『Galactic Civilizations III』レビュー 「スーパーGalCiv2ダッシュターボ2020」

 

筆者が「2015年 期待の新作ビデオゲーム」で紹介した『Galactic Civilizations III』(以下、GalCiv3)は、宇宙を舞台としたターン制4Xストラテジーだ(以下、4X-TBS)。その内容は温故知新そのものである。独創的な要素はないが、シリーズ1作目からかぞえて23年にもなるゲーム展開がもつ「宇宙4Xストラテジーの普遍」を、現代のゲーム技術で強化し、将来を見越して拡張した。

なお、発売日バージョンは2バイト文字に対応しておらず日本語化はできない。今夏、2バイト文字のロシア語対応を予定しており、日本語化MODの望みはある。

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  • Galactic Civilizations III
  • 開発・販売: Stardock Entertainment
  • 発売日: 2015/05/13
  • 価格: 49.99ドル
  • プラットフォーム: PC(Windows)

 

 

GalCivはStardockの看板タイトルだ。1992年のOS/2版からシリーズ累計500万本を販売し、4X-TBSの有名作『Sid Meier’s Civilization』(以下、Civ)に次いで息の長いタイトルでもあることから、宇宙4X-TBSの代表作として認知度が高い。本作は、2008年発売の前作『Galactic Civilizations II: Twilight of the Arnor』から7年ぶりの新作となる。

エグゼクティブプロデューサーであり同社社長Brad Wardell氏は、開発コンセプトを「1/3は前作から踏襲、1/3は前作の改善、1/3はまったく新しい要素」とした。この言葉はゲームデザイナーSid Meier氏の「1/3ルール」として『Civ』シリーズにも採用されている(ソース: ars technica誌 インタビュー)。本稿はその1/3ルールに焦点をあてつつ紹介する。

OPムービーの完全再現とはいかないものの、グラフィックは格段に進歩した。戦闘中の艦船は、その造形からすべて設計できる。 宇宙船の設計は、宇宙の再設計に等しい。夢の艦隊をつくるために、惑星を支配し、技術開発しよう。
OPムービーの完全再現とはいかないものの、グラフィックは格段に進歩した。戦闘中の艦船は、その造形からすべて設計できる。
宇宙船の設計は、宇宙の再設計に等しい。夢の艦隊をつくるために、惑星を支配し、技術開発しよう。

1/3の踏襲

前作から踏襲した1/3とは「ゲーム展開」だ。舞台は宇宙ゆえ、国民が生活する場所は惑星しかない。入植可能な惑星はかぎられており、その不動産をめぐってゲーム開始から壮絶な植民競争を繰り広げる。所持惑星が国力になり、そこで遅れをとったなら、早期侵略でライバル国家の惑星をうばうしかない。このゲーム展開は本シリーズにかぎらず、弊誌で紹介した『Master of Orion』をはじめ、多くの宇宙4Xストラテジーも似たものになる。

スペースコロニーやリングワールドを建設できるゲームもあるが、ほとんどの宇宙4Xストラテジーは惑星にしか入植できない。 いわば都市をつくれる場所が限られたCivだ。この設計は、際限ない都市スパムをふせぐとともに、ゲーム展開にメリハリをつけた。
スペースコロニーやリングワールドを建設できるゲームもあるが、ほとんどの宇宙4Xストラテジーは惑星にしか入植できない。
いわば都市をつくれる場所が限られたCivだ。この設計は、際限ない都市スパムをふせぐとともに、ゲーム展開にメリハリをつけた。

このゲーム展開の踏襲にならい、シリーズの特色「ユニットの航続距離」「各国家の技術ツリーの違い」「対話外交」「ユニット設計」「自動戦闘」も踏襲した。特に、ユニット設計は前作の顔ともいえる要素で、武装や装甲の変更だけでなく、性能に影響しないがモデルをイチから設計できる。作ることそのものが娯楽であるのは『Minecraft』の人気を見てのとおりだ。

これらゲーム展開を説明づける背景も踏襲しており、過去作の評判を豊かな背景にする利点を生かしている。背景の要約は「地球人が開発した超光速航行技術が拡散したため、全種族が突如、他惑星への移民が可能となり、恒星間文明の乱立を経て宇宙戦争に突入する」だ。登場する国家もこの背景に深くかかわっている。シリーズの顔ともいえるDrengin帝国Kona帝も健在で、シリーズの歴史が顔のしわや薄くなった頬ヒゲとして刻まれている。

Drengin帝国Kona帝の歳月。左からGalCiv1(Windows版)、GalCiv2、本作GalCiv3。 シリーズの長い歴史を象徴するファンサービスともいえる。
Drengin帝国Kona帝の歳月。左からGalCiv1(Windows版)、GalCiv2、本作GalCiv3。
シリーズの長い歴史を象徴するファンサービスともいえる。

「1/3の踏襲」を要約すると、ゲーム展開という核と、そこから紡ぎ出されるキャラクターやストーリーといった表層だ。好評を得た要素をそのまま投入している。つまるところ、前作となにもかわらず、冒頭で述べたとおり独創的な要素はない。本作の真価は、核と表層のあいだにある中身、「1/3の改善」にある。

 

1/3の改善

前作から改善した1/3とは、上記にあげた踏襲要素以外のすべてた。踏襲しなかった要素はひとつ残らず再設計され、豊かで深みのあるものとなった。詳細に興味をもたれた4Xストラテジーファンに向け、改善点を要約しておく。前作からの改善点は大きく分けて6つある。

・内政管理と惑星開発

税金スライダーや支出スライダーなどといった、多数の1次元スライダーをとりやめた。惑星出力の設定を「産業」「研究」「経済」の3極による平面スライダーに集約し、惑星開発の専門化を容易にした。また、施設に、都市管理ゲームのような隣接効果をくわえ、計画性をもたらした。

内政画面の比較。前作(左)は税金の調整に、施設維持費の調整。さらに出力を艦船建造・施設建設・研究開発に割り振る。本作(右)は最終的な出力を直接調整できるうえ、各惑星ごとに設定もでき、惑星を専門化しやすい。
内政画面の比較。前作(左)は税金の調整に、施設維持費の調整。さらに出力を艦船建造・施設建設・研究開発に割り振る。本作(右)は最終的な出力を直接調整できるうえ、各惑星ごとに設定もでき、惑星を専門化しやすい。

・種族特性と技術ツリー

前作はタイトルの直訳(銀河文明たち)どおり、各種族の文明を独自の技術ツリーで表現していた。独創的だがゲーム要素が空回りしていた。たとえば、マップサイズが狭ければ「拡張」特化の技術ツリーが強みを生かせず、入植惑星が多いマップでは「戦争」特化の技術ツリーが強みを生かせない。といった具合だ。本作はその技術ツリーをある程度共通化し、ゲームに参加できない状況をふせいでいる。また、どれかひとつしか研究できない「排他的」な技術を追加し、マップにあわせて技術ツリーを柔軟にした。

・ユニット作成と造船所

惑星でのユニット作成をとりやめ、その役目をマップ上の造船所にした。開発のすすんだ惑星から産業出力をあつめることで、上記にあげた惑星開発の専門化を促進するとともに、ユニット作成の手間を軽減した。

・資源採掘と宇宙基地

採掘船による小惑星の採掘をとりやめた。小惑星・星間ガス・ブラックホールなどからの資源採掘を、宇宙基地で一括管理し、マイクロマネジメントをとりのぞいた。それら資源は強力な武器や施設をもたらすが、採掘に用いる宇宙基地の進出が国家印象の悪化につながり、それを補う外交技術の重要度が増した。

建設艦(画面中央)の周囲にある点線が、宇宙基地の有効範囲。 作成すれば資源を2つ採掘できるが、オレンジの国と国境が触れ、国家関係が悪化する。
建設艦(画面中央)の周囲にある点線が、宇宙基地の有効範囲。
作成すれば資源を2つ採掘できるが、オレンジの国と国境が触れ、国家関係が悪化する。

・艦隊戦闘とユニット設計

寄せ集めたユニットによる乱闘をとりやめ、役割分担が明確な艦隊戦にした。各ユニットは攻撃力・防御力・価値で6つのクラスにわかれ、攻撃の優先対象だけでなく、矢面に立ち敵の攻撃をふせぐこともできる。この艦隊戦は技術力の差や数量差をくつがえすものではなく、高価なユニットを無駄に失うのをふせぎ、前作で軽視された防御・サポート用パーツの地位を改善した。

艦船設計画面。先の宇宙基地で得た資源でより強力な武器を搭載し、軍事力で外交を改善しよう。 3Dモデルソフトのように、オブジェクトの拡縮や回転を操作するユーザインタフェースが追加され快適になった。
艦船設計画面。先の宇宙基地で得た資源でより強力な武器を搭載し、軍事力で外交を改善しよう。
3Dモデルソフトのように、オブジェクトの拡縮や回転を操作するユーザインタフェースが追加され快適になった。

・国家思想と外交印象

惑星入植・イベントの選択肢で国家思想が善意・実用・悪意にかたむき、思想の違いで友好国・敵対国がきまる。前作の国家思想はいさかいしか生み出さない不快要素だが、本作はそこにポイントを追加し、一定ポイントで特典を得られるようにした。「無償でコロニー船を1隻入手」「造船所への産業出力提供に距離の減衰をなくす」「領土内の敵ユニットにHP25%ダメージ」など、非常に強力だ。技術開発にならぶ攻略要素とした。

本作を手にとると、前作にこれほどの粗があったことに驚きを隠せない。前作のメタスコア9.0以上という評判は、前章にあげた踏襲要素にあり、その輝きの陰に不快要素や単調作業といったネガティブな部分が隠れていたと見てとれる。それらを現代のゲーム設計で丁寧に改善し、踏襲した要素は輝きをさらに増した。

 

1/3の新要素

1/3ルールの新要素をあげる前に、1/3ルールの難しさを振り返る。1/3の踏襲と、1/3の改善で前作と同規模のゲームになった。ここに、前作の半分ほどの新要素を盛り込むのだ。話を単純にすると前作100%+新規50%となる。並大抵のことではない。

本作の新要素は非常識なまでのゲーム規模にある。これがゲーム展開の先にあるゲーム展望をもたらした。それは「64bitプログラム」と「Direct X10.1」(以下、DX10.1)によって可能となった。プログラムやハードウェアについての説明を割愛し、本作が得た恩恵にしぼって紹介する。

64bitプログラムは、プログラムが扱うメモリ量を拡大する技術だ。これはテクスチャの高解像度化を可能とし、近年のPCゲームでも「オプション」として導入している。本作はオプションではなく完全な64bitプログラムとして、拡大したメモリ量を前提にゲームエンジンを開発することで、AIプレイヤー処理を高速化した。

DX10.1は、フレームレート・映像効果改善なとのグラフィック技術だ。先と同様、近年のPCゲームで「オプション」として導入しており、リッチな見栄えをたのしめる。DX10.1の恩恵は映像面だけでなくゲーム処理にもあり、映像処理の多くをGPUにまかせてCPU負荷を軽減できる。本作は動作環境をDX10.1対応GPUとすることでゲーム処理を高速化した。

上記2項についての詳細は、公式サイトのFAQで具体的な効用が書いてあるので興味があれば一読されたし。要点はAIプレイヤーとゲームの処理高速化にあり、それがゲーム規模の拡大を可能にした。ライバル国家数は前作の8倍、最大128国家。マップサイズも前作の8倍、最大40万タイルだ。滅ぼしきれない国家数と踏破しきれないマップサイズは、新たな攻略を必要とする。ストラテジーファンが渇望する「新たな攻略対象」を、ゲーム設計ではなく、古典ゲームの可能性を広げて用意したのだ。

マップサイズ最大はその名も「Insane(非常識)」。画像はチートコマンドで視界制限をOFFにしたもの。 下端中央のマウスカーソル付近にある水色のちいさな範囲が、半径3ヘクスの文化圏。SPAAAAAAAAACE!!
マップサイズ最大はその名も「Insane(非常識)」。画像はチートコマンドで視界制限をOFFにしたもの。
下端中央のマウスカーソル付近にある水色のちいさな範囲が、半径3ヘクスの文化圏。SPAAAAAAAAACE!!

かれらが夢見たGalCiv2

以上を本作における1/3ルールの詳細とする。まとめると、「1/3の新要素」と「1/3の改善」は、「1/3の踏襲」のためにある。根底にあるのは古典ゲームで、宇宙と文明と惑星の関係という普遍のものだ。それは宇宙4X-TBSの普遍でもある。これを、非常識なゲーム規模で拡張しつつ、錬磨不足の細部を改善し1ターンの濃度をあげた。これは本作の開発意図「夢のGalCiv2」そのものといえよう。

リードデザイナーPaul Boyer氏は次のように述べている。

“わたしたちはまったく新しいゲームを作る気はない。わたしたちが夢見たGalCiv2を作りたい。”
(ソース: Space Sector誌 インタビュー

かれらと同じ夢を見ていたゲーマー ――たとえば、Stardockianという名称をもつStardock信者―― は幸せであろう。フォーラムの発言やゲーム誌のインタビューを追いかけ、製作発表から発売までの時間で同じ夢を見るだけの土台があった。これは、言葉どおりの意味で、Paul Boyer氏はSteamアーリーアクセスを通じ、その夢を共有していないゲーマーとのあいだに見解の相違があったことを発言している(ソース: PCGamesN誌インタビュー)。それを差し引いても、新要素がゲーム展開ではなくゲーム規模にあり、ゲーム開始時に従来規模を選択すれば、踏襲部分と改善部分のみのプレイになることは否めない。

しかし、これをもって、「本作の新要素を体験するのは一部のコアなゲーマーのみ」とするのは短絡な意見だ。7年前にメタスコア9.0以上をおさめた古典の名作が、評価された要素をそのままに、不出来な部分をすべて改良されたというだけで、本作の価値はある。くわえて、グラフィックの大幅な進歩に、各種族の背景をたのしむテキストが総計3000行以上あり、豪華であか抜けたムービーに、AI処理速度まで改善してあるのだ。かれらと同じ夢を見ていようが、いまいが、本作は『Galactic Civilizations III』の名を冠するにふさわしい。

快適なユーザインタフェースに豪華な演出で強化された「古き良き宇宙」だ。さあ、最初の一歩を踏み出そう。
快適なユーザインタフェースに豪華な演出で強化された「古き良き宇宙」だ。さあ、最初の一歩を踏み出そう。

2020年のストラテジーファンに

以上をもって紹介をしめ、総評する。本作は、弊誌で以前紹介した『Endless Space』のような洗練されたユーザーインタフェース・アートワーク・演出はない。『The Last Federation』のような独創的なゲーム設計もない。だが、色あせない普遍的な魅力を現代ゲーム技術で強化した本作は、優れた宇宙ストラテジーのひとつとしてかぞえられる。

『Civilization IV: Beyond the Sword』のMOD「Fall From Heaven II」リードデザイナーDerek Paxton氏を迎え入れた『Fallen Enchantress: Legendary Heroes』はファンタジー4X-TBSの代表作として好評を得た。
Civilization IV: Beyond the Sword』のMOD「Fall From Heaven II」リードデザイナーDerek Paxton氏を迎え入れた『Fallen Enchantress: Legendary Heroes』はファンタジー4X-TBSの代表作として好評を得た。

ここに将来性がくわわれば、かなり優れた宇宙ストラテジーとしてもよいだろう。判断材料として開発Stardockのサポート体制を記す。まず、特徴的なのは、ゲームソフト開発だけでなく、Windows用デスクトップソフトの開発も手がけていることだ。それらの財源で完全独立開発と長期サポートを可能としている。近年のサポート例では、評価が低迷した『Elemental: War of Magic』の早期購入者に、イチから設計しなおした拡張を無償提供し、会社とタイトルのブランドを取り戻した事例がある。(ソース: Rock, Paper, Shotgun誌

本作に話を戻す。社長Brad Wardell氏は、Steam掲示板で今年毎月の更新と3本のDLC、来年の拡張DLCを告知した。また「DirectX 12」「Vulkan」といった新ゲーム技術の導入も予定とある。拡張は年1本、計4本予定とあるので、それら数年間の手厚いサポートが告知どおりになされたなら、最後の拡張DLCがでた1年後の2020年にも輝いているだろう。

クレジット画面に、製作発表と同時に受け付け開始した投機者版(99.99ドル)購入者が名を連ねる。ゲーム画面が出る前から投機に応じる敬虔な信者と、それにこたえるメーカーサポートも、本作の魅力のひとつといえよう。
クレジット画面に、製作発表と同時に受け付け開始した投機者版(99.99ドル)購入者が名を連ねる。ゲーム画面が出る前から投機に応じる敬虔な信者と、それにこたえるメーカーサポートも、本作の魅力のひとつといえよう。