『Paladins』が『Overwatch』のパクリと決めつけられない理由、開発史に見るゲームデザインの原点

先日、基本プレイ無料のチーム対戦型FPS『Paladins: Champions of the Realm』(以下、Paladins)のゲームデザインが、Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)の『Overwatch』(オーバーウォッチ)に酷似しているとして物議を醸した。YouTubeへ投稿された比較動画を引き金に、開発元Hi-Rez Studios(以下、Hi-Rez)に対するクローン疑惑が加熱。コミュニティの議論が活発化する中、Hi-Rezの代表者はフォーラムサイトで『Paladins』の開発史を振り返ることで風評を否定した。Blizzard側も、『Overwatch』のディレクターが海外メディアのインタビューに対してコメント。安易な比較で評価を下すのではなく、ゲーム内容そのものに目を向けるべきだと、一連の騒動をたしなめた。『Paladins』に至るまでのHi-Rezタイトルの系譜から、“パクリ疑惑”の真相を紐解いていく。

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ルーツは10年以上の過去にさかのぼる

『Paladins』は、5人ずつのチームに分かれて計10人でオンライン対戦が楽しめる一人称視点のMOBA系アクション・シューティング。世界の神々がテーマのチーム対戦型FPS『Smite』を手掛けたHi-Rezから、2015年8月にPC向けに発表された。多種多様な武器や装備、特殊能力を操る“チャンピオン”と、カードデッキによるパラメータのカスタマイズが特徴で、キャラクターによって得意分野や役割分担も大きく異なる。今月16日からオープンベータテストを開始。Steamでも同日に、早期アクセスとしてリリースされた。その内容が、Blizzardの『Overwatch』に著しく似ているとして議論の的になっている。

“弓矢による狙撃を得意とする索敵”女子をはじめ、“ジェットパックで宙を舞いながらロケットランチャーをぶっ放す”ドラゴン、“チェインフックで遠くの敵を引き寄せて近距離火器で止めを刺す”亀男、“アサルトライフルとスプリントが特徴のオーソドックスな”中年兵士、“シールドを展開して前線へチャージ”する勇猛な騎士、“固定砲台を設置できる低身長でヒゲもじゃ”のDIYおじさん、“右クリックでリボルバーを単発射撃および左クリックで全弾発射”できるガンマン、“ブリンクで短距離を瞬間移動”したり“氷漬けになって敵の攻撃を防いだり”できる魔法少女など、本作には『Overwatch』のキャラクターと共通する特徴が多い。オープンベータ開始直後には、如何に『Paladins』がオリジナリティにあふれているかを主張すると見せかけて、両作をシニカルに比較するジョーク動画がYouTubeで脚光を浴びた。

もちろん、同じジャンルのゲーム作品において多少の類似点が偶発的に生まれたり、既存のゲームデザインにインスパイアされたりすることは、決して珍しいことではない。実際、『Paladins』と『Overwatch』は共に、Valve Corporationが2007年から運営するチーム対戦型FPS『Team Fortress 2』に、作風およびゲーム性においてソックリである。さらにさかのぼれば、アリーナ型の対戦ゲームは1999年にEpic Gamesから発売された対戦型シュータータイトル『Unreal Tournament』という遠い祖先が存在する。それ以降に登場した同ジャンルのタイトルを比較すれば、ゲームデザインの共通点などいくらでも確認できる。極論を言えば、全てが元祖のクローンという見方もある。しかし、特筆すべきは、『Paladins』と『Overwatch』には、主にキャラクターの特技やアニメーションに共通点が多すぎる点だ。そのことが不運にもクローンの疑いをかけられる引き金となってしまった。

「Aurum」のアーチャーはハンゾーより先
「Aurum」のアーチャーはハンゾーより先

Hi-Rezの最高執行責任者Todd Harris氏は、フォーラムサイトRedditにて『Paladins』の誕生にまつわる歴史について言及。巷で噂されている“パクリ疑惑”に対する見解を示した。それによると、Hi-Rezが2010年にリリースした処女作『Global Agenda』の開発に着手したのが2005年。同作におけるアビリティやクラス、武器タイプやジェットパックのコンセプトといったゲームデザインは、『Tribes』シリーズ(1998年から続くシューターIP、Hi-Rezは2012年に5作目となるTribes: Ascendを手がけている)や、『City of Heroes』(NCSOFTから2004年に発売されたMMORPG、アメコミ風のスーパーヒーローがテーマ)、そして前述した『Team Fortress 2』から着想を得たという。なお、『Global Agenda』は2011年4月にSteamでもリリースされ、同プラットフォーム初の基本プレイ無料となった。

その後、Hi-Rezは『Global Agenda』の精神を受け継いだファンタジー調の対戦ゲーム、プロジェクト「Aurum」を2012年に立ち上げている。これが『Paladins』の着想を最初に得たタイトルだったという。この時点で、後に『Paladins』のキャラクターやゲームルールとなるコンセプトはすでに出来上がっており、『Global Agenda』こそが同作の原点とといえる。同社がYouTubeに公開した動画からは、大盾を片手に突進する騎士(現Fernando)や、軽やかな身のこなしが特徴の弓使い(現Cassie)、両手にハンマーと銃を構えたドワーフのエンジニア(現Barik)、ダークエルフがオブジェクティブを占領するゲームプレイなど、現在の『Paladins』に継承されたプロトタイプが確認できる。Harris氏によると、『Paladins』は『Global Agenda』のクラスとアビリティをテンプレートに、「Aurum」のファンタジーテーマを採用し、『Smite』のキャラクターをプレイスホルダーに使った作品なのだという。

また、ポイズンマイン使いのスナイパー(ウィドウメイカーとの共通点)や、槌と大盾を持つタンク(ラインハルトとの共通点)、タレットが設置可能なエンジニア(トールビョーンとの共通点)、ヒールビームやバフ効果で味方を支援するサポート(マーシーとの共通点)、ジェットパックによるホバリングとロケットランチャーで戦うアタッカー(ファラとの共通点)、グレネードランチャーを使った中距離の範囲攻撃に特化したダメージディーラー(ジャンクラットとの共通点)、1本の刀身に身を委ねるソードマン(ゲンジとの共通点)など、『Overwatch』のヒーローに類似したキャラクターの多くは、同作が発表されるはるか以前、『Global Agenda』の時点で、すでに登場している。加えて、ロボットに搭乗してミニガンを掃射するキャラクターのプレイ映像は、Blizzardが「D.Va」を披露する前に、『Paladins』のプリアルファ段階で公開されている。ちなみに、チェインフックで敵を引き寄せてから近距離で大ダメージを狙うキャラクターデザインは、ゲームがドット絵だった時代から数え切れないほどの作品で多用されてきた。

 

知名度に覆われた世間のレッテル

『Paladins』は当初、『Global Agenda』のようなSFがテーマの作品にする計画もあったが、試行錯誤の末にプロジェクト「Aurum」のようなファンタジー調に落ち着いたのだという。そんな中、ちょうど本格制作の前段階に入った頃に、Blizzardは同ジャンルの新作『Overwatch』を発表した。完全に不意を突かれて先を越されたHi-Rezは、『Overwatch』との差別化を図るために一度は大幅な作り直しを検討したと、Harris氏は当時を振り返っている。しかし、実験や統計、調査結果によるフィードバックを基に、方向転換は最善策ではないと判断。最終的に世間から後ろ指をさされようが、初志貫徹を胸に真っ向から競合相手に立ち向かう道を選んだ。

加えて、Harris氏は『Paladins』が決して『Overwatch』のクローンではないことの補足として、次のように説明している。「我々のようなスタジオ規模では、Overwatchのクローンを1年で制作することなど到底不可能です。しかし、キルカメラやLag Compensation(遅延補償のこと、サーバー側がプレイヤーのレイテンシーを利用してコマンド入力された時点の視覚情報を補う技術)、“Eliminations”といった言い回しなど、Overwatchの優れた点をいくつかPladinsにも導入したことは事実です」。『Overwatch』にはおよそ100種類のアビリティがあり、対する『Paladins』は約85種類。両作で酷似している42種類の内、36種類はHi-Rezの『Global Agenda』および『Tribes: Ascend』で既出のコンセプトである。一方、6種類は『Overwatch』が先出であることが確認できる。極論を言えば、『Overwatch』に登場するほぼ全てのアビリティは、FPSの歴史において決して初出ではない。

2010年にはマーシーそっくりなヒーラーが既出
2010年にはマーシーそっくりなヒーラーが既出

こうしたキャラクターデザインにおける共通点のほかに、ゲームルールや仕組みについても、『Global Agenda』から引き継がれている要素は数多くある。役割分担に応じたクラス分けに加えて、それぞれのアルティメット・アビリティ、固有スキルとシュータージャンルの融合、ペイロードを使った攻防やオブジェクティブの確保合戦といったゲームモード、「タンク」「サポート」「ディフェンス」「アタッカー」の構成、スキンとエモートの概念、アカウントおよびクラスごとのレベリングなど、例を挙げればきりがない。また、アイテムボックスを開封することでランダムの報酬を得られるガチャ要素は、『Overwatch』に導入される以前から『Global Agenda』が採用している。

このように、チーム対戦型FPSジャンルの軌跡やHi-Rezの過去タイトルを少し振り返って見れば、『Paladins』が『Overwatch』と酷似しているという理由だけで、安易に“パクリ”と決めつけられないのは明白だろう。業界最大手の一角をなすBlizzardは、国境を越えた大規模なプロモーション活動で、『Overwatch』の世界的な普及に成功した。その知名度は、過去に『StarCraft』シリーズが定着しなかったことから、一時は市場を見放した日本でテレビCMが放送されるほどだ。もちろん、『Paladins』と『Overwatch』が単なる偶然でクローン説と言われるまでに瓜二つに仕上がってしまったかどうかは定かではないが、『Overwatch』の知名度が高いという理由だけで『Paladins』に二番煎じのレッテルが貼られている現状はいかがなものか。例えるなら、赤い彗星の「シャア」を見て「ゼクス・マーキス」(新機動戦記ガンダムWに登場する仮面の男)のパクリと叫ぶようなものだ。

先日、『Overwatch』のゲームディレクターを務めるJeff Kaplan氏は、競合作品の『Paladins』が槍玉に挙げられている現状について、海外メディアBusiness Insiderに対して、自身の見解を述べた。「こんな感じでゲームが比較されるのはよくあることだと思う。だけど、プレイヤーは楽しいと感じるゲームを遊んで、試してみて、そこにあるものを楽しむべきだと思う。私は世に出ているゲームは手に入るもの全てをプレイするけどね。作品に類似点があったとしても、大抵の場合は劇的な違いがあるものだ。だから、プレイヤーには比較なんてしてないで、単純に好きなものをプレイすることをおすすめするよ」。少なくとも同氏の言葉からは、BlizzardとHi-Rezの確執など微塵も感じられない。『Paladins』の所謂“パクリ疑惑”は、あくまでもジョーク動画に触発された一部ユーザーの偏見に他ならないのではないだろうか。

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