東京ゲームショウ2017に出展されていたニンテンドー3DS用ダウンロードソフト『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』。キャラクターデザインにファミコン版『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』、『いただきストリート~私のお店によってって~』、そしてマンガ「べーしっ君」や「ファミ通」のクロスレビュアーイラストでおなじみの荒井清和先生を起用した、往年のアドベンチャーゲームを彷彿とさせる作品だ。

オーソドックスだが渋いタイトル画面。

ゲームの出だしは東京の上野公園から死体が発見されたという連絡が入り、現場に急行するという「いかにも」な開幕。コマンド選択型方式のアドベンチャーというのが徹底されており、プレイヤーは刑事となって、部下のケンに命令することによってコマンドを実行する。ファミコンのアドベンチャーゲームらしくフラグを立てるのが難しく、昨今のアドベンチャーゲームの感覚でプレイするとなかなか先に進めない。舞台はあくまで現代であり、スマホコマンドから証拠の写真を撮ったり、インターネットで情報を検索することできる。事件解決のために役に立ってくれそうだ。他にもスマホコマンドからは、縦スクロールのアクションゲームでハイスコアを目指すミニゲームが遊べることも確認した。

【UPDATE 2017/10/20 13:50】 当初「フラグを折る」と記載していましたが、正しくは「フラグを立てる」でした。修正いたしました。

なんと死体の第一発見者は部下のケンであった。いかにもあやしい。

本作の開発会社であるハッピーミール代表の関純治氏にお話を聞いてみると、この関氏自身がファミコンソフトに相当な愛着を持つユニークな人であった。これまでの自社のアプリゲームを個人的にファミコンカセットで製作したり、中古ファミコンソフトで名前が入ったカセットの持ち主を探す持ち主を探すWEBサイトを立ち上げているのだとか。

しかもビジネスデイ二日目には荒井清和先生がゲームショウを訪れるという。そこで急遽、予定を変更してその場でアポをとり、翌日に正式にインタビューを慣行した。というわけで、ハッピーミール代表の関純治氏とキャラクターデザインを手がけた荒井清和先生のインタビューをお送りする。

 

『伊勢志摩ミステリー案内』は一度頓挫した企画を復活させたゲームだった

――関さんが代表を務めているハッピーミールはどういう会社なのでしょうか。

関氏
ハッピーミールはゲーム製作会社で、自社で作品を製作して配信するところまでやっています。基本は親子で楽しめるアプリゲームを作っているんですが、今回みたいなドット絵のゲームは自分が好きなジャンルで、合間をみて作っている感じです。

――『伊勢志摩ミステリー案内』はキャラクターデザインに荒井清和先生を起用して、プレスリリースが発表されたときからSNSで話題になりました。関さんと荒井先生の出会いを教えていただけますか。

荒井氏
2010年、2011年とか、そのあたりですね。

関氏
その当時は「1UPGAMES」という会社を運営していまして、その会社でレトロ風アプリゲームを制作していました。その流れの中で荒井さんにお会いする機会があり、話が盛り上がり制作しようという話になりました。

――ということは、そのあたりから『伊勢志摩ミステリー案内』を作ろうしたけど、かなり時間が経ってるわけですか。

荒井氏
一旦、作り始めてたんですけど、いろいろと紆余曲折があり、難しい状況になって、事実上開発中止となっていました。

関氏
体験版までは出したんですが、そこでフェードアウトしてしまいまして。

荒井氏
お互い消化不良で、このままこの企画が終わるのはもったいないなと。

関氏
二人とも時間が取れなくて大変だけど、いつかやりましょうと。それで本業以外の時間でちょっとずつ進め始めまして、そうして形になったのが『伊勢志摩ミステリー案内』です。

荒井氏
最初に再開しようと話があったのも二年以上も前ですね。

 

サスペンスの旅情感のあるアドベンチャーゲームに

――アドベンチャーゲームといえばシナリオが重要だと思うんですが、誰がお書きになっているんですか。

関氏
大本の原案は自分が考えています。その後、色々入れ替わってるんですが、やっぱり思いや素養がある人じゃないとできないと思うので、シナリオはハッピーミールの社員ではなくフリーランスの人に頼んでいます。

――そのシナリオライターの方の過去作は?

関氏
こちらは色々と諸事情があって明かせない感じですが、この種のゲームに詳しく、やる気に満ち溢れていて頼もしい方です。

――なるほど。それでは舞台を伊勢志摩を選んだ理由は?ロケハンはされたんでしょうか。

関氏
ロケハンはしてます。イメージ違って実際に行ってみたら全然違うことがあるのでシナリオ化する前に見てきました。現地の距離感、空気感は現地を周らないとわかりませんから。「伊勢志摩地方」にしたのは、伊勢神宮をはじめ、サスペンスで旅情的な観光地になりそうな場所がいくつかあるのと、あとはやっぱり、リアス式海岸ですかね。私見ですが、サスペンスの舞台っぽいので。それで伊勢志摩に決めました。候補として、出雲とかもあったのですが、伊勢よりロケハンしに行くにはちょと遠く、費用と時間がかさむのでやめました。(笑)

荒井
色々なことを考えて伊勢志摩にしましたね。

――全体の制作状況は現在、何パーセントくらいですか?

関氏
それを聞かれると辛いところですけど、シナリオやプログラムはできていて、あとはスクリプト的なところだけで、50パーセントはできていて「あとは完成だけ!」と製作の発表をしました。ただ、悪い意味で製作スタッフの思いが強すぎて、進みが急に停滞することがよくあるのでどうなることか。みんな譲らないので。以前も一回完成したシナリオを作り直し、一気に進捗状況が初期まで差し戻ったこともありましたし、シナリオもまだ細かいところで迷っている部分もあります。なるべく早くしたいですが、色々と読めない感じはあります。また、今回の発表の反響が思った以上にあったこともあり、もっと気合い入れないと思っていたり……もちろんベストを尽くしている上でさらにという意味で。

――ゲームのなかのスマホコマンドからミニゲームが遊べましたが、これは何かゲーム内容に影響を及ぼすんでしょうか。たとえばヒントがもらえるとか。

関氏
他のADVへのオマージュ的なものを想像すると思いますが、残念ながら、スマホをコマンド化する際に、アプリゲームはあった方がスマホっぽいかな?から入れてあるので、今のところは特に考えていません。今後、全体のバランスを見て何か関係させられたらなとは思っています。

――コマンドではスマホなのに、主人公はフィーチャーフォンを持っていますが、これはどうしてでしょうか?

関氏
開発チームのこだわりで、プレイヤーが部下に命令させて何かをやらせるというシチュエーションは絶対やりたいと思ったんですね。部下にケンというキャラクターがいるんですけど、ケンはスマホ、プレイヤーの刑事はフィーチャーフォンを持っているんです。プレイヤーの刑事がスマホを持っている設定だったら、わざわざ部下の刑事に調べさせるというのもおかしいから、最新の携帯にあまり慣れてない設定にしました。プレイヤーにはフューチャーフォンを持たせて、部下が持っている画質のいいスマホで写真を撮らせたり、場所を調べさせたりする設定にしたというわけです。

 

ファミコン再現へのこだわりと葛藤

――プレイアブル展示されていたデモを触りましたが、ファミコンのアドベンチャーゲームとテンポがまったく変わりませんでした。もしかしたら今ではテンポが遅いと感じてしまうプレイヤーもいるのかもしれません。そのあたりは何か考えていらっしゃるんでしょうか?

関氏
そこがすごく悩みどころで、単純にあの当時のゲームと今のゲームではテンポが違うので、早くしたい反面、マゾ的な感覚であの辛いのを再現したい、というのもあり、その葛藤はスタッフでも揺れ動いています。デバックしてても辛いんですよ。でもやっぱり期待してくれている人たちにとっては、過去のままのほうがいいんじゃないかなという線が強いです。

――荒井先生はそのあたりどう思われますか?

荒井氏
基本的にはファミコンの時代を今やるということなんで、今風にやるというより、あのレトロ感をそのまま持っていきたいですよね。たとえばタイトルも単なる「ミステリー」ではなくて、「ミステリー案内」のほうが昔風で引っ掛かりがあるなと思ったんです。タイトル候補もいっぱいあって、ストレートに「伊勢志摩連続殺人」でもよかったんですけど、「殺人」って入れるのもSNSで表記したときにあまりよくないかなと。「殺人」という言葉だけ拾われて誤解される恐れもあるので。

関氏
ある意味、そこは今風の配慮でもあるわけです。

――実際にファミコンのROM化できるほど容量を制約されて作られているということですが。

関氏
ファミコンのROM化を想定してリソースを作っていています。正直、今となっては容量的に入るかは何とも言えなくなってきてはいますが、サウンドやグラフィックの仕様はファミコンに合わせています。

――ということは、今回キャラクターイラストだけではなくキャラクターのドット絵も荒井先生がやられてるとのことですが、ファミコン仕様でやりにくかった部分もあったのでは?

荒井氏
やりにくかったですね。ドット絵が大きくて描きながら1ドット削るだけでも表情が変わってしまうんです。難しいですよ。

関氏
キャラクターの肩の線も本当はこうしたいけど、ドットが隣のスプライトにはみ出ているので削ってくださいとか(笑)。変なところで苦労しているという。

荒井氏
とはいえ、その制限の中で作ってるのが楽しいといえば楽しいですけどね。

 

「名前入りカセット博物館」の活動について

――ところでここに『伊勢志摩ミステリー案内』のファミコンのカセットのようなものがありますが……。

関氏
これはファミコン風なのでイメージとして置いています。実際、同じ仕様で作っているので、個人的な趣味としてファミコンで動くカセットを作る予定ではあります。

――ゲームが好評だったり、要望が多かったら、そのカセットが市販化される予定は?

関氏
単に「ROMソフト」として出す可能性はなくないですけど、やるなら「ファミコンソフト」として出したいと思っています。なので、現実的には難しいとは思いますね。

――関さんは、これまでの自社製品を個人的な趣味としてファミコンカセットにしていたり、中古で名前が入っているファミコンカセットの持ち主を探しているプロジェクトをされているとか。

手作りのファミコンソフトを見せる関社長

関氏
世代的にファミコンが好きで、自分で作りたい気持ちがあったんです。もともとカセットを全種類集めようとしてたんですけど、世の中で全種類持ってる人がいるとか、昔は地方に遠征してカセットを買う楽しみがあったんですが、今はネットの通販でお金さえ出せば買えちゃう。コレクションとしてつまんないなと思ってるときに、名前入りのカセットは他にないものだなと気付いて、その持ち主を探す活動をはじめました。

――その名前入りファミコンカセットの持ち主があらわれたことはあるんでしょうか?

関氏
それがまだないんです。自分のかも知れないと連絡があり、実家を探したらそこにあって、実際は違ったということが一番近づいたエピソードですね。あとは、SNS等で名前を検索してこの人じゃないか?という報告もたまにあるのですが、基本的に、こちらからは持ち主を探してコンタクトをとるようなことはしていないので、そういうご連絡はお断りしています。それは「返却を望んでない」かもしれないからです。持ち主が見つからない理由について「いらないから手放した」「ですよね」みたいな会話をこの活動にとって笑えない話良くするのですが、そういったことからも、こちらから連絡しない、最低限、持ち主のご本人と接点がある方からのご連絡で動くスタイルでやっています。

関氏が運営している「名前入りカセット博物館

――僕はファミコン後期にぎりぎり触れた世代で、カセットに名前を書いたことがないんですが、なぜみんな当時は名前を書いたんですか?

関氏
単純になくすからですね。友達の家でみんなでソフト持ち寄ったときに、同じタイトルが混ざっちゃったりとかするんですよ。あと子供だから人のものを取ったりとか、高価なものなんで親がなくさないように名前を書かせる。えんぴつと違って、なくしたらごめんで済まされないので、幼稚園の道具に名前を書いたりするので一緒ですよね。

 

好評だったらシリーズ化も検討

――ゲーム本編に話を戻しまして、昔のPC用のアドベンチャーゲームはリアル寄りというか劇画調なのが多かったですが、ファミコンのアドベンチャーゲームは荒井先生の登場からデフォルメされたかわいらしいグラフィックが定着したと思います。

荒井氏
PCのアドベンチャーの絵は大人っぽいですよね。ファミコンで子供から大人まで親しめるような絵になったような気がします。

――ハッピーミールのゲームも、最初に関さんから親子向けのゲームを作っているといわれましたが、今回もそういうのは継承されていると。

荒井氏
ものすごく低学年を意識しているわけではないですが、大人向けにいくわけではないバランスですよね。基本的にテレビの2時間サスペンスが好きなので、その影響もあると思いますね。子供から大人まで幅広い層に見られるという意味で。

関氏
自分もそういうのが好きで、子供のころ火曜サスペンス劇場とかよく見ていました。今回はそういった意味ではリアル路線ですね。絵柄は劇画調ではないけどコミカル路線ではないです。

荒井氏
プロモーションビデオで流れているテーマソングも完全に岩崎宏美さん的なテイストですよね。(笑)

https://www.youtube.com/watch?v=A2oN_JPAS5c

――このテーマソングはどうして製作されたんですか?

関氏
歌があったほうが派手じゃないですか。実写映像を使いたいと思ったし、スタッフのテンションもあがるので。

――これは3DSの本編でも流れるんでしょうか?

関氏
いや、入れないと思います。あくまでプロモーションです。

――僕は本編にあっても面白いなと思ったのですが(笑)。ダメでしょうか?容量がファミコン仕様でなくなってしまいますが。

関氏
あくまでファミコンの再現なので。もっといえば3DSの開発がはじめてて、まだわかんないこともあるのでそのへんも含めてですよね。入れるとしても何かおまけという形でとか。

――やはりゲームの最大の目標はファミコンの再現だと。

関氏
再現というか、自分たちがまたあのころのゲームをもう一回プレイしたい。過去のものをもう一回やるのではなく、新しいものとしてやりたいということですね。

荒井氏
ファミコンのアドベンチャーのラインが止まっちゃったじゃないですか。『ポートピア連続殺人事件』『オホーツクに消ゆ』『ファミコン探偵倶楽部』、そのあとの流れが意外にないんですよ。

関氏
自分たちがあのころのアドベンチャーゲームの一人のファンなので、自分たちで作ったということですね。アドベンチャーゲームがサウンドノベル、ビジュアルノベルのほうに変わっちゃったので。時代の流れもありますけど、こういうのをまたやりたいという人もいるし、応援してくれてる人もいるので、ぜひコマンド選択方式をやりたい。ネガティブな言い方になりますけど、しんどいやつがやりたい。(笑)

――だいぶ先の話になってしまいますが、本作が好評でしたらシリーズ化のご予定は?

荒井氏
もし続けることができるんだったら、素晴らしいことですよね。

関氏
どこまでいけるかわかりませんけど、やりたいですね。ひとつで終わらせるつもりじゃなくて、キャラクターたちも引き続き続編に登場させたいですし。「ミステリー案内」シリーズという風にシリーズとしてできるようにタイトルもつけたので。セールス的なもの、スタッフの状況にもよるんでしょうけど、ぜひ続けて行きたいと思っています。

――アドベンチャーゲームのファンとして期待しています。ありがとうございました。

 

[聞き手・撮影 Koji Fukuyama]


小学2年生のときに、『ドラゴンクエスト5』に出会い、「ゲームは、ゲーム独自の手法を使って人間のドラマや物語を伝えることができる」ということに衝撃を受けました。そこから一貫して、ストーリーメディアとしてのゲームに注目しています。 同時に中学生から映画を浴びるように見始め、西部劇やホラー、SF映画など、アメリカの古典的なジャンル映画をとくに偏愛しています。 オールタイムベストゲームは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。このゲームで感じた面白さや感動を再び体験するために、ずっとゲームを続けています。