1対7の非対称ホラー『Friday the 13th: The Game』アクセス過多という嬉しい誤算により不具合多発

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映画「13日の金曜日」を原作とする非対称型マルチプレイ・ホラー『Friday the 13th: The Game』は5月26日のリリース以降、数々の不具合に悩まされており、苦しいスタートを切ることとなった。開発を担当しているIllFonicは連日アップデートの配信ならびにFacebookSteamフォーラム上での現状報告を続けている。

リリース当初から問題となっていた、データベースへの接続障害(ログイン失敗エラー)、プレイアブル・キャラクターのパーク(特殊効果)およびジェイソンの処刑技のアンロック状況が正しく反映されない現象については、5月29日に配信されたアップデートにより改善されている(一部ユーザ間では問題が継続中)。5月30日時点で顕著なのは、経験値・レベルが正しく反映されない問題や、キャラクターカスタマイズ画面でのセーブが終わらない現象、そして海外コンソール版においてマッチメイキング機能が正常に働かない問題である。これらについては、さらなるアップデートにより近日中に解消される見込みとのことだ。

問題となっている不具合の多くは、想定値を超える、大量のプレイヤーデータが流れ込んできたことがきっかけとなり発生したものである。本作はPCおよび海外PlayStation 4/Xbox One向けに発売されたタイトルであり、フォーラム上に掲載された内容によれば、開発陣が想定していたリリース時の同時接続ユーザ数はトータルで3万人。ベータテスト時の平均同時接続ユーザ数5000人に、事前予約者やKickstarterキャンペーンの支援者数を考慮し、合算した人数を3倍にした上で、さらに余裕を持たせた数値として算出されたものだという。嬉しい誤算でもあるのだが、いざゲームを公開すると、同時に7万5000人のユーザが接続を開始。急遽データベースサーバの増設に当たったが時既に遅し。サーバ移行を始めたころにはオリジナルサーバのノードが破損していた。負荷テスト用の見積もりを誤ったことが発端であると言ってよいだろう。

本作はお馴染みジェイソン・ボーヒーズが7人のキャンプ指導員たちを狩る非対称型マルチプレイヤーゲームである

オンライン対戦のマルチプレイヤーゲームにて、ローンチ時にマッチングや接続の問題が発生することは珍しいことではない。本作においては開発陣が障害の発生原因から対応状況までを小まめに開示しており、コミュニティの理解を得ながら改善を図ろうと真摯に努めていることが感じ取れる。アップデートの頻度も高く、事後対応について不満になりそうな点は少ない。

ゲームの真価が問われるのは、接続障害が解消され、ユーザが満足にゲームをプレイできるようになってからだろう。キャラクターモーションや表情のぎこちなさ、コントロールの心地悪さ、あたり判定の雑さが目立つ作品であり、第一印象は必ずしも良いものではない。3980円(海外パッケージ版は60ドル)というインディーズの中では比較的高い価格設定ながら、ゲームモードは1つ、マップは3種類のみというコンテンツの少なさも不安要素の一つである(今夏にはシングルプレイ・キャンペーンを追加予定)。

もちろん悪いところばかりではなく、原作を再現したロケーションや処刑演出、映画7作目から10作目までジェイソン役を演じたKane Hodder氏によるモーションキャプチャーなど原作ファンであれば楽しめる要素が多数含まれている。ゲームプレイとしても良いアイデアがいくつか散りばめられており、たとえばキャンプ指導員たちはキャンプ場にある車両やボートを修理して脱出を図れるのだが、キャンプ指導員プレイヤー7人に対して乗り物の乗車定員は2人または4人のみ。自分を置いて出発されないよう、わざと修理パーツ(燃料、バッテリー、車のキー、ボートのプロペラ)を乗り物まで運ばなかったり、自分の席を確保するために目の前で襲われている仲間を助けない、もしくは自分の手で仲間を葬るといった選択肢が暗に与えられている。単に「味方をおとりに使う」以上の駆け引きを誘発する仕様になっているのだ。

頭部を粉砕する処刑技。ゴア表現満載な大人の鬼ごっこ

また非対称型のマルチプレイヤーゲームでは、1人チームと複数人チームとのバランスが問題として付き物だが、本作のバランス調整は、原作におけるジェイソンの圧倒的な強さを再現することが最終ゴールであり、両サイドのバランスを均等にする必要はない。確固とした原作があるため「ジェイソンからは逃れられない」という本作のアンバランスさにも納得できてしまう。こまかな仕様調整は必要であるにせよ、大筋では非対称型マルチプレイの呪縛から逃れている作品なのだ。ジェイソンはチート級に強いため、焦ることなく余裕を持って虐殺を楽しめる。一方のキャンプ指導員は、勝ちようがない絶望的状況から脱出を試みるというスリルを存分に味わえる。ジェイソンから逃れ切ったとしても莫大な経験値ボーナスを得られるということはなく、なぶり殺されたとしても大きな損失はない。むしろ脱出のためにどれだけ抗ったか、結果よりも過程の方が評価の比重は大きい。逆に言うと、平等な戦いを求めるプレイヤーには激しく向いていないということになる。

このように『Friday the 13th: The Game』は、他の非対称型マルチプレイ・ホラーにはない、独自性のあるタイトルとなっている。しかしながら、先述の通りクオリティの面では問題が山積みであり、データベース関連の障害が解消されたとしてもコミュニティから不満の声が途絶えることはないだろう。あと知恵ではあるが、本作こそ早期アクセスプログラムを活用すべきタイトルだったのではと考えさせられる、なんとも惜しい出来栄えなのである。クオリティを大幅に改善し、コンテンツ量を増やすことができれば、非対称型マルチプレイ・ホラーの代表作を名乗れるだけのポテンシャルを秘めている。それだけは確かなのだ。

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