『ゼノブレイド2』レビューにて「海外声優の演技」が酷評されているのは何故なのか。その理由を紐解く


今月12月より全世界主要国にて同時発売されているニンテンドースイッチ向けRPG『ゼノブレイド2』。レビュー集積型サイトMetacriticOpenCriticにてともに84点を記録し、ユーザーレビューでも同水準のスコアが並べられており、安定した評価を獲得していると言ってもいいだろう。

そうしたレビューの中でマイナスポイントとしてあげられているのが、「声優の評価」だ。海外版における声優の演技について、GameSpotは欠点として「多くのキャラクターは、声優の演技がヘタ(Many characters backed by poor voice acting)」としてあげているほか、cubed3は「しばしば聞くに堪えない(quite often painful on the ears)」と酷評。好意的に評しているVentureBeatも「刺さるか、不満か(hit or miss)」と表現しており、よいもので「大丈夫(OK)」レベルであり、多くのレビューにて欠点としてあげられている。

こうした声を受けてか、GameXplainは同作の序盤の英語のシーンと日本語のシーンを比較する動画をアップロードした。コメント欄では声優の演技について議論されている。ただ、日本語の声とは違うことはわかるものの、声優の演技が聞いて何が批判されているのかはっきりとは理解できないユーザーもいるだろう。そこで、実際に英語を母国語とする弊社の外国人スタッフに数名に映像を見てもらい、その理由を考察してもらった。そうした考察をヒントに、今回問題視されている「演技の問題」を紐解いていく。

好みが分かれる「なまり」

海外版の声優の演技を語る上でまず抑えておきたい点は、『ゼノブレイド2』の海外版の声優の話す英語の多くがイギリス英語であるという部分だ。レックスを演じるAl Weaver氏はイングランド・ランカシャー出身。ホムラを演じるSkye Bennet氏もイングランド出身であるが両親はアメリカ人ということで控えめ。ニアを演じるCatrin-Mai Huw氏もイングランド・ロンドン出身。

英語版の大人っぽい声の賛否が分かれるニア

イギリス英語自体が問題なのではなく、そのなまりが強い点だ。レックスとニアはともにイングランド北部特有のきついなまりがあるという。「地方出身」「ストイックさ」「意思の強さ」といったニュアンスを感じさせるが、全編においてこのなまりを聞くことに賛否が分かれるようだ。メインキャラクターの二人がクセの強い方言を話すという点では、拒絶を示すユーザーがいるのは理解できる面もある。イギリスの北部なまりは人気海外ドラマ「Game of Thrones」において好評を博したので、その流れを汲んで採用したという説もある。“らしさ”を追求したメインキャラクターの方言の強さが、好き嫌いを大きく分けるポイントであるようだ。

また多かったのが、アニメティックなテイストに声が合っていないという指摘。レックスもニアも日本語を比較すると、明らかに声が低い。低い声によってキャラクターとして独自の魅力を生み出しているとも考えることができる。ただ、日本語のアニメっぽい音声を聞いた後、特にニアに関しては違和感を抱きやすいようだ。声の高さについては、日本語版を知らなければ問題ないという意見もあった。単純に日本産タイトルであるがゆえに、それと比較してしまうと海外版の声優の演技には減点してしまいがちなのかもしれない。

またバーン会長については、そろって「話している英語が単純に文法的におかしい」という指摘も。そして、しばしば挙げられていたのがリップシンク(唇とセリフの連動)における課題だ。映像を見ればわかるように、唇の動きが演技に合っていないシーンが度々存在する。リップシンクの問題は海外レビューでも指摘されており、そうした点が減点対象となっていたようだ。

日本語版では唇とセリフが一致しているように感じるが…。

海外レビューでも演技自体は及第点レベルにあるものの、最高ではないとされている。こうした演技レベルについては、『ゼノブレイド2』ではこれまでのシリーズ作品のようにいわゆる有名声優を使ってないことと関係しているかもしれない。たとえば前作『ゼノブレイドクロス』のエルマ役には『ストリートファイター』シリーズにおけるキャミーを演じるなど、多方面で活躍を見せているCaitlin Glass氏がつとめ、リン役には英語版の「けいおん!」にて田井中律を演じるなど多数のアニメに出演するCassandra Lee Morris氏がつとめている。比較的豪華なキャスティングであると言えるだろう。『ゼノブレイド2』の主要キャストはそれほど業界ではキャリアがなく、抜擢されたという形だ。『ゼノブレイド』のキャストも派手さはなかったが、今作よりは業界経験のあるキャストが多かった。キャストが豪華であることが必ずしも良いとは言えないが、キャリアと演技力には深い関わりがあると言える。演技の質について言及されるのは、こうした起用およびそれにともなう予算(もしくは発売日)の問題が関係していたのかもしれない。

“すごくダメ”ではない

ちなみに、今作においては全世界同時発売を目指して開発されたからか、前作でローカライズを担当したハチノヨンではなく、ニンテンドー・オブ・ヨーロッパが担当していることがKotakuのインタビューにより明かされている。ニンテンドー・オブ・ヨーロッパが先頭に経ってローカライズをおこなったという事情が、イギリス英語の採用や声優起用に関係していると考えられる。

ただ、ローカライズ全体の質は海外レビューからも合格点とされており、ゲームプレイを楽しめる上では支障がないとされている。あくまで演技の部分でのみ、一部課題を抱えていると認識されていると考えてもよさそうだ。また海外掲示板GameFAQsでは『ゼノブレイド2』の海外版の声優演技についてアンケートが実施されており、合計すると否定派が優勢であるものの、「少し変だけどしっかりしてる(Sounds a little off but otherwise pretty solid)」の票数がもっとも多い。海外レビューでは高評価なタイトルであるだけに、欠点としてあげられやすく、目立ってしまうのだろう。

くわえて、こうした英語の声優演技では満足できないユーザーのために、発売日より海外版のプレイヤーでも日本語音声を楽しめるパッチが配信されている。フォローアップも存在しているという点では、それなりに配慮されている印象だ。

ちなみに『ゼノブレイドクロス』では、翻訳や演技については評価されたものの、リンのビキニ型の衣装が欧米版の発売において大幅に変更され、「検閲である」と一部の海外メディアおよびユーザーから批判を受けていた(関連記事)。この件については、リンが13歳であるという設定が引っ掛かったとみられる。今作の海外版でも同様に低年齢らしきキャラクターの露出は控えられているが、メインキャラクターの表現は変更されていないから、大きな批判には発展していない(一方、ワシントン・ポストなど性的すぎると投げかけるメディアも)。そうした表現面のローカライズは大きな問題になっていないものの、声優の演技が一部のファンにとって引っかかる要素になってしまったようだ。

こうした経緯を見てもわかるとおり、すべてのユーザーを満足させるのは非常に難しいことをうかがわせる。『ゼノブレイド』シリーズの一連の流れを見ると、国の文化が色濃く出るタイトルを全世界で発売し、すべてのユーザーに配慮する困難さが垣間見えるだろう。ただ今回においては、日本語音声というオプションが用意されているのは、そうした仕様に不満を抱くユーザーにとっては救いになるのかもしれない。