『PUBG』は“ストアアセットの寄せ集め”との批判に開発陣が反論。既製アセットの利用はゲーム開発の円滑化に欠かせない

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Unreal EngineのマーケットプレイスやUnityのアセットストアが誕生して以来、汎用のゲームエンジンを採用するゲーム開発者は全てのアセットを一から自作する必要がなくなり、ゲームの面白さを高めるための作業にリソースを割けるようになった。既製アセットを利用することで、膨大な予算と長い時間を費やす余裕がないインディーデベロッパーの開発は格段に楽になる。

その一方で、アセットストアから購入したキャラクターモデルや環境アセットなど既製品の寄せ集めで作られた低品質ゲームも乱立し始め、それらのゲームは「アセットフリップ」との蔑称で呼ばれるようになった。そして次第に、「アセットフリップ」という言葉の用途が広がっていき、あからさまな手抜き作品でなくともこの侮辱的な呼び名が用いられるようになっていった。その一例が、世界的大ヒット作品となった『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』(以下、PUBG)である。

(Image Credit: RedditユーザーAffeMeister12

Unreal Engine 4を提供するEpic Gamesの社長Tim Sweeney氏が弊誌インタビューにて触れたように、『PUBG』でも同社のマーケットプレイスで購入されたアセットが活用されている。特に最初に制作された「Erangel」マップでは、Unreal Engineユーザーであれば見覚えのあるインテリアやロケーションが散見されることから、2017年の発売当初からストアアセットの利用は周知の事実とされてきた。

だが2018年に入りPUBG Corp.NetEaseの『荒野行動』『Rules of Survival』(関連記事)、さらにゲームエンジン提供元であるEpic Gamesの『フォートナイト』(関連記事)を著作権侵害により提訴したこともあって、『PUBG』は改めて「アセットフリップ」と揶揄されるようになっていった。その裏には、『PUBG』は他のバトルロイヤルゲームをコピー品として指摘できるほどにオリジナリティ溢れる作品なのだろうか、という疑念が含まれているのだろう。

Unreal Engine マーケットプレイス 「Old Train Factory」 by shouhuzhedalang

そうした中、「E3 2018」のパネルセッションに『PUBG』のクリエイティブ・ディレクターであるBrendan Greene氏が登壇した。Greene氏は「Erangel」マップの開発過程について語る際に、コミュニティの一部から本作が「アセットフリップ」と呼ばれていることに言及。「建物や車両のほとんどは開発チームのアーティストが作った手製のアセットです。植生の一部もそうです。もちろん、9か月ほどでマップを仕上げないといけないので、マーケットプレイスのアセットも使っています。ですが、ほとんどは開発チームがハンドメイドで作ったものです。なので我々をアセットフリップと呼ぶようなコメントを見かけると、そいつを殺してやりたくなりますね」と怒りと嘆きを露わにした。

Greene氏のコメントがあってからもコミュニティ内で誤った情報が出回り続けたことから、E3イベント後にはPUBG Corp.のコミュニケーション担当Ryan Rigney氏がRedditにてコメントを投稿し、PUBG Corp.がなぜマーケットプレイスのアセットを利用するのか、事情を説明した。

「まず理解してもらいたいのは、開発チームを立ち上げて間もない段階では、アセットストアに頼らざるを得ないということです。ゲームを手早く、手頃な予算で作って、どうすれば面白くなるのか探っていくには、それしか方法はありません。試作段階で40人規模のアートチームを雇って試行錯誤してみるというのは賢い働き方ではありません。そのためにアセットストアがあるのです」

今では開発チームが経験を積み、またチームの規模も拡大したことから、既製品アセットを使う頻度は低くなっているという。それでもマップの全てを一から作るのは合理的ではないため、一部に限りストアアセットを使用している。また「Erangel」のアセットが「Miramar」マップで再利用されている点については、使い回してもプレイ体験に影響を及ぼさないアセットに2週間費やすくらいなら、プレイヤーにとって価値のある部分に労力を割いた方が良いと答えている。今後も『PUBG』にてストアアセットの利用が完全に無くなることはないが、それは決して悪いことではなく、「アセットフリップ」という過度に簡略化された話を鵜呑みにしないで欲しいと語っている。

正式配信が近づく「Sanhok」マップではさらに少数のストアアセットが使われている

PUBG』は数千万人ものプレイヤーを抱えるメガヒットタイトル。バトルロイヤルブームの火付け役となった本作のプレイヤー全員がゲームの開発事情を理解しているわけではない。また、Steamマーケットから広まった「アセットフリップ」という言葉が、ゲームを分かりやすく批判できる便利な蔑称であるということも、その名で呼ばれている一因だろう。おそらくPUBG Corp.がどれだけ説明しようと、コミュニティからの批判が止むことはない。ただ、ゲーム開発が複雑化しコストが上昇し続ける中、ストアアセットの利用が不可欠となっていることだけは、Rigney氏が訴えるように広く認知されていってほしいところである。

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