『メトロイド2』をリメイクする『サムスリターンズ』の発表に、非公式リメイク開発者は何を思ったか


昨年8月に「Another Metroid 2 Remake」が公開停止を受けた。「Another Metroid 2 Remake(以下、AM2R)」は『メトロイドII RETURN OF SAMUS』を非公式にリメイクするというファンメイドゲームだ。10年もの開発期間を経てWebで公開したが、すぐさま任天堂による警告を受けて公開停止へと至った。「AM2R」は人気作をリメイクするというコンセプト、そしてその作品の完成度の高さから世界中のファンが注目していた。公開停止を受けて任天堂へ抗議したファンも少なくない。(参考記事

しかし今年のE3にて、はれて『メトロイドII RETURN OF SAMUS』をフルリメイクするという『メトロイド サムスリターンズ』がニンテンドー3DS向けに発表された。ファンの願っていたリメイクの願いがついにかなった瞬間だった。しかし、この発表に非公式リメイクチームはどのように思っているのか気になるところだろう。今回AUTOMATON編集部は「AM2R」の中心メンバーであるDoctorM64氏に、作品の公開停止から公式リメイク発表までの心境を聞いた。

公開停止の葛藤

DoctorM64氏は、昨年9月に公開停止になった際にはショックを受けたが、いずれその時はくるとは思っていたという。その時期が思ったよりも早いだけであり、心の準備はできていたと話す。ショックを受けた理由は、「楽しみにしていたファンがいたから」だと語る。10年もの開発を支えてくれたのはまぎれもなくファンであり、日本語の追加を含めたアップデートをおこなえなくなることで、ファンをがっかりさせたことがショックであったと話す。しかしDoctorM64氏は次第に「AM2R」を開発したことでゲームのプログラミングを学び、仲間と出会い、ファンの声援を受け、ゲーム開発の喜びを知れたと考え始める。そう考えるうちに公開停止を受け入れられたと語る。

Another Metroid 2 Remake

「AM2R」の気になる点といえば、『メトロイドフュージョン』のアセットを流用していると指摘されたことだろう。既存タイトルからのアセットの流用は、無断でIPを使うこと以上にグレーな行為だ。その点について問うと、氏は開発初期に『メトロイドフュージョン』と『メトロイド ゼロミッション』の素材を使用していたことを認めた。しかし開発が進むにつれてオリジナルのスプライトを作り、環境やアニメーションなどをオリジナルのものに変えていったのだという。ほとんどの部分はオリジナルのものであったが、リリース時にはいくつかの部分が依然として流用であったことも認めている。こうした部分もアップデートによって解消しようとしていたようだ。どういう事情があったにせよ、アセットが流用されていたのは事実であったようだ。

また本題である『メトロイド2』のフルリメイクである『メトロイド サムスリターンズ』について訊ねてみると、「純粋にとても嬉しい」という返事が返ってきた。DoctorM64氏はファンとしてリメイクの発売が非常に楽しみなのだという。また実は氏は誰のIPも借りないオリジナルのプロジェクトに取り掛かっているといい、正式なリメイクが発表されたことにより、気持ちに区切りができ、開発にさらに集中できるようになったとも語る。ちなみにKotakuの取材により、『メトロイド』の生みの親である坂本賀勇氏が『AM2R』について「実際には見たことがないが、『メトロイド サムスリターンズ』の開発が始まった後に存在を知った。」「公開停止を受けたことも知っている」とコメントしている。この件についてDoctorM64氏は「信じられないくらい光栄である」と語っている、またいつか坂本氏に自分の作ったゲームを遊んでほしいとの願いも明かしている。最初はほろ苦いビターエンドのように見えたが、今はどうかと問いかけた際には「ハッピーエンドだ」と話す。

「ファンゲームは必ずしもIPを邪魔するわけではない」

最後にファンゲームについてどう思うかと問いたところ、既存のゲームから学べるという点で、ファンゲームはゲーム開発を始めるのはよいステップであると語る。ただし非営利でかつ作品に敬意を持ち、見つからない程度にやるべきであると助言をしている。

また、「そうしたファンゲームに対して任天堂側は喜ばないのではないか」と問いかけた際には、「IPに悪影響を与える作品を生み出してはいけない」と前置きし、「よいファンゲームを作ればオリジナルへの興味を生む時もある。ファンゲームはオリジナルと競合せず、いい影響を与える時もある」とファンゲーム開発者としての考えを明かしている。

Another Metroid 2 Remake

DoctorM64氏は終始冷静に自分の考えを語ってくれた。客観的な目線に徹していたが、「ファンゲームが必ずしも企業の邪魔にならない」という話題には情熱的な姿勢を見せていた。「AM2R」はただ『メトロイド2』を真似るだけでなく、操作にも力が入れられており、ゲーム自体の評価も高い。こうした開発者がオリジナルタイトルをスタートさせたことは、ファンにとっても歓迎できることだろう。一方で氏は、自分のルーツがファンゲームにあるということを誇りに思っている印象を受けた。

任天堂が「AM2R」を公開停止させたのは、IPという点やアセットという点の両方で、やはり正しい決断といえるだろう。坂本氏は『サムスリターンズ』は「AM2R」を知る前に着手していたと語るとおり、「AM2R」はフランチャイズに影響を及ぼさず、ただ公開停止を受けただけだ。しかし、公式がリメイクを発表したことでフランチャイズはまた大きく動き出し、非公式リメイクの開発者は、オリジナルのゲーム開発者として新たな一歩を踏み出している。ほろ苦さを感じさせた「AM2R」公開停止事件は、約10か月の年月を経て、奇妙なハッピーエンドを迎えることとなった。