絶賛続く『アンチャーテッド4』を手がけたNaughty Dogとソニー、障害を持つユーザーに対しても粋な計らいを見せる

 

今月10日に発売された『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』(以下、アンチャーテッド4)は、GameSpotのレビューにて「数年来語り継がれる名作」と絶賛されるなど数々のメディアで高い評価を得ているが、障害を持つユーザーにとってもすばらしいタイトルとなった。

みなさんは、「アクセシビリティ」という言葉をご存知だろうか。この言葉はさまざまな用途で使われるが、障害という分野で使われる際には「障害者向けの配慮」という解釈をしても相違ないだろう。アクセシビリティは一般社会において徐々に認知される一方で、ゲーム業界においてはタイトルごとに搭載の可否が分かれており、まだまだ研究途上の分野である。普通のユーザーにとっては単なるオプションのひとつであるが、障害を持つユーザーにとっては大きな意味を持つ言葉なのだ。そして、『アンチャーテッド4』には充実したアクセシビリティが搭載されている。このオプションの誕生には、障害者のゲーマーの叫び、そしてソニーやNaughty Dogなどたくさんの想いが秘められているようだ。その内容をYouTubeのPlayStation公式チャンネルが伝えている。

身体の一部に障害を持つJosh Straub氏は、『アンチャーテッド』シリーズの大ファンだ。氏はゲーマーであると同時に、D.A.G.E.R.S.(Disabled Accessibility for Gaming Entertainment Rating System)と名づけられた、障害者向けのゲームをレビューするWebサイトの編集長という役割を担っている。しかしながら氏は、ゲームに対する情熱を持ちながら悲しみを抱いていた。なぜなら、『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』をプレイしたとき、身体障害者は、他人の助けなくしてゲームをクリアできないという現実と直面したからだ。

“成長するにつれて、エンターテインメントの選択肢が狭くなっていく。開発者に知ってほしいことは、障害者にとってゲームは単なるエンターテインメント以上のものであるということだ。ゲームは、障害者であるという憂うつさから逃れさせてくれる。そして、身体的な違いによって判別するのではなく、プレイ内容でプレイヤーを判別する社会的な場所を提供してくれているんだ。”

Straub氏が『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』において特に苦しんだのはボタンの連打だ。終盤において連打を要求されるシーンが多く、そういったアクションをすることができない氏は、ひとりでのクリアを諦めざるを得なかった。このStraub氏の声はすぐさま開発を担当しているNaughty Dogのもとに届くこととなる。この話を聞いた同スタジオのUIデザイナーのAlexandria Neonakis氏は、Straub氏とGDCで会うことを約束し、すぐさま会合が開かれた。そして同氏の心の叫びを聞いたNeonakis氏は、障害者向けの仕様を入れたいと開発ディレクターに相談し、開発スタッフはみんな快くこの話を承諾したという。

naughty-dog-and-sony-prepare-extra-option-for-gamers-who-have-disability-001では具体的にはどのような配慮がなされたのだろうか。Naughty Dogがおこなったアクセシビリティのひとつが、Straub氏が最も苦しんでいたとされる連打の代替措置だ。ゲーム内の設定を変更すればプレイヤーは、連打をボタンの長押しで代用することができるようになる。これはQTEシーンのみならず、通常戦闘なども押し続けてさえいれば、ネイトが続けて戦闘アクションを繰り広げてくれる。ふたつめが、スティックの動作を左スティックに集約したことだ。通常左スティックでネイトを移動させたあとは、右スティックでカメラを操作しなければならなかった。しかし、カバーアクションなどをおこなう際に、カメラを敵の方向へと自動で向くようになる。このような仕様ならば右スティックを使う必要がなくなるのだという。また、戦闘態勢の際には自動的にカメラが敵を追尾するようになる。このカメラの挙動は、敵に近づくほど追尾の精度が高くなる。みっつめが、ロックオンだ。敵が画面内にいればピストルであってもスナイパーライフルであっても、エイムボタンさえ押せばターゲットをロックオンしてそのまま銃弾が発射される仕様だ。

またアクセシビリティの対象は身体障害者のみだけはない。マルチプレイヤーは元来赤と緑という色分けによってチームを識別していた。しかし開発スタッフは、色覚異常に悩まされているプレイヤーが「赤と緑」を識別できないことに気付き、最終的に「赤と青」に変更したのだという。このようなNaughty Dogの取り組みに感銘を受けたStraub氏は喜びの声明をあげ、今後もUbisoftやEpic Gamesといったメーカーと会合し状況を変えていきたいと意気込む。

“『アンチャーテッド』を遊んでいるとき、僕は車いすに縛り付けられることはない。僕は暴れん坊となって、トレジャーハントをするのさ。そういった逃避できる時間は、僕らにとって本当に重要なんだ。もっと多くのゲームがアクセシビリティに対応してくれれば、障害者も生きやすくなっていくと信じているよ。”

naughty-dog-and-sony-prepare-extra-option-for-gamers-who-have-disability-002Naughty DogのゲームデザイナーEmlia Schatz氏は、同スタジオが開発するゲームをプレイするには、デュアルスティックのアナログコントローラーを扱えるような高度な操作が求められることを認めている。その一方で、そういったことがあるからこそNaughty Dogは『The Last Of Us』からこのような障害者に向けた配慮を計画しており、常に幅広いプレイヤーに楽しんでもらえるような試みを続けていることも明かしている。

また、ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカに所属するPlayStationユーザーエクスペリエンスリサーチャーのKevin Keeker氏 もNaughty Dogの今回の取り組みについて「ゲームはたくさんの人々が楽しむためにあり、普段できないようなことをできる大事な場所でもある。だから、そういったゲームの良いところを経験できない人がいるのは、つらいことなんだ」と賛同の声をあげている。

今回、AAAタイトルに障害者向けのオプションを導入したNaughty Dogの姿勢は特筆すべきだが、以前から脳性まひ患者向けに専用のコントローラーを作るなど、こういったコミュニティに対して取り組みを続けるソニーのサポートがあったことを忘れてはならない。実際の開発負荷を考慮すると、すべてのタイトルに導入するべきであると主張するのは難しいが、今回の努力がゲームを楽しむ障害者のコミュニティにとって意味あるものになったことは間違いないだろう。