『The Stanley Parable』共同開発者の新作『EAT』モバイル向けに無料配信開始。食品産業に抗議すべく暴食の限りをつくす


Davey Wreden氏とともに『The Stanley Parable』のゲームデザイン/ストーリーを担当した鬼才William Pugh氏が率いるインディーデベロッパー「Crows Crows Crows」は12月1日、『EAT: THE REVOLUTION』(以下、EAT)をiOS/Android向けに無料配信した。

「Crows Crows Crows」は『Dr. Langeskov, The Tiger, and The Terribly Cursed Emerald: A Whirlwind Heist』(弊誌レビュー)、『Accounting』『The Temple of No』といった実験的な作品を次々と世に送り出してきたゲームスタジオ。一人称視点のメタフィクション、Alternate Reality Game(現実代替ゲーム)、VR対応ゲーム、Twine製のテキストアドベンチャーなど、毎回新しいジャンルやプラットフォームに挑戦してきた。そんな彼らの新作『EAT』は、過去作で見られたPugh氏特有のユーモアを封じ、反対にマイルドなホラー要素を取り入れた奇妙なモバイルゲームとなっている。

ゲームの紹介文いわく、我々が住むこの世界では、食品の製造工程を握るものが大衆を支配する。アンクル・サムならぬアンクル・ハンガーに管理された残酷な世の中において、我々はみな奴隷にすぎない。だが『EAT』を持ってすれば、その強固な権力構造を破壊し、食の力を民衆の手に戻すことができる。これはただのゲームではない。『EAT』は食品産業に革命をもたらす。さあ、思う存分食べようではないか。もう一秒たりとも、我慢する必要はないのだ。

ゲームを起動すると、食材・食品が一品ずつ画面上に現れる。オレンジ、アボカド、ショートケーキにアップルパイ。どれもおいしそうだが、真っ黒な背景のせいか、ちょっぴり不安にさせる。よく見れば食べ物は小刻みに揺れているし、耳をすませば嵐の前兆のような強い風音が聞こえてくる。かまわず画面をタップすると、ムシャムシャもぐもぐという咀嚼音とともに、食べ物にかじり跡がついていく。完食すると、アンクル・ハンガーなる人物(もしくは概念)を非難する、プロパガンダ風のメッセージが流れる。フード産業の現状に警鐘を鳴らすかのように。

「我々はオーブンに忠誠を誓っている」
「誰も我々を止められない、食べ続けよ」
「正義のために食せよ」
「アンクル・ハンガーを恐れるな」
「あなたはフード革命のための闘っている」

もう一度画面をタップすると、警句が消え、新しい食べ物が現れる。プレイヤーはひたすら画面をタップすることで暴食に励み、メッセージを読む。はじめのうちは数パターン分の食べ物とメッセージがループしているだけだが、時間の経過とともに傾向が変わってくる。ハンバーガー、フライドポテト、ピザといったジャンクフードの出現頻度が増えたり、錠剤を飲み込みはじめたりと、徐々に食料とみなされる物の範囲が広がっていく。メッセージには「正義」「希望」「革命」、「飢餓」「消費」「嘘」といった頻出ワードが存在し、少しずつプレイヤーの脳裏に焼き付いていく。そしてメッセージ自体はどんどん過激に。

「すべての食べ物は偽物だ」
「飢餓に苦しむくらいなら死んだ方がマシ」
「『EAT』はもう、あなたの一部」
「彼の嘘を信じるな」
「アンクル・ハンガーを殺害せよ」

なお本作には明確なエンドポイントがあり、30分から1時間ほどで終点をむかえる。作者であるWilliam Pugh氏は、一気に駆け抜けるのではなく、休憩を挟みつつ遊ぶことを推奨している。

実在しないアンクル・ハンガーなる人物/概念について語る『EAT』。ストレートに解釈すると工業化が進んだ食品産業、大量生産・大量消費社会のコメンタリーであるようだが、なにやらゲームの内容を理解するためのコンテクストが不足しているようにも思える。

「Crows Crows Crows」は『EAT』を含む全作品を無料配信しており、ゲームを通じたマネタイズは図っていない。そうした背景を踏まえ、『EAT』の配信開始時にメーリングリスト登録者宛に送付されたお知らせレターでは、大手食品メーカーに『EAT』を買収してもらうという計画は失敗に終わったものの(メタフィクションを絡めたユーモア)、近いうちに新しいマネタイズ案を公表するとコメント。そして「来週木曜日に開催されるThe Game Awards 2017のプリ・ショーは絶対見ないでね」という一文でレターを締めている。ツイッター上では、来年には特別な何かを届けられるとの投稿も。

日本時間では12月8日に開催される「The Game Awards 2017」のプリ・ショーにて何かしらの発表がある可能性は高いだろう。となると『EAT』は本発表前のインタラクティブ・ティザー的な役割を担っていると考えられる。謎めいたアンクル・ハンガーやフード革命運動の全容も、いずれ明かされる日が来るかもしれない。