ゲームが延期したお詫びに、週90時間労働します。とある開発会社の謝罪コメントに対し、批判の声が集まる


ハンガリーに拠点を構えるスタジオNeocore Gamesは、現在Steamにて早期アクセス販売中の『Warhammer 40,000: Inquisitor-Martyr』を6月5日に正式リリースするとSteamニュースにて発表した。当初は5月11日を予定していたが、約3週間の延期を経て正式リリースされることになる。延期の理由は、同時発売が予定されているコンソール版に問題が見つかったことが原因であるとのこと。

本作を手がけるNeocore Gamesは、『The Incredible Adventures of Van Helsing』シリーズの開発を担当してきた、ハック・アンド・スラッシュタイトルの制作には定評のあるスタジオだ。すでに一定のジャンルのファンからは支持を得ており、1か月弱の延期自体はそれほど大きな問題ではないだろう。今回取りざたされているのは延期ではなく、謝罪文にある。その詳細をPC GamerGameindustry.bizが伝えている。

Neocore Gamesは延期について述べた後、重ねて「申し訳ありません」とお詫びの言葉を並べる。そして最後に「そのかわり、Neocore Gamesはこれから3週間にわたって、週90時間労働します。そうすれば『Martyr』にとって、とても、とても有益になるでしょう。」と付け加えた。週90時間というと、週休2日で換算すると1日18時間労働。休みなしで考えても1日12時間以上は働かなければならない。「Crunch」とも呼ばれる過酷な労働を強いることで、延期の償いをしたいと述べたことになる。

「とても」の強調を見ると、皮肉ともとれる文章であるが、延期したことを謝罪していたという文脈があるだけに、週90時間労働宣言を多くのユーザーは真に受けたようだ。告知のリンクを張ったツイートには12件のRTに対し120件以上のリプライが届き、それ以外でも多くのユーザーが週90時間労働宣言に反応している。その多くが、「社員の健康が心配だ。」「恥ずべきこと。」「延期の懺悔のかわりにスタッフを地獄へ送るのはやめないか?」といった批判の声だ。ユーザーだけでなく、『Castle Story』といったインディーゲーム開発者らもまた90時間労働について批判している。

この騒動に気付いたのか、Neocore Gamesはすぐさま告知を修正および更新した。週90時間働くのはジョークのつもりであったとし、スタッフを大事に扱っていると誓っている。またPC Gamerに対して同社の代表者は、90時間はハンガリー流の皮肉であったとし、締め切りが近いので負荷はあるにせよ、一番労働時間の長いプロデューサーレベルの人でも90時間は働かないとも語っている。

では、この90時間というのは本当にジョークだったのだろうか。実はNeocore GamesはSteamコミュニティ上で3月に告知をおこなった際に、「十分に準備ができていない内に正式リリース時期は明かせない」とし、「それでもやるべきことはたくさんあり、多くの人はCrunchとして数週間で80時間働いています。」と語っていた。代表者はこの発言も皮肉だとコメントし、特定の人々は週末に働くこともあると認めながら、そのような労働をスタッフに強いたことはないともコメントしている。結局真相は闇の中であるが、少なくとも週90時間労働とは程遠いスタジオであるわけでもなさそうだ。

過酷な労働については、欧米でもしばしば問題視されている。2016年には『Uncharted』シリーズに携わってきたAmy Hennig氏がNaughty Dogs時代には週の労働時間が80時間を切ることがほとんどなかったと告白し、賛否両論を呼んだ(関連記事)。それ以降もVentureBeatがゲーム開発者の76%がCrunch状態にあると報じ、The New York Timesは「ゲームが開発者を破壊する」と特集する(寄稿者はKotakuの記者)など、海外メディアは継続的に労働問題について報道している。週90時間労働は、決してジョークにならない。そうした業界にいるからこそ、多くの人々がNeocore Gamesのスタッフを心配したのだろう。

ゲーム開発者である以上は、ゲームの品質が求められるものの、消費者として開発者に健康的でいてほしいと願う人々もいるだろう。「延期してもいいから、スタッフを大事にして」といった声もSteamニュースのコメント欄には散見される。『Warhammer 40,000: Inquisitor-Martyr』の正式リリースまでファンは、期待と心配の気持ちが入り交じる期間を過ごすことになりそうだ。