PCのRPGの歴史を網羅した資料「The CRPG Book Project」無料公開。『FF7』など日本のRPGも重要な評価

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PCをプラットフォームにしたRPGの歴史をまとめた書籍「The CRPG Book Project」が無料で公開された。主な編集者は東京在住のブラジル人のビデオゲームライターであるFelipe Pepe氏。以前よりGamasutraのブログなどでRPGの歴史を掘り下げる記事を執筆しており、本書はその活動を結実させたものだ。数十名のライターによる執筆、500ページ以上に及ぶボリュームでさまざまなPCでリリースされてきたRPGを網羅しており、資料性は高い。

本書で取り扱うタイトルは1970年代から2010年代現在までに英語圏でPCでリリースされたシングルプレイRPGだ。そのため家庭用ゲーム機でリリースされた作品は除外されるほか、PCでリリースされていても英語にローカライズされていない作品も除外。MMORPGも除外されているが、『Diablo』など一部オンライン要素のある作品は取り上げられている。

テーブルトップRPGの起源を探るプロセスで1912年の『Little wars』に講じるH.Gウェルズのイラストが挿入される。
1970年代の世界初のコンピューター支援教育システムPLATOで、コンピューターRPGのジャンルが生まれたという。

本書の読みどころは各年代の技術的な変化や環境の変化を取り上げつつ、その中で各RPGがどんな価値があるかを取り上げていることだ。「オールドスクールなRPGとはなにか?」といった、そもそものテーブルトップで遊ぶRPGというジャンルの出自や、コンピューターRPGの誕生に関しても膨大な資料から紐解くなど、英語圏で発展したPCのシングルRPGの歴史を編纂している。

SFの巨匠H.Gウェルズが関わった世界初といわれるウォーゲーム『Littele Wars』にテーブルトップRPGの始まりを見出すほか、コンピューターRPGの始まりに1970年代のコンピューターPLATOで稼働した『The Dungeon / pedit5』『dnd』 を取り上げ、現代の『ウィッチャー3 ワイルドハント』『Fallout 4』までのおよそ半世紀に及ぶ歴史を一望できる。

英語圏PCのRPGの文脈に、家庭用ゲーム機中心だった日本のRPGの文脈がどう絡んだか

もうひとつの見所は、RPG大国である日本がいかに欧米のPCをメインとしたRPGの文脈にどう絡んでいるかだ。本書でも各年代で重要なトピックスに日本で『ドラゴンクエスト』が驚異的な売り上げを出したことが取り上げられるなど、随所で言及されている。

また、別項として日本のRPGがいかにして誕生したのかをまとめている。重視されているのはPCからコンソールに主軸が移るまでを1982年から1987年にリリースされた作品だ。PCゲームで光栄の『ドラゴン&プリンセス』から『団地妻の誘惑』などを初期のRPGとして取り上げ、コンソールの『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』『ファンタシースター』のリリースによって、いかに日本でPCでRPGを遊ぶ一時代が終わったのかが記されている。

英語にローカライズされ、さらにPCでリリースされたRPGに限定していくと、とたんに本編で登場する日本のRPGは限定されていく。80年代では『イース』90年代初頭では『ドラゴンナイトIII』(英語タイトル『Knights of Xentar』) などがローカライズが行われていたため取り上げられている。また、日本でもPCゲームの流れが広がる2010年代になると、英語ローカライズも進むことでフリーゲーム出身の『片道勇者』なども言及されている。

このように欧米のPCをメインにしたRPGと、日本のコンソールから発展したRPGの歴史はプラットフォームと言語の壁により別々の文脈で進行していた。それが1997年、一本の名作のリリースにより大きく文脈が異なっていたはずの欧米のシーンに日本の文脈が混ざりこむ。 『ファイナルファンタジーⅦ』(以下、『FFⅦ』)である。

『FFⅦ』はコンソールをメインにしながら、英語ローカライズも行われ、コンソール版発売から間を置かず(1998年)PCにてリリースされた数少ない作品だ。かつ、その成功が非常に大きな価値があるものとして取り上げられている。同作品が元id Softwareで『Doom』に関わっていたTom Hallによる『Anachronox』、日本のXboxでもリリースされた『Sudeki』など欧米のシーンの影響を与えてきたことが指摘されている。

あらためて『FFⅦ』が日本と別の文脈である英語圏でのPCゲームの文脈で高く評価されたのは、その映像表現からストーリーテリングだけではなく、実際にPCでのリリースを試みた点も大きいだろう。Polygonによれば当時スクウェアは欧米のリリースを考えていた。しかしプレイステーションが十分に普及していない現状で、スクウェア(現スクウェア・エニックス)のカリフォルニア支社が動き、PCでのリリースを計画した。そこでEidos interactiveの協力を受け、PCでのリリースを実現させたことで今日の世界的な評価につながったという。

『FFⅦ』が日本と欧米のRPGのキャズムを超えた事例ということで大きな意味を持っている。日本のコンソールを中心としていたRPGも、近年ではSteamでのリリースが相次いでいるし、日本のコンソールを中心にしていても英語圏のRPGを遊ぶことはずっとカジュアルになった。別々だった日本と欧米のRPGの歴史がより混ざり合う現在、本書は『FFⅦ』をその嚆矢として読むこともできる。「The CRPG Book Project」はこちらから全文を読むことができる。

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