「Kickstarterは死にかけ」 資金集めに失敗したゲーム開発者が訴え


現地時間の10月31日、開発スタジオSenscapeのAgustin Cordes氏は、Kickstarterにて進行中だった『H.P. Lovecraft: The Case of Charles Dexter Ward』の資金調達を中止した。初期目標額25万ドルに対し、終了目前までに集まった額はおよそ9万ドル弱だった。Cordes氏は資金が集まらなかった原因をみずから考察した結果、「Kickstarterは死にかけている」と訴えている。

『The Case of Charles Dexter Ward』は、クトゥルフ神話などで知られるH.P. ラヴクラフトの同名小説を題材にしたアドベンチャーゲームだ。国内では「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」の名でラヴクラフト全集に収録されている。精神病院にて発生した失踪事件の真相を追う内容で、クトゥルフのような底知れぬコズミックホラーではなく、黒魔術や錬金術といった王道のゴシックホラーが描かれる。

SenscapeのAgustin Cordes氏は、Kickstarterのアップデートにて支援者に感謝の意を伝えた上で、今回の資金獲得プロジェクトが失敗した原因を整理している。実は2013年1月にもSenscapeは、『Asylum』と呼ばれる別のホラーゲームのKickstarterプロジェクトで、11万ドルを獲得していた。同作は2014年内に発売予定だが、まだ明確なリリース日は発表されておらず、今回Senscapeはその状況下で別の作品の開発資金を募った。『Asylum』の開発状況や、去年のKickstarterで集めた開発資金はどうなっているのか。スタジオの内情に疑念が向けられたことは想像に難くないが、Cordes氏はこの件は直接の失敗原因には当たらないとしている。実際には『Asylum』に支援した3割のユーザーが、今回のプロジェクトでも引き続きサポートしてくれたという。

このほかにもCordes氏は、H.P. ラヴクラフトのコアなファンから、アドベンチャーゲームで彼の世界観を表現できるのかと否定的な意見を受けたことを挙げた。フルボイスでシネマティックな作品を目指したため、目標額が25万ドルと高額になったことも一因としている。一方でこれら3つの理由を挙げつつも、今回の資金集めに失敗した最大の原因は、「Kickstarterが死にかけている」ことだと結論づけた。ユーザーたちがクラウドファンディングへと興味を失い始めている、我々は「衰退期」を体験しているとCordes氏は訴える。

 

 

Cordes氏によれば、Senscapeは今回のクラウドファンディング始動にあたり、十分なローンチプロモーションをおこなってきたそうだ。事前にジャーナリストとコンタクトを取り、ローンチに合わせて記事を公開するよう依頼した。魅力的なアップデートを続け、プロモーション映像や支援者へのリワードも作りこんだ。実際にその効果は資金調達がスタートしてから3日間は続いたという。アップデートページでは、FacebookやTwitterなどで注目を集めた証拠のイメージが多数アップされている。IGNなどの大手ゲームメディアだけでなく、アルゼンチンで2番目の地元紙でも取りあげられた。Cordes氏の推定によれば、およそ10万人が『The Case of Charles Dexter Ward』の名を聞いた計算になるという。集まった額で見ると、『Asylum』が24時間で1万ドルを獲得したのに対し、今回の『The Case of Charles Dexter Ward』は3時間で1万ドルを集めている。

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しかしその後、ユーザーから支援される開発資金は日に日に落ち込んでいった。実際に支援された両作の資金額をみてみると、『Asylum』ではKickstarterのページから直接支援された額が6万ドルほどだったが、『The Case of Charlese Dexter Ward』では2万7000ドルまで落ちこんでいる。また大規模なプロモーションをうったにも関わらず、外部リンクを通して支援された額は『Asylum』の5万7000ドルからほとんど伸びていない。Cordes氏は「もし『Asylum』のころからKickstarterコミュニティが縮小していなければ、2日目で最低でも5万ドルは受けとっていた」と話す。またプロジェクトの存在が10万人にもリーチしたに関わらず、Kickstarterページを訪れた数はかなり少なく、そこから支援してくれるユーザーはさらに少なかったと伝えている。

『The Case of Charles Dexter Ward』が単純にユーザーの関心を集められなかった可能性はある。だが2014年に入ってからKickstarterは実際に活気を失いつつある。ゲームコンサルタント&マーケティング調査企業ICO Partnersの調べによれば、1月から6月までにおけるKickstartersで成功したプロジェクトの数は、2013年の446個に対し、2014年は175個と半分以上減っている。ユーザーから支援された開発資金も、5800万ドルから1350万ドルへと大きく減少している。


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。