インディー開発者が約4年間も開発したゲームを発売1週間でTorrentへ放流、「キー不正転売の鍵屋」「不当なSteam返金」に怒り

 

先週の8月17日にSteamで正式リリースされた『Darkwood』は、2013年1月に正式発表されたホラーアクションゲームだ。発表から約4年と半年の開発期間を経て発売にいたった同作だが、その一週間後にTorrentを通じてゲーム本編がアップロードされていることが明らかとなった。しかもアップロードしたのは、同作を数年にわたり開発してきたポーランドのインディーデベロッパー「The Acid Wizzard」自身だという。

大ヒットは記録していないものの良好な評価を獲得している『Darkwood』

『Darkwood』は見下ろし視点型のホラー2Dアクションゲーム。暗闇のなかを魑魅魍魎たちがうごめく謎に満ちた世界、主人公である1人の男性は、わけもわからぬまま不思議な森のなかに迷い込んでしまい、脱出を試みることになる。昼夜のサイクルによってゲームプレイがガラリと変わるのが特徴で、昼間は外を探索してクラフト用のアイテムを集めたりリクエストを攻略、夜は遅いくる化け物たちから身を守るためバリケードやトラップなどで籠城していく。長期にわたる開発によって磨かれた光と闇の表現や、おどろおどろしいビジュアルも本作の魅力となっている。

2013年1月に正式発表された『Darkwood』は、同年「Indiegogo」にてクラウドファンディングを実施し、5万7323ドルを2919人の支援者から獲得した。もしかしたら当時、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」のような森で収録された怪しいトレイラーを見た読者もいるかもしれない。この映像に映っていた「The Acid Wizzard」の3人の開発者は、ポーランドに住むかつての大学仲間トリオである。3人は当初、翌年には『Darkwood』を完成させるつもりだったが、開発経験の少ない彼らはスケジュールを見誤ってしまい、さらに資金難にも見舞われる。結局、2014年にSteam早期アクセス版をリリースし、完成までに発表から4年半の歳月がかかることになった。

カラフルな黒魔術デベロッパーたち

「The Acid Wizzard」の3人は、当時それぞれ仕事を辞めた上で『Darkwood』の開発にのぞんでいる。そうやって完成させた『Darkwood』を無料でリリースした理由の1つには、「キーの不正転売」や「鍵屋」への強い怒りがあるようだ。彼らの発言によれば、ゲームの開発期間中に大量の詐欺メールが送られるようになり、宣伝用に配布したはずのキーが「鍵屋」で転売されていたのだという。

imgur」にて彼らは、「YouTuberやブロガーを名乗る人たちがSteamキーを要求してきて、そしたらそのキーが恥ずべきプラットフォームで販売されていた。正直、ムカついていたよ」と説明している。またアップロードされたTorrentファイルの説明文でも、「『Darkwood』が好きで開発が続いてほしいなら、セールでもいいのでSteam/GOG.com/Humble Storeでいつか買うことを考えてください」とし、キーを再販売する通称「鍵屋」では購入しないでくださいと訴える。彼らは「鍵屋」は業界にぶらさがっているガンであり、「鍵屋」を利用することは餌を与えているのと同じだと語気を強めている。

「鍵屋」にはさまざまな議論やテーマが存在するが、その中でもたびたび問題視されているのが、「販売されるキーの入手方法」だ。店頭に並ぶ前のパッケージ版を卸業者から購入する手法や、あるいは盗難クレジットカードにて購入するといった問題のある手法などが過去には伝えられてきたが、近年では「宣伝用などに提供された無料キー」を転売するという輩も登場している(参考記事)。「The Acid Wizzard」の口ぶりを見る限りでは、その手口を何度か経験している模様で、彼らが言うように「ムカつく」のも仕方のない所業だといえるだろう。

imgurやSteamでの今回の件に対するコメントは、全体的に肯定的に見える。無料で手に入れたプレイヤーが喜んでいるというのもあるかもしれない

このほか、無料配布の理由として「The Acid Wizzard」は、「月末に請求書を両親に見られて気を病ませたくないので返金しました」というSteamでの返金理由を読み、強く気分を害したとも話している。PCゲームプラットフォーム「Steam」では、購入してから2周間以内、かつプレイしてから2時間以内のゲームであれば、いかなる理由でも返金することが可能である(ただし不用意に返金を利用し続けたりすると、Valveから警告されることがある)。結果としてこの返金理由が引き金となり、「The Acid Wizzard」は『Darkwood』をTorrent経由でアップロードすることを決断している。

「キーの不正転売」「不当な返金理由」と、現在のPCゲームにおける2つの問題議論に直面した「The Acid Wizzard」。Torrentサイトにゲームを無料でアップロードする“公式海賊行為”は、本質的には上記の問題を改善するわけではないが、今回の件は海外メディアを巻き込んで『Darkwood』そのもの以上に話題を呼んでいる。少なくとも彼らの怒りの声は、暗いインターネットの森のなかに消えず、おおやけの場で多くのユーザーたちの耳に入ることになった。

ゲームをどのようにリリースするかは、IPを所有する「The Acid Wizzard」の自由である。ただ、その作品に約4年半におよぶ開発が注がれてきたことは、おしはかりたい。『Darkwood』はSteam/GOG.com/Humble Storeにて販売中、Torrent経由でも無料で公開されている。


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。