Kickstarterと早期アクセスを利用した恐竜ゲーム スタジオヘッドが賃金支払わず完成前に失踪


一般ユーザー含む支援者からプロジェクト資金を募る「クラウドファンディング」に、開発中のビルドを先行して販売する「早期アクセス」。ここ数年、多くのデベロッパーたちが利用してきたこの2種類のビジネスモデルだが、2015年に入りピーター・モリニュー氏が『Godus』における失敗を認めるなど、それぞれあらためて問題が浮き彫りになりつつある。

恐竜と部族をテーマにしたビデオゲーム『The Stomping Land』も、Steamにて早期アクセスとして販売されており、Kickstarterで成功をおさめたものの、開発に大きな問題が発生しているタイトルの1つだ。Kickstarterで10万ドル以上もの資金を集めたにも関わらず、プロジェクトの進行は頓挫しており、さらに開発スタジオのリーダーが失踪する事態に直面している。

 


Kickstarterで成功するも

 

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『The Stomping Land』は、マルチプレイヤーオンライン要素を搭載したアクションゲームである。開発はSuperCritスタジオが担当。恐竜と人間が共存する原始時代のような世界を舞台に、プレイヤーが「部族」を形成して繁栄を目指す作品だ。仲間たちと恐竜を狩り、資源を集めて拠点や武器や罠を作り、ときにはほかのプレイヤーたちの部族とも戦う。壮大なプロジェクト構想は、プレイヤーたちの興味をおおいにひき、『The Stomping Land』はKickstarterで11万4060ドルを獲得することに成功した

翌年、2014年5月に『The Somping Land』はSteam早期アクセスを利用してリリースされた。だが何度かのアップデートが実施されたあと、開発陣は沈黙するようになってしまった。ゲームの更新がないのはもちろん、TwitterFacebookなどのSNSでの更新情報も途絶えてしまっている。

ゲームの発売から3か月が過ぎた。リーダーのAlex Fundora氏は、海外メディアKotakuからの「開発はどうなっているんだ?」との追求に対し、『The Stomping Land』はUnreal Engine 4へ移行することになったと返答した。Kickstarterで当初紹介したゲーム構想のように、また大風呂敷を広げたFundora氏だが、このやり取りのあと、さらに彼は沈黙を決め込んだ。署名サイトchange.orgでは、返金とSteamストア上から『The Stomping Land』を削除することを求める署名が、1700件以上も集まっていた

 

 

年をまたいでもSuperCritとFundora氏の沈黙は続いていたが、1月16日、ようやく開発陣側からアクションがあった。とはいっても、このニュースは購入したユーザーやファンをさらに悲しませる内容だった。『The Stomping Land』のゲーム内モデルを製作していた3DキャラクターアーティストVlad Konstantinov氏が、自身も2014年末からAlex Fundora氏とコンタクトできていないことを公式フォーラム上で明らかにしたのだ

Konstantinov氏は、Fundora氏と最後に接触してから1か月以上が経過しており、5回のメッセージを送ったものの、一言も返答がないと説明している。Konstantinov氏が製作した『The Stomping Land』のモデルへと報酬は支払われておらず、それどころか同氏がテクスチャアーティストへの支払いを肩代わりしている状況なのだという。Konstantinov氏は、このフォーラムへの書き込み後に『The Stomping Land』に見切りをつけ、別のプロジェクト『Beasts of Prey』に参加している。

AUTOMATON編集部では、Fundora氏やSuperCritの周辺人物に対しコメントを要求しており、返答があれば続報をお伝えする。

 


Valveに求められる”最低限のペナルティ”

 

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『The Stomping Land』は、Steam上で9月に一度販売が停止されたが、その後に販売は再開されており、現在も購入可能な状況だ。価格は24.99ドル(2480円)。2015年末までは開発が続けられると明記されている。2014年末から開発が停滞している可能性は非常に高いが、Valve側は昨年9月に販売停止して以降、まだなんのアクションも起こしていない。Kickstarterでも返金は認められなかったことを、90ドルを出したユーザーの1人が伝えている

早期アクセスは開発中のビルドを提供するビジネスモデルであり、開発者がプレイヤーからのフィードバックを参考にしたり、開発資金を早期に確保することができる。もちろんゲーム開発にはクリエイティブな面があり、予定通りプロジェクトが進まない可能性はある。バグや問題が多発したり、ゲームデザインが当初の発表から大幅に変更されることもある。Valve自身も、「ゲームを「完成」させられないチームもあるということをご承知おきください」と、Steam早期アクセスのページにて紹介している

とはいえ、プレイヤーが覚悟と警戒心を持って早期アクセスタイトルを購入し、なにかあれば「早期アクセスだから仕方ない」と諦めるのも、そろそろ限界ではないだろうか。今回の件のような、度が過ぎたタイトルを取り締まる最低限のペナルティが登場してもよい時期だ。販売停止や返金などの対応はともかくとして、少なくとも開発陣から反応がない場合や、放置されているようなタイトルを警告するようなメッセージは用意されるべきである。蔓延しつつある早期アクセスの問題に対し、Valveがなんらかの手段を取らなければ、プレイヤーたちは不信を抱き、離れてゆくばかりだろう。


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。