癌で亡くなった息子をテーマにしたインディーゲーム、大舞台で賞を受賞。父親が語る「あるがままの自分の姿」

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日本時間の12月2日に開催された「The Game Awards 2016」にて、『That Dragon, Cancer』が「Game For Impact」賞を受賞した。同賞は社会的なメッセージ性が強く、最も示唆に富んだ作品に対して送られる賞であり、ほかには『Orwell』『1979 Revolution: Black Friday』『Block’hood』『Sea Hero Quest』がノミネートされていた。

The Game Awards 2016にて登壇したRyan Green氏
The Game Awards 2016にて登壇したRyan Green氏

『That Dragon, Cancer』は2016年1月に発売されたナラティブ・アドベンチャーゲームである。リリース当初はWindows/Mac/Linux(Steam)向けに販売され、現在ではiOS/Android版もダウンロードできる。開発を担当したのはNuminous Games。同スタジオの開発者であるRyan Green氏とシナリオライターのAmy Green氏の間には、産まれて間もなく癌を患い、わずか5歳で亡くなった息子Joelがいた。本作はJoel君の人生および彼を支える両親二人の苦しみを自叙伝のように描いたものだ。なお本作の発売日である1月12日はJoel君の誕生日でもあった。

Ryan Green氏とAmy Green氏は作中内でもJoel君の両親を演じており、実体験から生まれたセリフには重みがある。Joel君が2014年に亡くなってから開発が本格化するまでには時間も経っておらず、表現された感情はリアルタイムに近い。プレイヤーは三人称視点または一人称視点から、Green夫妻がJoel君と過ごした日々、特に病状を知ってからの苦悩を追うことになる。重いテーマではあるが、それを緩和するようなほんのりと明るいタッチのビジュアルからは、夫妻にとって決して苦しいだけではない、大切な思い出であったことが窺える。

「Game For Impact」賞を受賞したRyan Green氏は壇上に立ち、涙をにじませながら家族、そして関係者への感謝の言葉を述べた。また敬虔なるキリスト教徒でもあるGreen氏は、視聴者である我々にも語りかけるように、次の言葉を続けている:

Ryan Green氏「多くの場合、我々はアバターの選択、ツイートの内容、さらには職業などから自分が他人にどう映るかを操作できます。自分の人生には意味があるのだと伝える上で、都合のよい材料となるのです。ですが物語の中には自分で選べないもの、はたまた我々のせいで語られ始めたり、意図せずに語られるものもあります。そうした物語は我々の弱み、失敗、希望、恐怖を明らかにします。

あなたたちは我々にJoelの物語を語る機会を与えてくれました。それは決して我々が語りたかったような筋書きではありません。ですがあなたたちは、我々が苦しみの中にいるときでも立ち止まり、背を向けることなく耳を傾け、愛情を示してくれました。Joelの姿を追い、我々がどのように愛情を注いだかを体験することで、Joelの人生があなたの人生を変えることを受け入れてくれたのです。我々はみんな、なりたい自分だけでなく、あるがままの、そして自らのあるべき姿を見つめ合うことができる。そう信じています。」

これは自らの作品で「あるがままの自分」をさらけ出したGreen氏だからこそ、伝えたかった言葉であるように思える。「The Game Awards 2016」のセレモニー冒頭で流れた映像には「ゲームは我々に異なる視点から人生を見つめさせてくれる」とのナレーションが含まれていた。そうした意味でも、本作は「Game For Impact」賞にふさわしいタイトルといえるだろう。

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