海外のフリーゲーム配布サイト、任天堂から550作品以上の公開停止要請を受けたと報告。作品への情熱の裏に隠れたファンゲームの危険性

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フリーゲーム配布サイトGame Joltは、任天堂タイトルを題材にしたファンゲーム562作品がこれまで各種違反によって削除されたと報告した。違反内容のほとんどがデジタルミレニアム著作権法(英語名 : DMCA)で、なんらかの形で任天堂のIPを無断使用したことが主な原因となっている。これらの中でもっとも題材にされた任天堂タイトルは、『ポケットモンスター』(以下、ポケモン)シリーズと『スーパーマリオ』シリーズ、『ゼルダの伝説』シリーズの3つ。インディータイトルのデータベースサイトであるindiedbにも「Pokemon」や「Mario」といった検索ワードを入れるだけでかなりのタイトルが出てくることからも、海外での任天堂ファンゲームの人気がうかがえる。

pokefangame

公開停止を受けた任天堂のファンゲームといえば『メトロイド2』の非公式リメイク「Another Metroid 2 Remake」が記憶に新しい。8月9日の公開停止からさまざまな動きを見せていたが、今月2日にあらためてアップデートやリリースがおこわれないことが告知された。原子力によって汚染された世界が舞台の「Pokemon Uranium」もまた、配信開始後すぐに配布が中止され公式サイトは閉鎖された。

こうしたファンゲームの公開中止においては、そのクオリティと情熱が注目されがちだ。惜しまれるファンゲームは、製品版に引けをとらないビジュアルを誇り、ゲームプレイもシリーズのお決まりを踏襲した秀逸なものが多い。そして、「Another Metroid 2 Remake」「Pokemon Uranium」はともに8年以上の月日が費やされ制作されたという点で、その情熱が評価されている部分もある。公開停止にまつわる話は、こうしたクオリティを持ち情熱を込められたタイトルが、大企業のルールに抵触し、いとも簡単に壊されてしまったというストーリーになりがちだ。任天堂が自社IPを守らなければいけないという点は前提条件として、こうしたファンゲーム開発の“ストーリー”に隠れた危険性を指摘していきたい。

 

見過ごされる素材の盗用

ファンゲームを語る上で避けられないのは「素材の盗用」だ。たとえば、『スーパーマリオ』シリーズを扱う3Dファンゲームを生み出す際、マリオらしさを表現するためには音声が欠かせない。3Dマリオは声優であるチャールズ・マーティネー氏と共に歴史を歩んできたからだ。しかし、マーティネー氏に音声収録を依頼するのは困難であり、そうなると既存作品のゲームデータから音声を抜き出す必要がある。音声などはまだかわいいもので、非公式リメイク作品の多くが、正規作品のグラフィックやフィールドのデータを使用している。「Pokemon Uranium」は特に顕著で、ゲームボーイアドバンスやニンテンドーDSにおける『ポケモン』作品の素材が使用されている痕跡がいくつも見られている。IPだけでなく、こうしたゲームデータの無断使用は悪質な行為であり、黙認できるはずもない。これまで生まれた作品の中で、既存のゲーム素材をひとつも使用していないファンゲームは少ない。IPの無断使用は大きな問題であるが、それ以上にゲームデータの盗用を見過ごすことは、企業として難しいだろう。

Image Credit: geek.com
Image Credit: geek.com

また、ファンゲームのすべてが無料とは限らないことも問題だ。itch.ioでは依然として任天堂作品を扱ったタイトルなどが有料販売されている。「Pokemon Uranium」の開発チームはゲームに価格をつけていないが、TwitchでPaypalの募金を求め、個人を対象としたファンディングサイトPatreonでキャンペーンをおこなうなど間接的な集金に熱心だった。ファンゲームは無料だと思われがちであるが、任天堂のIPを利用して商業活動をおこなっていた開発者も少なくない。

 

精神的続編という道

こういった点を踏まえて今後のファンゲームのあり方を考えると、「精神的続編」はひとつの選択肢となるだろう。最近では『F-ZERO』シリーズの復活を掲げた『Extreme Gravity Rage』というレースゲームがアナウンスされた。こちらはラップによるブーストの制限や独特の挙動といった『F-ZERO』の約束事を守った作品であり、プロ集団の作品でありながら、ある意味ファンゲームと呼べなくはない。また、『Halo』シリーズのマルチ対戦をPCで実現したいというコンセプトのもと、「Installation 01」と呼ばれるプロジェクトが進められている。こちらの作品はUnityで制作されており、素材の盗用などもなく、開発者達も「完全に合法である」と自信を見せている。こういった作品も、既存のタイトルを意識したフレーズを表に出し過ぎると問題が発生することも危惧されているが、精神的続編でありながらファンゲームとしての一面を持つ。近年では精神的続編という言葉はややありがちなフレーズとして使われがちであり、既存のIPのファンゲームであるからこそ意味を持つ部分も大きい。しかし、既存のIPを使用し公開停止という宿命をなぞるよりも、“IPのDNAを持つ新作”としてこの世に放たれる方が平和的かつ現実味のある選択だといえる。

もちろん、純粋な情熱が注ぎ込まれ、商用利用も素材盗用もないファンゲームが公開停止を受ける悲運なケースもあるだろう。しかし、すべてがこういったケースとは限らず、任天堂は“純粋な情熱”に対してもIPを守る権利を行使するべきだ。そして、今回述べたように、ファンゲームの影には素材の盗用や商用利用など看過できない問題が眠っている。続編が見込めないIPの、ハイクオリティなファンゲームが公開停止を受ける結末を見ると、どうしても落胆の気持ちが先行しがちだ。しかしながら、こういった一面性だけでなく、ファンゲームにかんしてはさまざまな問題を踏まえ、考えていく必要があるのかもしれない。

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国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)