プレイヤーのゲーム体験は、知らないうちに高められていた?ゲーム開発者らがこっそり加えた「工夫」を語り合う


ゲーム開発においては、プレイヤーのゲーム体験に作用するさまざまなテクニックが取り入れられているが、プレイしていてそれに気付くことはあまりないだろう。むしろプレイヤーに気付かせないようにしているものだが、実際のところ開発者は、どういったテクニックを駆使しているのだろうか。宇宙飛行士シミュレーター『Earthlight』などを手がけるOpaque SpaceのゲームデザイナーJennifer Scheurle氏が、プレイヤーからは見えない部分に取り入れている手法・技術を共有しようとTwitter上でゲーム開発者らに呼びかけており、多くのコメントが寄せられているのでいくつかピックアップしてみよう。

まずScheurle氏は一例として、『Assassin’s Creed』や『DOOM』では、プレイヤーの体力が残りわずかになると防御力が上がりすぐ死んでしまわないように調整しているとコメント。これによって、かろうじて生き残ることができたというプレイヤーの感覚を強調させているそうだ。これについて『BioShock』のリードデザイナーだったPaul Hellquist氏も、同作で同じような手法を取り入れていたと語っている。また、Robot EntertainmentのリードプログラマーRobert Fermier氏は、かつて手がけた『System Shock』でプレイヤーの最後の弾はダメージを2倍にしていたと明かしている。プレイヤーの防御力と攻撃力、真反対の能力を一時的に引き上げているわけだが、ギリギリのところで窮地を乗り切るという意味でどちらも似た効果を狙っていたわけだ。

『Hellblade』

Scheurle氏はこのほかに、先月発売されたNinja Theoryの『Hellblade』にも言及している。同作では何度も死ぬと進行状況を失い最初からやり直しになるとゲーム内で強く示唆しているのだが、メディアやプレイヤーの検証によりその要素の存在自体に疑いの目が向けられている。Ninja Theoryはこれについて何もコメントしていないため、どのような意図があるのか定かではないが、それでもまだパーマデス要素がある“かもしれない”とプレイヤーに意識させており、感情やプレイスタイルに影響を及ぼしているとScheurle氏は指摘している。

『BioShock』

『BioShock』シリーズの生みの親として知られるIrrational Games(現Ghost Story Games)の共同設立者Ken Levine氏は、『BioShock』では出会った敵の最初の攻撃は常にミスをするようにデザインしていたと明かしている。不意に現れた敵にはプレイヤーが対処しきれないことに対する救済措置だそうだ。この敵が攻撃を失敗するという仕掛けについてはVlambeerのRami Ismail氏も、自身のシューティングゲーム『LUFTRAUSERS』では最初に登場する何機かの敵にはわざとミスショットさせているとコメントしている。ただし理由は『BioShock』とは異なり、プレイヤーに弾を避けるのが上手いと感じさせるためだという。ゲームの難易度カーブの一種だろうか、まず導入部分でプレイヤーのモチベーションを高める狙いがあるようだ。

『LUFTRAUSERS』

『BioShock』シリーズについてはこのほかに、『BioShock 2』でディレクターを務めたJordan Thomas氏が、プレイヤーがビッグダディに追われている際、プレイヤーが目をそらしている間はビッグダディの走るスピードを遅くしていたと語っている。つまり、いつの間にか追いつかれていて、状況がよく分からないまま殺されてしまうという事態を避けているのだ。これは上のKen Levine氏が挙げた例と狙いは似ており、スタジオとして徹底していたのかもしれない。

『Firewatch』

ミステリー・アドベンチャーゲーム『Firewatch』では、顔の見えない相手とのトランシーバー越しの会話が大きな要素として存在するが、開発元Campo Santoでリードアーティストを務めるJane Ng氏は、プレイヤーが呼びかけに応答しなかった場合も、ゲームはひとつの選択として認識して反応を返し、会話相手がリアルな人間であるかのような印象をプレイヤーに与えているとしている。似たような手法はTelltale Gamesの『The Walking Dead』シリーズなどでも取り入れられているが、Ng氏はこういった“選択しないという選択”を、UIに落とし込む適切な方法はまだ見いだせていないとも語っている。

『Hi-Octane』

プレイヤーに特定の印象を与えるという意味では、Bullfrog Productionsでゲームデザイナーを務めたAlex Trowers氏のコメントも興味深い。Trowers氏によると3Dレースゲーム『Hi-Octane』では、走行中画面に表示されているステータスは、実際の車の状況を正確に反映させていなかったそうだ。これについてScheurle氏は、正しい表示のために複雑な仕組みを用意するよりも、プレイヤーにとって望ましい効果を与えることを優先した選択だと解説している。多少誇張したステータスをプレイヤーに見せることで、より気持ち良くプレイできる効果があるといったところだろうか。

『VOLUME』

『Thomas Was Alone』などで知られるBithell GamesのMike Bithell氏は、三人称視点のAAAゲームではゲーム側がプレイヤーと衝突判定のあるオブジェクトとの距離を検出し 、プレイヤーの入力に関わらず避けて通るように強制的に導いているとしている。Bithell氏によると『ラチェット&クランク』シリーズなどで知られるInsomniac Gamesが生み出し、Ubisoftが広めた手法だそうで、自身のステルスアクションゲーム『VOLUME』でも採用しているという。またBithell氏は、こういったプレイヤーが気付かないような入力補正はゲームには数多く仕込まれており、それによってスムーズなゲームプレイを実現しているともコメントしている。

プレイヤーの入力という面では、『Disney Infinity』シリーズなどを手がけるStudio GoboのUXデザイナーCharlie Butler氏は、『Halo 2』での事例を挙げている。同作では、エイム操作のチュートリアルで「上を見ろ」と指示された際に、プレイヤーが右スティックを上か下どちらに入力するのかをゲームは瞬時に判別し、自動的に上下操作の反転設定をON/OFFしている。これはプレイヤーも気づきやすい部分であるが、わざわざ設定画面を開く必要がなくゲームプレイを阻害しないテクニックだといえる。ほかのゲームでも採用例があるようだ。

『Halo 2: Anniversary』

このほか、Bossa Studiosの共同設立者Henrique Olifiers氏は、同スタジオの代表作『Surgeon Simulator』には、ゲーム内で自分に電話をかけると実際に電話がかかってきて、隠しステージがアンロックされる要素があると明かしている(米国外では国番号が必要。ダイヤルアウトサーバーが現在も稼働しているかどうかは不明とのこと)。前述の『Firewatch』では、ゲーム内で写真を撮影して現像所に送ると、実際にプリントされた写真がプレイヤーに郵送されるという要素が用意されていたが、ゲームと現実世界が直接繋がる手法としてどちらも面白い。

『Surgeon Simulator 2013』

本稿では特定のゲームにおけるテクニックとしていくつか取り上げたが、こういった手法の多くは幅広いゲームで採用されているものであり、開発者の方からすれば目新しい話ではないかもしれない。しかし、プレイヤーからは気付きにくく興味深いものである。また、どれもゲーム体験を向上させるためのテクニックであるため、駆け出しのインディーゲーム開発者にとっても有用な情報だろう。Scheurle氏の呼びかけにはこれら以外にも数多くの事例のコメントが寄せられているので、興味のある方はスレッドをチェックしてみてはいかがだろうか。