ナチス兵の排除を呼びかける『Wolfenstein II』のPRスローガン「Make America Nazi-Free Again」は政治的なのか、議論に発展


Bethesda Softworksは『Wolfenstein II: The New Colossus』の発売を11月に控え、現在PRを積極的におこなっている。本作では、ナチス・ドイツが第二次世界大戦に勝利したというifの世界が描かれており、ナチス占領下にある1961年のアメリカが舞台となる。これまでに公開されたトレイラーでは、街にナチス兵が溢れ、言葉や文化が次第にドイツ化させられていく、本作におけるアメリカの状況をユーモラスに描いている。

本作の主人公であるB.J.ブラスコヴィッチは、仲間となるレジスタンスと力を合わせて、アメリカをナチスから解放するために戦うことになる。この抑圧からの開放をテーマに、BethesdaはSNS上では「#NoMoreNazis」や「Not My America」とったスローガンを用いながらゲームの映像を紹介している。「もうナチスにはうんざりだ」とか「こんなのは私のアメリカではない」といったメッセージは、本作のテーマを端的に言い表しているが、こういったスローガンがアメリカ国内において反響を呼んでいる。

「Make America Nazi-Free Again(ナチスのいないアメリカをふたたび取り戻そう)」もまた一連のスローガンに沿った内容で、本作でのプレイヤーの目的を表現している。ただ、最近ではドナルド・トランプ米国大統領が昨年の大統領選挙中に多用したことで多くの人の印象に残っているだろうが、これはアメリカで使用される選挙スローガン「Make America Great Again(アメリカをふたたび偉大な国にしよう)」をもじっているように見える。昨年の選挙中にはオルト・ライトなどの極右勢力がトランプ氏を支持し、中には同氏の大統領就任をナチス式の敬礼をして祝う人々がいたことも報じられた。こうした現在のアメリカの状況もあってか、Bethesdaは本作のPRに政治的な意図を込めているのではと勘ぐる声が一部で出ている。

https://twitter.com/Diablo_fantasma/status/916093899168518144

こうした反応はゲームメディア以外でも報じられるほどになり、Bethesdaの広報責任者Pete Hines氏は海外メディアGamesIndustryに対し、「我々は特定の主張をするためや、政治的な議論を促すためにゲームを作ることはない。ナチスに侵略されたアメリカを描く本作が今年発売されるのは単なる偶然で、政治的な意図があると受け止められることには困惑している」とコメントしている。そして「#NoMoreNazis」などのPRスローガンについては、ゲームがどういう内容であるかを表しているに過ぎないとしている。

そもそも、『Wolfenstein』シリーズで主人公がナチスに立ち向かう姿を描くのは、1981年発売のシリーズ1作目『Castle Wolfenstein』から変わらない一貫したテーマだ。上のBethesdaのツイートへの返信の中では、政治的だとする人に対して“Wolfensteinとはなんぞや”を解説する人も見受けられる。とはいえ、Hines氏は否定しているが、スローガンの内容について現在のアメリカの状況と重ね合わせる意図がまったく無かったかというと疑問が残る。「Make America Nazi-Free Again」は最たる例だ。

しかし結果的には、Bethesdaのツイートは大多数が好意的に受け止めており、スローガンはプラスに働いたようだ。冒頭のトレイラーのように、フィクションであることを活かしたPRを展開してきたため、多少政治的な匂いが感じられてもユーモアであると受け止めてもらえる土台が出来上がっていたのかもしれない。また、そのユーモアが本作の舞台であるアメリカの現状を暗に示唆しているように見えるからこそ面白いと評価する声もある。

好意的にせよ否定的にせよ、こういった反応が返ってくることで、逆に現在のアメリカの政治状況について考えさせられる一件である。政治的なメッセージを含むことにはどちらに転ぶか分からない危うさがあるが、意図したものであったかどうかはともかく、本作のPRは多くのゲーマーにうまく刺さる結果となったようだ。『Wolfenstein II: The New Colossus』はPC/PlayStation 4/Xbox One向けに11月23日発売予定。Nintendo Switch版は2018年発売予定となっている。