『クロノ・トリガー』のジャズトリビュート「Chronology」、60枚目の無料コミュニティアレンジ曲集


ゲームミュージックのアレンジ音源投稿サイトOverClocked ReMix(以下、OC ReMix)は、60枚目の無料トリビュートアルバム「Chronology」をリリースした。スーパーファミコン黄金時代に一世を風靡(ふうび)したドリームプロジェクト、『クロノ・トリガー』の楽曲をファンがジャズ風にアレンジしたサウンドトラック集で、時空を越えた時代やシーンごとに全8曲を収録。公式サイトから無料でダウンロードできるほか、音声ファイル共有サービスSoundCloudにて、今すぐ再生できる。なお、これまでOC Remixが手がけた作品集の中で、音楽ジャンルをジャズに限定したアルバムは今回が初めて。社交的な音楽で幻想的に再構築された『クロノ・トリガー』の新たな世界観が楽しめる。

 

刹那を捉えるソーシャルミュージック

『クロノ・トリガー』は、1995年3月にスクウェア(現スクウェア・エニックス)から、スーパーファミコン向けに発売されたロールプレイングゲーム。エグゼクティブプロデューサーを『ファイナルファンタジー』の坂口博信氏、ストーリー原案を『ドラゴンクエスト』の堀井雄二氏、キャラクターデザインを「ドラゴンボール」の鳥山明氏が担当しており、ドリームプロジェクトと銘打ったキャッチフレーズが、当時の週刊誌やテレビCMで大いに脚光を浴びた。“時の引き金”というタイトルどおり、タイムトラベルをテーマにした世界観で、異なる時代で交差する登場人物たちの絆が描かれている。時空を越えた壮大なストーリーと、種族を越えた個性的なキャラクターが絶大な人気を博し、後にPlayStationやニンテンドーDSへ移植された。また、2011年からは任天堂のバーチャルコンソールでもデジタル配信されている。1999年には、続編にあたる『クロノ・クロス』が発売。前作とは一風変わって、こちらはパラレルワールドを題材にしている。

Image Credit: Chrono Trigger Wiki
Image Credit: Chrono Trigger Wiki

シリーズをとおしてメインコンポーザーを務めている光田康典氏の楽曲は、同時期にスーパーファミコン黄金時代を共に支えた『聖剣伝説』『ファイナルファンタジー』『ロマンシング サ・ガ』シリーズの音源と並んで、20年以上たった今もなお世界中のレトロゲーマーに愛されている。今年2月には、200人を超えるファンがアレンジしたトリビュートアルバム「Chronicles of Time」が、ディスク5枚にわたる全75曲というリミックスの集大成として発売された。また、参加アーティストの中には、『Unreal』や『Deus Ex』を手がけたプロの作曲家Alexander Brandon氏も名を連ねていた。時代の変遷に忘れ去られることなく、コミュニティに灯り続ける作品への情熱がいつまでも七色の輝きを放ち続けるさまは、まるで現代社会におけるクラシック音楽の記憶そのものである。

今回、「Chronology」のリリースに際して、プロジェクトのディレクターを務めたDylan Wiest氏は、ジャズベースのアレンジ対象に『クロノ・トリガー』を選んだ理由について、次のように語っている。「思わぬ幸運ではあったけれど、OC ReMixで活躍するミュージシャンやアレンジアーティストから、私にとってのドリームチームが招集できました。みんなジャズとビデオゲームミュージックに精魂を傾ける者たちばかりです。クロノ・トリガーが(当時)20周年を迎えようとしていたことに加えて、光田氏の音楽がジャズや即興にぴったりはまっていたことから、私たちのデビューを飾る理想の候補だと実感しました。(中略)ジャズは“その瞬間”を捉えることに最も長けた社交的な音楽です。このアルバムは制作プロセスこそ“その瞬間”とは程遠いけれど、アルバムに込められたサウンドやまとまり自体が、そのことを雄弁に物語ってくれるでしょう」。ジャズだからこそ表現できる、クロノサウンドの新たな可能性を実感させてくれる一枚だ。