米軍が「学校内の銃乱射事件」をテーマとしたシミュレーターを開発中。銃規制が難しい現実での、ビデオゲームデザインによる犯罪への対策

今月1月2日、米軍と国土安全保障省が「学校で銃撃事件が発生した際、教員や警察としていかなる対応を行うか」を題材としたシミュレーターゲームを制作していることをODN Newsが報じた。

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「銃乱射事件が発生した際の生存を目的」としたシミュレーターの内容はこうだ。このゲームはマルチプレイに対応しており、複数のプレイヤーは学校を襲撃する側、教員側、そして事態を鎮圧する警察側に分かれる。襲撃側は学校内の人間を撃つことが目的。学校内の生徒はAI で動く。教師側は生徒たちを安全な位置に導くために「壁に沿って立ちなさい」「隠れる場所を探して!」など複数の指示を与えることが可能で、襲撃犯が教室に入ってこられないようにするためにバリケートを張ることもできるようだ。警察側は襲撃側を鎮圧することを目指す。動画では射殺という結果に終わっているが、犯人を確保し無力化する選択肢があるのかもしれない。生徒や教員だけでなく、犯人側の視点に立てる点も防衛のために役立つという。

今回のシミュレーターが題材こそはシリアスながら、非対称のマルチプレイヤーゲームとして興味深いデザインを持っているように見える。その理由は開発会社にあるのかもしれない。制作を担当しているのはCole Engineering Services, Inc.(以下、CESI)。主にシミュレーションをベースにしたトレーニングやシリアスゲームの制作を業務としている。「シリアスゲーム」というジャンルは通常のビデオゲームとはやや毛色が異なるが、CESIには専門のゲームデザイナーやレベルデザイナーはじめ、商業のデベロッパーとまるで違いのないチームを擁しているようだ。

CESI公式サイトのゲームデザイナーの業務を確認すると「トレーニングからエンターテインメントを引き出すこと」が書かれている。エンターテイメントを引き出すという意味では、商業ゲームとデザインに共通点があるのだろう。今回のシミュレーターが商業で流通しているマルチプレイヤーゲームとして遜色ないように見えるのは、こうした背景からのようだ。

このシミュレーターは現実で起きた銃乱射事件をモデルにして設計されているという。プロジェクトマネージャーを務めるBob Walkerは「(このシミュレーターに実装されている)多くの部分では、教師が事件の中で試みたことを体験できます。たとえば、バージニア工科大学銃乱射事件(2007年4月発生、33名の死者を発生)においては、ドアの前にバリケードを張ることが大いに役に立ちました」と発言し、Gizmodeの動画ではチーフエンジニアを務めるTamara Griffithがこのシミュレーターについて「経験が豊富であるほど、生き残るチャンスは増えます。何が効果的で、何が効果がないかを知ることができます。」と説明している。

 

アメリカ合衆国国土安全保障省による、訓練シミュレーター

そもそもなぜ国土安全保障省が今回のシミュレーターを制作するに至ったののだろうか。以前より米軍と国土安全保障省はシミュレーション用のVRプログラムとしてEDGE(Enhanced Dynamic Geo-Social Environment、以下EDGE) を使用している。このプログラムでは米軍のトレーニングのみならず、消防隊や警察のシミュレーションにも利用している。制作には先述したCESIが担当。国土安全保障省の公式サイトにアップロードされているバーチャルトレーニングの資料(リンク先はpdf)を参考すると、概要のほかにシミュレーターの画面写真も確認できる。

学校で発生した銃乱射事件は、先のODN Newsの動画で例に挙げられたバージニア工科大学銃乱射事件や、1999年のコロンバイン高校銃乱射事件などが有名である。しかし、近年では全米で発生件数が増加。EverytTownでは2013年以降、アメリカ各地で発生した銃乱射事件の数をビジュアルでわかりやすくまとめている。今年に入ってすでに各地で銃乱射事件が発生している模様だ。

*教員と警察官の訓練

このように頻発する銃乱射事件への訓練は各学校の教員と警察官も必要となっており、Gizmodeによれば先の訓練プログラムEDGEを利用したシミュレーターではフォローされていなかった、警察や消防隊の訓練をアップデートする形で、教員も対応できるようにしたのが今回のシミュレーターであるとのこと。

シミュレーターが発達する一方、銃規制の現実

アメリカ国土安全保障省が新兵の訓練だけではなく、数々の銃乱射事件が発生する現実に対応するためのシミュレーターを作る意図は理解できる。しかし、根本の解決策としてなぜ銃規制が進まないのかという疑問もまた残る。

銃規制が一向に現実的にならない点については、huffingtonpostのHoward Fineman氏が「アメリカ誕生神話の中には銃を尊ぶ感情が多く残っている。」と 、アメリカの歴史的・文化的な部分に銃が深く根付いている点を指摘。現実的なところでは、銃を所持する権利を主張する団体である全米ライフル協会(National Rifle Association of America 。以下、NRA)の存在が関係してくるだろう。NRAはおよそ500万人の会員を擁し、豊富な資金力を持つ。先のhuffingtonpostの記事を引用すれば「自分達は憲法で認められた自由の守護者であると考えたがっているが、事業者団体としての機能もある。本質的には経済団体で、銃火器製造業者を保護し、銃の売上を増やすこと」を目的とした団体だ。さらにNRAがロビーイング活動を行い政治の現場にも深く関わっており、規制派の流れに持ち込ませない点も銃規制を妨げている大きな理由であるとされている。

こうした問題の中、今回開発されているシミュレーターに関してSputnik Internationalは銃規制問題の専門家であるMarlone Henderson氏を取材。彼は「このシミュレーションは問題を解決はしない。でも、正しい道のりへの一歩になる。」と一定の評価を下す。「暴力的なビデオゲームのように見えるかもしれないが、必ずしも暴力を利用しているわけではない。」とも発言している。

Marlone氏がシミュレーターの意図に対して比較的肯定的な見解を示しているのに対し、記者は「アメリカの銃規制にあなたはどの立場なのか?」と質問。Marlone氏は「あなたがアメリカに住んでいないならば、(なぜ私が銃規制にはっきり賛同せず曖昧な発言をするのかという苛立ちの)感情は理解できる。」と非現実的な提案を牽制。さらには「私はこのシミュレーターのような活動が、私たちの国の政治的な分裂を避けるため、助けや解決策になりえると思う。厳しい銃規制を提案する場合、よく待たされたり、延期したりする。人々はそのことを嘆くが、実際の事件から遠ざかるにつれて銃規制への関心がいかに低下していく。 銃の所有権や慣例といった既得権があり、国全体で劇的に変化するのは難しいんだ。」と冷静なコメントを続けた。

既存の銃社会が現実的な側面でも、文化的な側面で食い込んでいる事実を踏まえ、今回のシミュレーターを改めて確認すると「米軍がトレーニングに使用しているシミュレーター」をベースとし、「実際の商業で流通されている、銃撃戦を主とするFPSとそん色のないデザイン」で、現実の銃乱射事件から命を守ることを学ぶことに皮肉めいたものを感じざるを得ない。

今回のシミュレーターはアメリカ合衆国国土安全保障省より公式に2018年の春より配信予定。学校へ無償で提供する計画が立てられている。

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