ルートボックス騒動の各国動向まとめ。射幸性ビジネスを巡る論争が行き着く先は自主規制か、あるいは法的規制か


『Star Wars バトルフロント II』に対する批判を中心に据え、世界同時多発的に広まりつつあるルートボックス騒動。本稿では2017年11月27日時点での各国動向をまとめてみたい。まずルートボックスとは、日本で言うところのランダム型アイテム提供方式(通称、ガチャ)と定義の似た課金形態であり、偶然性を利用してプレイヤーが獲得するアイテムやキャラクターの種類が決まる提供方式を指す。多くの場合はゲームを遊ぶことで得られる無償ゲーム内通貨、もしくはゲーム内課金により得られる有償ゲーム内通貨を介して獲得できるようなマネタイズモデルとして組み込まれている。

かつては基本プレイ無料タイトルのマネタイズモデルとして知られていたルートボックスであるが、近年ではUbisoft、Activision、Electronic Artsといった大手パブリッシャーが提供する、フルプライスのAAA級タイトルにまで浸透。すでにゲーム本体に対価を支払っているのに追加でルートボックスを買わされること自体を嫌悪する声や、お金を費やしたプレイヤーが有利になる「Pay-to-Win」を危惧する声など、ゲームコミュニティ内で不満が膨れ上がりつつあった(関連記事)。そんな中、「Star Wars」という全世界で認知された超大型IPを使った『Star Wars バトルフロント II』の「Pay-to-Win」型ルートボックスが槍玉に挙がり(関連記事)、規制論がコミュニティ外部にまで急速に広まっていった。同作は北米のESRBレイティングでは「Teen」(対象年齢13歳以上)、欧州のPEGIレイティングでは「16」という、未成年をターゲットとした作品であることも影響し、強い反発を受けている。

現在の潮流としては「賭博の定義に該当するか」というイエス・ノーの再確認で終わらせるのではなく、厳密には賭博でなくとも射幸性ビジネスとしてのルートボックス販売には規制が必要ではないか、という世論が強まっている。たとえ賭博でなくとも、射幸性ビジネスとして青少年への悪影響や中毒性を考慮したルール制定が必要だという考えがゲームコミュニティ内外から集まり、各国の諮問機関による調査を促すまでに至った。

自主規制を進めた日本、法的規制が入った中国

消費者委員会「スマホゲームに関する消費者問題についての意見」より

先に日本国内における現状をおさらいしておこう。国内では2016年、消費者委員会が「スマホゲーム」におけるガチャに関する意見書を提出(PDFリンク)。「偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為」という刑法上の賭博の定義と照らし合わせた場合、ガチャは「偶然性」の要因を満たすものの、利益該当性・利益の得喪に関しては事案ごとに判断すべきとの意見を出している。財産上の利益が認められやすくなる具体的なケースとしては、「電子くじで得られたアイテム等を換金するシステムを事業者が提供しているような場合や利用者が換金を目的としてゲームを利用する場合」が挙げられており、これらに当てはまる場合には賭博罪に該当する可能性が高くなるとしている。

賭博の定義ではなく射幸性の観点でいうと、当意見書が対象としている「スマホゲーム」については現行風営法の規制対象外となっている。とはいえ「未成年者の健全な育成の観点」から配慮が必要であり、また注視すべき観点のひとつとして「事業者は、商品・サービスを提供するに当たり、消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害しないようにしなければならない」とも述べている。その具体的な手段として、アイテム出現率・取得までの推定金額など適正な情報の提供、未成年でも理解できるような分かりやすい表示方法・表示内容などを推奨している。

こうした消費者委員会の意見を汲むように、国内では業界団体による自主規制が進んでいる。日本オンラインゲーム協会(通称JOGA)の「ランダム型アイテム提供方式における表示および運営ガイドライン」(PDFリンク)や、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(通称CESA)が2016年4月に制定した「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」により、アイテムの一覧表示、提供割合の提示、アイテム取得に要する投資額の期待値上限といった自主的なルールが定められている。いまでも一部タイトルにおける提供割合の誤表記や優良誤認表示が話題に上がるものの、全体的な整備は一段落ついている。

一方、中国では2016年12月、中華人民共和国文化部が有料ガチャにおける提供割合の可視化を要求する法令を発布(関連記事)。日本国内では自主規制にとどまっている有料ガチャのアイテム一覧・提供割合の明記に関して、中国では法的規制による監視が始まっている。

英国では換金手段の有無が論点に

Steamではマーケットプレイスでゲーム内コンテンツを売買できるが、Steamウォレットの残高は換金できない

英国では嘆願サイトPetitionを介して、ビデオゲーム内で行われる賭博行為を賭博法で取り締まれるよう改正を求める署名が1万6000件以上集まり、他国に先んじて政府を巻き込んだ調査が開始されていた。11月24日には英国賭博委員会が同機関の見解を公式サイトを通して発表。現行の賭博法(Gambling Act)と照らし合わせた結果、ライセンスが必要な商用賭博の定義には必ずしも該当しないと改めて論じた。一番のポイントは、偶然性により獲得したアイテムに金銭的価値が認められるかどうか。ルートボックスより排出されたアイテムの用途がゲーム内で完結し、換金手段が設けられていない場合には、ライセンスが必要な賭博行為とは認めにくいとしている。こうした事案では、賭博委員会としての権限は行使できない。

また発表文では、近年において賭博とビデオゲームとの線引きを曖昧にするような事例が増えている点にも言及されている。実際にその線を越え、ゲーム内アイテムを使った商用賭博として認められた事例としては、スキンアイテムを使ったギャンブルサイト「Futgalaxy」が挙げられる。このケースではサイト関係者が今年に入って刑事訴追を受けた。このように換金システムの有無が重要なファクターとなっている点は、日本国内における見解とも一部類似している。

英国賭博委員会の業務には、現行の定義を個別事例に当てはめることだけでなく、賭博政策に関するアドバイスや、未成年・社会的弱者の保護も含まれている。今回の発表文においても、関心の的となっているのは「法的な賭博の定義に該当するか」ではなく、未成年に悪影響を及ぼす商品が出回っているのかどうかであると述べられている。賭博に該当しなくとも、未成年に悪影響を及ぼす危険性がある商品を扱う事業者は、自ら適切な措置を施すことが社会通念上求められると指摘。そうした責任を全うしてもらうためにも、賭博委員会として知見・専門知識を共有していく意向があるとしている。

なお英国賭博委員会はこれまでルートボックスを問題視してこなかったわけではない。2016年の時点でルートボックスが未成年・若者に与える潜在的リスクを認識し、ゲームパブリッシャーないし業界団体への注意喚起を含む方針書を公開している(PDFリンク)。当時から賭博委員会はゲーム内コンテンツの換金手段の有無に着目し、換金手段が伴う場合にはライセンスが必要な賭博行為に該当すると明示している。今回の発表文は、嘆願サイトでの署名運動を受け、機関としての姿勢を改めて公表したものと言えるだろう。基本的には現行法では取り締まれず、業界団体による自主規制が好ましいとの考えは2016年当時から一貫している。

欧州本土と豪州も動く

『オーバーウォッチ』で見られるようなコスメティック限定のルートボックスまで問題視すべきかどうかは、国・関係者によって意見が異なる

ベルギーの賭博委員会は『Star Wars バトルフロント II』『オーバーウォッチ』の2タイトルにて実装されているルートボックスが賭博に該当するかどうか、調査を進めている。同委員会のPeter Naessens氏はルートボックスの中身がたとえコスメティックアイテムであっても、勝負に関連した賭けにおいてランダム性が絡むのであれば同国の賭博法に抵触する可能性があると発言。ただしルートボックスの禁止はゲーム産業に多大な影響を与えることから、新たな枠組みでのルール制定(新しいライセンス)が求められるかもしれないと語っている(関連記事)。またNaessens氏は賭博の定義該当性とは別途、青少年保護の観点からもコメント。未成年者は成年者と比べて判断能力が十分ではなく、コスメティック限定か、性能差が伴う「Pay-to-Win」型かを問わず問題視すべきとしている。

なお賭博委員会は諮問機関として政府に意見提出するのみで、最終的には政府による判断が必要となる。現時点では調査結果が出ていないものの、ベルギーの司法大臣Koen Geens氏は個人的見解として「賭博とゲームを混ぜてしまうことは、子供たちのメンタルにとって危険な問題」と述べており、ベルギー国内にとどまらず欧州全域での禁止を求めるなど規制に前向きな姿勢を見せている。

フランスでは元老院議員のJérôme Durain氏が同国のオンライン賭博当局ARJEL宛にレポートを送付。増加の一途をたどるゲーム内課金、とくにルートボックスを絡めたものは未成年者に悪影響を及ぼしかねないとして、アイテム提供割合の透明化を含め、業界による自主規制が望ましいとの意見を提出している(GameInformer)。Durain氏個人の考えとして、コスメティックアイテムに限定したルートボックスは社会通念上許容されているのに対し、『Star Wars バトルフロント II』にて一時実装されていた、キャラクターの性能に直結する「Pay-to-Win」と思わしき課金モデルについては問題視されやすいとの見解も。同じ課金スキームでも、消費者の温度差によって仕分けようとしている点は、英国やベルギー賭博委員会の関係者意見としてはあがらなかったものである。

オーストラリア・ビクトリア州賭博および酒類規制委員会(VCGLR)の戦略アナリストJarrod Wolfe氏は、ルートボックスが同州における賭博の構成要件を満たしているとコメント(PCGamer)。ただしこれはVCGLRとしての正式な声明ではなく、Wolfe氏個人の見解である。ルートボックスが非公認の賭博行為に該当するか、VCGLRとしての結論は出されていない。Wolfe氏も、どのようなロジックで賭博に該当するのか、具体的には触れていない。その上で話をすると、Wolfe氏は未成年保護のための規制が必要としつつも、賭博提供者の活動拠点がビクトリア州の管轄外にある場合は自ら権力を行使できず、レーティング機関を含む他組織との連携が不可欠になるとコメント。管轄の問題が生じるケースもあるということを知らしめた。

「自己責任」を主張する米国業界団体

賭博もガチャも自己責任

米国の動きとしては、業界団体ESA(エンターテインメントソフトウェア協会)が海外メディアPolygonに対し、ルートボックスは賭博に該当しないとコメント。あくまでもゲーム内コンテンツを獲得するための任意機能であり、ゲームの進行を手助けするアイテムにせよ、ゲームの進行とは全く無縁のオプション的なコンテンツにせよ、結局のところ購入を判断するのはプレイヤー自身であるとしている。ESAによる声明は「賭博かどうか」にフォーカスしたものであり、消費者・青少年保護の観点に基づく自発的なガイドライン制定の動きは今のところ見えてこない。

なお、利用者の「自己責任」というのは賭博業界における頻出ワードでもある。ラスベガスのカジノ文化を15年間研究してきた文化人類学者Natasha Dow Schüll氏は、カジノ運営側が、賭博に付随する問題を利用者の自己責任に押し付けてきた歴史があると指摘(Podcast「Adam Ruins Everything」にて)。業界団体/コンテンツ提供者と消費者との関係という意味では、ゲーム業界と賭博業界は類似してきていると言えるだろう。

ESA傘下のレイティング機関ESRBもルートボックスは賭博に該当しないと判断している(Kotaku)。ただしその根拠はESAが提示したものとは異なる。ルートボックスに偶然性が介在することは認めつつも、プレイヤーは必ず何かしらの対価を得られることから、トレーディングカードゲームと同様の原理が働くと説明している。要するに「利益の得喪」における「喪」が起こり得ないため、賭博の定義には当てはまらないという理論である。未成年保護の観点でいうと、ルートボックスならではの「射幸心を煽る演出」といった要素は無視しづらいものであるが、ここで議論されているのはあくまでも賭博該当性であり、その限りでは一理あるロジックである。

汎欧州のレイティング機関PEGIも、「必ず何かしらの対価を得られるため、現時点ではルートボックスは賭博に該当しない」というESRBと似た姿勢を取っている(Eurogamer)。自らに賭博の定義を定める権限はなく、各国の賭博法により賭博として認められていないものに対し、レイティング機関が「賭博である」と規定してしまうと混乱を招きかねないとも主張している。

州単位でのアクションを促すハワイ

米国業界団体が「賭博かどうか」の議論に終始し、自主規制に乗り出す気配が見えない中、ハワイの州議会議員Chris Lee氏がハワイ州を代表する声明として『Star Wars バトルフロント II』ないしElectronic Artsを名指しで批判(関連記事)。「子供にお金を使わせるように仕向ける、オンラインカジノだ」と強気の姿勢を見せ、「成熟していない子供を、こうした多額のお金を費やす“罠”から守らなければいけない」として『Star Wars バトルフロント II』への未成年者向けのアクセスおよび販売自体の差し止めを要求している。

Chris Lee氏はReddit上でスレッドを作成し、連邦レベルでの規制は困難だとしても、州政府レベルで行動を起こすことは可能だと呼びかけている。宗教、医療、教育方面のコミュニティ、消費者保護団体など意見を共にするグループが多数存在することから、勝算はあるとの考えだ。いくつかの州さえ動かせば、全体の流れを変えられるとも。

米国中心の自主規制組織が誕生

National Comittee for Games Policy

こうした中、一部業界関係者および専門家たちが「National Comittee for Games Policy」を設立。部門は2つに分かれており、ゲーム業界の民間シンクタンク「NCGP ITK」は業界としての見解を各国政府に提出し、法律・方針整備が適切な情報をもとに発展していくことをサポートする。そして自主規制機関「NCGP SRO」は不適切な運営体制をとっている企業を調査し、消費者を保護すべく活動する。四半期ごとに改善が必要な企業のリストと、リストアップされた理由を公開。「NCGP SRO」は各社従業員の内部告発の受け皿としても機能し、未払い残業代のような問題にも取り組んでいくという。

ゲーム業界関係者による団体IGDA(International Game Developer Association)とは異なり、NCGPには影響力の強い業界リーダーや、高度な専門知識を備えた人員が集っているとのこと。ただし、運営委員会の構成メンバー8人中3人は『Nemexia』という基本プレイ無料ゲームを開発する小規模スタジオIncuvation Gamesの関係者。そのほかParalux Interactive、Black Shell Media、Multiverse Gamesなど、米国カリフォルニア州を拠点とするインディースタジオの関係者が並んでおり、業界全体を代表する団体として台頭できるのかは、まだ未知数の状態である。政治的に中立な立場を保つとのことだが、公式サイトで掲げられているスローガンは「Gamers under fire(ゲーマーたちが集中砲火を浴びている)」であり、明らかな偏りが見られる。

話をまとめてみると、国としてルートボックスを賭博と認定したケースは今のところ見られないものの、調査を進めている機関の多くは未成年保護の観点から何かしらの規制を設けることに前向き。そんな中インディー関係者らが自主規制機関を新設するという新しい動きが見えるが、実際に影響力のある業界団体・レイティング機関は立場上受身の姿勢を貫いている。ルートボックスに対する批判の声が高まるなか、海外でも業界団体による自主規制の流れが生まれるのか、はたまた法的規制という形で行政機関が直接手を下すのか。射幸性ビジネスに本腰を入れたゲーム業界が、ひとつの転換期を迎えている。