『Fallout: New Vegas』の弓矢Modに情熱注ぐファンの挑戦、『FarCry』の演出を1年以上かけて完全再現


『Fallout: New Vegas』のゲーム内に弓矢を追加しようとするMod制作者の情熱が、動画投稿サイトを中心に脚光を浴びている。『FarCry』シリーズに登場するリカーブボウを忠実に再現することを目指したプロジェクトで、制作を開始してからすでに1年以上が経過しているという。ゲームエンジンの違いから技術的な課題が多く立ちはだかる中、ついに先日プロトタイプが完成した。完全な移植とまではいかないながらも、精巧に表現されたビジュアルとメカニズムは一見の価値ありだ。その情熱からは、弓術に秘められた原始性ゆえのノスタルジックな魅力が垣間見える。

 

ゲームエンジンの壁を越えた表現力

『Fallout: New Vegas』は、2010年10月にBethesda Softworks(以下、Bethesda)からMicrosoft Windows/PlayStation 3/Xbox 360向けに発売されたオープンワールドのアクションRPG。Obsidian Entertainmentが開発を担当したスピンオフ作品で、西暦2281年の荒廃したラスベガスを舞台に、ひょんなことから頭を撃ち抜かれるも一命を取りとめた名もなき運び屋の数奇な人生を描いている。シリーズのIPがInterplay EntertainmentからBethesdaへ売却される以前、『Fallout 2』を生んだBlack Isle Studiosの元メンバーが新スタジオで手がけた作品ということもあって、ロールプレイ要素を追求した特有のゲームデザインが昔ながらのファンから根強く支持されている。

Modサポートとは、Bethesdaが提供する公式ツール「Creation Kit」を利用することで、キャラクターやアイテム、ゲーム内エリアなど、あらゆるコンテンツをユーザーが自由に制作、コミュニティ内でシェアできる機能だ。PCユーザーの間では、10年以上前から親しまれている。『Fallout: New Vegas』のModに関しては、公式のダウンロードコンテンツ並のシナリオボリュームを誇る大型Mod「Autumn Leaves」や、初代『Fallout』をプレイできるMod「Fallout The Story」マルチプレイヤー化の実現を目指すMod「NV:MP」など、開発規模の大きい作品がたびたび取り沙汰されてきた。

Dunia Engine 2(左)とGamebryo(右)の比較
Dunia Engine 2(左)とGamebryo(右)の比較

YouTubeユーザーXilandro氏が制作中の『Fallout: New Vegas』向けMod「Project B42」は、Ubisoftのオープンワールドゲーム『FarCry』シリーズに登場するリカーブボウ(アーチェリーや狩猟で使用する競技用の弓、ライザーとリムが一体型のワンピースボウと分離型のテイクダウンボウの2種類が存在する)を、ゲームエンジンが異なる環境で限りなく忠実に再現することを目指している。YouTubeに投稿された進捗報告によると、計画を思い立ってから試作ファイルのテストまでに1年を費やしたという。さらに半年の制作段階を経て、ついに34種類のアニメーションが完成した。2000行を超えるスクリプトによって、3Dモデルによる視覚的なメカニズムはもちろん、プレイヤーが弓を引くモーションにいたるまで精巧な移植を成し遂げている。

しかし、『Fallout: New Vegas』と『FarCry』シリーズが使用するゲームエンジンの違いから、どうしても技術的に表現できない要素も少なくない。たとえば、『Fallout 3』および『Fallout: New Vegas』が採用しているゲームエンジン「Gamebryo」では、攻撃モーションから静止状態までのスムーズな移行や、攻撃動作のキャンセル、適切なエイミングが難しいことが課題として挙げられる。また、両作ともキャラクターの静止モーションが差し込まれる前に次の攻撃モーションが始まってしまう仕様のため、一連の攻撃動作が異様に素早く感じてしまう欠点も目立つ。それに対して『FarCry』シリーズでは、ゲームエンジン(1作目はCryEngine、2作目はDunia Engine、3・4作目はDunia Engine 2を採用)に合わせたツールでアニメーションレイヤーを構成することにより、比較的スムーズな描画を実現している。もちろん、ゲームによってカメラワークやFOV(Field of Viewの略、一人称視点のゲームでプレイヤーの視野角を示す値)が異なることも忘れてはならない。

「Project B42」はまだ制作途中であり、Modの完成時期やコミュニティサイトNexusへの投稿時期は未定。現在のところ、2種類のリカーブボウ「Alcatraz」と「Apex Predator」が紹介されている。また、矢には5つのカテゴリーから各4種に分かれた計20種類の通常タイプと、同じく5つのカテゴリーから各2種に分かれた計10種類の特殊タイプがある。それぞれに独自のモデルとテクスチャが用意されており、ダメージ値や特性が異なる。ほとんどの矢はクラフトの対象だが、一部は商人やルートからしか入手できないようだ。通常タイプの矢については、カーボンアローやコンポジットアローをはじめ、多くが動画内で確認できる。特筆すべきは、オブジェクトに刺さった矢をプレイヤーが足場として利用できる点だ。壁に向かって等間隔に放った矢を階段代わりにして高所を上れるというジョーク要素も備えている。完成が実に待ち遠しい。

 

過去にはクロスボウを追加するModも

『Fallout』シリーズといえば、剣と魔法のファンタジー世界を舞台にした『The Elder Scrolls』シリーズとは対照的に、現代風の銃火器や近未来兵器の印象が強い。そんな世界観だからこそ、火器に該当しない飛び道具はプレイヤーをノスタルジックな魅力で惹きつけるのだろう。『Fallout 3』にはおもちゃと工具で手作りできるダートガンや、線路用のスパイクを撃ち出すレールウェイ・ライフル、『Fallout: New Vegas』には釘を高速で連射できるネイルガン、『Fallout 4』にはテディベアからトースターまで何でも弾薬として発射できるジャンクジェットが登場する。中でも弦の弾性を利用した反発力で質量を飛ばし、その運動エネルギーをもって標的を殺傷する弓矢の原理は、中石器時代にまでさかのぼる原始性ゆえに文明の崩壊したポストアポカリプティックな世界観に絶妙なまでにマッチする。

別作者によるクロスボウMod Image Credit: Thundersmacker in Nexus
別作者によるクロスボウMod
Image Credit: Thundersmacker in Nexus

実は「Project B42」のような弓矢Modが『Fallout: New Vegas』向けに作られたのは、今回が初めてではない。2012年にクロスボウをゲーム内に追加するMod「Crossbow for the Wasteland」が制作され、Nexus内で絶大な人気を博した。このModでは、ウェイストランドで集めたジャンクから自家製のクロスボウをクラフトできるほか、ショートレンジ・スコープの装着や弦の改良、投射メカニズムの強化といった武器のカスタマイズも可能である。また、発射したボルトを敵の死体から回収できる専用のPerkも追加された。さらに弾薬には、爆薬を仕込んだ爆発矢や、先端に毒物を塗った対人ボルト、電磁波を生み出す対ロボット弾など、特性の異なる複数のタイプが用意されているのも特徴だ。なお、これをベースに核戦争前のデザインをテーマにした「Pre-War Crossbow」という別作者のModも存在する。

これらの武器に共通する原始性ゆえのメリットは、発射時の隠密性にある。多くのFPSタイトルにおいて、弓矢やクロスボウは騒音を立てずに敵を殺傷できる。特にゾンビ系のホラーゲームでは、いかに物音を立てずに脅威を排除するかが生存の鍵を握っている。また、ポストアポカリプス系のサバイバル要素が強いゲームでは、矢やボルトの回収が弾薬不足を解消する生命線となり得る。『FarCry』や『Tomb Raider』シリーズをプレイする中で、好んでリカーブボウやコンポジットボウを終始愛用し続けたプレイヤーも少なくないだろう。こうした実用性に加えて、「Project B42」や「Crossbow for the Wasteland」に見られる弓術へのこだわりは、まさに世界が崩壊した遠い未来での生存を描いた『Fallout』シリーズだからこそ際立つ、懐古趣味に基づいた原始に対するロマンと言える。