オーストラリアで『Outlast 2』が発禁に。豪州で続く「性的・暴力的ゲーム」の規制、そのレーティング事情を振り返る


Australian Classificationは3月15日、カナダのインディースタジオRed Barrelsが開発する『Outlast 2』について「Refused Classification(分類拒否)」としたことを公表した。Australian Classificationは、オーストラリア国内での流通を希望するゲームや映画、文学作品の審査をおこなっている政府機関だ。官と民という厳然たる違いはあるが、日本でいうとコンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)にあたる。提出された作品が「G(全年齢)」から「R18+(18歳以上)」までの5段階のうち、どの年齢区分に当てはまるかを審査・分類している。同国政府は、分類拒否とされた作品については海外版を輸入して取り扱うことさえも認めておらず、これは事実上の発売禁止措置である。

『Outlast 2』は、2013年発売の前作『Outlast』と同じ世界を共有する、一人称視点のサバイバル・ホラーゲームだ。主人公のフォトジャーナリストBlake Langermannは取材の途中に事故に遭い、カルト宗教を崇拝する村に足を踏み入れてしまう(関連記事)。

 

限度を超えた激しい表現・描写

同機関は本作を分類拒否とした理由について、性行為やドラッグの乱用、犯罪行為、残虐行為などの表現が、一般に許容される限度を超えているためだと審査結果の中に記載している(定形文なので、必ずしもこのすべてに当てはまっているとは限らない)。同機関ではこういった表現に加え、作品のテーマや言葉といった6つの項目別に、表現の強さを5段階で評価してそれぞれの年齢区分に分類している。つまり本作には、この5段階の上限を超える非常に激しい表現が少なくとも一項目は含まれているということだ。

本作は昨年体験版が配信されており、ゲームの序盤とおぼしき場面が収録されていた。その暴力表現は、ある意味本作への期待どおりの強烈なものが含まれていたが、実はこの体験版はオーストラリア国内でもレーティング審査で「R18+」を取得したうえで正式に配信されていた。その審査結果を見ると、テーマや残虐表現に留意するよう促しているものの、いずれの項目も評価基準内に収まっている。ヌード表現についてはもっとも影響が低いと評価され、ドラッグや性行為についてはまったく認められないとされている。なお、前作『Outlast』も「R18+」を取得して同国内で発売されている。

では今回、具体的にどのような描写が問題となったのだろうか。Kotaku Australiaの問合せに対して、Australian Classificationがゲーム内のいくつかのシーンを例に挙げて説明している。ネタバレになるためここでは詳しく触れないが、主人公のLangermannやその妻、そして敵キャラクターらが関係する性描写・暴力的なシーンについて具体的に述べており、その表現は同機関が定めるもっとも高い年齢区分の「R18+」の範囲内には収まらないため分類拒否にしたとしている。この判断が妥当かどうか、本作の発売後に同国内で議論が起こるかもしれないが、同国が独自の基準を持っていることについては尊重するしかない。

 

オーストラリアのレーティング事情

『VALKYRIE DRIVE -BHIKKHUNI-』公式サイトより

オーストラリアは国策として有害コンテンツへの対策を積極的におこなっており、ゲームのレーティングにおいても厳しい審査がおこなわれることで知られている。過去にはたとえば『Hotline Miami 2』などの暴力表現の強いゲームや、『VALKYRIE DRIVE -BHIKKHUNI-』といった性的表現の強い日本のゲームが分類拒否とされている。中には『Saints Row IV』のように一度は分類拒否とされながら、表現を修正したバージョンを制作したうえで再審査を受けて発売にこぎ着けたケースもある。

2011年までは「MA15+(15歳以上)」がもっとも高い年齢区分だったため、表現の強いゲームが審査を通過することはいまよりもさらに難しかった。厳しすぎる区分制度によって多くのゲームが発売されない状況について野党から問われた当時の政府が、国民への意識調査を実施し、議会での投票を経て「R18+」を追加した経緯がある。とはいえ、現在も毎月10本前後のゲームが分類拒否とされている状況である(すべてが何らかの強い表現を理由として拒否されているとは限らない)。ちなみに、初めて「R18+」を取得して発売されたゲームは『NINJA GAIDEN Σ2 PLUS』だったそうだ。

なお今回の『Outlast 2』の件について、野党オーストラリア自由民主党の元老院議員David Leyonhjelm氏が3月20日の議会で取り上げている。

Leyonhjelm氏は、審査機関はゲーマーはみな感受性の強い子供で、本作のような架空の世界の出来事であっても真似しかねない、という間違った前提に立っていると批判。選挙権を与えられた成人が、ゲームの選択においては政府から信用されていないとし、以下のように語った。

[perfectpullquote align=”full” cite=”David Leyonhjelm氏” link=”” color=”” class=”” size=””]「マルコム・ターンブル首相はイノベーションの実行をうたっているが、政府がゲームコミュニティに対して送っているメッセージは検閲・不承認といった落胆を誘うものだ。ビデオゲームは誰かを傷つけたりはしない。政府と審査機関はゲーマーに干渉すべきではない。」[/perfectpullquote]

これによって『Outlast 2』をめぐる状況がすぐに変わるとは考えにくいが、上述した「R18+」追加の経緯もあるため、今後政府がどのような反応を示すのか注目があつまるだろう。

 

国や地域によって許容できる表現はさまざま

1年遅れで審査通過し発売されたドイツ版『Gears of War: Ultimate Edition』近年は無修正を示す「100% Uncut」マーク付きが増えてきた

日本では主に残虐表現の強い海外ゲームがCEROが定める禁止表現に抵触し、修正を余儀なくされるケースがこれまでにいくつもあった。一方で、日本は性的な表現や、女性や児童の扱いに関しては比較的寛容だと指摘されることもある。たとえば、厳密にはレーティングの問題ではないが、『DEAD OR ALIVE Xtreme 3』が欧米での発売を見送られたり、『THE IDOLM@STER(アイドルマスター)』シリーズは児童を働かせているとしてアメリカでの発売は難しいとされる。もちろん、『Conan Exiles』が日本のコンソール市場では修正なしに発売することが難しいとされているように、性的な表現とひとくくりに語ることができない側面もある。

そのほか興味深いケースとしては、北朝鮮が韓国を併合しアメリカをも支配下に置く架空の世界を描いた『Homefront: The Revolution』について、韓国のレーティング機関が分類拒否としている(そのテーマが理由だったのかは定かではないが)。また、ドイツは日本と同様に残虐表現に対して厳しかったが、近年は緩和傾向にあるのか、従来なら発売が叶わなかったであろう新作や旧作がレーティング審査を通過するケースが増えている。ちなみにドイツでは『Outlast 2』もすでに審査通過済みだ。このように各国/地域によって許容する表現はさまざまで、また時代によって変化することもある。

 

厳格なのは審査基準だけではない

『Outlast』の各表現に対する審査結果

今回のようにレーティング結果についてオーストラリアが話題になりやすいのは、審査基準が比較的厳しいこともあるが、それ以前に分類拒否という区分を設けて政府機関として一般(一義的にはオーストラリアの消費者向け)に公表しているためだ。日本のCEROや欧米のESRB・PEGIなどでは審査を通過したものだけが公表されるため、仮に分類拒否とされたゲームがあったとしても、我々が知ることはほとんどない。

また前述したように、表現の項目ごとの審査結果を細かく公表している点も挙げられる。ゲームを扱うレーティング機関は世界中におよそ10団体あるが、ここまで情報公開が徹底しているのは珍しい。審査基準については日本でもゲーマーの間でたびたび議論の的になるが、せめてこういった点だけでも海外にならって透明性を高めてもいいのではないだろうか。

 

最終的にはメーカーの判断に委ねられる

さて、今回オーストラリアで分類拒否すなわち事実上の発売禁止とされた『Outlast 2』だが、前述したように指摘された表現を修正して、再審査を通過すれば同国で発売することは可能だ。前作『Outlast』のコンソール版においては、調べた限りでは発売が見送られたのは日本だけだった。もちろんレーティングが原因で見送られたのかどうかは分からない。しかし、ひとつの国のためだけに修正版を制作することは、小規模なインディースタジオにとっては大きな負担だろう。それ以前に、表現を変えるくらいなら発売を望まないかもしれない。今回の件に対して開発元のRed Barrelsはどのような対応を見せるだろうか。『Outlast 2』は4月25日にWindows/PlayStation 4/Xbox One向けに発売予定だ。