PCゲームのModコミュニティサイトNEXUS MODSは、「Nexus Mod Manager」に代わる新たなModマネージャーとして開発中だった「Vortex」のオープンアルファ版を公開した。「Vortex」は今年1月31日以降、2週間にかけて一部のユーザー向けに限定公開されていたが、当初の予定通り4度のアップデートを経て、オープンアルファの段階に移行したことになる。NEXUS MODSは「Vortex」について、「Nexus Mod Manager」のシンプルさと「Mod Organizer」の高度な機能性を兼ね備えた新たなModマネージャーであるとしている。
「Vortex」について説明するうえで、まずは開発の経緯について簡単に振り返っておきたい。
NEXUS MODSではこれまで、公式のModマネージャーとして「Nexus Mod Manager」が提供されてきた。「Nexus Mod Manager」は、元々『The Elder Scrolls IV: Oblivion』のModマネージャーだった「Oblivion Mod Manager」に端を発するMod管理ツールだ。ご存知の方も多いと思うが、10年前の「Oblivion Mod Manager」はとてもシンプルなツールだった。現在の「Nexus Mod Manager」は、そのシンプルなツールに、複数のゲームに対応する機能を付け加えながら発展してきたものといっていいだろう。いわば平屋の家に増築に増築を重ね、マンションにしてしまった状態といえる。高度な機能を追加するにあたって「Nexus Mod Manager」は既に拡張性の限界を迎えており、2016年の時点で開発終了が告知されていた。（NEXUS MODSの創設者Robin Scott氏は当時、結局オープンベータのまま開発終了してしまった「Nexus Mod Manager」について、「ほろ苦いツール」であると振り返っている。）
同年、Robin Scott氏はソースコードもUIも古くなりすぎた「Nexus Mod Manager」の刷新を決断。「Nexus Mod Manager」と並ぶMod管理ツールである「Mod Organizer」の開発者、Tannin氏をスタッフに招聘する。Tannin氏は新たなModマネージャーの開発に着手すると同時に、「Mod Organizer」の開発終了を宣言。以来2年間、「Nexus Mod Manager」、「Mod Organizer」の後継ツールとして開発が続けられていたのが、今回オープンアルファ版が公開された「Vortex」である。
今後「Vortex」は、開発が終了した「Nexus Mod Manager」に代わって、NEXUS MODSの公式Modマネージャーになることは既に決定している。
ただし、現在もNEXUS MODSサイト上では「Nexus Mod Manager」が公式のModマネージャーとして公開されている状況に変わりはない。今後どの段階で「Vortex」に移行していくのか、ロードマップなども公開されていない。留意していただきたいのは、Robin Scott氏が現段階の「Vortex」について、アルファ版であることを繰り返し強調していることだ。Robin Scott氏は、アルファ版の定義を引用しながら、ユーザーに対し次のように注意を呼び掛けている。
「アルファ版はテスト段階の初期段階にあるコンピュータソフトウェアです。 使用に堪えうる機能を備えていますが、洗練されておらず、しばしばプログラムの最終バージョンに含まれる多くの機能が欠けています。（中略）アルファ・フェイズはソフトウェア開発サイクルの初期段階であるため、アルファ版には通常、重要なバグやユーザビリティの問題があります」
今回の発表でRobin Scott氏はユーザーに対して、「Vortex」にバグが含まれていることや問題発生後にゲームがプレイ不能になるリスクを伝えながら、使用すべきかどうか熟考を促しつつ、次のようにメッセージを語っている。「あなたはセーブデータやModのフォルダーのバックアップ方法を熟知していますか？ もし「Vortex」が正しく動作しなかった場合、その問題を手動で修正したり、他のModマネージャーで修正できるでしょうか？ 感情的で無礼になることなく建設的なフィードバックやバグレポートを提供して、私たちを手助けしてくれるでしょうか？ 修正や機能の開発を、辛抱強く待つことができきるでしょうか？ それらを理解したうえで「Vortex」をダウンロードし、徹底的に使用してくれるのであれば、私たちは皆さんからのご意見を心待ちにしています。」そうScott氏が呼びかけているように、「Vortex」公開の目的があくまでテストであるということを留意したい。
「Vortex」の中身についてだが、ひときわ目を引くのは現代的なUIだ。WindowsのMetro UI風にタイルが並んだデザインが直感的かどうかは意見が分かれるところだが、華やかであることはまちがいないだろう。見た目を変更するテーマ機能を備えており、初期状態ではダークなデフォルトと、明るいbrightの2種類から選択できる。テーマはユーザーが手軽に編集できるようになっており、フォントや配色の変更が可能で、ユーザーによる変更はテーマとして保存することができる。現バージョンにて実装されているのかは不明だが、CSSを直接記述することでさらに大幅なテーマの変更が可能になるようだ。その他、言語の変更にも対応しているが、現在のところ選択できるのは英語、ドイツ語、スウェーデン語の三種類のみ。日本語には未対応となっている。
「Vortex」を起動すると、まずNEXUS MODSへのサインインを求められる。（サインインは最初の起動時のみで、二度目からは省略される。PCをシャットダウンすると再度サインインするしなければならない場合があるようだ）サインインすると「Vortex」はNVIDIA GeForce Experience同様、まずPC内の対応しているゲームを検索し、GAMESカテゴリのなかのDISCOVEREDタブ中に表示する。ただし、この時に表示されるゲームは現在のところ一部にすぎず、右下に配置されたSearch for gamesのボタンをクリックすることで、すべてのドライブからゲームが検索される。それでもゲームが検索されない場合は、上部のSUPPORTEDタブに並んだ対応ゲームのタイルから、手動でゲームの場所が指定できる。Modマネージャーとして使用する際には、DISCOVEREDタブ中のゲームから、管理したいゲームをポイントし、表示された選択肢の中からManageを選ぶことでMANAGEDタブにゲームが移行する。
今回筆者は試していないが、「Vortex」には「Nexus Mod Manager」と「Mod Organizer」からのインポート機能があり、それぞれのツールから設定をコピーすることができる。これらは取り返しのつかないような機能ではないので、設定に影響を及ぼすことはないと説明されている。
「Vortex」は「Mod Organizer」同様にModをゲームフォルダではなく、仮想化により別フォルダに導入する。ゲームフォルダに直接Modを導入する「Nexus Mod Manager」からのインポートした場合は、競合を避けるため「Nexus Mod Manager」でインストールされたModを無効にするか、「Nexus Mod Manager」がDataフォルダにいれたファイルをクリアすることが推奨されている。Tannin氏によると、Modのフォルダはゲームと同じドライブになければならないとのこと。ファイルサイズの大きなModを利用する場合は、ディスクの空き領域に注意を払う必要がありそうだ。
設定の読み込みについてだが、Robin Scott氏は「処理中は辛抱強く待つこと。Modの設定が膨大な場合は、読み込みに時間がかかることがある」としている。筆者の場合、3時間経っても処理が終わらなかったため、やむなく処理を中断している。処理を中断してもゲーム自体はアクティベートされMANAGEDタブに移行するのだが、アラートがでて使用することはできなかった。同様にアクティベートの解除についても3時間待ったが処理は終わらなかったため、中断している。設定をインポートする場合には、かならずバックアップをとるなどの準備をした後で行ってほしい。処理が終わらない原因については想像がつかないが、日本語環境では日本語版のゲームを利用していたり、日本語化ModなどNEXUS MODSで扱っていないModも利用されていることから、英語環境以上に問題が起きる可能性は高いと思われる。
その他にも明白なバグとして、前述のSearch for gamesボタンに、現在は「一度検索を開始するとキャンセルすることができない」とバグの表示が出ている。キャンセルボタンはグレーアウトしており、使用できない。このように「Vortex」は、少し使用してみただけでも動作は不安定であり、アルファ版であることを充分に理解することができる。開発に協力するつもりがなければ、現段階での使用はお勧めできない。ちなみに、開発に協力する場合だが、バグの報告については開発者のTannin氏に直接メッセージを送ることができるという理由で、「Vortex」内のSend Feedbackからの報告が推奨されている。NEXUS MODSサイトにコメントを書いても読まれない可能性が高いので、注意していただきたい。
NEXUS MODSのコメント欄でも戸惑っているユーザーが多い操作方法についてだが、現在のところ操作方法についてのドキュメントはほとんど公開されていない。操作は、ある程度試行錯誤を繰り返すことになるだろう。NEXUS MODSでは、操作については人気YouTuber、Gopher氏によるチュートリアル動画を参照するよう推奨している。
