『Gone Home』開発元が手がけるSFナラティブADV『Tacoma』Xbox One版が国内発売。無料で取得できるIARCレーティングが道を拓く


アメリカのインディースタジオFullbrightは6月30日、SFナラティブ・アドベンチャーゲーム『Tacoma』のXbox One/Windows 10版を日本で発売した。価格は2350円(税込)で、Xbox Play Anywhere対応によりクロスバイが適用される。国内ではSteam版が昨年発売されており、海外ではPlayStation 4版も発売中だ。なお、ゲーム内は日本語表示に対応している。

『Tacoma』の舞台となるのは、ヴェンチュリス社が保有する宇宙ステーションTacoma(タコマ)。貨物中継地点であるタコマでは、6名の乗組員がここで生活しながら貨物の監視業務に当たっていたが、2088年現在、何らかの理由により乗組員は全員待避済みで無人となっている。プレイヤーはヴェンチュリス社に雇われた作業員としてタコマを訪れ、遠隔操作で無効化された状態にあるタコマのAIのデータを転送すると共に、AIの中央処理装置の回収をおこなう。

タコマ内での人の行動はARトラッキングシステムにより記録されており、ゲームを進める中ではタコマの各区画にて、かつてここに滞在していた乗組員たちのARデータを回収できる。そのARデータを再生すると、乗組員たちが当時どのような行動や会話をしていたのかが可視化して再現され、任意に早送りや巻き戻し、リプレイも可能。そのほか、乗組員が残したノートなどさまざまなオブジェクトを調べることもできる。そして、当時タコマの乗組員たちに何が起こったのかを多角的に調査するのだ(関連記事)。

本作は海外では昨年8月に発売されており、今回のXbox One版の国内リリースは突然の出来事だった。開発元のFullbrightは、もともと本作の国内リリースを予定していなかったようで、日本のCEROレーティングも取得していなかった。しかし、日本のXbox Oneユーザーによる働きかけを受けたことで、国内リリースが急遽実現することとなる。

日本のコンソールでゲームを販売するためには、事前にCEROによる審査を受けてレーティング(年齢区分)を取得する必要がある。しかし弊誌が以前お伝えしたように、Xbox OneにおいてはIARC(International Age Rating Coalition)のレーティングをもって国内発売できる。IARCは、ダウンロード専用ゲームの対象年齢審査をおこなう団体で、北米のESRBや欧州のPEGIなど世界6各国・地域のレーティング団体、およびマイクロソフトなどのプラットフォームホルダーが加盟している。審査は無料で受けることができ、IARCのレーティングを取得すれば、加盟団体と連携して各国・地域の対応するレーティングも同時に取得できる仕組みだ。現時点ではCEROはIARCに加盟していないが、日本マイクロソフトがIARCレーティングでの国内販売を認めているため、Xbox One向けのダウンロード専用ゲームはCEROレーティング無しで販売可能となっている(関連記事)。

Fullbrightは、CEROがIARCに加盟しておらず、IARCを通じてCEROレーティングを取得できないことから、日本でのXbox One版『Tacoma』のリリースを諦めていたようだ。しかし、Xbox OneユーザーからIARCレーティングを利用して国内発売できることを知らされて対応に動く。そして、Xbox One版へのパッチ配信のタイミングに合わせて、今回の国内リリースが実現した。

マイクロソフトがIARCに加盟したのは2015年だが、日本マイクロソフトがIARCレーティングを取得したXbox One向けタイトルの取り扱いを開始したのは2017年からと比較的最近である。Fullbrightは、こういった最新の情報を知らなかったのだろう。弊誌が以前取材した『Shape of the World』の販売元Plug In Digitalも、IARCレーティングにてXbox Oneタイトルを日本で発売できることを知らず驚いたと話していた。日本のMicrosoft Storeを見ると、インディーゲームを中心にIARCの利用が広がりつつある様子が確認できるが、まだまだデベロッパーへの周知が行き届いていないのかもしれない。言い換えれば、海外タイトルを国内に呼び込む余地が多く残されているといったところだろうか。この辺りは、マイクロソフトのID@Xboxチームの働きに期待したいところである。

またFullbrightが、CEROレーティングの取得にあたっては日本語で審査申請しなければならないことが、『Tacoma』の国内発売を困難にしていた理由のひとつだと言及していた点にも注目したい。これはほかの海外デベロッパーからも指摘されていたことで、たとえば『A Kingdom for Keflings』などで知られるインディースタジオNinjaBeeも同様のことを2014年にコメントしており、日本語を理解できる人を雇う必要があるのは大きなハードルだとしていた。それから4年が経っても状況は変わっていないようだ。小規模なインディースタジオが自らゲームを販売するにあたっては、こういったコストも大きな負担となり、見合わないと判断された地域ではそのリリースは見送られてしまうだろう。

こうした状況について弊誌がCERO事務局にうかがったところ、審査の受託から審査結果の通知にいたるまで、すべて日本語でおこなっているのは事実とのこと。日本人の審査員が日本語の審査基準に基づいて審査をおこなうため、審査依頼者に対して審査結果を正確に記述して伝える必要がある、というのがその理由だ。確かに、レーティング審査は厳正におこなわれるべきで、そのやり取りにおいて誤解などがあってはならず、CEROの方針は理解できる。ただ、これが海外のインディースタジオにとってハードルになっていることも事実。日本語を母国語とするのは日本だけであるため致し方ない面はあるが、なにか少しでも歩み寄る方法はないのかと願うばかりである。なおCEROによると、審査依頼を受託する際に依頼者と取り交わす審査委託契約書については、英文版を用意しているとのこと。

こういった状況もあり、IARCレーティングは海外インディーゲームの国内リリースにおける突破口のひとつになり得る可能性がある。実際、Xbox One版『Tacoma』も発売に至った。ただし、以前の記事で言及したように、IARCがはじき出した対象年齢が日本においても正しく機能するかどうかは、CEROがIARC未加盟の現状では疑問が残るところである。また、任天堂はIARCに加盟しているが国内での利用は認めておらず、ソニーは加盟予定ではあるがまだ実現していない。今後、マイクロソフト以外にもIARCの利用が国内で広まっていくには、十分な環境の整備が必要だろう。そのあかつきには、PS4版『Tacoma』の国内リリースも実現するかもしれない。