水平視野360度で回転しながら銃を撃つ実験的FPS『Demise』が見せる異世界。2016年の異色のゲームジャム作品


複眼を持つ昆虫や視野角の広い草食動物のように、360度近くを同時に見渡してみたい。『Demise』はそんな儚い夢を叶えると同時に、それがいかに無謀な考えであるかを思い知らせてくれる水平視野360度のFPSだ。なぜ無謀なのかというと、ものの数分のうちに3D酔いがはじまる可能性が高いからだ。FOV(Field of View)が狭すぎて3D酔いするというのは聞く話だが、FOVを極限まで広げるとどうなるのか。自分は酔いに耐えることができるのか。己の耐性を確認するためにプレイするのもアリだろう。

本作はデンマークのゲームジャムイベント「Nordic Game Jam 2016」で生まれた作品であり、Yan Knoop氏、Keano Raubun氏、Mikkel Bøgeskov Svendsen氏、Jack Beeby氏の4名により制作された。Raubun氏は『The Elder Scrolls V: Skyrim』の大型Mod「Lordbound」の開発者であり、Svendsen氏はPlaydeadの『INSIDE』にてビジュアルエフェクト・ライティングなどを担当していた。

そんな『Demise』がゲームジャムの開催からおよそ1年のときを経て、海外メディアに再発見された。海外ライターのChris Priestman氏がツイートしたことをきっかけに、PCGamerがピックアップしている。

本作は5分から10分ほどの短編作品である。プレイヤーは無人化した宇宙船の中を移動し、2丁拳銃で黒いロボットたちを破壊していく。銃は前方だけでなく後方にも撃てる。360度の視野を活かして背後撃ちを決めるというわけだ。また宇宙船内は無重力空間となっており、上下に回転しながら撃つこともできる。ぜひ平衡感覚・三半規管の限界に挑戦してみよう。

作中で操作キャラクターが嘔吐し、宇宙空間へとエジェクトされる様子はプレイヤーが味わっている感覚とシンクロしているように思える。ただ幸いといっては何だが、ゲーム説明文にて「レトロ・ビジョン」と謳っているように、本作では90年代FPS風のシンプルなビジュアルを採用しているため、前後左右の区別がつきやすい。プレイを続けられないほどの激しい酔いには繋がらないだろう。仮に同じ360度視野をフォトリアルのビジュアルで再現したとなれば、それこそタイトル通り「Demise(意味:活動停止、死去など)」を迎える可能性がある。

『Demise』の対象プラットフォームはPC。itch.ioより無料でダウンロードできる。キーボード/マウスには非対応で、コントローラでの操作が必須となっている。


元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)