AUTOMATON vs. 小清水史 大阪のピグミースタジオに妖精が集う (後編)


引き続き、AUTOMATON vs. ピグミースタジオ小清水史氏。後編です。

 


――ちなみに、いまピグミースタジオに在籍している開発関連のスタッフは何名くらいいらっしゃるのですか?

ちょうど50名とホームページに出しているんですけど、まだまだ足りないですね。とにかくモノを創りたいというキラキラした目の人が働く環境を提供したいんですね。どちらかといえばリストラだらけのこのご時世。そこを逆行してやっていきたい。モノをつくりたいという人が安心して働いて、ごはんを食べられるっていうごく普通の環境を作りたい。社会としてもね。もちろんそれをささえてくれるファンの方の応援はその上でとても重要です。

 

――では、ピグミースタジオが求める人材は「モノを創りたい人」?

なんかトガった人(笑) だから、偏っている人が多いというかね。でも職人さんってみんなそうじゃないですか。要件しかしゃべらない人もいるでしょ。そういうヘンテコな人が多いんですが、それでもちゃんと仕事として成り立つような環境を作っていきたい。

 

――むかしはガラケーアプリの受託開発などもなさっていましたが、今のモバイルのトレンドを追うおつもりはありませんか?

僕は聖戦だなんだって言いながら、今でもスマホのネイティブアプリの受託では「触り心地が命だろ」とガーガーやってるわけですよ。ソーシャルゲームとかはね、そこが気持ちいいかで決まるんで「もっとレスポンス速くしてくれよ」とか「気持よくしてくれよ」とか言ってるわけです。だからトレンドを追っていないかといえば、じつはバッチリやってる。だからって、コンソールゲームをやめるかと言えばやめない。

どちらも否定したくないし、そもそも提供したい目的がまったく違いますよね。でも、仮にコンソールゲームが全部なくなっちゃったとしたらどう思います? これって街と森の関係にも似てません? 経済の生産性の観点だけで、効率が悪いからって、森林伐採を続けてビルが建ち並ぶのって、最終的にそれは本当にいい日本の姿かって疑問に思ったりしますよね。神社とか森とか山とかあって、全体のバランスが取れてるような気がするじゃないですか。だから、森は残さないといけない。その例えがあっているかわかりませんが。(笑)

 

――妖精の森ピグミースタジオとしては残しておかなければならないと。

そう。大きな意味で「無意味」なものを整理していくと人間がいらなくなるような気もするし。合理的でないところが人間の良さ。だから森は残しておかないといけない気がする。宮﨑駿さんが「森が日本列島の中で切れるということは良くない」みたいなことをどこかでおっしゃっていましたが感覚的になんとなくね。

2018年にコンピューターは脳に追いつくという説がありますよね。つまり、この世紀で人間とコンピューターの付き合い方が大きく変わる。すでに、検索エンジンはロボットのようにはいまわり、人はそのロボットに好かれるように行動してるし。きっと多くの人の働き方も大きく変わりますよね。

そこで人間が持つ個性って「無意味」なもの作るってことだと思いません?効率性を無視したモノを受け入れるところが人間らしさのような気がしませんか? 効率化だけを追い求めるとコンピューターに負けちゃうんだから。だから、ピグミースタジオは、人間らしさを追究したい。人の雇用もそう、ゲームもそう、効率の良い優等生ばかりじゃおもしろくないでしょ。「無意味」なものに意味を持たせたい。それがピグミーの求める森、街の中にある森じゃないのかなってね。

 

――単一の理想ではなく、多様性を。

まあ、気がしているだけですよ(笑)

 

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――すこし話題を変えます。今PSMを主戦場とされていますが、他のプラットフォーム、たとえばSteamやXbox Oneなどへの展開は考えていらっしゃいますか?

あまり代表者が「PSプラットフォームしか出さない」と言うべきではないと思うんですけど、まずは最初に90年台のプレイステーションの盛り上がりのようなものを同じ志の人達と創っていきたいですね。

 

――なんとなくすごい話に聞こえます。たとえばSteamでインディーゲームで作っている人らが星の数ほどいて、資金繰りや人手不足で苦労しています。そんななかピグミースタジオさんがソニーさんとタッグを組んで一枚岩でやっていくというのは、インディーゲームというくくりでいえばかなり特殊な事例に思えます。

いろんなところで稼いだお金で、僕らはビルを建てるのではなく森の手入れやアスレチックの建設をしているだけですよ。(笑)

 

――最近ですと、ゲームをプレイして面白いと感じたのが日本の作品だと「おーっ、日本すごい!」って思ってしまいます。皮肉な話です。そのくらい比率が下がっているかもしれません。

がんばっていきたいですね。日本のゲーム界がこれからもっと元気になっていくうえで、ゲームの文化として発展できるようにピグミーもすこしは貢献していきたいです。

 

――プレステ初期の時代では、いまでいうところのクソゲーのレッテルを貼られることを恐れない人が多かったのかな、というイメージがあります。

ま、創りやすかったってのもあると思いますね。でもそれでいくと今も創りやすくなってるし……なーんとなく、んー、もっと恐れずにチャレンジしていきたいですね。

 

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――今ソーシャルゲームでプレイされている作品のなかでマストは何ですか?

『Candy Crush』『にゃんこ大戦争』とか、いろいろやってますよ。でもやっぱり有料ゲームもやってます。面白いゲームやると、なんだかほっこり幸せな気持ちになりますね。2時間くらいで終わるゲームなんて僕は大好物ですね。なんかこう、映画サイズで楽しめるというか。

 

――最近長いゲームが多いですからね。フルプライス5000円で50時間とか、私もプレイしていて途中でつらくなります。最近だと2~3時間で良かったゲームは何がありますか?

最近でいうと『Monument Valley』。これはおもしろかったですねえ、ほっこりしました。2時間とかのゲームなんですけど、終わった時に一周した冒険感と、心地いい「じつはこうだったんだ!」というひとつ完結した気持ちになりましたね。『Tengami』は、夢はかなえるものなんだっていう創り手のメッセージを強く感じました。あの独特な音楽とビジュアルが後から脳内をかけめぐって、ジーンとしましたね。

 

――かなりゲームをプレイされているのですか?

ゲーム、すごいやってますよ。僕は基本的にゲームの予算を決めずにプレイします。いけるとこまでいってやれ、みたいに。ハマったらハマったで、なんでそこまで自分がそうなったかを知りたいし。

 

――私なんかはまだ修行が足りませんもので、「課金、5000円、うーんっ」ってなってしまいます。

あー……。いや、けっこうですね、ソーシャルゲームがどうとか家庭用ゲームがどうとか、よく比較されたりしますけど、どちらも面白いんですよ。考え方が違いますからね、そもそも他人と比べての優越感を味わうなんて楽しみ方は、ローカル一人プレイでは基本的に味わえないわけですし。

そうそう、ソーシャルゲームって基本的にトガったゲームやったらだめなんですよね。すぐにイメージできるゲームシステムでないと、インストールした瞬間「何これ? 意味わからん。めんどくさっ、もういいや」ってなるらしい(笑) だから、できるだけ多くできるようにみんなが知っているようなゲームデザインをベースに考えて設計した方がどうやらうまくいくらしい。そういうプレイヤー層を想定しなければならない。なんだか難しいね。

 

――ということは妖精の森ピグミースタジオからソーシャルゲームは出そうにない?

そうですねえ……これもいろんなところで話をするのですが、ライスワークとライフワークは使い分けます。ライスワークはごはんを食べるための仕事、ライフワークは命の仕事。ピグミーがやっている家庭用ゲームの挑戦は、ライスワークにしたいんですけど、最初にライスワークからなんて気の短い考え方はしないです。結果として、利益を生み出してくれればと思っていますね。

それに、どうせやるなら意味があることしたいですよね。スティーブ・ジョブズがペプシ・コーラの社長を引き抜いた有名な話がありますよね。「このまま一生、砂糖水を売りつづけるのか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか」っていうやつ。そんな欲や本能は誰にでもありますよね。それはもはや宿命としかいいようがないと思います。

 

――子孫を残す、的な?

(笑)なるほどそうかもしれない。人それぞれのピースがどこかにはまるように。それをやらなければならないと考える時、ありませんか? 絵を描くのがうまい人もいたら、文字を書くのがうまい人もいたり、人をひきつける能力だったり、いろいろあってそれで自然となにかに向かっていく……それって宿命じゃないですかね。あたえられた才能とつきあってやっていくというか。……宿命ですよね?

 

――キーワードは「宿命」でしょうか。

宿命、宿命って何度も言うと重たいなー(笑) DNAというか、なんなんですかね。本当は、よくわからないんですけどね、そこは。森の神様に聞いてみましょう。

 

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――そろそろ締めに入りたいと思います。「よくわからない」とおっしゃっていましたので……テンプレート通り今後のビジョンをおうかがいしようと思ったのですが……

ビジョンはありますよ。ぼくは基本的には「どうしていきたいか」という問に対しては明確。でも僕が家庭用ゲームでヘンテコなゲームを投入していったり、他社が解雇していくなかで人を雇ったりっていうことについては、経営者としてはよくわからないのです。一般的には、企業が儲かるよ うなところだけで動くものですから。そこに反発しているということは、経営者としてはよくわからない。やっぱりそこに森を入れるんですね。わかります?

これを世界規模でやりたい。アメリカでもヨーロッパでもアジアでも。同じようにモノを創れる人がピグミースタジオにきたらなにかができる、っていうようにしたい。僕らは「世界のデジタルおもちゃ工場」ってホームページにも書いてますけど、世界でやりたいです。はみ出し者ばっかりが集まって、あそこにいったら夢をかなえられるんじゃないか、という環境を充実させていく。いまはまだ大阪にしかないですけど、もっともっと大きくして、たくさんの大うつけ者が働けるようにしたいですね。

 

――世界から妖精を集める。

こびとは、数集まらないと(笑)今後のビジョンとしては、そうして世界で手作り感のあるおもちゃ、デジタルおもちゃを1つずつ丁寧に量産していくこと。

デジタルおもちゃの基準は僕の中にきっちりとあって、まず「手作り感があること」、そして「遊び方を強要しない」ということ。

この2つを満たしたものがデジタルおもちゃだと思っています。手作りなもので、なんらかの反応がほしいですね。賛否どちらの反応でもいいです。言い換えると、反応してもらえるものをつくりたいですね。「ああいうふうにはならないようがんばろう」って思ってくれてもいいし、「俺ならこうする」ってのもいいですし、「ゲームと呼べないようなものを作りやがって」でもいい。とにかく無視しないでほしい(笑) それで、なんらかの刺激を与えられたら嬉しいですよね。

 

――さきほど世界への展開とおっしゃっていましたが、今具体的にどこにスタジオを構えるかなどの構想はありますか?

そうですね、サンフランシスコ、スウェーデン、シンガポールに作りたいです。

 

――では最後に。AUTOMATONの読者には、ゲーム情報に飽食した、ゲームに飽きかけた者も多くいると思います。チル・アウトして冷めてしまった人、そういう人へ向けてなにかメッセージを。

ゲームに対し最近あきらめかけている人へのメッセージということでいくと……あ、これだ! 「あの少年時代のワクワクゲームを取り戻せ」ってね。全員年齢違うから少年時代っていっても時間軸は違うんですけど、少年時代ってピュアだったじゃないですか。みんな毎日が驚きと活力で満ちていた。

そういうことでいくと、大人の自分たちが飽きたから、少年の心がなくなったからといって、その心を持ち続ける人達に「ゲーム面白くないよね」なんて伝えてほしくない。サンタクロースはいつまでも来なければならないし継承しなければならない。そんな少年の心を守っていきたいし守ってもらいたい。ゲームは、やっぱりウキウキしながらやってほしいです!

 

――ではまだ現役、私をふくめた、いまだ強い情熱を持っている方へのメッセージも。

ゲームの未来を作るのはみなさんだ、ってね(笑) だってそうですよ、そういう人たちが存在するからこそ、創り手がゲームを創っていけるわけで。これからも応援してください。できたらいろんなゲームやってもらいたいですし、そのなかにうちのヘンテコなゲームがまぎれこんでたら感激ですね。

 

――では私も微力ながらゲームのワクワクを伝えられるよう努力いたします。……もともとAUTOMATONのコンセプトのひとつでもあるのですが、なかなか情熱を伝えるのは難しくて……。

たぶんですね、ゲームの文化自体がまだ短いからだと思いませんか? ファッションの世界とか、業種として歴史の長いものってあるじゃないですか。何百年と続いているもの。そういうのは飽きられては新しいものが出て、の繰り返しが続いている。戦隊ものなんかずっと同じ感じでフォルムや設定を変えて提供していますよね。でも、少年たちは眼をキラキラさせながら観ているわけです。でもそういうのをバカにしちゃだめですよね。面白いものは面白いし楽しいものは楽しいんです。そこを同じ温度でつきあっていけるかっていうか。そういう努力って、ゲームも同じようなものなのかと思っていたりしています。僕はずっと悪ガキでいたい。

 

――悪ガキが作る大阪のこびとの森。

いたずらっこなんでね。ずっとその温度でいきたい。体はどんどん劣化しますけど、少年のワルガキのピュアさは忘れたくないですね。ってところでまとめてもらえます?(笑)

 

――ありがとうございました。

……いけますかこれで?

 

――大丈夫です(笑)

 

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雑談タイム

 

――今日のために『僕は森世界の神になる』と『野犬のロデム』をそこそこプレイしてきたのですが……

『野犬のロデム』はVitaでやった?

 

――いえ、Xperia Tablet Z2でやったもので。不具合はとくに発生しませんでした。

Vitaでは、プレイステーションテクニカルチームより調査を進めている状況です。

 

――Z2でそういう現象はなかったので、石元から説明を聞いて、そんなことになっていたのかと。

そう、タブレットの方だと問題ないはずです。

 

――死んだあとの演出が楽しいゲームなのですこし残念です。

そうなんです。すいません!もう少々お待ちください!

これね、メディアでもいろいろしゃべらせてもらったんですけど、『野犬のロデム』の舞台の「ヒャクジリ公園」にはいろんな秘密を隠しているんです。だから、ラショウさんは「こういうふうに遊んでください」とは言いたがっていません。みなさんで公園で自由にあそんでください、発見してくださいということだと思います。ゴミ箱の中身をくわえてどこかに持っていったらなにかが起こらないか? と考えてもらう。たとえばですけど、パラサイトをとると頭の上に芽が生えるじゃないですか、それをどっちが早く花咲かせるかを、同時に大人数集めてアナログに競争したりしても面白いかもしれない。

この世界は、わけがわかんないじゃないですか。空をとんでるものもわかんないし、音だってなんだって謎だらけです。だから自由に受け取ってもらえればいいんです。

たとえば、こういう考え方もできます。ロデムって目が真っ赤じゃないですか。尋常じゃないですよね。これ、僕の解釈ですけど、ロデムはお腹すきすぎて極限状態になってて、見えないものが見えちゃってると思うんですよ。太陽の光って普通見えないじゃないですか。それを具現化、つまりエネルギーを形にしたらあんなふうになるんじゃないかなと。天からの恵みが極限状態の犬にはああいう風に見えてるのかなとか。音とかは全部幻聴とかで。

あと、こういう風にも考えられます。これは世界の縮図だと。いろんなものたべて、溜め込みすぎると悪いモノができるんです。それでその悪いモノを放出すると、世の中によくないことが起こるんです。わかります?世界の縮図として。他にもよく観察してみてください。なにかそのように思えることが結構ありませんか。

 

――『僕は森世界の神になる』はトレイラーを見ていた時にはいまいちピンとこない地味なゲームだと思っていたんですが、いざやってみるとすごくハマりました。タブレット相性がよかったのかもしれません。

直感的につぶしている感じが出ますからね。あともう一つがね、「神」になるわけじゃないですか。これも比喩なんですが、神様ってピンポイントでなにかできないんですよ。大雑把に殺すんですよ。なにかを殺したらなにかが良くなったりするわけで、それをゲームとして表現しています。でも、あれをマウスコントロールするとピンポイントで狙えすぎるので、神様的には不公平なんですよ。

 

――なるほど!おっしゃるとおり。たしかにピンチズームして狙うことはできるのですが、途中からプレイが雑になってきて適当に間引きするようになりました。

いちおうね、拡大して一匹狙いを定められるんですけど、もし神様がやるとしたら、時間かけて一人を救うためにそんなことするのかって。だいたい目分量でやるわけですよ。ゲームのコンセプトとしてはそっちのほうが合ってると思いますよ。

 

 


小清水氏いわく、ピグミースタジオは"こびとの集まるヘンテコゲームを愛す会社"。じつに先進的な思想をお持ちだったことは、おそらくここで特筆するまでもないでしょう。「ああ、そうなんだよ!」と思われたかたは、きっと安田以外にもいらっしゃったはずです。

もはや"インディー"の枠組みは必要不可欠でなくなりつつあります。それを代弁し先鞭をつける小清水氏とピグミースタジオの今後は、ゲーマーが注目すべき事柄たりえるでしょう。

 

[聞き手: 安田伸毅石元修司]

[写真: Mon Gonzalez]

 

[インタビュー] AUTOMATON vs. 小清水史 大阪のピグミースタジオに小人と妖精が集う (前編)

[インタビュー] AUTOMATON vs. 小清水史 大阪のピグミースタジオに小人と妖精が集う (中編)

[インタビュー] AUTOMATON vs. 小清水史 大阪のピグミースタジオに小人と妖精が集う (後編)

 

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