国内で成功した「オンラインゲーム」が、より多くのプレイヤーにゲームを遊んでもらうために海外進出することは当たり前の戦略となりつつある。売り切りのパッケージタイトルとは異なり、頻繁なアップデートやプレイヤーとの交流が必要なオンラインゲームの海外進出においては、現地に根ざしたアップデートやカルチャライズを行うために現地の運営会社と組む例も多い。そして同じゲームであるはずなのに、国籍の異なる2つの企業が運営することによって、微妙な差異や変化が生まれることもままある。その背景には何があるのだろうか。

機動戦士ガンダムオンライン』は、2012年末に日本国内で正式リリースされたオンラインアクションゲーム。プレイヤーは連邦軍かジオン軍に所属し、最大51対51のモビルスーツが相まみえる「大規模戦」に挑む。2014年からは、現地のオンラインゲーム会社「9you」が運営する中国版のサービスがスタートし、これまでも一部では日本版と異なるコンテンツや仕様が提供されてきた。

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さらに6月22日の発表では、中国版に「傭兵」という概念を導入する大規模アップデートが実施されることも明らかにされ、実際に導入された。果たしてこの”傭兵アップデート”とはどういった内容なのか、そしてなぜ日本ではそのまま導入されないのかを、日本版プロデューサーの佐藤一哉氏と、中国版ディレクターの三小田晋久氏の二人にインタビューした。

(左)中国版ディレクター三小田晋久氏 (右)日本版『機動戦士ガンダムオンライン』プロデューサー佐藤一哉氏
(左)中国版ディレクター三小田晋久氏 (右)日本版『機動戦士ガンダムオンライン』プロデューサー佐藤一哉氏

――日本では2012年12月末にサービスを開始し、それから2年後の2014年には中国版サービスをスタートしました。なぜバンダイナムコオンラインは『機動戦士ガンダムオンライン』の中国版サービスを始めたのでしょうか?

佐藤 一哉:
バンダイナムコオンラインは、オンラインゲームを専門にやっている会社ですので、主力タイトルである『機動戦士ガンダムオンライン』をさらに大きくワールドワイドに展開したいという意思が強くありました。「ガンダム」は特にアジアを中心とした海外でも人気が非常に高いため、そこから展開しようと考えていました。アジアといっても様々な市場がありますが、中国がオンラインゲーム市場としても最も大きく「ガンダム」人気も高いエリアでしたので、そこへ『機動戦士ガンダムオンライン』を投入しました。

――中国にも「ガンダム」ファンは多いようですね。

三小田:
そうですね。特に中国の沿岸都市と大都市ではかなり多いですよ。内陸部では海外文化の情報に接する機会が少ないので、そういったエリアと比べるとやや少なくなるとは思いますが。

中国で『機動戦士ガンダムオンライン』を発表した際、中国のユーザーたちからは非常に多くの反応を得られました。2014年の「CHINAJOY」(日本での東京ゲームショーにあたるゲームイベント)の会場では、アムロ・レイ役の古谷徹さんが登壇し、大々的な展示が実施されました。

「ガンダム」のシンボル的な存在であるアムロ・レイの声を担当されている古谷徹さんは、長い間一線で活躍されていらっしゃいますので、中国でも非常に知名度があります。会場でのファンの反応は非常に熱くて、ファンの驚きと喜びの歓声が会場に鳴り響いていました。

――『機動戦士ガンダムオンライン』の中国版に関してお聞きします。国内版サービスと異なる中国版サービス部分は、どのように開発が決定し、サービスが行われるのでしょう?

佐藤
ゲーム内のコンテンツについては、国内版も中国版も国内スタッフで開発しておりますので、しっかりとバンダイナムコオンラインが責任をもって開発・監修を行っております。

しかしながら、日本と中国で文化やゲームの楽しみ方も異なりますし、何よりプレイヤー自身の育ってきたゲーム環境が大きく違うところがあります。日本のゲームプレイヤーが「当たり前」と思うことが中国のプレイヤーにとっての「当たり前」ではないことはかなり多くあります。これは開発者の視点でも同じことが言えます。ですので、言語ローカライズだけではなく、そういった現地のユーザーに最適化できるような運営のやり方やイベント内容などは、現地の「9you」社と意見交換した上で決定させてもらっております。もちろん、最終的には「ガンダム」のゲームとして提供して問題がないかどうかを含め、バンダイナムコオンラインとして最後まできっちりと携わっています。また、言語ローカライズについては、サンライズ様にご協力いただき、ガンダム用語についても全て公式設定となるよう細部にわたる箇所まで確認をお願いしております。

三小田:
特に中国のローカライズに関する特色や言語に関するコンテンツは、中国側チームから具体案を提案しています。これまでも、日本語版をベースにしながら中国のユーザーに適したコンテンツを追加開発きました。例えば、トーナメント大会仕様は、その成功例ですね。この機能は当時、中国側チームが開発の必要性を感じて提案したものです。他にも、中国版独自での機体の特色を出すことも必要だと考えて、いくつか案を日本に提示し数値的な調整を行っています。ただ、具体的な開発の舵取りは日本の開発チームと検討を重ねた上で決定していきます。

――中国版と日本版では、どういったコンテンツの違いがありますか。

三小田:
いま現在、中国版と日本版の違いは、次第に増えています。特に大きな違いは、先ほど触れた機体のパラメータの違いです。中国でリリースされる新機体に関しては、中国のユーザーに合わせて多少の変更を加えています。もう1つは、先ほども触れたトーナメント大会という中国ならではのコンテンツです。最近アップデートした機能である「OCシステム」も同様です。また、中国カルチャーに合わせたパイロットコーディネートアイテムの作成など、中国版固有のコンテンツは増えてきていますね。

――中国ユーザーが好む機体調整はどんなものでしょうか。また「OCシステム」や中国のパイロットコーディネートアイテムについても概要を教えていただけますか。

三小田:
機体の調整については、中国ユーザーの好みや傾向を踏まえて行う必要がありますね。中国のユーザーは個人の成果や、全体に対する個人の貢献度を重視します。だから機体の原作的な再現性を重視しつつも、戦闘時において単独で戦う能力に重点を置いています。テクニックのあるユーザーが、なるべく多数の敵を相手にできる可能性を持たせています。

「OCシステム」は、ユーザーが好きなように機体を育成できることを目的としたものです。たとえば、機体の機動性を重視しているユーザーがいれば、アーマーを重視しているユーザーもいる。そういったユーザーがそれぞれ個性を発揮できるようにするため、同じ機体でも自分のスタイルに合わせてカスタマイズが可能です。中国のパイロットコーディネートアイテムについては、サービス開始時以来、様々なモノを作っては追加してきました。パイロットの服装や背景も、中国らしいのものを中国版のみで実装しています。

佐藤:
三小田の話にもありましたが、日本のユーザーと中国のユーザーで求めているものが違うので、日本版だけの仕様があったり、中国版独自の仕様があったりします。中国版用仕様のうち、日本版でも取り入れた方が良いなと思ったものは、後に日本版に取り入れているものもあります。ただ、これまでの開発の流れから、基本的には日本版のアップデート内容が軸となっています。特に新しいモビルスーツなどは、日本の開発チームで制作したものを後に中国版に実装するという流れが多いです。

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――中国版がスタートして2年ほどが経過していますが、現在まで運営してきた感触はいかがでしょうか。

三小田:
昨年1月28日のオープンベータテスト以来、特に大きな問題もなく全体的にスムーズに進んでいます。基本的にユーザーは祝祭日や連休日に集まっていて、特に祝祭日が多いですね。

――今後、中国でどのようなアップデートを予定されているのかお聞かせください。現地時間6月22日の発表によると、中国では陣営を撤廃するような大型アップデートがあるとも聞いています。

三小田:
詳しく説明すると、陣営の区分を撤廃するという言い方は当てはまらないと思っています。私たちはユーザーに、いわゆる“キャラクターの転職”をしてもらおうと思っています。ユーザーが作成したキャラクターを、1つの陣営だけに縛りつけたくないないので。そこで考えられたのが、“傭兵モード”という新しいコンセプトです。

傭兵モードでは戦闘時にさまざまな武器を使いこなすことができ、またあらゆる機体を使用することが可能です。これで大規模戦は、よりエンターテイメント性が増すと考えています。ユーザーたちが選ぶ機体の組み合わせの自由度はより高くなります。

さらに“傭兵”というコンセプトの導入によって、ユーザーは1人のキャラクターの育成に集中すればよくなります。そうすれば資産管理の難易度も緩やかになるはずです。この点においても、ユーザー体験をよりよいものにしたいと考えていました。ユーザー体験をよりよくするというのは、常に私たちが考えていることです。それほど遠くない未来には、より多くの陣営をゲーム内に導入することを考えています。その時は、ユーザーが傭兵として自分が属したい陣営に参加することができるようにしたいです。

――今後のアップデート内容について、さらに詳しく教えていただけますか。

三小田:
先ほどお話しした大型アップデートは6月29日に実施予定です(※取材日2016年6月24日 その後予定通アップデートは実施された)。このアップデートが終了した後に開発するコンテンツは、現在協議を進めている段階です。ただ、いくつかは決まっていて、そのうちの1つが、全機体に各勢力のマークをつけるという仕様変更です。いま現在、ゲームの陣営は地球連邦軍とジオン軍の2つだけですが、今後は陣営をもっと細分化するかもしれません。たとえばエゥーゴやティターンズ、さらには袖付きなど。将来的により多くの陣営を導入する可能性もあるため、その下準備ということになります。

陣営をより細分化すれば、特定の勢力同士の大規模戦やトーナメント戦など、さらに遊び方を増やせると考えています。たとえばエゥーゴVSティターンズですとか。ただし現在のゲームシステムそのままでは難しいと考えていますので段階的なアップデートが必要だと思います。

――ちなみに今回のアップデートの傭兵というコンセプトは、中国と日本どちらの運営からでた話ですか。

三小田:
この考えは中国版チームから出た話です。ユーザーに大きな変化を与えたいと思っていました。

――中国ユーザーから陣営を撤廃して欲しいと言う声は多かったのでしょうか。

三小田:
これについては中国のユーザーからというよりも、どちらかというと中国側チームが提示した考えです。先ほど述べたように、単純に陣営の区分を撤廃したいのではなく、ユーザーが陣営に縛られず、自身で『機動戦士ガンダムオンライン』内で所属する陣営を選択できるようにしたいと考えています。例えば、ユーザーは「戦闘ごとに好きな陣営に加入できるようになる」といったようなことを可能にしたいと考えています。つまり陣営力自体はゲーム内に残されたままです。陣営同士の戦いというコンセプトは今後も維持します。常に地球連邦軍対ジオン軍の構図が続くというのは、原作とも離れていますよね。その点も我々は考慮しています。

――日本版にはこのアップデートを実装する予定はあるのでしょうか?

佐藤:
陣営の問題に関しては、『機動戦士ガンダムオンライン』において非常に重要だと思っています。「ガンダム」という作品になにを求めているのか、日本と中国のユーザーでは差があると考えています。陣営が存在することによって、良い面と悪い面があることは我々も重々理解していますし、日々運営する中での大きな課題だと考えています。

その上で、日本のユーザーは世界観を大事にしている方が多いと思っています。『機動戦士ガンダムオンライン』の元来のコンセプトも、原作での戦争観というものを重視しています。そのため、日本版でも現時点では「連邦対ジオン」という設定を残していく方針です。ただ、段階的にアップデートが進むにつれて、「連邦対ジオン」だと遊びにくい、または変化させることで「より新たな楽しみを提供できる」といった時代が来た時には、それも変わっていくかもしれません。

――中国のユーザーは、『機動戦士ガンダムオンライン』になにを求めていると思いますか?

三小田:
「ガンダム」が好きだからこのゲームで遊ぶというユーザーもたくさんいますけど、ゲームという面から見ると、中国ユーザーは『機動戦士ガンダムオンライン』に対し、アクションゲームであることを期待していると思います。中国ユーザーはゲーム内で白兵戦用の機体を好んで使用していて、自分の腕前を示そうとする人が多いですね。

――逆に日本版では原作への愛が強いユーザーが多い?

佐藤:
もちろんそれぞれに楽しみを見出していただいていて、いろんなユーザーの方がいると思っています。原作の「ガンダム」ファンだから『機動戦士ガンダムオンライン』を遊んでいただいているという方は、中国のユーザーと比較しても日本の方が多いと思います。過去にアンケートを何度か取っていますが、8割ぐらいが「ガンダム」が好きだという人です。オンラインゲームユーザーとして、51対51という数少ない種類のゲームとして純粋に楽しんでいただいている方もいます。ただ、どちらかといえば「ガンダム」ゲームとして楽しんでいる方の方が多いと捉えています。

ファーストガンダムが37年前に始まり、その頃からのファンの方もいらっしゃって、非常に深い愛情のある方が多いです。ゲームとしては陣営を一緒にしてしまった方が良い面もありますが、あくまでも「ガンダム」のゲームとして連邦とジオンで別れて戦いたいという意見を多く聞きます。その「ガンダム」らしさという部分は重視しています。

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三小田:
中国のユーザーは、日本のユーザーよりも新しいモノを追いかける傾向があります。常に一番新しくて流行性のある機体を求める傾向がありますね。

佐藤:
この部分が特に、日本と中国で運営方針が大きく分かれるところです。両国のユーザーで更新に対するスピード感や期待感が全然違う。『機動戦士ガンダムオンライン』に限らず、中国ではテンポが早い運営が求められていて、1か月に2体ぐらいはコンテンツを追加して欲しいと考えている。周りとの競争が激しいので、質より量やスピードを重視して運営しないと、すぐに沈んでしまいます。

一方で日本のユーザーは、もちろん更新頻度が早いにこした事はないと考えていると思いますが、しっかりバランスが取れたコンテンツを配信してくれることを期待している。そうなると、1体の機体を作るのも1か月から2か月くらいかかっています。日本版の運営チームとしては、できる限り精度が高いものを出すべきだと考えています。

――「連邦軍」と「ジオン軍」、それぞれどちらの陣営が人気でしょうか。「日本版」と「中国版」でそれぞれ違いなどあるのでしょうか。また、人気シリーズの機体などはありますか?

三小田:
中国版では「ガンダム」を操作したい人は連邦軍を選び、原作のストーリーや設定的な要素を求めている人は、現地の「シャア」人気も手伝ってジオン軍を選ぶ人が多いです。比率は半々くらいでしょうか。シリーズ作品で言うと、「機動戦士ガンダム」や、「機動戦士ガンダムUC」の人気が高いです。
赤い彗星のシャアは、中国ファンの間でも人気があり、その繋がりでフル・フロンタルも人気が高く、シリーズとしてはその2つの人気が高いです。

佐藤:
日本でもほぼ同じ傾向ですが、ジオン軍の方が少しだけ人気ですね。日本だと、ややジオン側に人気が偏る傾向があります。

――たとえば重撃仕様の「ガンダム試作3号機」など、中国版のみで実装されていますよね。日本のユーザーも早く触れてみたい機体の1つだと思います。

佐藤:
いつかは日本版にも実装したいと考えていますが、基本的には新しいモデルの機体を出したいと思っています。中国版はスピードを優先し、なるべく数多くの機体を登場させたいと思っており、月2回のペースで新機体を追加しています。そのため既存機体の別タイプ機体も多く投入しています。逆に日本版は、1か月に1度のペースで新機体を実装しているので、なるべくその1回がインパクトを出せるよう、目新しいモデルの機体を優先して実装しています。ただ、クオリティとスピードのバランスが重要だと思っていますので、ケース・バイ・ケースですね。

――日本版と中国版で運営方針が大きく違うとのことですが、今後、両バージョンの運営はどのように進められていくでしょうか。

三小田:
日本版と中国版は互いに多くを学びあうことができていると思っています。日本版のアップデートにも良い部分がたくさんあり、中国版にそれを取り入れたりしています。逆に先に話したトーナメント大会のように、中国版から日本版に取り入れている要素もあります。

――今後、日本版と中国版のユーザーたちが交わる機会は設けられるでしょうか。たとえばトーナメント大会の統合など。

三小田:
トーナメントの統合ですか。可能性は否定しませんが、中国と日本のバージョンは差が大きくなっているので、実現できるかどうかは明言できないですね。

佐藤:
一時期、日中トーナメントか日中大会をやろうというアイディアはありました。でも物理的な距離があるので、通信上の問題が発生します。51対51の戦い、尚且つ『機動戦士ガンダムオンライン』は結構ハイスピードなアクションゲームですのでラグが発生すると、片一方が有利になったり、もしくは不利になってしまいます。日中同時にオンライン対戦するというのは、ゲームシステムや通信環境が追いついていないので、現実的では難しいと考えています。通信環境的に難しいのなら、現地イベントなどに落とし込めないかな?などと考えたりはしています。

三小田:
中国ではe-Sports形式のイベントをいくつも行っています。さまざまなゲーム競技イベントが行われていることからもわかるように、中国ユーザーのe-Sports的なニーズはとても大きいですね。ですので、日中で有効試合やe-Sportsのようなイベントができないかと模索はしていますが、佐藤が話したような通信の問題、さらにバージョン違いの問題がある。特に通信の問題は避けることができない。だからこの問題については日中でよく話し合い、何らかの形でゲーム大会を開催できればと考えています。

――最後に日本版、中国版のプレイヤーにそれぞれメッセージをお願い致します。

三小田:
中国版では、今後行われる「傭兵」の大型アップデートを楽しんでもらえればと思います。ガンダム文化が中国でより広がり、楽しくゲームを遊んでもらえればと。

佐藤:
日本版の『機動戦士ガンダムオンライン』に関しては、去年の末から「ZProject」、さらに今春に「ZProjectⅡ」を実施しました。今は一段落つきまして、次の大きなアップデートまでは、あまり一つのテーマに囚われず、様々な時代の機体を実装していく予定です。今後のアップデート内容はまだ示せてはいないですが、これから新しいマップや、システム、そしてゲームバランスに関して大きく改善するための開発を行っているところです。秋ぐらいには、ゲームがより楽しくなるアップデートを計画していますので、もう少々お待ち頂ければと思います。

――ありがとうございました。

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[聞き手 Shuji Ishimoto]