かわいいロボットが死の灰の世界を歩く 国産アドベンチャーゲーム『Shelter2088』


発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆくIndie of the Week。第74回目は、日本のゲームクリエイターnemk氏が製作した『Shelter2088』を紹介する。卒業制作用に開発されたタイトルであり、Webブラウザ上でプレイ可能なバージョンが公開されている。まだまだ完成にはほど遠い印象だが、クールなビジュアルと魅力的な世界観をすでに構築している作品だ。そこで今回は、nemk氏に取材を申し込み、本作がどのようなタイトルとなるのか、また今後の開発の展望についても聞いてきた。

 


「どんなゆめ、みてるのかな」

 

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現在のver.0.0の『Shelter2088』を、nemk氏は「とりあえず学校を卒業するために急いでつくったもの」と紹介している。「ほぼやることがない、はじまらないしおわらない、諸事情による変なスタート地点」とも伝えられており、確かにエンディングも搭載されておらず、まだ未完成のタイトルだ。

プレイヤーは2足歩行のロボットを操作し、建物の内部を探索してゆく。ほかのロボットたちの話を聞くと、どうやら地球では環境汚染の被害が深刻化しているらしい。人間たちはコールドスリープについており、いつか地球が浄化される日を待っているのだという。汚染物質を浄化する薬を作っているロボットや、仮想世界へのワープ装置を作っているロボットも存在する。

エレベーターで地上階に行き外に出ると、死の灰らしき塵に覆われた大地が辺り一面に広がり、不発弾だと思われる物体が地面に突き刺さっているのが見える。近づくと、『Shelter 2088』のロゴがアニメーションとともに登場する。なにかが始まるわけではないが、とてもクールな演出だ。現段階の『Shelter2088』は、ほかのロボットと会話したり、ビジュアルを見て楽しむだけの作品だが、かわいらしいロボットのビジュアルと、ヒンヤリとした世界観のギャップがたまらない。

 


当初はゲームではなかった

nemk氏は、花の水やりとアクションシューティングを融合させた『Apocalypse Gardening』を、麓旺二郎(ふもとおうじろう)氏とともにワールドゲームジャム 2015で開発した人物である。『Shelter2088』は、卒業制作用として製作したもので、当初はゲーム化する計画はなかったのだという。しかし、プレイヤーたちからの予想以上の反応に、ゲームとして完成させることを考え始めたそうだ。

それでは『Shelter2088』は、いったいどのようなゲームとなるのだろうか。nemk氏は以下のように答えている。「本当は、卒業制作として完成させて、あのまま終わりにする予定だったんです。制作を開始した時はただの動かないドット絵にする予定でしたが、絵の中を歩き回れたら楽しいかなと思って、2ヶ月前くらいから独学でプログラミングを始めてみました。でも皆さんが予想以上に期待してくださったり、そのうちきちんとしたゲームになるのだと勘違いしてくださったりしたので、その期待に応えないといけないなと思いました。なので、これからどうするのかはまだ考えてないのですが、たぶんちょっとしたアドベンチャーゲームになります。挫折しなければ、ですが」。

また、本作の世界観については、「2088年の未来の地球が舞台です。核戦争で人間の大半はもういなくなっちゃってるのですが、ロボットたちは元気に暮らしています。少数の人間は地下シェルター内の冷凍睡眠装置に入っていて、ずっと眠り続けてます。
設定はそれだけです」と説明する。

 

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話を聞いてみると、nemk氏のドットビジュアルは、なんと1年半ほど前から、通学途中の暇つぶしとして描かれ始めたのだという。「1年半くらい前から趣味で描き始めました。デザイン系専門学校でビジュアルデザインの勉強をしていたのですが、流石にドット絵は誰からも教わってないので自己流です。最初の頃は主に通学途中の暇つぶしとして、電車内でiPhoneを使って描いてました」。また、「影響を受けたクリエイターは、『Sword&Sworcery』を手がけたSuperbrothersや、『FEZ』を手がけたPhil Fish氏だと思います」ともしている。

今後の開発については、"とある人物と組んで"続けていくそうだが、その人物が誰であるかはまだ秘密だという。「実は半年先あたりから、ある方と組んで2人でゲーム開発をやっていく予定です。誰と組むのかはまだ秘密です。開発を続けるとしたら、それまでにバイトでもしながら1人でこつこつやっていこうと思います」。リリース時期は未定どころか、完成できるかすら怪しいとしており、ゲーム本編で人間たちが起きるのを待つロボットのように、気長に待つ必要がありそうである。なお、Kickstarterを利用するかどうか聞いてみたところ、nemk氏は「あ、Kickstarterでお金を頂ければバイトしなくて済みますね!でも利用しません」と返答してくれた。

 


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。