とあるインディーゲーム開発元が「不評レビュー」に怒り、ユーザーのSteamキーを取り消し騒動に。怒りゆえの過ちは許容できるか?


Steamで販売中のとあるインディーゲームが、Redditなど海外フォーラムで取りざたされている。注目を集めているのは、先月9月28日に発売された『Depth of Extinction』。暴力に満ちた世界で、最後の政府関係者の生き残りとして人類を救うべく戦うという、ターンベースのストラテジーゲーム。『XCOM』と『FTL: Faster Than Light』を掛け合わせるという謳い文句は、なかなかに魅力的に映るではないだろうか。しかし、そんな意欲作のレビュー欄は、ひとりのユーザーの糾弾によって混沌と化している。

GamingOnLinuxによると、『Depth of Extinction』開発元であるHOF Studiosは、発売前からFirst Accessという位置づけで、さまざまなプラットフォームを対象としSteamキーを配布していた。そこにはインディーゲーム販売プラットフォームitch.ioの購入者も含まれていた。First Accessが終了し、Steamへとプラットフォームを移動し、本格的な販売が始まった。ユーザーRyan Dorkoski氏はitch.ioでゲームを購入し、キーを有効化しゲームをプレイ。そしてその感想を、Steamレビューに投稿していた。レビュー内容はというと、結論からいえばネガティブなものである。

 

そのゲームは粗かった

Dorkoski氏は『Depth of Extinction』について、本作のテーマともいえる『XCOM』と『FTL』の組み合わせが必ずしも相性がいいとは言えないとし、さらにインターフェースがモバイル準拠に作られていることを筆頭に、作りが粗いと批評。ピクセルアートはきれいなものの、標準の質は近年引き上げられており、その中で優れているとはいえないとジャッジ。組み合わせ自体は意欲的だが粗雑で、独創性がなく、20ドルに値するとはいえないと締め、「不評」としてレビューを投稿した。

レビューを一部抜粋

なかなか辛辣な批評であるが、こうしたSteamレビューを見ることは珍しくない。ただし、このレビューに対する開発元のリアクションが、事態をややこしくした。開発元は、Ryan Dorkoski氏がレビューを投稿した直後、氏の有効化したSteamキーを無効化にしたのだ。Steamストアで購入したものではない、外部向けのSteamキーは開発者によって無効化することができる。この仕組を利用し無効化し、氏がゲームをプレイできない状態にさせたのだ。itch.ioという正規プラットフォームでゲームを購入したにもかかわらず、ゲームのプレイができなくなるという事態にDorkoski氏は激怒し、開発元に問い合わせをおこなった。

氏はSteamコミュニティ上で、開発元からの返答を公開。彼らがキーを無効化したことを説明する言い分はこうだ。開発元は、購入者であるDorkoski氏からFirst Access期間中にフィードバックを得たかったという。しかしSteamレビューが投じるまでゲームを遊んでいないことを把握しており、氏はゲームに興味が無いと思っていたと説明。もっと遊んでくれることを約束すれば、またキーを渡すことができるとコメントした。

一般的に、オープンアルファやベータの参加プレイヤーを選定するプロセスの中には、“フィードバックをしてくれるユーザー”を選ぶという傾向、もしくは条件がある。開発元はFirst Accessにおいて、ユーザーに同じことを求めていたかもしれない。つまり、氏の活動がアクティブでなかったゆえに、キーを無効化したと説明したわけだ。

“それらしい”理由に思えるかもしれないが、Dorkoski氏はれっきとしたゲームの購入者である。バイヤーから購入したとはいえ、どんな事情であれ購入者のキーを無効化するのはアンフェアだろう。First Accessをスタートさせた際に、「活動していなければキーを無効化する」という条件が盛り込まれていたわけでもない。一方的に契約を破棄したことになる。この要領を得ない回答はSteamコミュニティにて赤裸々に晒され、ほかのユーザーからも怒りが寄せられた。そして最終的に開発元であるHOF Studiosは、氏に対し正式に謝罪をおこなった。

 

不評が受け入れられなかった

開発元の謝罪内容によると、やはりSteamキーを無効化したのはネガティブなレビューが原因であったようだ。『Depth of Extinction』は、HOF Studios が3年を捧げて作ったゲームというだけあり、気持ちをこめた作品であったという。それだけに、Steamのネガティブレビューに対して心の準備ができておらず、氏の投稿を見てショックを受けて怒りを抱いてしまい、個人的にレビュー主を調べてしまったとのこと。キーを無効化するという自分のリアクションは誤りであり弁明の余地もないと漏らし、ただ全責任は負わなければいけないとコメント。キーを無効化したユーザーには謝罪とキーの提供をするとし、一連の行動によって不快な想いをさせてしまった方々に深くお詫びすると謝罪の言葉を並べた。この事件を機に開発者として、そして人間として成熟していきたいとしている。

Dorkoski氏も不信感を見せ、「今後のスタジオに対する目は変わるだろう」と話しつつも、謝罪を受け入れた。これでこの騒動は一件落着したかと思えた。しかし、第三者にとってはこの展開は納得できなかったようだ。Steamレビューのコメント欄やGamingOnLinuxのコメント欄、そしてRedditでは、とある点を中心に議論がかわされている。

議論の対象となっているのは、開発元であるHOF Studiosを許せるか?という点である。というのも、Dorkoski氏は謝罪を受け入れるとは言うものの、Steamレビューやコミュニティにてキーを無効化されたことに対する不平不満を綴っており、この問題について納得していないという姿勢を示している。これを受けて、Steamキーを補填して謝罪したのだからそれを受け入れて静かにすべきだという声と、このキーを無効化する行為は断じて許されないという声が入り混じり議論がかわされているわけだ。

当事者同士の問題は解決しつつあるものの、納得できない人々も存在する。というのも、Steamキーの出元を追跡して、キーを無効化するという行為はユーザーにショックを与えるものだったからだ。Steamレビューは、メディアレビューよりもさらに独立性を持つ点が魅力である。パブリッシャーの批判などもSteamレビューを介しておこなわれることがあるように、ある意味では“ユーザーの意見表明の場”として扱われることも多い。そうした場にて「レビューが気に入らないから」という理由でキーを無効化することは、許容できないという批判が存在する。開発元はすべきことをしたと評価する声にも納得できるが、Steamという民主的なコミュニティにて、レビューを弾圧しようとしたことに憤りを見せる人々の心情も理解できる。

思わぬ騒動によって注目を集めた『Depth of Extinction』。Steamキーをめぐっては、『Evolvation』というゲームの開発者が誤って有効化されているキーを無効化するというミスを犯し、その後キーを無料配布することでユーザーを喜ばせた(関連記事)。『Depth of Extinction』はというと、ゲームは悪評によってダメージを負ったという見方もできれば、スキャンダルによって注目を集めたという穿った見方もできる。ただしゲームは購入しなければ開発元は利益を得られないので、悪評を呼び寄せる露出をすることにメリットがあるとはいい難いところ。Steamキーは発行も容易であり、無効化もまた容易である。“重み”は感じにくいが、金銭的価値のある製品でもある。手軽にコントロールできるものであると錯覚してしまうが、その運用の仕方には気をつけなければならないだろう。


国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)