『Star Ruler 2』レビュー 新しいゲームをつくるリスク


『Star Ruler 2』は宇宙貿易網を築きあげ銀河の大帝国を目指すリアルタイム制4Xストラテジーだ。本作の特徴は、AIが宇宙国家の運営をアシストし、単調な反復作業を廃した新しいゲーム設計にある。しかし、スタジオは新しさを研究開発する費用に見合った売上を得ていないようだ。6月11日時点、フルプライス換算で2万本を販売したが、2万5000本に達しないときスタジオ閉鎖を検討している。

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Star Ruler 2
開発: Blind Mind Studios
発売日: 2015/03/27
価格: 24.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows/Linux)

 

 
なお、本作の言語は英語だが、有志作成の日本語化パッチがある。筆者も翻訳作業に参加した。本稿のスクリーンショットは日本語化パッチ適応のものである。留意されたし。

 

非Civilization型4Xストラテジーの正体

「非Civilization型4Xストラテジー」を自称する本作は、AIアシストでマイクロ管理を排除した。4X要素にまつわる詳細な操作はAIが代行する。これにより、プレイ内をマクロ管理のみとした。さらに、勝敗をわける効率追求を艦船設計のみとし、プレイ外のサンドボックスモードにおいた。本作の真価は、このマイクロ管理とマクロ管理の分離と逆転だ。

グラフィックは及第点、宇宙フライトシムと比べ見劣りはするが、ブラックホール・恒星・惑星の輪といった天体の特徴は要点を押さえてある。戦闘もクローズアップに耐える見栄えだ。
グラフィックは及第点、宇宙フライトシムと比べ見劣りはするが、ブラックホール・恒星・惑星の輪といった天体の特徴は要点を押さえてある。戦闘もクローズアップに耐える見栄えだ。
惑星の入植は右クリックのメニューで指示するだけ。あとはAIが指示を解釈し、効率よく実行する。
惑星の入植は右クリックのメニューで指示するだけ。あとはAIが指示を解釈し、効率よく実行する。

AIアシストを掘り下げる前に、有名作『Sid Meier’s Civilization』シリーズ(以下、 Civ)を例にとり、従来作の操作を紹介する。『Civ』は、プレイヤーが国家元首だけでなく、勇敢な探検家・懸命な開拓者・偉大な将軍のすべてになるゲームだ。あらゆる項目を「すべてプレイヤーが管理」=マイクロ管理し、効率化の優劣を競い合う。それが単調な反復作業におちいらないよう、ユーザーインタフェースで工夫を凝らしている。

本作はそこに目をつけ抜本的な変更をほどこした。詳細指示をAIに代行させ、プレイヤーが操作できないようにしたのだ。先の例にあてはめると、優秀な官僚に仕事をまかせるゲームだ。入植する惑星を指示すれば、AIが移民船の作成・移動を自動実行する。惑星間の物流を指示すれば、AIがその輸入物資に応じた惑星施設を建設し、リソースを生産する。艦隊に攻撃指示すれば、AIが艦隊内の艦船を操作する。このように、プレイヤーに詳細指示させないことで単調な反復作業を排除した。残るは銀河を俯瞰視したマクロ管理のみだ。4X要素の奥深さ、宇宙の広大さを損なうことなく、リアルタイム制のプレイを実現した。

惑星管理画面。プレイヤーはレベルアップに必要な物資を集めればよい。あとは輸入物資に応じてAIが民間施設を自動で無償建設する。運用は簡単だが、民間施設のルールは細かく、熟達しがいがある。
惑星管理画面。プレイヤーはレベルアップに必要な物資を集めればよい。あとは輸入物資に応じてAIが民間施設を自動で無償建設する。運用は簡単だが、民間施設のルールは細かく、熟達しがいがある。

また、リアルタイム制にあわせて4Xストラテジーの特色をいくつか再設計している。その中でもっとも大きなものは、ライバル国家との外交だ。『Civ』のような対話型外交でなく、惑星から産出する政治力で国策カードを購入・使用しさまざまな恩恵を得る。敵星系の領土権入手やギャラクティックモールの建設など、一部の強力なカードは全国家への立案となり、投票で可決し有効となる。時間経過で安くなるカードは競りゲームとして機能し、有限の時間で判断するリアルタイム制の特徴を生かしている。

内政・外交画面。政治力は軍事力の次に重要だ。議会への立案・投票合戦を脇目に、内政カードや研究コストへ回してもよい。マップと独立した情勢は、プレイヤーの判断力を問う。
内政・外交画面。政治力は軍事力の次に重要だ。議会への立案・投票合戦を脇目に、内政カードや研究コストへ回してもよい。マップと独立した情勢は、プレイヤーの判断力を問う。

AIアシストはプレイ内のマイクロ管理を排除したが、完全に取り除かれたわけではない。勝敗をわける効率化の優劣を艦船性能に集約し、プレイ内だけでなく、プレイ外にあたるサンドボックスモードで艦船設計できるようにした。このモードはすべての宇宙船パーツを使えるほか、敵艦隊との戦闘もできる。いわば効率追求だけを楽しむモードといってもよい。試行錯誤を要する設計を時間制限のあるリアルタイム制の外におくことで、プレイテンポと詳細操作による効率追求を両立した。

艦船設計画面。戦闘ルールは細かく、攻撃を受けた角度により被弾箇所が変わる。まずは装甲パーツを前面にたっぷりつけよう。艦隊内の役割も、防御・砲撃・戦列と具体的に指示できるので、隊列を逐一設定する手間がない。
艦船設計画面。戦闘ルールは細かく、攻撃を受けた角度により被弾箇所が変わる。まずは装甲パーツを前面にたっぷりつけよう。艦隊内の役割も、防御・砲撃・戦列と具体的に指示できるので、隊列を逐一設定する手間がない。

AIアシストによる操作量の軽減。リアルタイム制にあわせた再設計。プレイ外での効率追求。これら3点でマクロ管理の比重を高めつつ、マイクロ管理の要点である効率追求を純化した。特に、AIアシストの恩恵は大きく、ルールを熟知しなくとも国家は順調に成長する。案ずるより産むが易しといったところで、勝敗を左右する艦隊戦・外交戦の土俵にあがりやすい。もちろん、4X要素の奥深さはそのままで、理解が進むとマクロ管理レベルの効率があがる。この新しいゲーム設計は、従来の4Xストラテジー・リアルタイム制ストラテジーからわずらわしさを排除した。

 

技術開発と製品開発のちがい

新しいゲームの設計は、新技術の開発に等しく、それだけで本作は評価に値する。半年以上にわたるアーリーアクセスマルチプレイテストでゲーム設計に十分な練磨をほどこした。しかし、全体でみるとほかの要素は練磨不足で、力尽きてしまったようにも感じる。大きくわけて「演出不足」「ゲーム説明」「設計要素」の3つだ。

・演出不足

技術開発の完了や、惑星数の増大など、国家が順調に拡大している様子を告知しない。また、BGMの曲数が少なく、単調かつ無個性で、劣勢時や戦闘領域のクローズアップにあわせた曲の変更もない。20分前後で決着がつくならまだしも、数時間にわたってプレイするとなると、変わり栄えのない画面・音楽に飽きを感じる。

プレイ中、ほとんどの時間をこの画面で過ごす。要点をまとめたユーザーインタフェースで不快感はないが、画面から直接得られる快感もない。
プレイ中、ほとんどの時間をこの画面で過ごす。要点をまとめたユーザーインタフェースで不快感はないが、画面から直接得られる快感もない。

・ゲーム説明

AIアシストの恩恵である程度楽しめるが、ゲーム内で説明がなく、フォーラムや公式wikiに頼るしかない。制限時間で目標惑星数に到達を目指す内政練習。かぎられた予算枠で敵艦隊を撃破する戦闘練習。戦闘禁止の外交練習。といったミニキャンペーンがほしくなる。

・設計要素

戦闘フィールドが単調で同じ戦略で事足りる。艦隊もべた足で正面からの殴り合いしかない。有用な設計をそろえると「設計要素」が寿命をむかえる。レースゲームに例えると、セッティングは十分にあるがコースが一つしかないようなものだ。アステロイド帯・星間ガス・磁気嵐といった地形効果や、空母艦載機の編隊・艦側面斉射からの離脱といった戦術があれば、艦船設計の高い自由度を生かせたであろう。

これだけの練磨不足がありながらも、AIアシストがもたらすプレイ体験はすばらしい。だが、そう感じるのは、これまでいくつも従来作をプレイした(そして単調な反復作業を体験した)コアなストラテジーファンだけであろう。そのAIアシストを生かした新しい遊びには到達しておらず、見栄えも凡庸なものとなった。

練磨不足の要因に開発環境がある。前作『Star Ruler』は、パッケージ版の販売会社にIceberg InteractiveとInteractive Gaming Softwareがついたことで資金面には余裕があったとも考えられるが、本作はクラウドファンディングによる資金援助もない完全独立開発だ。販売会社や投機者を廃し、納期にとらわれない開発環境を得たことで、ゲーム設計=技術開発に成功した。だが、その環境が資金難をもたらし、製品開発の段階で練磨不足を残すことになった。

 

新しいゲームをつくるリスクの分散

『Star Ruler 2』は販売会社・クラウドファンディングを廃した完全独立開発の体制をもって、新しいゲーム技術の開発に成功した。強力なAIアシストで単調な反復作業から解放し、宇宙国家元首にふさわしい俯瞰視をもってプレイできる。艦船設計をプレイ外のサンドボックスモードにおくことで、マクロ管理とマイクロ管理を別にして両方の利点を抽出した。従来作の模倣に甘んじない開発コンセプトは称賛に値する。新しさをなによりも重視する4Xストラテジーファンは本作を手にとってほしい。

宇宙工学の極致、リングワールドを建設できる。その気になれば恒星も破壊できる。それら宇宙SFへのこだわりはゲームプレイのおまけだが、宇宙SFが好きなゲーマーにはおおきな魅力だ。
宇宙工学の極致、リングワールドを建設できる。その気になれば恒星も破壊できる。それら宇宙SFへのこだわりはゲームプレイのおまけだが、宇宙SFが好きなゲーマーにはおおきな魅力だ。

新しいゲームを作るリスクとは、その新しさが売上つながるかわからない点だ。技術開発だけでなく、技術を売上につなげる製品開発も求められる。だが、リスクを分散する方法はある。不足した要素を拡張やDLCで補う手法だ。メーカーもそれに気づいており、今年後半に拡張と無料DLCを計画している。それらで前章にあげた演出・ゲーム説明・設計要素の練磨に成功したなら、スタジオ閉鎖を検討する現状を打破できるだろう。