「日本プロeスポーツ連盟」発足で国内eスポーツの“プロ化”を狙う、日本で初めて『League of Legends』外国人選手にアスリートビザ発行へ

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一般社団法人「日本プロeスポーツ連盟」は3月30日、東京都内のザ・キャピトルホテル東急にて、同連盟の設立に伴うメディア向け発表会を開催した。イベントでは、同連盟の概要や設立の趣旨、活動内容を説明すると共に、プロeスポーツチーム「DetonatioN FocusMe」所属の韓国人選手2名に、同業界では初となる「興行ビザ基準省令3号」(通称、プロアスリートビザ)が発行されたことを発表した。来賓として、「オンラインゲーム議員連盟」から公明党の漆原良夫氏、同じく民進党の松原仁氏、そして「日本オンラインゲーム協会」の共同代表を務める植田修平氏を迎え、「ゲームをプロスポーツに、ゲーマーをプロアスリートに」というスローガンのもと、国内eスポーツシーンの発展に馳せる将来のビジョンが語られた。

 

eスポーツにおける”プロ”の存在価値

「日本プロeスポーツ連盟」は、「DetonatioN Gaming」を運営する株式会社Sun-Gence代表取締役社長の梅崎伸幸氏を発起人とし、共同代表に株式会社SANKO代表取締役の鈴木文雄氏、株式会社マイルストーンJCG代表の松本順一氏を迎えた新たな組織。株式会社ロジクールのクラスターカテゴリーマネージャー古澤明仁氏が監査役を務めている。昨年5月に業界関係者約40名の有志により立ち上げられた「eスポーツの未来を考える会」を母体としており、バックには「オンラインゲーム議員連盟」と「日本オンラインゲーム協会」の支援がある。なお、これまでに発足した「日本eスポーツ協会」と「eスポーツ 促進機構」に続いて、国内のeスポーツ関連団体では3つ目の業界組織となるが、“プロ”にフォーカスすることで差別化を図っているとのこと。

ロジクールの古澤明仁氏
ロジクールの古澤明仁氏

eスポーツシーンのメッカといわれる欧州や、国技とまでもてはやされる韓国と比較すると、日本では競技としてのオンラインゲームはほとんど認知されていない。しかし、古澤氏によると、世界からの大きな潮流を受けて、eスポーツの波は確実に日本にも来ているのだという。現在、世界の全スポーツ人口は約22億人。それに対してeスポーツ人口は、ライトな視聴者層も含めると2017年までに約3億3500万人に上るといわれており、全体のおよそ15パーセントにまで迫っているとのこと。現に、『League of Legends』や『DOTA 2』の大会視聴者数は、バスケットボールの「NBA Finals」や野球の「World Series」を大幅に上回っており、それらに引けをとらないくらい世界がeスポーツに熱狂していることが客観的に読み取れると、同氏は説明する。

「ゲームをプロスポーツに、ゲーマーをプロアスリートに」というスローガンを掲げているように、「日本プロeスポーツ連盟」はゲームをプロスポーツへ昇華させることを目標としている。それでは、同連盟が“プロ”にこだわる理由は何なのか。古澤氏は次のように述べている。

「プロシーンの各場面を切り取ると、そこには常に情熱があり、ファンがついている。そうした情熱の輪を広げていきたい。eスポーツアスリートは人生をかけて一戦一戦に立ち向かっている。それぞれ勝敗をかけてギリギリの精神状態で戦っている。それはまさに“スポーツ”ですよね。野球やサッカーと同じように、こうした喜怒哀楽がある真剣なエンターテイメントには必ずドラマが生まれる。そして、それを観ているファンは常に魅了される。そういった感動体験を一人でも多くの人に伝えて輪を広げていきたい」

スポーツにおけるプロの存在価値と必要性を追求した結果だという。

 

「日本プロeスポーツ連盟」のロゴ
「日本プロeスポーツ連盟」のロゴ

また、古澤氏は「日本プロeスポーツ連盟」のロゴに込められた真意についても言及した。形状はeスポーツの“e”をあしらったもので、背景色の赤と黒はそれぞれ心理学的な意味が込められているとのこと。赤は情熱、盛況、挑戦、プライド、そして日本を分かりやすく表現している。反する黒は、一般的にはクールな印象を持ち、ネガティブなカラーとして扱われることも多い。しかし、連盟があえて黒を選んだ理由には、“周りを際立たせる”というもう一つの意味があるのだという。赤に込めた情熱を、さらに際立たせるための黒であると説明している。

 

 

eスポーツを文化として根付かせるには

国内におけるeスポーツの振興にあたって、「日本プロeスポーツ連盟」にいったい何ができるのか。その自問に対する答えがまさに経営理念とビジョンに落とし込まれていると、古澤氏は語る。「プロeスポーツの感動体験を人々と共有し共に成長していく」という理念の先には、「プロeスポーツ文化の創造に常に必要とされる存在になる」という大きなビジョンがあるという。国内ではこれまでにないマーケットであることから、失敗するリスクも含めて、プロアスリートと共に成長していきたいと期待を込めている。その上で、一線で活躍するアスリートのみならず、チームの運営スタッフはもちろん、周辺機器を取り扱う関連企業や大会運営側、業界アナリスト、選手を心身ともにケアするサポートメンバーなど、雇用の増加に繋げる狙いを示した。eスポーツが産業とまで成長した暁に、そうしたいくつもの点を線で結ぶのがまさに連盟の役割なのだという。

そのビジョンを実現するためには、eスポーツを文化の一部として日常の習慣にする必要があると、古澤氏は続ける。習慣化に欠かせないのが、アスリートとしての「参戦」、ファンとしての「観戦」、そして感動を「共有」することだという。そこには一定の枠組みが必要となる。その要がリーグの設立である。単に一から立ち上げるだけではなく、既存のリーグを連盟公認にすることで、理念を共有してお互いに成長させていく構えのようだ。

しかし、eスポーツを文化として根付かせる上での課題は多い。まず、大きな問題は、プロゲーマーの定義が曖昧であること。次に、他国に大きく遅れをとったプロアスリートビザの承認。そのほか、不当景品類及び不当表示防止法が枷となり多額の賞金をかけた大会主催が難しいことや、国内におけるマーケティングデータが著しく不足しており将来のポテンシャルが不透明である点、メーカーの著作権をめぐる懸念など、課題は山積している。

「日本プロeスポーツ連盟」のスローガン
「日本プロeスポーツ連盟」のスローガン

今後、eスポーツをプロスポーツへ昇華させていくために、5つの活動方針が発表された。まず、「eスポーツライセンスの制度化」。自動車の運転免許証と同様に、後述する教育機関との連携はもちろん、セミナーや講習を実施することで、“プロとはこうあるべき”という線引を設けることが重要とのこと。eスポーツを真にスポーツとするならば、他と同様にスポーツマン憲章のようなものが求められると説明している。また、こうした制度化は、いよいよ来月から開校予定のプロゲーマー向け専門学校の生徒が、2年後に卒業した際の指針としても役立つとしている。なお、ライセンスの種類は、一定の技量や知識を持つeスポーツアスリートであることを示す「ゲーマーライセンス」、法人で健全な運営基盤を持つeスポーツチームであることを示す「チームライセンス」、法人が運営し安定した基盤かつ校正な大会であることを示す「公式大会ライセンス」の3つに区分される。

次に、「チームオーナーの育成・サポート」と「アスリートの育成・サポート」。現役で活躍する選手は大半が16歳から25歳の若者であり、彼らをいかに指導し支えていけるかが鍵となる。さらに、文化の育成において教育という概念は切り離せないことから、「支援企業、教育機関との連携」が必須であるとのこと。今後、立て続けに開校されていく専門学校の生徒にどれほどの機会が与えられるかが問われている。最後に、「公認大会の普及促進」だ。「我々連盟が公認したというバッジを貼るだけではなくて、先程申し上げたプロとして必要となるたとえばジャッジであるとか、こういう風に配信やりましょうよとか、こういう風にファンを喜ばせましょうよ、そういうような基本的なガイドライン作りから一緒に公認大会っていうのを作っていただいて、そこに出るメリット、そこに出る誇り、そこにスポンサードする企業がより健全にビジネスとして成り立つためのエコサイクルを作っていきたいと考えています」とのこと。「感動を共有することが人々の幸せにつながると本気で考えています」。観ている人が他者を誘って参戦したいと思えるような文化を作っていきたいと締めくくった。

 

ゲーマーにスポーツ選手枠のアスリートビザを発行

「興行ビザ基準省令3号」は、日本のプロ野球やプロサッカーの大会において、外国人選手が試合に参加するために与えられるビザ。一般的には「アスリートビザ」と呼ばれる。ビザの残留期間は「15日」「3か月」「6か月」「12か月」が用意されている。今回、プロeスポーツチーム「DetonatioN FocusMe」に所属する韓国出身のEternal選手(本名、Han Ki Hoon)とCatch選手(本名、Youn Sangho)に、入国管理局が日本で初めて「アスリートビザ」を発行。長期にわたるリーグへ出場するために「6か月」の残留期間が承認された。「日本プロeスポーツ連盟」は、「プロゲーマーが他スポーツ選手と同様、公共的にプロスポーツ選手と認められた歴史的な出来事であり、競技レベルの向上とeスポーツのプロスポーツ化に向けて、大変意義のある実績となりました」とコメントしている。

Riot Gamesが主催する「League of Legends Japan League」(通称、LJL)では、今年のリーグから外国人選手に対する就労ビザの取得が義務付けられている。最近では、4月10日に国立代々木競技場で「LJL 2016 Spring Split Final」が開催予定だ。日本で就労可能なビザには、「ワーキングホリデービザ」「学生ビザ+資格外活動許可」「就労ビザ」があるが、審査基準やコストが高かったり、申請条件が厳しかったりと、とにかくハードルが高い。「DetonatioN Gaming」を運営する梅崎氏によると、長いシーズンを安定的に戦い抜くには王道である「アスリートビザ」を取得することが、これからの日本のプロeスポーツシーンにおいてとても大きな道となると思い、申請に踏み切ったという。また、「アスリートビザ」を取得した意味として、海外の実力に追いつき、追い越すためにも世界最高峰のリーグを経験したプロ選手を招聘することが必要であると考えたとのこと。海外のプロ選手から技術を学ぶことで、日本全体のレベルが底上げできるとしている。

中央がEternal選手とCatch選手
中央がEternal選手とCatch選手

今回のビザ取得には、「オンラインゲーム議員連盟」といった政界の尽力が欠かせなかったとされる。プレス発表会には、来賓として招かれた公明党衆議院議員の漆原良夫氏と、民進党衆議院議員の松原仁氏が登壇。挨拶の中で、オンラインゲームはいまや1兆円産業であり、アニメ分野と並んでクールジャパン戦略の一環として、世界に乗り遅れないよう“イコールフッティング”することが肝要であることを強調した。また、「日本オンラインゲーム協会」共同代表の植田修平氏は、日本を世界有数のオンラインゲーム大国と表現し、eスポーツという分野が日本の文化となることに期待を寄せている。

今回の発表で、eスポーツにおけるプロの存在価値を高めることの重要性や、競技としてのゲームを文化として根付かせるためのビジョンが明白になったことは確かだが、一方で産業として成長させるための基盤や、雇用の増加へつなげるための受け皿に関する見通しは今のところ不透明なままといえる。プロゲーマーを育成する専門学校の卒業生は、何人が業界関連の職を得られるのか。若くして引退したプロゲーマーの再就職先は保証されるのか。周辺機器メーカーの需要や雇用はどれだけ増加するのか。そうした人材の流動性について質問を投げかけたが、具体的な回答は得られなかった。現役を引退した選手が実況や解説、大会運営側にまわる例があるといっても、全員に同業界におけるポジションが約束されるわけではないだろう。それは野球界やサッカー界も同様だ。あぶれた大多数は、果たして本当にeスポーツ産業の恩恵を享受できるだろうか。教育機関の設立然り、“若者の文化”であるからこそ、彼らの未来をある程度保証できる環境の整備が求められている。

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