京都で開催されたインディーゲームの祭典「A 5th of BitSummit」では、グラスホッパー・マニファクチュアが2005年に携帯向けアプリとしてエピソード配信していた『シルバー事件25区』のPCコンバート版をプレイアブル展示された。

それにあわせて須田剛一氏から『シルバー事件』HDリマスターPC版への追加シナリオの配信、『シルバー事件25区』リメイク版の制作が発表。『シルバー事件25区』はこれまで他の機種に移殖されていなかったタイトルで、いわゆるガラケーで配信されていたため現在ではプレイ困難なゲームであり、ファンの間では幻の作品と評されていた。

『シルバー事件』HDリマスターのときのインタビューで須田氏は『25区』に繋げたいと意気込みを語っていたため、リメイク版はついに実現した形だ。BitSummitでのリメイク版の制作発表のあと、須田氏に『シルバー事件』HDリマスターの反響、追加シナリオ、そして『25区』について語ってもらった。

 

『シルバー事件』HDリマスターについて

――まずは『シルバー事件25区』の制作決定、おめでとうございます。『シルバー事件』HDリマスターの反響含めていかがだったでしょうか。

須田氏:
ありがとうございます。まだ詳細はそんなに出ていないですが、ようやく発表できました。PC版からPS4版に行ったりする流れが出来上がったりとか、現象として面白いですよね。アメリカでバックアップしてくれたNIS Americaさんや、支えてくれた国内外のファンの人たちだったり、新しい『25区』というものがそこから生まれてきたので本当によかったなと思います。

 
――『シルバー事件』HDリマスターの発売によって、Twitterでも大岡まさひさんが書かれたプラシーボ編のバーテンダーの台詞が再び注目を浴びていました。須田さんからみてどう思いますか。

須田氏:
大岡さん、すごいですよね。大岡さんで間違いなかったんだなっていう。

 
――ネットの反応といえば、明確な答えを提示せずに、プレイヤーに考察を促すADVが2000年代に出てきて、それがBBSなどを通じて盛り上がったゲームがありますね。『ガンパレード・マーチ』『Remember11』『ひぐらしのなく頃に』などです。『killer7』も考察サイトがあります。もしかしたら『シルバー事件』はその点で先駆けていたのではと。

須田氏:
当時、うちのサイトでBBSを作っていて、そこでファンの人達が書き込んでくれていました。もう記憶が曖昧ですが、考察などもしてくれていたような気がします。でも『シルバー事件』の答えは出しているんですけどね。「5万貸してくれ」って台詞がそうです。答えじゃないか。(笑)

 
――あれも色々と解釈がありますね。日常に戻ってきたとか。

須田氏:
ああ、なるほど。今、言われて本当だ、確かにそうだと思いました。

 
――(笑)。もともと「フィルム・ウインドウ」は予算もなく人もいないところから生まれたものだと。それが『花と太陽と雨と』『killer7』を経てグラスホッパーを象徴するスタイルになっています。須田さんはファッションデザイナーの学校に行っていたようですが、グラスホッパーの源流としてあるんでしょうか。

須田氏:
うーん、あんまりないですけどね。ハイブランドのデザイナーさんはアントワープとかできっちり基礎を学んで、基礎を展開させて、服飾を解体して再構築する。若い人間がやれることって、それしかないというか。昔の伝統をそのまま受け継ぐのではなく、新しい伝統と時代を作り上げる。その点ではファッションデザイナーさんの影響は受けてるかもしれないですし、ビデオゲームや映像の先人においてもそうですね。

 
――シナリオ面だけじゃなくUIやデザインにおいても解体していくと。

須田氏:
そうです。まさにそうですね。

 

――伝統を解体して再構築するという点で、前回のインタビューで『ポートピア連続殺人事件』などの名前が出ましたが、須田さんの原点は『エレベーターアクション』や『アウターワールド』にもあると聞いたことがあります。

須田氏:
『エレベーターアクション』はエレベーターの下の駐車場まで行って、車に乗り込んで去っていくんですが、そこに魅力というか、あの先に何が待っているのかロマンを感じたんですよね。『アウターワールド』はさきほどのBitSummitのステージイベントでも一番好きなゲームとして名前を出したんですよ。すべてが好きですね。導入から何をやらされているのかわからなくて、ノンテキストなんだけど、インタラクションそのもの、世界そのものからストーリーを感じさせる。僕にはできない芸当です。僕はその点、やっぱり言葉を重ねたいので。ノンテキストで物語を作るっていうのは、エリック・シャイとか上田文人さんとか、限られた人たちしかできないことなのかなと。

 

追加シナリオについて

――今回、『シルバー事件』HDリマスターで新しく追加されたシナリオ「Yami」「White Out Prologue」という形で『25区』とワンクッション置いた意図はどこにありますか。

須田氏:
去年のTGSのときにあった『シルバー事件』のイベントで、大岡さんだったりとか、イラストレーターの宮ちゃんだったりとか、みんなで久々に顔を合わせて集まったんです。すごい盛り上がったんですよ。みんなも喜んでくれたので、もう一回みんなと何かやりたいなと。それならフルでやる前にアイドリングをかけたくて、まずは短めのシナリオを作りました。ボリュームは少ないですが僕も書いて、追加シナリオはそういう風にプロジェクトの流れの中で生まれていった形ですね。

 
――大岡さんが書かれた「Yami」のほうは、あの例の須田作品に繋がりますね。

須田氏:
気付きました?気付きますよね。飛行機から連想して。あれは大岡さんのアドリブなんです。

 
――一方で須田さんが書かれた「White Out」のタイムリープの要素というのが気になりますが。

須田氏:
あれがどうなるかですよね。かなり言えないんで。

 
――須田さんのゲームはしばしば難解といわれますが、これまでの須田作品にもタイムリープしていると解釈したら実は謎がすっきり解けるようなことはありますか。

須田氏:
(笑)。タイムリープってのは便利なんですよね。矛盾がなんとでもなっちゃうんで。でも「White Out」はそうならないように注意はしてますね。

 

『シルバー事件25区』について

――今回、発表された『シルバー事件25区』の方向性については決まっていますか。

須田氏:
作り直します。リマスターではなくリメイクです。今回はリメイクと思ってもらえればいいじゃないかなと。

 
――『シルバー事件25区』はモノクロームのスタイルになっているところが個性的ですね。

須田氏:
『25区』では新しいスタイルで作りたかったんですよ。宮ちゃんの新しい魅力も見せたいなと思って、あえてああいうスタイルにしました。モバイルアプリの制約もあったので、それもいい方向に作用しました。今回の『25区』リメイクは、オリジナル『シルバー事件』のスタイルと違う魅力が出ているので、注目していただければなと思います。

 
――当時、『25区』はPS2で出してもよかったと思うんですが、なぜモバイルという形になったんですか。

須田氏:
手早く作りたかったんですよね。元気モバイルさんから何か一緒にやりませんか?という話になったんです。それで今、勢いで作れるものは何かな?となったときに、『シルバー事件』を復活させたいというエネルギー量がすごくあった時期なんですよ。長いストーリーやテキストを書きたかったんですよね。それで『シルバー事件25区』が誕生しました。

 
――『シルバー事件』のシナリオは二層構造ですが、『25区』はなぜ三層構造になったんでしょうか。

須田氏:
当時、うちにいたスタッフの結城くんがマッチメイカー編を書きたいです、僕もやりたいですって言ったんですよね。それで三層構造になりました。彼もプロレス好きだったので、マッチメイカーというのはマッチメイクというプロレス用語からきています。

 
――『シルバー事件』では必ず須田さんがシナリオを先に書いて、それを受けての大岡さんのプラシーボ編でした。『25区』の須田さん、大岡さん、結城さんの三層構造はどういう順番で書かれたんですか。

須田氏:
覚えていないんですよね……同時?同時だった気がします。配信日が決まっているので同時でしたね。

 
――同時で書かれたというのは『シルバー事件』と比較してユニークですね。『25区』はエピソード配信で、5話まで配信されました。6話目は考えていなかったんでしょうか?

須田氏:
6話目はやるつもりだったんですけど、なんか……あんまり当時の記憶がないんですよね。出展したPCコンバート版の『25区』をまだ遊んでないんですけど、これから遊んでみて当時のことを思い出す感じです。

 
――ところでM・ナイト・シャマランの新作映画『スプリット』はご覧になられましたか?

須田氏:
いやまだ見てないんですよ。シャマラン復活って評判いいですよね。

 
――どうやらシャマランはひとりでマーベル・シネマティック・ユニバースみたいなことをやろうとしているみたいです。須田さんの作品もどんどん繋がっていきますし、もしかしたらSUDA51’sユニバースをやろうとしているのかなと思いました。

須田氏:
ワン世界でね。でも自分で作っていったら、勝手にそうなってしまいますよね。マーベル・ユニバースか。それは魅力的ですね(笑)

 
――(笑)。それでは最後に『25区』を待ち望んでいたファンの人達に、メッセージをお願いします。

須田氏:
『25区』は幻のゲームだと言われてますが、自分たちでもそう思ってて、ほんとスタッフの記憶の中にしか残っていないゲームなんです。ぼくの他のゲームってハードごと揃えればなんとかすれば遊べるんですが、『25区』だけは何としてでも遊べないんです。だからこそ実現したかった。ファンの人達の『シルバー事件』の応援もあって、具体的には言えないんですけど、何とか面白い形で復活させられるんじゃないかと思っています。ぜひ続報をお待ちください。

 
――ありがとうございました。

 

[聞き手: Koji Fukuyama]
[写真: Shinji Sawa]


小学2年生のときに、『ドラゴンクエスト5』に出会い、「ゲームは、ゲーム独自の手法を使って人間のドラマや物語を伝えることができる」ということに衝撃を受けました。そこから一貫して、ストーリーメディアとしてのゲームに注目しています。 同時に中学生から映画を浴びるように見始め、西部劇やホラー、SF映画など、アメリカの古典的なジャンル映画をとくに偏愛しています。 オールタイムベストゲームは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。このゲームで感じた面白さや感動を再び体験するために、ずっとゲームを続けています。