics 4600)
ほぼ60fps。エリア10の雲海を突破するシーンは35fps
上記のスペックを下回る環境でのプレイは解像度を調整されたし。解像度は640×480を下限とする。

 

Xbox 360版との移植度

上記のフレームレート構成で60fpsが安定すれば問題なし。Xbox 360版のDLC「アレンジBGMパック」については未定。

画面左がXbox 360版。右がPC版。地面にうつる影も含め忠実な移植だ。
画面左がXbox 360版。右がPC版。地面にうつる影も含め忠実な移植だ。

以上をもって動作環境の報告とする。本章で購入の不安を取りのぞくことができれば嬉しい。

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