『Planetary Annihilation: TITANS』レビュー 15台以上のカメラがとらえる未来の近代戦争

 

『Planetary Annihilation: TITANS』(以下、TITANS)は、戦争マシン同士で殲滅戦にあけくれるリアルタイム制ストラテジー(以下、RTS)『Planetary Annihilation』の拡張にあたる。巨大マシン「タイタン」をはじめとする新ユニットと、チュートリアルを追加するほか、リリース後1年弱にわたって施されたアップデートも含む。また、単体起動するスタンドアロン化でシリーズを仕切り直し、ゲーム動作環境条件を64bit OSとした。

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Planetary Annihilation: TITANS
開発: Uber Entertainment
発売日: 2015年8月18日
価格: 39.99ドル(Kickstarter投機者は無料、旧版所持者は10月18日まで66%off)
プラットフォーム: PC(Windows/Linux/Mac)

1997年発売の古典RTS『Total Annihilation』の精神的続編としてスタートした『Planetary Annihilation』は、現代ゲーム技術で拡張した『TITANS』をもって完成した。タイトルどおり戦場は星系全域に拡大し、無数の軍隊、核兵器、巨大マシンだけでなく、小天体の衝突やデススターで惑星ごと敵を殲滅できる。戦況の把握を容易とする画期的なユーザーインタフェース(以下、UI)は、RTSに新たな「視点」をもたらした。演出面に進歩がなくキャッチコピーの「次世代RTS」には至っていないが、それでも、古典RTSの頂に君臨するタイタンだ。

本稿は拡張『TITANS』をとりあつかう。旧版との比較は割愛するが、制作発表から3年経つ周辺情報については、次章で要約する。

 

現代ゲーム技術でよみがえった古典RTSの夢

本作は悪い意味でシーンをにぎやかせたが、拡張の出来映えを踏まえれば美談におさまるだろう。「古典RTSのドリームプロジェクトは破れたが、現代ゲーム技術を学んだ若者がその夢を引きつぐことで復活した」と、いったところだ。時系列順に紹介する。

スタッフ経歴。筆者のおすすめはクラス制RTS『DEMIGOD』。
スタッフ経歴。筆者のおすすめはクラス制RTS『DEMIGOD』。

開発元Uber EntertainmentはRTS開発歴を持つスタッフが在籍する独立開発スタジオだ。『Supreme Commander』のリードプログラマ、『Total Annihilation』のスタッフを中核に、『Command & Conquer』『DEMIGOD』など有名タイトルがならぶ。このスタッフ経歴を売り文句とし、2012年9月15日にKickstarterで220万ドル以上もの資金を得て、2014年9月5日に旧版を発売した。しかし、低フレームレート、オフラインモード不可、Kickstarterでつらねたゲーム要素を実装しない、などで評価は低迷する。さらに、発売直後に新作『Human Resource』のクラウドファンディングをはじめたことで、開発元への不信感が増した。

ここから本作開発の物語がはじまる。主人公は投機者のひとり、Tom Vinita氏。ゲーム設計・開発学を修める大学生だった氏は、旧版発売直後にインターン制度を通じて開発元に入社。数か月にわたる献身的な修正パッチ開発でデザイナーに昇格し、その後もレビュー・フォーラムから改善案をとりいれる(ソース: PC GAMER)。拡張『TITANS』でプロジェクトリーダーに就任した氏は、これを秘密裏に開発し、2015年8月18日の発表同時発売をもって復活の狼煙とした。

 

はるか未来で近代戦

コマンダー。4000年にわたる戦争は彼らに狂気をもたらした。それはキャンペーン「ギャラクティックウォー」であきらかとなる。
コマンダー。4000年にわたる戦争は彼らに狂気をもたらした。それはキャンペーン「ギャラクティックウォー」であきらかとなる。

上記で何度か述べたとおり、本作は古典RTSに該当する。数の優位で勝敗がきまる局所戦を経て、決戦時の数量差をつくる試合展開だ。肝は敵要所の推測と戦略的機動にあり、ナポレオンで有名な近代戦争と同じ思想にある。本作は土俵にあがるまでの操作量をUIで大幅に軽減した。

プレイの流れを通じてゲーム内容を紹介する。惑星地表に降下した1体のコマンダーからはじまり、敵コマンダーを破壊して勝利となる。コマンダーは強力な戦闘兵でもあるが、基本的には工兵だ。建設した工場を通じ、工兵・戦闘兵をつくる。工兵で軍拡しつつ、戦闘兵で敵の軍拡を妨害する。最終的には全軍力を投入した決戦となり、そこで決着がつく。惑星破壊といった高価な手段もあるが、局所戦の積み重ねが決戦の優劣になるのはかわらない。

その局所戦が「操作量の差だけ」できまらないよう、本作は直感的なUIを用意した。攻撃・施設建設などユニット操作のほとんどが範囲指定でき簡潔だ。ユニット生産も全体の生産効率が常に表示してあり、工場増設の目安になる。また、戦闘の詳細な操作はアンチユニットの回避だけ。生産・兵站資源も各1種類で内政も単純だ。

資源施設「メタル精製所」の作成をエリア指定する図。ドラッグで範囲(画面中央の円状)をひろげるだけで、自動的に適した場所で作成する。攻撃選択も同様に、ちょこまか動く敵ユニットをクリックせずともエリア指定で済む。
資源施設「メタル精製所」の作成をエリア指定する図。ドラッグで範囲(画面中央の円状)をひろげるだけで、自動的に適した場所で作成する。攻撃選択も同様に、ちょこまか動く敵ユニットをクリックせずともエリア指定で済む。

各プレイヤーが最大効率で生産・戦闘したなら、局所戦の勝敗はつぎの2点に集約する。敵の要所と戦力規模の推測。それを上回る戦力の集結。これこそが近代戦争の随であり古典RTSの肝だ。局所戦で数量差を生むべく、部隊を集結させておくには、敵要所の推測がかかせない。その要所がマンネリにならないよう3つの要素を加えた結果、戦場は星系全域に拡大した。

 

古典の再設計

現代RTSは、定石化した要所を内政管理や操作量の見どころとした。それに対し、本作『Planetary Annihilation: TITANS』は要所のマンネリ化をふせぐことで「次世代RTS」を目指した。その工夫のひとつ「マップのランダム要素」については、他作品でも導入されており成果をあげているが、要所の推測に重きを置く本作では十分といえない。残りのふたつこそが古典RTSに施された抜本的な改良だ。それは「球体マップ」と「複数の惑星」である。

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球体マップはマップスクロールの新しさももたらしたが、その真価はマップから端をとりのぞいたことにある。端のあるマップでは、背後をマップ端にあずけるゆえ、領土拡大の方向が敵本拠地への最短距離と2本の迂回路になる。それに対し、端のない球体マップでは任意の方位から敵領土へ攻撃できるため、敵の遊撃・要所を推測して機先をたたく局所戦が増えた。局所戦は失点回復の機会ゆえ、明確な数量差がつく決戦期まで、刻々と変化する要所の推測が続くことになる。

「複数の惑星」は上記の延長だ。領土拡大の方向に別軸をもうけ、序盤の資源配分に選択肢をもたらした。大量の資源が眠るガス型惑星を独占できれば数量で優位となる。外惑星進出とその施設は、局地戦の舞台を惑星軌道・外惑星上に広げるとともに、宇宙開発競争と地表資源戦争の駆け引きをもちこんだ。

資源ある月惑星にテレポーターで大量の工兵を送り込んだ。フロンティアだ!開発してやる!
資源ある月惑星にテレポーターで大量の工兵を送り込んだ。フロンティアだ!開発してやる!

マップのランダム要素、球体マップ、複数の惑星。要所のマンネリ化をふせぐこのマップ設計で、戦場は星系全域に拡大した。ここに、膨大な情報を統括する新たなUIを望むのは当然の成り行きだ。本作はカメラを15台以上導入し、文字通り多角的な視点を用意した。

 

RTSへの新たな視点

本作と同じ系譜の『Supreme Commander』は、個々のユニットから戦場全域まで拡縮する戦略的ズームを導入し、全体マップとメインカメラを統合した。本作はそこからさらに踏み込み、カメラを多数用いた多角的な視点をもって惑星裏側の戦況まで一画面におさめた。

画面全体のメインカメラ、右下のサブカメラ。中央下はグループの近況だ。グループバーは選択ショートカット、残機表示のほか、メインカメラへ視点切り替えもできる。局所戦の管理に役立つ。
画面全体のメインカメラ、右下のサブカメラ。中央下はグループの近況だ。グループバーは選択ショートカット、残機表示のほか、メインカメラへ視点切り替えもできる。局所戦の管理に役立つ。

先に15台と紹介したカメラの内訳を記す。常時表示しユニット操作できるメインカメラ・サブカメラ。各惑星と星系に全容把握用カメラ。施設建設完了や接敵といったニュースを確認できる各地点の近況カメラ。ユニットグループを追跡する近況カメラが10台だ。メイン・サブ以外のカメラはアイコンをマウスオーバーして表示する。ショートカットで矢継ぎ早に画面をきりかえる従来の手法もあるが、複数のカメラを同時表示する手法は、近年の高解像度モニタを活用したスマートなものといえよう。

特に、プレイヤー指定のグループカメラと、サブカメラ展開アイコンの利便性は賞賛に値する。メインカメラ外のユニットへの選択・命令を可能とし、惑星裏側や別惑星の管理を容易にした。操作量と不快感を大幅に軽減した実用的な機能だ。この改善もレビューやフォーラムからのフィードバックで、現地の声を本部がとりいれた拡張の好例である。

こうして、キャッチコピー「次世代RTS」の全容が明らかとなった。古典RTSの肝「敵要所の推測」「戦略的機動」に光をあてたのは多数のカメラだ。そのカメラ台数は複数の球体マップを可能とし、昔のゲーム設計を現代ゲーム水準までひきあげた。だが、そのカメラに不満がある。見栄えが昔のままなのだ。被写体の新たな一面がなく、新しいゲームにみえないのだ。

左から『Total Annihilation』(1997)、精神的後継の『Supreme Commander』(2007)と本作。各時代の最新技術をもちいているのだろうが、その見栄えに大きな違いはない。
左から『Total Annihilation』(1997)、精神的後継の『Supreme Commander』(2007)と本作。各時代の最新技術をもちいているのだろうが、その見栄えに大きな違いはない。

 

次世代RTSが本当に必要だったもの

本作が「次世代RTS」にみえないのは、ずばり、過去作と同様のトップビュー視点で見栄えの変化がないからだ。カメラを新調したところで撮る角度をかえねば、映像の出来映えは似たものとなる。古典RTSを再評価できるゲーム設計がありながらも、十数年続いた見栄えのマンネリがプレイ意欲をそいでしまう。

『戦国大戦』の筐体。UIと演出をハードウェアで切り分けた。
『戦国大戦』の筐体。UIと演出をハードウェアで切り分けた。

もちろんトップビューは本作の操作に適している。しかし、古典よりあとのRTSがゲーム設計と同様、その見栄えも練磨しつづけたのを無視するわけにはいかない。例をいくつかあげる。『Homeworld 2』を代表作とする3D空間RTSは、カメラを動かすことそのものをプレイヤースキルとした。『ギルティギア2オーヴァチュア』はメーレーアクションという名のジャンルを切り開き、サードパーソン視点を導入した。『戦国大戦』などアーケードRTSは、大胆にも演出用モニタと操作用タッチパネルモニタを用意した。

本作は複数台のカメラを同時表示しながらも、演出用カメラを失念した。筆者はここを欠点と感じる。プレイ動機から、対戦形式が内包する「勝利そのものの優越感」「上達への課題と克服」をのぞけば、演出のはたらきは軽視できない。他ジャンルの豊かなカメラワークとくらべて、トップビューだけで良しとするのは時代遅れではなかろうか。被写体のあらたな一面をとらえた演出がプレイ中に表示されたなら、現代ゲーム技術で古典RTSを遊ぶ動機のひとつになっただろう。印象的な映像を追いかけるAI戦場カメラマンが欲しかった。

Steamストアページのスクリーンショットより。通常のカメラ設定では地表から俯瞰ができず、このような構図はお目にかかれない。もちろん、そういった「特別なスクリーンショット」は本作だけではないのだが。
Steamストアページのスクリーンショットより。通常のカメラ設定では地表から俯瞰ができず、このような構図はお目にかかれない。もちろん、そういった「特別なスクリーンショット」は本作だけではないのだが。

 

ジャンルの頂点とその先へ

『Planetary Annihilation: TITANS』は古典RTSの頂点だ。その肝となる敵要所の推測と戦略的機動は、現代ゲーム技術で大きく拡張された。星系全域の戦場を複数台のカメラで多角的に捉えるプレイ体験は新しい。プレイ以外の部分も、ゲームの上達に必要なものは一通りある。チュートリアルで丁寧に惑星の破壊手段を学べる。銀河の星々を巡り、技術を集めてコマンダーを強化するキャンペーン「ギャラクティックウォー」は、ゲーム設計を学ぶのに最適だ。ランクマッチのトッププレイヤーのリプレイも手軽に再生でき、プレイの参考になる。今から古典RTSをはじめるなら本作は最高の選択だ。

次世代という言葉に興味をもったRTSファンは、変わり栄えのないトップビューに落胆するだろう。だが、複数カメラの同時表示には可能性を感じる。それを用いた演出で画面の印象がかわるかもしれない。小さくて愛らしいロボットの大群や、美しい惑星爆発といったアートワークが気に入ったなら、本作の名前をおぼえておいてほしい。

左が通常カメラの最大ズーム。右がデバッグ用カメラモードで数分かけて撮ったもの。同じシーンでも視点でここまでかわる。右のような絵を自動で出してくれたなら、本作の印象はちがったものとなった。
左が通常カメラの最大ズーム。右がデバッグ用カメラモードで数分かけて撮ったもの。同じシーンでも視点でここまでかわる。右のような絵を自動で出してくれたなら、本作の印象はちがったものとなった。

思い切って、ここ近年のハイエンドPCを所持するヘビーゲーマーを視野に、4KHDやデュアルモニタに対応してほしかった。激戦や爆発を楽しめる演出用カメラやグループカメラを、2枚目のモニタで常に表示できるなら―― 筆者は、次世代RTSにふさわしい次世代ゲーム環境への拡張を検討する。